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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「私の中のもうひとりの私」 Another Woman (1988)

「私の中のもうひとりの私」 Another Woman  (1988)_f0367483_13432040.jpg
監督:ウディ・アレン
製作:ロバート・グリーンハット
製作総指揮:ジャック・ローリンズ
      チャールズ・H・ジョッフェ
脚本:ウディ・アレン
撮影:スヴェン・ニクヴィスト
出演:フィリップ・ボスコ
   ベティ・バックリー
   ブライス・ダナー
   サンディ・デニス
   ミア・ファロー
   ジーン・ハックマン
   イアン・ホルム
   ジョン・ハウスマン
   マーサ・プリンプトン
   ジーナ・ローランズ
   デヴィッド・オグデン・ステアーズ
   ハリス・ユーリン
   フランセス・コンロイ
   ケネス・ウェルシュ
アメリカ映画/81分/カラー作品




<あらすじ>
ニューヨークに住む50代の女性マリオン・ポスト(ジーナ・ローランズ)。女子大の教授として哲学を教えている彼女は、有能な心臓外科医ケン(イアン・ホルム)と再婚し、夫の連れ子ローラ(マーサ・プリンプトン)との関係も良好だ。母親は既に亡くなっているものの、80代の父親(ジョン・ハウスマン)はまだ健在で、結婚した弟ポール(ハリス・ユーリン)とも仲が良い。不満を言えばキリがないものの、しかし平凡だが充実した幸せな生活を送っている…はずだった。
新しい本を出版することとなったマリオンは、自宅の隣ビルが工事中で騒音がうるさいことから、執筆活動に専念するため小さなアパートの一室を借りる。すると、通気口を介して隣の部屋の声が漏れ聞こえてきた。それはセラピストと患者の会話なのだが、ある時ホープ(ミア・ファロー)という女性が打ち明ける悩み事を聞いているうちに、マリオンはいつしか結婚や人生に対する彼女の疑問と孤独に我が身を重ねていく。
翌日、義理の妹リン(フランセス・コンロイ)から弟ポールが自分を避けていると知らされショックを受けるマリオン。思い返せば厳格な父親は優等生のマリオンばかり贔屓にして、落第生であるポールのことを蔑ろにしていた。彼女も自分のことに忙しく弟を庇ったことがない。久々に再会した高校時代の親友で女優のクレア(サンディ・デニス)からは、長年恨まれていたことを面と向かって告白される。自分を信頼していると思っていたローラも、実は意識の高すぎるマリオンに引け目を感じていた。自分もまた父親のように高みから他人を勝手にジャッジし、無自覚のまま大切な人たちを傷つけ、結果的に遠のけてしまっていたことに気付くマリオン。実のところ、本当は薄々分かっていたのだが、あえて深く考えないようにしていたのだ。
さらに、自分がケンと不倫の末に再婚する際に彼の前妻キャシー(ベティ・バックリー)を深く傷つけていたこと、自身もケンの親友ラリー(ジーン・ハックマン)から求愛を受けて揺れ動いていたこと、そもそも子供を望む最初の夫サム(フィリップ・ボスコ)に無断で中絶して離婚後に彼が自殺したことなどを思い出すマリオン。そんな折、ケンが同僚リディア(ブライス・ダナー)と浮気していることが発覚する。それも結婚当初から薄々感づいていた。結局、マリオンは自分の結婚生活が最初から偽りの幸福で成り立っていたことを思い知らされ、今までの人生は一体何だったのかという虚無感に打ちのめされる…。

<作品レビュー>
若い頃はたいして面白いと思わなかったものの、年を取って久しぶりに見直すと意外に良かった…という作品がしばしばある。筆者にとっては、この『私の中のもうひとりの私』もそのひとつだ。ご存じの通り、ウディ・アレンがスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの『野いちご』('57)にオマージュを捧げた作品。'80~'90年代初頭にかけてのアレンは、しばしばヨーロッパ映画に大きな影響を受けた作品を撮っていたが、中でもベルイマン監督作からの引用が最も多かった。『サマー・ナイト』('82)は『夏の夜は三たび微笑む』('55)だし、『ハンナとその姉妹』('86)は『ファニーとアレクサンデル』('82)、『セプテンバー』('87)は『秋のソナタ』('87)といった具合。本作も『野いちご』を下敷きに、社会的に成功した裕福なインテリの中年女性が、ある出来事をきっかけに自らの人生が過ちの連続だったことを思い知らされる。劇場公開時まだ21歳だった筆者がピンと来なかったのも無理はないかもしれない。

『野いちご』の主人公は78歳の年老いた頑固な大学教授だったが、こちらはニューヨークの名門女子大で哲学の教鞭を執る50代の女性教授マリオン・ポスト(ジーナ・ローランズ)。有能な心臓外科医の夫ケン(イアン・ホルム)とはお互いに再婚同士で、仕事を優先してきた彼女に子供はいないものの、夫の連れ子である女子高生ローラ(マーサ・プリンプトン)は自分のことを慕ってくれている。母親は若くして亡くなってしまったが、しかし大学教授だった父親(ジョン・ハウスマン)は80代になっても元気で健在だし、弟ポール(ハリス・ユーリン)は昔からビジネスに失敗してばかりだが姉弟仲はとてもいい。人生も半分以上を過ぎてしまった今、必ずしも不満がないわけではないが、あまり深く考えないで平凡な現状に満足するようにしている。それが彼女なりの幸せの秘訣だった。

そんなマリオンが目下のところ取り組んでいるのは、新しい著書の執筆だ。執筆活動に専念するため大学を休職したのだが、しかし自宅の隣ビルで改修工事が始まってしまい、その騒音がうるさくて集中できない。そこで彼女は市内にアパートの一室を借りて仕事場とする。これでようやく誰にも邪魔されず本を書ける…と思ったところ、彼女は通気口から人の声が聞こえてくることに気付く。それは、隣の部屋にオフィスを構える精神科医と患者の会話だった。通気口を枕で塞いで聞こえないようにするマリオンだったが、しかしある日、たまたま耳に入ってしまった会話に心を動かされる。声の主はホープ(ミア・ファロー)という妊婦。出産を控えて精神的に不安定となった彼女は、言いようのない孤独や虚無感を抱えているらしく、自分の人生も結婚も失敗だったのではないかと精神科医に打ち明けている。マリオンはそんなホープの悩みを聞いて胸がざわつくのだった。

その翌日、マリオンは義理の妹リン(フランセス・コンロイ)から、弟ポールが自分のことを避けていると知らされてショックを受ける。まさか、自分とポールは仲がいいのに…と動揺するマリオンだったが、しかし振り返ってみれば頑固で堅物な父親は昔から従順な優等生だったマリオンのことばかり贔屓にし、反抗的な落第生のポールには辛く当たってばかりいた。常に優秀な姉と比較されてきたポールは、マリオンに対して秘かに劣等感を抱えていたのだが、いつも自分のことで忙しい彼女は、そんな弟の気持ちに全く気付いていなかったのである。

続いて、ひょんなことから高校時代の大親友クレア(サンディ・デニス)と久々に再会したマリオン。女優となったクレアは近所の劇場で舞台に出ているらしく、なぜ教えてくれないのかと訝るマリオンだったが、そんな彼女にクレアが長年胸に秘めていた本音を告白する。ずっとあなたのことを恨んでいたと。クレアに言わせれば、昔から美人で頭の良いマリオンは周囲の注目を一身に集めるのが好きで、親友のふりをしてクレアを引き立て役に利用していただけだった。そんなことはない、あなたの勝手な思い込みよと否定するマリオンだったが、そんな彼女にクレアは厳しく言い放つ。あなたは私よりもよっぽど女優よと。

弟や親友の思いがけない本心を知って愕然とするマリオンだったが、さらに義理の娘ローラの本音にも気付く。社会的地位が高くて聡明なマリオンのことを尊敬しているローラだったが、しかし同時に意識が高くて立派過ぎる彼女に引け目を感じてしまい、一緒にいると自分が批判されているように感じるというのだ。結局、私も父親と同じように周囲を高みから見下ろし、知らず知らずのうちに家族や友人を傷つける尊大な人間だったのか。心の平穏を保つため他者に深入りしないがモットーの彼女だったが、むしろ自分が他人から敬遠されていたことを思い知らされてしまう。

そういえば、今の結婚生活にしたって最初は不倫が始まりだ。そのため、ケンの前妻キャシー(ベティ・バックリー)をひどく傷つけてしまった。しかも、当時マリオンはケンの友人ラリー(ジーン・ハックマン)から求愛を受け、実のところかなり揺れ動いていた。既にケンとの婚約を発表したのだから今さら引き返せない、そんな世間体だけを気にしてラリーのプロポーズを断ったマリオンだが、しかし内心では少なからず後悔している。また、彼女は最初の夫サム(フィリップ・ボスコ)が子供を望んでいると知りながら、自らのキャリアを優先して勝手に中絶し、離婚後に彼は自殺をしてしまった。思い返せば身勝手な行動ばかりだ。隣の診療所の患者ホープを見かけたマリオンは、思い切って彼女を喫茶店に誘う。ホープの話を聞くつもりだったが、いつしか自分の話ばかりをしてしまった。

マリオンが仕事部屋へ戻ると、隣から精神科医のセラピーを受けるホープの声が聞こえてくる。話題はマリオンのことをだった。「彼女は全てを手にしているように見えて、実際は何もない孤独な人なの。このままでは、私もいつかああなってしまうような気がして恐ろしい。自分の感情を恐れて正直になれず、平静を装うために見たいものしか見ない、聞きたいことしか聞かない人生を続けてきた結果、あの人は空虚な人間になってしまったのよ」というホープの言葉に打ちのめされるマリオン。しかも、実は喫茶店で夫ケンとその同僚リディア(ブライス・ダナー)の不倫現場を目撃していた。当然ながらショックを受けたマリオンだが、しかしこうなることは薄々分かっていた。なにしろ不倫で始まった結婚だから。認めたくなくて目を逸らしてきただけだ。偽りの幸福が目の前で音を立てて崩れてしまった今、彼女は自らの人生をやり直す必要に迫られる…。

人間は誰しもその人生において幾多の岐路に立たされ、そのつど自らの意志と判断で選択を繰り返していく。我々の一生とはその積み重ねだ。若いうちはそうした選択のことをいちいち振り返るような余裕もないが、しかし人生50年も過ぎるとふと立ち止まり考えてしまうことは、恐らく誰でも多かれ少なかれあるだろう。あの時の決断は本当に正しかったのだろうか、別の選択をしていれば違った展開があったのではないか、そもそも今の自分は本当になりたかった自分なのだろうか。筆者自身はマリオンと反対で、むしろ感情の赴くがままに生きてきた感が強い。それゆえ、これまでの人生の選択には概ね納得しているし、なりたい自分にはある程度なれているように思うが、しかし一方で正直過ぎたために今となっては後悔するような過ちも少なくない。とてもじゃないが、理想通りの完璧な人生とは言えないだろう。もちろん、この先どうなるのだろうかという漠然とした不安も当然ある。そういう意味で、本作に描かれる中年女性マリオンの「中年の危機」的な迷いとその先にある悟りの物語には、なにかこう他人事とは思えないようなものが感じられるのだ。

ベルイマンの『野いちご』がそうであったように、過去と現在のエピソードを巧みに織り交ぜ、さらに空想と現実を自在に交錯させながら、ヒロインの感情の流れを丹念に描いていくウディ・アレンの演出がまた素晴らしい。エリック・サティやマーラーなど主にクラシックを用いた音楽の使い方も、ともするとスノッブさが鼻につきかねないところだが、しかし本作ではむしろ気位の高いマリオンの孤独な心象風景を的確に表している。人生の新たなスタートを感じさせるラストも味わい深いし、成就しなかった恋愛だけが唯一の美しい思い出というのもこの年になると共感しかない。初公開時に劇場で見た時は地味な映画だとしか思わなかったが、時を経て見直すとあちこちで刺さりまくりだ。

ジーナ・ローランズのどこか他人を寄せ付けないクールで知的な佇まいはマリオンのイメージそのものだし、情緒不安定な妊婦ホープ役にミア・ファローという配役も絶妙。また、当時は『バージニア・ウルフなんかこわくない』('66)すら見ていなかった筆者は気付かなかったが、マリオンの親友クレアを演じているサンディ・デニスの苦々しさと危うさは、『下り階段をのぼれ』('67)や『雨に濡れた歩道』('69)の延長線上にあることが感じられて興味深い。悪役俳優のイメージが強いハリス・ユーリンが優秀な姉に引け目を感じているダメな弟ポールというのも面白いし、マリオンとポールの父親を演じるアメリカ演劇界の伝説ジョン・ハウスマンも、老いてなお尊大で居丈高な立派過ぎる元大学教授にピッタリだ。なお、ケンの元妻キャシー役のベティ・バックリーはブロードウェイの大物ミュージカル女優だが、映画ファンには『キャリー』('76)のコリンズ先生と説明した方が分かりやすいだろう。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※3000枚限定プレス
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:81分/発売元:Twilight Time/20th Century Fox
特典:音楽トラック独立再生機能/オリジナル劇場予告編/フルカラー・ブックレット封入(8p)



by nakachan1045 | 2020-09-22 21:22 | 映画 | Comments(0)

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