なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ベルベット・バンパイア」 The Velvet Vampire (1971)

製作:チャールズ・S・スワーツ
脚本:モーリス・ジュールズ
チャールズ・S・スワーツ
ステファニー・ロスマン
撮影:ダニエル・ラガンブル
音楽:クランシー・B・グラス三世
ロジャー・ダラーハイド
主題歌:ジョニー・シャインズ
出演:マイケル・ブロジェット
シェリー・マイルズ
セレステ・ヤーナル
ポール・プロコップ
ジーン・シェイン
ジェリー・ダニエルズ
サンディ・ウォード
ボブ・テシア
クリス・ウッドリー
アメリカ映画/80分/カラー作品

ロサンゼルスのアート・ギャラリーを訪れた若い夫婦リー(マイケル・ブロジェット)とスーザン(シェリー・マイルズ)は、オーナーのストーカー(ジーン・シェイン)から謎めいた裕福な未亡人ダイアン・レ・ファニュ(セレステ・ヤーナル)を紹介される。夫のリーは妖艶で美しいダイアンにすっかり魅了され、夫婦揃って週末に彼女の自宅を訪ねることになるが、妻スーザンはあまり気乗りしなかった。
人里離れた砂漠にあるというダイアンの自宅へ向かうリーとスーザン。しかし、いくら車を走らせてもそれらしい屋敷は見えてこない。途中で車がエンストして困り果てていたところ、バギーカーに乗ったダイアンが砂漠の向こうから現れる。車の修理を手配するという彼女に案内され、夫婦は砂漠のど真ん中に建てられたダイアンの豪邸に到着する。屋敷にはフアン(ジェリー・ダニエルズ)という召使がいた。
その晩、ディナーを済ませたリーとスーザンが客間で休んでいる間、ダイアンは呼び寄せた修理工を殺害する。彼女の正体は100年以上生き永らえるバンパイアだった。翌日、ダイアンに連れられて砂漠へ出かけたリーとスーザン。近郊には、かつて栄えた炭鉱町の廃墟があった。そこには2000人の人々が暮らしていたが、正体不明の野生動物に殺される事件が相次ぎ、炭鉱が閉鎖されてしまったという。散策に訪れた廃墟でリーを誘惑するダイアン。その間にスーザンがガラガラヘビに脚を噛まれてしまう。
ダイアンによる応急処置で大事に至らなかったものの、しばらく安静にしていなくてはならなくなったスーザン。誘惑に抗えずダイアンと寝てしまうリー。その様子を目撃したスーザンだったが、むしろダイアンに対してライバル心を燃やすように平静を装う。やがて、自分たちの車が修理されていないことに気付く夫婦。しかも、ダイアンの亡き夫の墓石には100年前の生没年月日が記されていた。そんな2人の疑心暗鬼をよそに、ダイアンはリーだけでなくスーザンをも誘惑していく…。

<作品レビュー>
ロジャー・コーマンのニュー・ワールド・ピクチャーズが製作した耽美的な女性バンパイア映画である。演出を手掛けたのも女性監督ステファニー・ロスマン。南カリフォルニア大学在学中からコーマンのもとで働いていたロスマンは、ジャック・ヒルとの共同でクレジットされたホラー『Blood Bath』('66)で監督デビュー。日本では1作目と2作目の劇場公開時期が前後してしまった『あぶない看護婦』シリーズの第1弾『またまたあぶない看護婦』('70)を大ヒットさせた彼女は、その勢いに乗って続編の仕事をオファーされたものの本人的に乗り気ではなく、代わりとして引き受けた作品がこの『ベルベット・バンパイア』だった。

舞台は現代のロサンゼルス。人気のない夜のダウンタウンを独りで歩く真っ赤なドレスの妖艶な美女が、突然現れた巨体のバイカー男(ボブ・テシア)に襲われてレイプされそうになるも、隠し持ったナイフで手際よく相手を刺殺する。美女の名前はダイアン・レ・ファニュ(セレステ・ヤーナル)。その足でアート・ギャラリーのイベントを訪れた彼女は、一組の若い男女カップルに注目する。甘いマスクで遊び慣れた感じの夫リー(マイケル・ブロジェット)と、どこか神経質で気難しい印象のブロンド妻スーザン(シェリー・マイルズ)だ。ギャラリー・オーナーのストーカー(ジーン・シェイン)に2人を紹介されたダイアンは、週末に彼らを自宅へ招待する。見ず知らずのダイアンに警戒感を示すスーザンだったが、しかし彼女の美しさに魅了されたリーは二つ返事で訪問を約束する。

金曜日の朝、人里離れた砂漠の真ん中に建つというダイアンの邸宅を目指すリーとスーザン。しかし、いくら車を走らせてもそれらしい建物は見えず、しまいには自慢の愛車がエンストしてしまう。するとそこへ、砂丘の向こうからバギーカーを乗り回すダイアンが現れ、2人を自宅へと案内する。そこはまさに砂漠のオアシスと呼ぶべき、ハシエンダ風の壮麗な大豪邸だ。すっかり浮足立つリーだったが、しかしスーザンは妙な居心地の悪さを感じる。召使のフアン(ジェリー・ダニエルズ)は慇懃無礼だし、夕食に出された生肉のタルタルステーキも受け付けない。そもそも、夫を見つめるダイアンの眼差しが不快だった。

その晩、秘かに車の修理工を呼び寄せていたダイアンは、ガレージで作業中の修理工を襲って殺害する。実は彼女、100年以上も生き永らえる不老不死のバンパイアだった。抗しがたい血への欲求から最愛の夫ヴィクターを殺害してしまい、それ以来、夫の墓があるこの土地から離れようとせず、外部から獲物を招き入れては毒牙にかけていた。今回のターゲットはリーとスーザンの夫婦。深夜、砂漠の真ん中でダイアンに誘惑されるという同じ夢を見てうなされる2人。そんな彼らをダイアンはマジックミラー越しに隣の部屋からじっと眺め、怪しげな微笑みを浮かべている。その様子は、まるで獲物をどうやって追い詰めようかと楽し気に夢想しているかのようだ。

翌朝、ダイアンは夫婦を近隣の廃墟となった町へと連れていく。ここはかつて炭鉱町として栄え、2000人もの住民が暮らしていたのだが、しかし100年近く前に正体不明の野生動物に人間が血を吸われて殺される事件が相次ぎ、そのために炭鉱が閉鎖されてしまったのだ。炭鉱跡や町の廃墟を案内するふりをしながら、巧みに夫婦を引き離して翻弄するダイアン。すると、ふてくされたスーザンが独りでいたところ、ガラガラヘビに脚を噛まれてしまう。ダイアンの施した応急処置で事なきを得たものの、大事を取って寝室で安静にするスーザン。その間にリーはダイアンの度重なる誘惑に抗えなくなり、ついに彼女と関係を持ってしまう。たまたまその様子を目撃してショックを受けるスーザンだったが、しかしダイアンが自分の視線を意識していることに気付き、むしろ女同士の闘争心に火が付くのだった。

男とはまことに勝手なもの。一度欲求を満たしてしまったリーは、すっかりダイアンに対して興味を失う。そんな彼の態度に呆れて腹を立てるスーザン。もちろんダイアンは全く動じない。ここで今度はダメな男を巡って女同士の奇妙な共犯関係が生まれる。明日は仕事だから家に帰りたいと言い出すリーだったが、しかしダイアンが指示したという車の修理は終わっていなかった。不審に思った夫婦はダイアンを探して訪れた墓地で、彼女の夫が100年近く前に亡くなっていることに気付く。しかも、そこで発見されたフアンの死体について、ダイアンはなんとも思っていない様子だ。絶対に彼女はおかしい、今すぐにでもこの屋敷を出なくてはと取り乱すリー。だが、そんな慌てふためく夫にスーザンは幻滅してしまい、むしろダイアンの肩を持つようになる。知らず知らずのうち、ダイアンの手のひらで転がされていく夫婦だったが…。

美しくも謎めいたバイセクシャルの女性バンパイアと、彼女に誘惑され翻弄される若い夫婦。勘の良いホラー映画ファンならすぐに気付くと思うが、これはベルギーの映像作家ハリー・クーメルによる耽美系ホラーの大傑作『Les levres rouges』('71・日本未公開)と全く同じ設定だ。アメリカでは『Daughters of Darkness』のタイトルで配給され、アートハウス系シアターで評判となった作品だが、一説によると本作はこの『Les levres rouges』にインスパイアされて作られたという。あちらの全米封切が'71年5月、こちらは同年10月。当時のインディペンデント系低予算映画は撮影に2~3週間、トータル1~2カ月程度で完成することも珍しくなかったので、あながちあり得ない話ではないだろう。向こうの舞台は曇り空も寂しげな肌寒いヨーロッパの古都、こちらは灼熱の太陽が照り付ける南カリフォルニアの砂漠地帯。雰囲気こそまるで違うが、しかしストーリーの骨格はとてもよく似ている。女ヴァンパイアを崇拝する忠実な召使が、それゆえに暴走して殺されるという展開もソックリ。半ばリメイクに近いとも言えよう。

ステファニー・ロスマンの演出も血生臭いホラー色より繊細なエロティシズムを全面に押し出し、明らかにアート志向の強いスタイリッシュで不条理な怪奇幻想譚を志向している。'70年代エクスプロイテーション映画の殿堂ニュー・ワールド・ピクチャーズとしてはかなり異質な路線だ。ヌード・シーンを含む大胆な性描写は、当時話題を集めたハマー・フィルムの「カルンシュタイン三部作」からの影響もあったことだろう。女吸血鬼ダイアン・レ・ファニュという名前も、『バンパイア・ラヴァーズ』('70)の原作「吸血鬼カーミラ」の著者シェリダン・レ・ファニュへのオマージュだ。画廊オーナーのストーカーは、当然ながらブラム・ストーカーが元ネタ。もちろん、相当な低予算で短期間に撮られたことは一目瞭然なため、さすがにハリー・クーメル監督ほどの丹念な芸術性は望むべくもないし、ハマー・フィルム作品のような風格にも事欠いていることは否めないが、しかし試みとしては非常に面白いし、それなりに良く出来ていると思う。

興味深いのは、ヒロインのダイアンが古典的なホラー・モンスターとしてのバンパイアではなく、あくまでも人間の血を飲むことで永遠の若さを保つことの出来る特異体質の持ち主で、それゆえに自らをバンパイアだと思い込んでいるだけという設定だろう。なのでドラキュラみたいな牙は生えていないし、彼女に血を吸われた犠牲者がバンパイアになることもない。そればかりか、愛する者に先立たれて自分だけが生き永らえてしまうという哀しみも秘かに抱えている。そのダイアン役を演じているのは、『バギー万歳!!』('68)でエルヴィス・プレスリーと共演した美女セレステ・ヤーナル。本作でコーマン御大のお気に召した彼女は、続いてニュー・ワールド・ピクチャーズの女囚物映画に主演する予定だったが、ちょうど同時期にチャールズ・ブロンソン主演の『メカニック』('72)とアラン・ドロン主演の『スコルピオ』('73)へ出演するチャンスが舞い込み、エージェントからメイン・クラスの役柄だと聞かされたことから、そちらを選んでしまったという。ところが、両作品とも蓋を開けてみると小さな役柄で、しかも女囚物を蹴ったために二度とニュー・ワールド・ピクチャーズから声がかかることもなかったそうだ。

ダイアンのターゲットとなる若夫婦の旦那リーを演じているのは、ラス・メイヤー監督『ワイルド・パーティ』('70)のジゴロ役で有名なマイケル・ブロジェット。もともとテレビのティーン向けバラエティ番組の司会者として人気を博した人で、役者を引退してからは脚本家としてバート・レイノルズ主演の『レンタ・コップ』('87)やトム・ハンクス主演の『ターナー&フーチ/すてきな相棒』('89)などを手掛けた。その妻スーザン役のシェリー・マイルズもテレビのバラエティ番組出身で、後に動物愛護活動家となったそうだ。

なお、本作は長いことビデオテープやレーザー・ディスクをマスターに使用した画質の悪い海賊盤DVDが数多く出回っており、日本で現在販売されているDVDも御多分に漏れず、スタンダード・サイズのビデオ素材からコピーされた違法な海賊盤。画質はかなり劣悪だ。一応、アメリカでは'11年にロジャー・コーマン・コレクションの一環としてShout Factory社から初の正規版DVDがリリースされ、'16年には同社の通信販売限定でブルーレイ化もされている。やはり映画をビデオソフトで鑑賞するならちゃんとした正規版で。どんな名作でも画質が良くなければ台無しだ。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※4本立て2枚組セット
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:80分/発売元:Shout Factory
特典:女優セレステ・ヤーナルによる音声解説/オリジナル劇場予告編/スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2020-09-24 10:33
| 映画
|
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