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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「首だけの情事」 Macabro (1980)

「首だけの情事」 Macabro  (1980)_f0367483_20590130.jpg
監督:ランベルト・バーヴァ
製作:ジャンニ・ミネルヴィーニ
   アントニオ・アヴァティ
脚本:プピ・アヴァティ
   ロベルト・ガンドゥス
   ランベルト・バーヴァ
   アントニオ・アヴァティ
撮影:フランコ・デリ・コリ
音楽:ウバルド・コンティニエロ
出演:バーニス・ステジャース
   スタンコ・モルナール
   ヴェロニカ・ジニー
   ロベルト・ポッセ
   フェルディナンド・オルランディ
   フェルナンド・パヌーロ
   エリサ・カディジア・ボーヴェ
イタリア映画/90分/カラー作品




<あらすじ>
アメリカ南部のニューオーリンズに住む平凡な主婦ジェーン(バーニス・ステジャース)は、夫レスリー(フェルナンド・パヌーロ)の目を盗んでフレッド(ロベルト・ポッセ)という男性との不倫に溺れていた。市内にこっそりとアパートの部屋を借り、子供たちのことも放り出してフレッドとの逢引を続けるジェーン。思春期の娘ルーシー(ヴェロニカ・ジニー)は、母親が不倫していることを薄々感付いていた。
そんなある日、映画を見に連れていくという約束を破って、フレッドに会うため出かけてしまった母親に腹を立てたルーシーは、幼い弟マイケルを事故に見せかけてバスタブで溺死させる。知らせを受けたジェーンは半狂乱となり、フレッドの運転する車で自宅へ向かうものの、その際にジェーンが助手席で暴れたせいで車は事故を起こしてしまう。フレッドは首が吹っ飛んで死亡し、ジェーンだけが生き残った。
それから1年後、精神病院を退院したジェーンは、フレッドとの逢引に使っていたアパートへ戻ってくる。管理人は盲目の青年ロバート(スタンコ・モルナール)ひとりだけ。ジェーンの依頼で2階の部屋はそのままにしてあった。一見したところ全快して落ち着いた様子のジェーンだが、しかし夜になるとおもむろにセクシーなネグリジェに着替え、ベッドへ横になって誰かを待っている。やがて部屋から漏れてくるジェーンの激しい喘ぎ声。彼女は幾度となくフレッドの名前を呼ぶ。1階で物音を聞いたロバートは戸惑うばかりだった。
それ以来、夜ごとジェーンの部屋からは、まるでフレッドとセックスをするような声が聞こえてくる。怪訝に思ったロバートは知人に古い新聞を確認してもらったところ、確かにフレッドは1年前に交通事故で死亡していた。ならば、夜な夜なジェーンのベッドに忍び込んでいるらしき相手は誰なのか?いてもたってもいられなくなったロバートが2階の部屋を調べたところ、鍵のかかった冷蔵庫の冷凍室にフレッドの生首が隠されていた。ジェーンは亡き愛人の生首と愛を交わしていたのだ…!

<作品レビュー>
イタリアン・ホラーの巨匠マリオ・バーヴァの息子ランベルト・バーヴァの監督デビュー作である。20歳の頃からずっと父親の作品で助監督を務め、父の遺作『ショック』('77)ではノークレジットで共同演出したとも言われているが、しかし正式に劇場用映画の監督を手掛けるのはこれが初めてだった。‟ランベルト・バーヴァの処女作にして最高傑作”との呼び声も高い作品。まあ、そこは恐らく賛否の分かれるところだろうとは思うが、しかし彼のフィルモグラフィーの中でも最もユニークな映画であることは間違いないし、なによりも父親マリオ・バーヴァからの影響が色濃いという点でも興味深い作品と言えるだろう。

舞台はアメリカ南部ルイジアナ州の街ニューオーリンズ。平凡な主婦ジェーン(バーニス・ステジャース)は仕事の忙しい夫に隠れて不倫に溺れており、家庭のことなど全く顧みていない。その日も、子供たちを映画館へ連れていくという約束を破り、愛人フレッド(ロベルト・ポッセ)と落ち合うため市内に借りているアパートの部屋へ向かってしまう。これに腹を立てたのが思春期の娘ルーシー(ヴェロニカ・ジニー)。ジェーンが不倫していることに気付いているルーシーは、そんな母親を罰するかのように、事故に見せかけて幼い弟マイケルをバスタブで溺死させる。お母さんが放ったらかしにするからこうなったのよ、と言わんばかりに。連絡を受けて半狂乱となったジェーンは、フレッドの運転する車で大至急自宅へ向かう。私のせいでマイケルが死んでしまった。嘆き悲しむジェーンは助手席で暴れ出し、そのせいでフレッドが運転を誤って車は大破。フロントガラスを突き破った鉄筋でフレッドの首は吹っ飛び、ジェーンだけが生き残ってしまう。

それから1年後。精神病院を退院したジェーンは、フレッドとの逢引に使っていたアパートへと向かう。管理人の未亡人はすでに他界しており、その息子で盲目の青年ロバート(スタンコ・モルナール)がひとりで管理している。ジェーンは入院中も夫に頼んで家賃を支払い、2階の部屋をそのままに保つよう指示していた。一見したところすっかり落ち着いたように見えるジェーン。昼間は気晴らしに町へ散歩に出かけるし、退院の知らせを受けた夫やルーシーが部屋を訪ねてきても平気だ。しかし、夜になるとジェーンはなぜかセクシーなランジェリーに着替え、門の鍵を閉めないようロバートに指示し、まるで誰かの訪問を待つかのようにベッドで横たわる。やがて、ジェーンの部屋から聞こえてくる激しい喘ぎ声。快感にむせぶジェーンの声はフレッドの名前を叫ぶ。当然ながら、1階に住むロバートは戸惑いを隠せない。

それ以来、毎晩のように2階から欲情したジェーンの歓喜の声が漏れ聞こえてくる。もしかしてフレッドは生きていたのだろうか?目の見えないロバートは、知人に頼んで1年前の新聞を調べてもらうが、フレッドは確かに交通事故で死亡している。2階へ続く階段に糸を張っておいたが、夜中に誰かが通ったような形跡もない。ならば、ジェーンと愛し合っている相手は誰なのか。もしかして、死してこの世を彷徨うフレッドの亡霊が夜ごと彼女のもとを訪れているのだろうか…?

というわけで、結論から言うとジェーンのお相手は死んだフレッドの生首。愛する男性の生首を冷蔵庫の冷凍室に鍵をかけて保管していたジェーンは、夜ごと冷蔵庫からそれを取り出しては愛を交わしていたのだ。変色して腐敗しかけた男の生首に激しいキスをしながら、半裸になって無我夢中でマスターベーションをするジェーンの異様な姿はなかなかショッキング。演じるバーニス・ステジャースがまたアクの強いタイプの女優なだけに、なんだかヤバいもん見てしまったという気にさせられる。とはいえ、ジャンル的にはホラーというよりもサイコ・サスペンスに近い。いわば異常心理の世界を垣間見る作品だが、しかしよくよく考えると一番異常なのはジェーンではなく娘のルーシーだろう。家庭を顧みず男にうつつを抜かす母親への当てつけに幼い弟を風呂に沈めて溺死させ、退院した母親の部屋にこっそり弟の写真を置いて罪悪感に苦しむよう仕向け、しまいにはスープに‟あるもの”を入れて母親を発狂させる。その冷淡な微笑みはサイコパスそのものだ。

しかし最も注目すべきは、ランベルトの父親マリオ・バーヴァの諸作との共通点が多いことだろう。ルーシーに象徴される‟残酷な子供”の存在は、『呪いの館』('66)や『血みどろの入江』('71)など父マリオが繰り返し好んで用いた要素。死んだ恋人が夜ごと幽霊となって甦ったのかと思わせる展開は『白い肌に狂う鞭』('63)を想起させるし、主な舞台となるゴシック様式の古いアパートは『ブラック・サバス/恐怖!三つの顔』('63)や『クレイジー・キラー/悪魔の焼却炉』('69)に出てくる屋敷と雰囲気がそっくりだ。フランコ・デリ・コリ(パゾリーニやヴィスコンティの映画で知られるトニーノ・デリ・コリの従弟)によるムーディなカメラワークもマリオ・バーヴァっぽい。恐らく、ランベルトが父親からの影響をストレートに表現した映画はこれ一本きりなのではないだろうかと思う

ちなみに、本作には元ネタになった事件があったという。ニューオーリンズ在住の女性が恋人の生首を冷凍庫に保存していた…という出来事が実際にあったのだそうだ。これを新聞記事で見かけて興味を持ったのが、日本では『追憶の旅』('83)や『ジャズ・ミー・ブルース』('91)などの名作で知られる巨匠プピ・アヴァティ。実はもともと『La casa dalle finestre che ridono(笑う窓のある家)』('76)や『ゼダー/死霊の復活祭』('82)などのホラー映画で頭角を現したアヴァティは、この奇妙な事件を映画にしてみたら面白いのではないかと考え、以前から知遇のあったランベルト・バーヴァに声をかけたのである。

脚本を書いたのはプピ・アヴァティと兄のアントニオ・アヴァティ、ランベルト・バーヴァとその友人ロベルト・ガンドゥスの4人。毎日オフィスに4人が集まって雑談をしながら物語を膨らませ、その内容をガンドゥスが記録して脚本にまとめたのだという。基本的にロケ地はアメリカのニューオーリンズだが、しかしアパートの屋内シーンはイタリア北西部ロンバルディーア州の町サロのガルダ湖畔にある、クラレッタ・ペタッチの旧別荘にて撮影されている。当時はホテルとして使われていたそうだ。さらに、ジェーンがマイケルの墓参りをする広大な墓地は、ミラノ郊外の小さな村にあるらしい。なるほど、どうりでヨーロッパ的な雰囲気がするわけだ。90分というコンパクトな尺のわりに話が長すぎるように感じることは否めないものの、エクスプロイテーション映画ともアート映画ともつかない独特のタッチは面白いし、人を食ったようなクライマックスにもニヤリとさせられる。たびたび‟マリオ・バーヴァの不肖の息子”と呼ばれるランベルトだが、本作を見たマリオが「これでようやく安心して死ねる」と呟いたというのも分からないではない。

ジェーン役で腐りかけた生首とのベッドシーンを演じたバーニス・ステジャースは、巨匠フェデリコ・フェリーニの『女の都』('80)で注目された英国女優。アニタ・エクバーグを強面にしたような顔立ちは確かにフェリーニ好みだったのだろう。盲目の美青年ロバート役のスタンコ・モルナールは、タヴィアーニ兄弟の『アロンサンファン/気高い兄弟』('74)と『パードレ・パドローネ』('77)で知られるクロアチア出身の俳優。青く澄んだ瞳がとても印象的な人だ。実は当初、ロバート役には彼のほかにミケーレ・ソアヴィも候補として挙がっていたという。結局、瞳の美しさを理由にスタンコ・モルナールが選ばれたわけだが、オーディションの過程でランベルトとミケーレは親しくなり、次回作『暗闇の殺意』('83)や『デモンズ』('85)などでタッグを組むこととなる。なお、娘ルーシー役のヴェロニカ・ジニーは『デモンズ』や『デモンズ・キラー/美人モデル猟奇連続殺人』('87)にも出ていたカール・ジニーの妹で、ルイス・ブニュエルの『ビリディアナ』('63)で知られる女優ヴィクトリア・ジニーの娘だ。

なお、日本では'89年にひっそり劇場公開された後にVHS発売されたきりだが、イギリスでは先ごろブルーレイがリリースされたばかり。オリジナルのカメラ・ネガから2K解像度でレストアされているとのことで、文句のつけようがない高画質で本編を楽しむことが出来る。もしかすると劇場公開時よりも画質がいいのではないだろうか。特典にはランベルト・バーヴァ監督の最新インタビューなども収録。しかもリージョン・フリーなので、日本市場向けのブルーレイ・プレイヤーでも再生が出来る。そうそう国内盤の出るタイトルとは思えないし、価格も比較的リーズナブルなので、イギリス盤で買っておいても損はないだろうと思う。

評価(5点満点):★★★★☆

参考ブルーレイ情報(イギリス盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:90分/発売元:88 Films
特典:ランベルト・バーヴァ監督のインタビュー('19年制作・約22分)/映画評論家トロイ・ハワースとナサニエル・トンプソンによる音声解説/イタリア語版オープニング&エンディング・クレジット/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2020-10-28 01:08 | 映画 | Comments(2)
Commented at 2020-11-09 00:11
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by nakachan1045 at 2020-11-09 02:08
坂村さん!そうです、ピロシキ持ってきたなかざわです(笑)。覚えていてくださって感謝です!
私も坂村さんのこと覚えています。本当にご無沙汰しております。この業界で日芸時代の友達と会うチャンスが全くなかったので嬉しいです!というか、ほとんど音信不通状態なのですけれど…(^^; 宣伝のガイエさんを介してつながるようでしたら、私の連絡先をお伝えするようお願いしてみます。いやあ、書き込みしてくださってありがとうございます。 なかざわ

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