なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ロジャー・ムーア/冒険野郎」 Shout at the Devil (1976)
製作:マイケル・クリンジャー
原作:ウィルバー・スミス
脚本:スタンリー・プライス
アラステア・リード
ウィルバー・スミス
撮影:マイケル・リード
第二班監督:ジョン・グレン
第二班撮影:アラン・ヒューム
タイトル・デザイン:モーリス・バインダー
音楽:モーリス・ジャール
出演:リー・マーヴィン
ロジャー・ムーア
バーバラ・パーキンス
イアン・ホルム
ルネ・コルデホフ
ホルスト・ヤンセン
カール・ミヒャエル・フォーグラー
ガーノット・エンデマン
モーリス・デナム
ジーン・ケント
ヘザー・ライト
ジョージ・クールリス
イギリス映画/149分/カラー作品
時は1913年、場所はアフリカ東海岸の英国領ザンジバル王国。飲んだくれのアメリカ人密猟業者フリン(リー・マーヴィン)は、象牙を狩猟するためドイツ領東アフリカへ密入国する計画を立てる。しかし、危険地帯ゆえにもうひとり白人の協力者が必要だった。そこで彼は、たまたま港を訪れたイギリス人貴族セバスチャン(ロジャー・ムーア)に目をつける。アラブ人の忠実な召使モハメド(イアン・ホルム)に命じてセバスチャンの所持金とパスポートを盗ませたフリンは、善意の第三者を装ってセバスチャンに接近し、分け前を餌にして密猟計画へと引きずり込む。
かくして、現地人の部隊を率いてドイツ領東アフリカへと潜入し、ゾウを狩猟して大量の象牙を手に入れるフリンとセバスチャン。ところが、事態を知ったドイツ軍指揮官フライシャー(ルネ・コルデホフ)が軍隊を率いて来襲する。フリンとフライシャーは因縁のライバルで、これまで何度もフリンに逃げられたフライシャーは彼に強い恨みを抱いていた。なんとかボートに象牙を積んで脱出したフリンとセバスチャンだったが、しかしドイツ海軍の誇る軽巡洋艦ブルシャー号で追いかけてきたフライシャーにボートを真っ二つにされ、せっかく手に入れた象牙も全て海の底に沈んでしまった。
命からがら陸地へとたどり着いた2人は、ポルトガル領モザンビークにあるフリンの自宅へと向かうものの、その途中でセバスチャンがマラリアに罹ってしまう。そんなセバスチャンを介護したのがフリンの娘ローザ(バーバラ・パーキンス)。いつしか2人は深く愛し合うようになる。その傍ら、脚を怪我したフリンに代わってセバスチャンが再びドイツ領へ忍び込むことに。今度はドイツ側の軍資金を奪おうというのだ。今度はまんまと成功し、大金を失ったフライシャーは地団太を踏んで悔しがる。
分け前を手に入れたセバスチャンはローザと結婚することに。これに猛反対したフリンと大喧嘩を繰り広げるものの、無事にローザとの結婚式を挙げたセバスチャンは、やがて子宝にも恵まれる。しかし、幸福な時間は長続きしなかった。'14年7月に第一次世界大戦が勃発。フライシャー率いるドイツ軍部隊がモザンビークへと侵攻し、積年の恨みを晴らすべくフリンの屋敷を襲撃する。
運悪くフリンとセバスチャンは留守中で、ドイツ軍は召使いだけでなくセバスチャンの娘も殺害し、ローザひとりだけが生き残った。フライシャーへの復讐を固く誓うフリンとセバスチャン。そんな折、2人はイギリス軍よりドイツ軍軽巡洋艦ブルシャー号の爆破作戦を任される。実は、このブルシャー号に宿敵フライシャーが乗船していた…。
<作品レビュー>
3代目ジェームズ・ボンド俳優として人気の絶頂期にあったロジャー・ムーアが、『女王陛下の007』('69)のピーター・ハント監督とタッグを組んだ戦争アドベンチャーである。しかも、第二班の演出がジョン・グレン、同じく第二班の撮影がアラン・ヒューム。そう、『007/ユア・アイズ・オンリー』('81)と『007/オクトパシー』('83)、『007/美しき獲物たち』('85)の監督&撮影監督コンビである。2人の顔合わせは本作が初めて。これはジェームズ・ボンド映画ファンならば見逃せないと思うし、実際に当時のロジャー・ムーア版ボンド映画を多分に意識したような作品に仕上がっている。
物語の始まりは第一次世界大戦前夜の1913年、アフリカの英国領ザンジバル王国(現在はタンザニア連合共和国の一部)。素行不良で飲んだくれのアメリカ人密猟業者フリン(リー・マーヴィン)は、アラブ人シークと象牙の取引を結び、ドイツ領東アフリカ(現在のルワンダ、ブルンジおよびタンザニアの一部)へゾウの密猟に出かける手はずを整えるのだが、現地人部隊を率いるための白人がもうひとり必要となってしまう。そこで彼が目をつけたのが、たまたま見かけたイギリス人貴族セバスチャン(ロジャー・ムーア)だった。
オーストラリアへ旅行に向かう途中でザンジバルに立ち寄ったセバスチャンは、ホテルへ忍び込んだフリンの忠実な召使モハメド(イアン・ホルム)に所持金とパスポートを盗まれてしまう。もちろん、フリンの差し金だ。そして、困り果てているセバスチャンに善意の第三者を装ったフリンが近づき、親切なふりをしてホテル代を支払って彼の信頼を得つつ、良かったら密猟に協力してくれないか?たっぷり儲かるぞ、と持ち掛ける。これにすっかり騙されてしまったセバスチャンは、おお!救世主が現れた!ありがたい!とばかりに喜んで引き受けるというわけだ。
首尾よく東アフリカへと密入国した一行は、手当たり次第にゾウを殺して大量の象牙を入手。ところが、その様子を見かけた現地人がドイツ軍司令官フィッシャー(ルネ・コルデホフ)に密告する。実はフリンとフィッシャーは因縁の仲。これまでも幾度となくフリンに領地を荒らされ逃げられてきたフィッシャーは、今度こそは絶対に捕まえて殺してやる!とばかりに軍隊を率いてフリンたちを襲撃する。大勢の隊員を失いながらも、命からがらボートで脱出したフリンとセバスチャン。ところが、ドイツ海軍の誇る軽巡洋艦ブルジャー号(実在したケーニヒスベルク号がモデル)に乗ったフィッシャーに追いつかれ、ボートを粉々にされたばかりか大量の象牙も海の底へと沈んでしまう。
命からがら陸地へとたどり着いた2人は、フリンの自宅があるポルトガル領モザンビーク(現モザンビーク共和国)へと向かうのだが、到着する頃にはセバスチャンがマラリアを患ってしまう。そんな彼を献身的に看護をしたのがフリンの美しい娘ローザ(バーバラ・パーキンス)。鼻っ柱の強いローザは父親の密猟稼業を認めておらず、はじめこそセバスチャンを父親と同じ類の怪しげな男かと思っていたが、いつしか純粋で実直な彼に惹かれていく。やがて2人は結婚を誓い合う仲になるのだが、これにフリンは猛反対。セバスチャンと取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げるものの、結局は認めざるを得なくなる。ほどなくしてローザは女児を出産。アフリカの美しい自然に囲まれたフリンの屋敷は幸せに包まれる。
その一方で、フリンたちは幾度となくドイツ領へと侵入し、宿敵フィッシャーの鼻をあかしてドイツ軍の資金強奪などに成功。フィッシャーはますますフリンへの恨みを募らせていく。そうこうしているうち1914年7月に第一次世界大戦が勃発し、アフリカの各国植民地でも戦争が始まる。フィッシャー率いるドイツ軍はモザンビークへと侵攻し、フリンの邸宅を襲撃。たまたま留守にしていたフリンとセバスチャンは難を逃れるものの、召使いたちはドイツ軍によって皆殺しにされ、フィッシャーは見せしめのためにローザの目の前で赤ん坊の愛娘マリアを惨殺する。
怒りと悲しみを胸にフィッシャーへの復讐を誓うフリンとセバスチャン、ローザの3人。彼らはドイツ軍の行方を追跡し、ゲリラ戦術で打撃を与えていくものの、今一歩のところでフィッシャーを取り逃がしてしまう。そんな折、現地の地理に精通して現地人の信頼も厚いという理由から、フリンとセバスチャンは英国軍より極秘任務を打診される。修理のためモザンビークに停泊中のドイツ軍軽巡洋艦ブルジャー号に、爆弾を仕掛けて破壊するという危険極まりないミッションだ。そのブルジャー号にフィッシャーが乗船していると知った彼らは、決死の覚悟で潜入破壊工作に挑んでいくこととなる…。
原作はイギリスのベストセラー作家ウィルバー・スミスの冒険小説「密猟者」。英国領時代のザンビアに生まれて南アフリカに育った英国人の彼は、心の故郷であるアフリカを舞台にした作品を数多く残している。ロジャー・ムーア&ピーター・ハントが最初に組んだパニック大作『ゴールド』('74)も、実は彼の小説「地底のエルドラド」の映画化。基本的な設定はジョン・ヒューストン監督の『アフリカの女王』('51)を彷彿とさせるが、しかしアクションとユーモアをふんだんに盛り込んだ軽妙洒脱なタッチは、まさにロジャー・ムーア版ジェームズ・ボンド映画のノリである。それでいて、戦闘シーンや虐殺シーンなどはかなりシリアスかつハード。血みどろのスプラッター描写まで飛び出す。この両極端なバランス感覚には少々戸惑うものの、しかしそういえば当時のジェームズ・ボンド映画にも残酷要素は少なくなかった。恐らく意識していたはずだ。
さらに、嘘つきで自分勝手で無責任で欲深いけどなぜか憎めない大酒飲みのテキトーなオジサン、フリンを演じるリー・マーヴィンのコミカルな芝居も要注目。ハードボイルドな男の中の男というイメージの強いマーヴィンだが、これだけ破天荒かつ人を食ったようなキャラクターを演じたのは本作と『ペンチャー・ワゴン』('67)くらいのものだろう。一方のロジャー・ムーアも、真面目で実直だがどこかちょっとトボケている英国紳士セバスチャンをチャーミングに演じ、当時のジェームズ・ボンド役とは一味違う魅力を楽しませてくれる。
加えて、気が強くてしっかり者のローザ役で2人を支えるバーバラ・パーキンス、一見したところ怪しげだがお茶目なアラブ人の召使モハメド役で笑いを誘うイアン・ホルム、威張り散らすわりには間抜けな極悪人フィッシャー役でドタバタ演技を披露するルネ・コルデホフなど、どの役者もキャラが立っている。ちなみに、劇中でフリンはセバスチャンを若造呼ばわりするが、当時のマーヴィンは52歳でムーアは49歳。たった3つしか違わない。それにしては、確かにムーアは若く見える。
ちなみに、本作には幾つかのバージョンが存在する。イギリス本国で封切られた2時間半バージョン、アメリカ公開時に短縮された2時間8分バージョン、ビデオ発売時に再編集された1時間55分バージョンなどなど。筆者はイギリス公開時のノーカット完全版で鑑賞したのだが、さすがに2時間半はちょっと長過ぎるように感じる。全体的なテンポは非常にスピーディなのだが、あれもこれもと欲張ったせいでエピソードを過剰に詰め込んでしまったという印象。やはり2時間程度が適当なのではないだろうか。また、セバスチャンが黒人に変装してドイツの軽巡洋艦へ潜入するという設定にも無理がある。なにしろ、ロジャー・ムーアの瞳は明るいブルー。いくら肌をダークブラウンに塗ったとしても、あの目を見れば即座にバレてしまうはずなのだが、もちろん誰一人として気付かない(笑)。映画だからと言われればそれまでだが、しかし物語の説得力を左右するようなディテール描写にはもう少し気を使って欲しかった。
なお、日本では遥か昔にVHSで発売されたきりの本作だが、アメリカとイギリスではブルーレイ&DVDの2枚組セットが既に発売中。どちらも本編は2時間半の完全版で、イギリス盤のみドキュメンタリーなどの特典映像が収録されている。筆者が所有しているのはアメリカ盤。本編はほど良いフィルム感を残した鮮やかな高画質で、音声トラックも非常にクリアで重量感がある。特にアクション・シークエンスにおけるサウンド・エフェクトの再現力はなかなかのもの。特典がスチル・ギャラリーだけなのは惜しまれる。ちなみにイギリス盤はリージョンBなので、日本ではマルチリージョンの再生機が必要だ。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ&DVD情報(アメリカ盤2枚組)
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:149分
DVD
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:149分
発売元:Timeless Media Group/Orion Pictures/MGM
特典:スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2020-11-12 02:08
| 映画
|
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