なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「遊星よりの物体X」 The Thing From Another World (1951)
製作:ハワード・ホークス
原作:ジョン・W・キャンベル・ジュニア
脚本:チャールズ・レデラー
撮影:ラッセル・ハーラン
特殊効果:ドナルド・スチュワード
音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:マーガレット・シェリダン
ケネス・トビー
ロバート・コーンスウェイト
ジェームズ・アーネス
ダグラス・スペンサー
ジェームズ・ヤング
デューイ・マーティン
ロバート・ニコルズ
ウィリアム・セルフ
エドゥアード・フランツ
サリー・クレイトン
アメリカ映画/87分/モノクロ作品
<あらすじ>
アラスカはアンカレッジの米空軍基地に、北極近くの科学研究所のキャリントン博士(ロバート・コーンスウェイト)から電報が入る。付近に未確認飛行物体が墜落したため、調査に必要な機材を大至急送って欲しいというのだ。そこで空軍のフォガーティ将軍は、優秀なパイロットであるヘンドリー大尉(ケネス・トビー)とその部下であるダイクス中尉(ジェームズ・ヤング)、航空士マクファーソン(ロバート・ニコルズ)、技術士ボブ(デューイ・マーティン)らに、機材を研究所へ運搬させることにする。
そこでヘンドリー大尉は、以前にデートしたことのある女性ニッキー(マーガレット・シェリダン)と再会する。ニッキーはキャリントン博士の個人秘書として働いていた。そのキャリントン博士によると、未確認飛行物体は推定で2万トンもの重量があるため通常の飛行機とは考えられず、墜落する前に上下移動している形跡があるため隕石などでもない。つまり、宇宙の彼方からやって来た宇宙船である可能性が高かった。半信半疑のまま現地へ向かった遠征隊は、そこで雪原の下に埋まった空飛ぶ円盤を発見。墜落時に発生した熱によって、固い氷で覆われていた。そこで、一行はテルミット爆弾で氷を破壊することに。ところが、爆弾が本体へ引火したために円盤そのものが大破してしまう。
世紀の大発見が失われてしまい茫然とするヘンドリー大尉たち。すると、一行は氷の中に閉じ込められた人間のような「物体」を発見する。もしかすると、空飛ぶ円盤に乗ってきた異星人かもしれない。今度は慎重に氷ごと切り出し研究所へと運ぶ。氷が解けるまで兵士たちが交代で監視することに。すると、バーンズ伍長(ウィリアム・セルフ)の順番の際に「物体」が起き上がり、人間に向かって襲いかかって来る。外へ逃げ出した「物体」を追う兵士たち。そこで彼らは、番犬に食いちぎられた「物体」の片腕を発見して持ち帰る。
その腕をキャリントン博士らが分析したところ、「物体」は植物が進化した地球外の知的生命体であることが判明。その構造は植物と酷似しており、知性はあるものの痛みも感情も無く、銃器で殺傷することは出来ない。どうやら人間や動物の血液を摂取するらしく、我々を食物と認識しているようだ。しかも、短時間で仲間を培養できる。やがて基地内で数名の科学者がエイリアンに襲われ殺される。キャリントン博士は生命の神秘を探る貴重な資料としてエイリアンを生け捕りにするよう主張するが、しかしヘンドリー大尉らは人類にとって恐るべき脅威だと考え、これ以上の犠牲者を増やさないためにもエイリアン退治に乗り出す…。
<作品レビュー>
'50年代のハリウッドに巻き起こったSF映画ブームを代表する名作のひとつである。SF小説の大家ジョン・W・キャンベルの短編「影が行く」の映画化である本作は、後にジョン・カーペンター監督の手によって『遊星からの物体X』('82)としてリメイクされたことでも有名。筆者は大学時代にビデオテープで初めて見たのだが、正直なところあまり面白いとは思えなかった。なにしろ、人間や動物と融合して自在に変態していくカーペンター版のエイリアンに比べ、こちらはフランケンシュタインの怪物みたいな見た目の古色蒼然としたモンスター。しかも、本編の半分を過ぎないと肝心のエイリアンが出てこない。すっかり痺れを切らして何度もテープを早送りした記憶がある。我ながら若い頃はこらえ性がなかったとも思うが、しかしジョン・カーペンター版を先に見てしまった世代ですからね。これはもう仕方ない。
アラスカの米空軍基地に一通の電報が届くところから物語は始まる。電報の発信者は北極にほど近い科学研究所のキャリントン博士(ロバート・コーンスウェイト)。付近に未確認飛行物体が墜落したため、その調査に必要な機材や人員を大至急送って欲しいという。そこで空軍責任者のフォガーティ将軍は、基地で最も優秀なパイロットのヘンドリー大尉(ケネス・トビー)、その部下のダイクス中尉(ジェームズ・ヤング)に航空士マクファーソン(ロバート・ニコルズ)、技術士ボブ(デューイ・マーティン)らを派遣することに。また、ヘンドリー大尉は特ダネ記事を狙っている新聞記者スコッティ(ダグラス・スペンサー)を同行させることにする。
研究所では未確認飛行物体の墜落を確認して以来、羅針盤が狂うなどの異常現象が起きていた。キャリントン博士の見立てによると、墜落した物体の重量はおよそ2万トンにも及ぶという。国内外に関わらず通常の飛行機とは考えにくい。かといって、隕石というわけでもないようだった。なぜなら、墜落直前の観測写真を見ると、物体は上下に移動しているからだ。落下する隕石は上下に動かない。もしかすると異星人が宇宙船で飛来したのか?とにかく、現地へ行って確かめるしかなかった。その一方、ヘンドリー大尉は以前に交際していた女性ニッキー(マーガレット・シェリダン)と研究所で再会する。彼女はキャリントン博士の秘書として働いていた。
かくして、墜落現場へとヘリで到着した調査隊。そこで彼らは、雪原の下に埋もれた巨大な空飛ぶ円盤を発見する。これぞまさしく世紀の大発見だ。しかし、墜落時の熱によって周囲の雪が解けたため、円盤は固い氷で覆われていた。そこで、ヘンドリー大尉らはテルミット爆弾で氷を破壊することにする。ところが、上手くいったと思ったのも束の間、爆弾が円盤本体に引火して大爆発してしまう。目の前で木っ端みじんに砕け散った空飛ぶ円盤を見て茫然とする一行。すると、彼らは氷の中に人間とよく似た「物体」を見つける。これは円盤に乗ってきた異星人に違いない。今度は慎重に氷を切り出すことにした一行は、その「物体」を研究所へ持ち帰ることとなる。
とりあえず、「物体」の氷が解けるまで兵士たちが交代で見張りをすることに。バーンズ伍長(ウィリアム・セルフ)が一人で見張っていたところ、むっくりと起き上がった「物体」が背後から忍び寄る。なんと、そいつは氷の中でも生きていたのだ。ヘンドリー大尉らが駆け付けたところ、既に「物体」は凍えるような寒さの外へと逃げ出していた。後を追いかける兵士たち。すると、彼らは「物体」に飛び掛かった犬たちの死骸と、犬に食いちぎられた「物体」の片腕を発見する。キャリントン博士らがその片腕を調べたところ、「物体」の正体は植物が進化した地球外の知的生命体=エイリアン(ジェームズ・アーネス)であることが判明する。
体の構造が植物であるため、拳銃などの武器で殺すことは出来ないし、人間のような感情や痛みの感覚もない。しかし最大の問題は、このエイリアンが人間や動物の血液を糧にしていること、そして短時間で繁殖可能なことだった。彼らにとって我々人間は食物。大量に繁殖すれば地球上の人間も動物もたちまち全滅してしまう。実際、既に数名の科学者がエイリアンの餌食になってしまった。これ以上の犠牲者を増やさないためにも、ここでヤツを始末せねばならないと考えるヘンドリー大尉たちだったが、しかし生命の神秘を探るための貴重な研究材料だとしてキャリントン博士は猛反対。軍本部もエイリアンの生け捕りを指示する。果たして、人類の運命はどうなってしまうのか…!?
今回は実に30年以上ぶりの再見だったのだが、SFXや特殊メイクを駆使したグロ度の高さといい、閉鎖空間で展開する‟誰が「物体」に肉体を乗っ取られたのか”という疑心暗鬼の生み出す恐怖感といい、やはりカーペンター版『遊星からの物体X』に軍配が上がることは間違いない。恐らく劇場初公開時の観客にとっては衝撃だったのかもしれないが、今見るとスリルも恐怖もいまひとつ物足りなく感じられる。エイリアンの造形も決して独創的とは言い難い。残念ながら時代に色褪せてしまったことは否めないだろう。
とはいえ、科学的な検証や仮説を丹念に積み重ね、専門用語や知識を随所に散りばめながら、地球外生命体とのファーストコンタクトを極力リアルに描こうとする姿勢は、俗にいう子供だましな荒唐無稽も少なくなかった'50年代当時のSF映画群の中では他と一線を画している。そういう点においては、なるほど『宇宙戦争』('53)や『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』('56)と並び称されるのも納得できるだろう。その後のSF映画、ホラー映画への多大な影響を考えても、今なおその歴史的な価値が損なわれることはない。
個人的に興味深く感じたのは、劇中における科学者の描かれ方だ。本作ではキャリントン博士に代表される理想主義的な科学者を、「人命よりも科学的真理の追究を優先する尊大なエリート」「知的好奇心のあまり余計なトラブルを起こす厄介者」として、かなり批判的に描いている。当時のアメリカは過激な反共運動マッカーシズムの嵐が吹き荒れた時代。本作に登場するエイリアンも、人間とは似て非なる怪物=「共産主義者」の象徴だとされているが、もし本当にそうだとすると、さしずめ科学者は「国防の妨げとなるインテリ左翼」の象徴といったところなのかもしれない。この見立てが正しいのかどうかは分からないものの、見ていて少なからず引っかかるポイントではある。やはり、知識人をこういう風に描くのはあまり感心しない。
ちなみに、本作はクリスチャン・ネイビー監督ではなくプロデューサーのハワード・ホークスが大部分を演出したとも言われているが、しかしネイビーとホークスの両方がその噂を否定しており、ハッキリとした真相はよく分からない。ただ、ホークス作品の編集者だったネイビーにとって、これは初めての監督作。キャストの証言によると撮影現場には常にホークスがいたそうだし、新米監督のネイビーが恩師でもある巨匠の教えを仰いでいたであろうことも想像に難くない。それに、長年ホークスの映画を裏で支えてきたわけだから、おのずと作風が似てきてしまう部分もあるだろう。結局のところ、師匠と弟子の共同作業みたいなものだったのではないだろうか。
なお、日本ではIVCから、アメリカではワーナーからブルーレイが出ている本作。使用されている本編マスターは全く異なる。もともと劇場初公開時は87分の尺があった本作だが、配給会社RKOは'57年のリバイバル公開時に短く再編集。カットされた部分は、なんとネガフィルムごと廃棄されてしまった。そこで、カリフォルニア州バーバンクのYCMラボが、再編集版のネガフィルムとカット部分の35ミリプリントを繋ぎ合わせた完全版を1998年に制作。これまでは、そこから起こしたHDマスターがDVD用に使用されてきた。もしかすると、日本盤ブルーレイの本編素材もそうなのかもしれない。一方、ワーナーはブルーレイ化に当たって、自社で新しいHDマスターを作成。'98年版で使用したものよりも、さらに状態の良い35ミリプリントを探し出して再編集版のネガフィルムと繋ぎ合わせ、2K解像度でレストア作業を行ったという。なので、日本盤ブルーレイの画質が全体的に白みがかっているのに対し、米ワーナー版はモノクロのコントラストがハッキリ。とてもシャープな高画質に仕上がっている。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕英語/地域コード:ALL/時間:87分/発売元:Warner Home Video
特典:オリジナル劇場予告編(2種類)
by nakachan1045
| 2020-12-13 07:37
| 映画
|
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