なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「怪人マブゼ博士・姿なき恐怖」 Die unschtvaren Krallen des Dr. Mabuse (1962)
製作:アルトゥール・ブラウナー
原案:アルトゥール・ブラウナー
脚本:ラディスラウス・フェドール
撮影:エルンスト・W・カリンケ
特撮:カール=ルドウィグ・ルッペル
音楽:ペーター・サンドロフ
出演:レックス・バーカー
カリン・ドール
ジーグフリード・ロウィッツ
ルドルフ・フェルノー
ウォルフガング・プライス
ウェルナー・ペータース
クルド・ピエリッツ
ワルター・ブルーム
アラン・ディジョン
西ドイツ・フランス・イタリア合作/89分/モノクロ作品
ベルリンのメトロポール歌劇場。透明人間を目撃したFBI捜査官ニック・プラドー(アラン・ディジョン)は、その後を追跡したところピエロの率いる犯罪集団に捕えられて殺される。犯罪集団のボスは死んだはずのドクトル・マブゼ(ウォルフガング・プライス)だ。衣装ケースに隠されたプラド―の死体は、運送会社のトラックで港へと運ばれるものの、そこで不審に思った作業員によって発見される。
その頃、ワシントンからドイツへFBI捜査官ジョー・コモ(レックス・バーカー)が到着する。死んだプラドーは「オペレーションX」という謎の犯罪計画を調べていたのだが、その首謀者である犯罪組織のボスがドクトル・マブゼを彷彿とさせるため、諜報機関のブラーム警部(ジーグフリード・ロウィッツ)はマブゼと対峙した経験のあるコモを呼び寄せたのだ。プラドーの身元確認のため遺体安置所を訪れたコモは、そこで出会ったメトロポール劇場の踊り子リアーヌ(カリン・ドール)に関心を持つ。彼女は姿の見えない何者かに常時見張られているような気がして、不安と恐怖に怯えている様子だった。
一方、運送会社の社長ドロステ(ウェルナー・ペータース)が怪しいと睨んだコモだったが、しかしメトロポール歌劇場から荷物を運んだドライバーは爆殺され、マブゼの手下たちを目撃した警備員も車に轢き殺された。捜査に行き詰まったコモだったが、そんな折に「オペレーションX」の詳細が判明する。それはノーベル賞を取った世界的な科学者エラスマス教授(ルドルフ・フェルノー)か開発した、人間を含む全ての物体を透明化する機械だを用いた犯罪企画だった。しかし、教授は事故に遭った直後から人前に姿を現さなくなっていた。彼女の周辺に出没する透明人間がエラスマス教授だと見抜くコモ。教授は秘かにリアーヌを愛していたのだ。やがて、ドクトル・マブゼの一味はリアーヌをおとりにして、ラスマス教授をおびき寄せようとする…。
<作品レビュー>
ドイツ映画の巨匠フリッツ・ラングが生み出した犯罪映画『ドクトル・マブゼ』シリーズの第5弾である。監督は前作『怪人マブゼ博士』('60)に引き続いてハラルド・ラインルが担当。フィルムノワール的なクリミ映画(ドイツ産犯罪映画)をベースにしつつも、すぐそこに迫る'60年代スパイ映画ブームを一足早く先駆けたような、ユニークなガジェットや秘密基地などが満載の007映画的クライム・スリラーに仕上がっている。
オープニングはベルリン市内に今も実在するメトロポール劇場。印象的なアールヌーヴォー様式の建物と洗練されたロゴデザインを見て「あっ!」と思う人も少なくないだろう。そう、ランベルト・バーヴァ監督のホラー映画『デモンズ』('85)の舞台ともなった場所なのだ。『デモンズ』では映画館として外観だけ使用されたメトロポール劇場だが、もともとは1905年に演劇ホールとしてオープンし、その後幾度となく映画館や歌劇場などに衣替えしてきたという。本作においては歌劇場という設定になっているが、しかし'60年代当時の営業形態は映画館だったらしいので、恐らく『デモンズ』と同じように外観だけ使用('80年代当時はナイトクラブだった)して、内部は撮影用のセットをスタジオに組んだのかもしれない。いずれにせよ、『デモンズ』と同じメトロポール劇場の登場は映画マニアにとって嬉しいサプライズだ。
閑話休題。メトロポール劇場でオペレッタを鑑賞していた若い男性が、ふと近くのボックスシートに目をやると、誰もいないはずの席でオペラグラスが宙に浮いている。目に見えない何者かがそこにいるのだ。やがて、オペラグラスを置いてボックスシートを出ていく透明人間。その後を急いで追いかける男性だったが、しかし舞台裏に迷い込んだところを不気味なピエロの率いる怪しげな集団に取り囲まれ、呆気なく殺されてしまう。そして、一味は男性の遺体を衣装ケースに入れ、運送会社のトラックで港へと搬送。そのまま貨物船でオーストリアへ送られる手はずだったが、しかし不審に思った港の警備員が衣装ケースを開けたところ、中から男性の遺体が発見されて大騒ぎとなる。
殺された若い男性の身元はFBI捜査官ニック・プラドー(アラン・ディジョン)。彼は「オペレーションX」と呼ばれる犯罪計画の謎を追っていた。それが一体どういうものなのかは一切不明だったが、しかし首謀者と思われる巨大犯罪組織のボスは死んだドクトル・マブゼを彷彿とさせる。そこで、地元警察のブラーム警部(ジーグフリード・ロウィッツ)は、過去にマブゼと対峙したことのあるFBI捜査官ジョー・コモ(レックス・バーカー)をワシントンからベルリンへ呼び寄せる。到着早々、差出人不明の脅迫状を受け取ったコモは、事件の背後にドクトル・マブゼ(ウォルフガング・プライス)の存在があると確信するが、しかしブラーム警部は懐疑的だった。
プラドーの身元確認のために訪れた遺体安置所で、謎めいた美女リアーヌ(カリン・ドール)と知り合い強い関心を抱くコモ。メトロポール劇場の花形ダンサーであるリアーヌは、何か深刻な悩みを隠している様子だった。実は、このところ彼女の身辺では奇妙な出来事が相次ぎ、目に見えない何者かに監視されているという恐怖に苛まれていたのだ。常に誰かの気配に怯えているリアーヌだったが、しかし透明人間などという荒唐無稽な話を信じてもらえるとは思えず、そのため誰にも相談できないでいた。実際、彼女から初めて打ち明けられたコモも、思わず一笑に付してしまう。
一方、謎めいた中年紳士ドロステ(ウェルナー・ペータース)が経営する運送会社を怪しいと睨んだコモだったが、しかしメトロポール劇場に出入りしている運転手がトラックごと爆殺され、さらにプラドーの遺体を運び出す現場を目撃していた劇場警備員も車で轢き殺されてしまった。これで手掛かりは潰えたかと思われた矢先、「オペレーションX」の詳細が判明する。それは人間を含むあらゆる物体を透明化する画期的な装置を用いた犯罪計画だった。謎の犯罪組織はその装置を手に入れようと暗躍していたのである。
しかし、装置の開発者であるノーベル賞科学者エラスマス教授(ルドルフ・フェルノー)は、交通事故で瀕死の重傷を負ってからというもの、研究所のラボに籠りっきりで助手のワルドルフ博士(クルド・ピエリッツ)すら何カ月も姿を見ていないという。リアーヌの身辺を脅かす透明人間の正体がエラスマス教授だと見抜くコモ。実は、教授は以前からリアーヌに片想いしていたのだ。そうと知ったドクトル・マブゼ率いる犯罪組織は、誘拐したリアーヌをおとりにエラスマス教授をおびき出し、透明化装置を奪おうと画策するのだったが…?
今度は華やかな歌劇場の舞台裏を根城にしたドクトル・マブゼ一味が、天才科学者の開発した物質透明化装置を悪用して世界征服を企む…というわけだが、まあ、その天才科学者が実は歌劇場の美しい踊り子に恋していたり、なぜか死体安置所に踊り子が現れてFBI捜査官と偶然知り合ったりなどなど、点と点を線で繋いでいくための伏線が少々強引過ぎて、なにかと辻褄の合わない点が多いことは否めないだろう。なんというか、むやみに話をややこしくしたおかげでまとまりがつかなくなったという印象。脚本の出来はあまりよろしくない。
その一方で、眼科クリニックの地下室に隠された秘密基地みたいな捜査本部や、歌劇場の雑多な舞台裏の仕組みを利用したマブゼ一味の隠れ家などのスパイ映画的なシチュエーションはワクワクするし、視覚のトリックを用いて人間を透明化するハイテク装置のガジェット感も面白い。古式ゆかしいアナログな特撮を駆使した透明人間の描写なんかも、今の若い世代の目にどう映るのかは定かでないものの、この手の古き良きB級エンターテインメント映画をテレビの深夜放送などで見慣れた昭和世代には懐かしく感じられるだろう。前作と同様、ドイツ表現主義映画的な様式美を取り入れたハラルド・ラインル監督のノワーリッシュな演出も悪くない。
主役は前作に引き続いてFBI捜査官ジョー・コモ役を演じるレックス・バーカーだが、しかしゲルト・フレーベ演じる気のいいオッサン刑事がいなくなったのは寂しい。確かにレックス・バーカーは男前だしヒーロー役が似合うのだけれど、やはり一枚看板を貼るには存在感が薄いのだよね。恐らく、ハリウッドで大成できなかった理由はそこらへんにあるのだろう。その代わりと言ってはなんだけれど、当時クリミ映画のヒロインとして引っ張りだこだった女優カリン・ドールが、その目の醒めるような美しさで映画全体を牽引していく。見るからに不気味なピエロ役を怪演するウェルナー・ペータースもインパクト抜群!マブゼ役のウォルフガング・プライスに次いでシリーズ最多出演を誇る人だが、実に芸達者なところを見せてくれる。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※『怪人マブゼの挑戦』『怪人マブゼ博士・殺人光線』との3本立て
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:なし/時間:89分/発売元:Retromedia
by nakachan1045
| 2021-03-18 08:07
| 映画
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