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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ミリイ」 Millie (1931)

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監督:ジョン・フランシス・ディロン
製作:チャールズ・R・ロジャース
原作:ドナルド・ヘンダーソン・クラーク
脚本:チャールズ・ケニヨン
台詞:チャールズ・ケニヨン
   ラルフ・マーフィ(ラルフ・モーガン)
撮影:アーネスト・ホーラー
音楽:ナシオ・ハーブ・ブラウン
出演:ヘレン・トゥエルヴツリーズ
   リリアン・タシュマン
   ロバート・エイムズ
   ジェームズ・ホール
   ジョン・ハリデイ
   ジョーン・ブロンデル
   アニタ・ルイーズ
   エドマンド・ブリーズ
   フランク・マクヒュー
   シャーロット・ウォーカー
アメリカ映画/84分/モノクロ作品




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今ではほぼ忘れかけられた'30年代のトップスター、ヘレン・トゥエルヴツリーズ。本作はその数少ない代表作のひとつである。トーキーの到来と共に舞台から映画へと転身し、'32年にキャサリン・ヘプバーンがデビューするまでRKOを代表する看板女優のひとりに数えられたトゥエルヴツリーズ。「12本の木」というのはなんとも風変わりな名前だが、これは19歳で結婚した最初の旦那の名字だったそうだ。淀川長治先生曰く「記憶に残るようなものは一本もないね。あんまり強烈な役はなかった」とのことだが、そもそも日本へ輸入された作品が非常に少なく、アメリカでも今やDVDなどで見ることが出来る映画は限られている。それゆえいまひとつ全体像を掴みづらい女優なのだが、当時の彼女が十八番にしていたという「女性の受難」を演じた本作を見ると、なるほど全盛期の彼女がアメリカの大衆から愛された理由が分かるように思う。
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ヒロインは明朗快活で世間知らずな女性ミリー(ヘレン・トゥエルヴツリーズ)。女子大生だった彼女はニューヨークの大富豪の御曹司ジャック・メイトランド(ジェームズ・ホール)から熱烈にプロポーズされ、この人なら私を幸せにしてくれるに違いないと考えて結婚してしまう。それから3年後。ジャックとの間に一人娘コニーをもうけたミリーだったが、しかし夫は仕事を口実にほとんど家へ帰ってこなくなり、彼女は寂しい思いを募らせていた。
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そんなある日、大学時代の友達アンジー(ジョーン・ブロンデル)とその同居人ヘレン(リリアン・タシュマン)と人気のレストランで待ち合わせしたミリー。金欠でアパートの家賃も払えなかったアンジーたちは、大富豪夫人のミリーに金銭をたかろうと考えていたのだ。ところが、そこへ若い女性を連れた夫ジャックが現れる。仕事を口実に浮気をしていたのだ。この一件で深く傷ついたミリーは離婚を決意。女性としてのプライドから多額の慰謝料も受け取らなかった。自分を裏切った男の金で生活したくなかったからだ。ただ、自分の選択で可愛い娘コニーにまで苦労はさせられない。そこで彼女は、良き理解者であるメイトランド家の元義母にコニーを預けて育てて貰うことにする。
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かくして、独身のキャリアウーマンとして人生を再出発することにしたミリー。アンジーやヘレンともすっかり意気投合するようになる。ホテルのキオスクで販売員として働き始めたのだが、娘がいるとは思えないほど若くて美しいミリーに男性客たちは老いも若きも色めき立ち、次から次へとアプローチを仕掛けてくる。そんな彼らを上手いことあしらって煙に巻くミリーだったが、中年の裕福な銀行家ジミー(ジョン・ハリデイ)はなかなかのツワモノ。一度狙ったら逃がさないとばかりにしつこく言い寄って来る。そんなミリーが唯一心を許す相手が気さくな新聞記者トミー(ロバート・エイムズ)。結婚を前提に付き合おうとするトミーだったが、しかし一度結婚に失敗したミリーは二度と同じ過ちを繰り返すつもりはなかった。もう裏切られて傷つくのはこりごりだったからだ。
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やがて、その真面目な仕事ぶりが認められたミリーは、ホテル物販部の責任者へと昇格することに。彼女の口利きでジミーの銀行に転職したトミーも出世を約束され、ミリーは彼だったら信じてもいいかもしれないと思い始める。そんなある日、アンジーやヘレンとレストランへ繰り出すことにしたミリーはトミーも誘うのだが、あいにく仕事が忙しくて来られないという。ところが、その時間にトミーは別の女性のアパートで密会していた。またもや愛する男に裏切られたミリーは自暴自棄となり、アンジーやヘレンと遊び歩くようになる。そんな彼女に再び言い寄るジミー。ミリーの心の隙に付け入るチャンスだと考えたのだろう。しかし、彼の下心などお見通しのミリーは、いくら寂しくったってその手に乗ったりなどしない。今ではすっかりアンジー以上の親友になったヘレンと、男なんてクソくらえだわ!と酔いつぶれるまで飲み明かすのだった。
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それから8年の月日が経ち、もはや恋愛やパーティとは無縁の静かな生活を送るミリー。一人娘コニー(アニタ・ルイーズ)も16歳となった。娘の誕生日会に参加したミリーは、そこで聞き捨てならぬ噂を耳にする。あの色ボケ男の銀行家ジミーがメイトランド家に頻繁に出入りしており、コニーにいたくご執心だというのだ。事実、ジミーは母親ミリーとよく似た美女へ成長したコニーを秘かに狙っていた。女の直感でそのことに気付いたミリーは、これ以上娘に近づかないようにとジミーに警告する。なにしろコニーはまだ世間知らずの未成年。一方のジミーは狡賢い初老のスケベオヤジだ。何をされるか分かったもんじゃない。だが、性懲りのないジミーはコニーを学校へ送り届けると偽り、自分が所有する人里離れたコッテージへと連れて行く。まさかそんな年上の男性が自分のことを性的な目で見ているなど想像もしないコニー。心配した運転手からの通報で事実を知ったミリーは、大急ぎでジミーのコッテージへと駆けつけ、娘を守らんとするがあまりジミーを拳銃で射殺してしまう…。
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言うなれば、ルース・チャタートン主演のメロドラマ『マダムX』('29)に代表される「母親もの」のバリエーション。犯罪を犯した母親が我が子の名誉を守るために裁判で真実を隠して犠牲になろうとする…という終盤におけるミリーの母性愛はまさに『マダムX』の主人公ジャクリーンそのものだが、しかし心の弱さから不倫の罪を犯して娼婦へと身を落としてしまうジャクリーンとは違って、こちらのミリーは不誠実な男たちに傷つけられながらも自らの尊厳を守るために戦っていく誇り高い女性だ。愛する夫や恋人の身勝手に毅然とした態度で立ち向かう彼女は、本心では人生の伴侶に巡り合えたらと願いつつも、女性を性の対象としてしか見ない浅はかな男性たちに失望し、こうなったら男の力に頼ることなく自立して生きようと奮闘する。現代でも通用するようなヒロイン像がとても魅力的だ。必ずしもフェミニズムを高らかに謳いあげた作品というわけではないが、しかし男尊女卑的な社会に対する批判精神が物語の根底にあることは間違いないだろう。
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そんな主人公ミリー役のヘレン・トゥエルヴツリーズ。いかにも華奢で小柄で繊細で頼りなさげな女性ミリーが、精いっぱい片意地を張って人生を切り拓こうとする姿を生き生きと演じて実に愛おしい。やはり彼女の最大の武器は憂いのある寂しげな瞳だろう。さながら竹久夢二の美人画に描かれる女性のようなアンニュイさ。どことなくあどけなさを残す可愛らしい喋り方も魅力的だ。そんな彼女が次々と男たちから粗末にされ傷つけられてしまう。観客が思わず感情移入しても無理はあるまい。彼女にはどうか幸せになって欲しい、笑顔になって欲しい、そう願わずにはいられないような何かを持ち合わせているのだ。ある意味、リリアン・ギッシュやシルヴィア・シドニーみたいなタイプの女優と言えるかもしれない。
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また、ミリーの良き相談相手で心置きなく愚痴を吐きあえる仲の女性コンビ、アンジーとヘレンの存在も見逃せない。というか、この2人どうもレズビアンという設定っぽいのだよね。いつでもどこでも連れ立って出かけるルームメイトの2人は、ショッピングや旅行や食事はもちろんのこと、なんとベッドの中まで一緒。男なんてなんぼのものよ、あたしたち女同士の方が断然楽しいんだから!と言わんばかりにハイヒールで颯爽と闊歩していく。ちょっと天然ボケ気味だけど明るくて優しいアンジーに、気風の良い性格で切れ味鋭い毒舌を機関銃のようにまくしたてるヘレン。キャラクターのバランスも絶妙だ。
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そんなアンジーとヘレンを演じるのは、翌年のワーナー・ミュージカル『ゴールド・ディガーズ』('33)でトップスターに躍り出る名コメディエンヌのジョーン・ブロンデルと、ハスキーボイスと小股の切れ上がった個性で姐御肌の女性役を得意としたリリアン・タシュマン。この2人がいなければ本作の面白さも半減していたかもしれない。さらに、その後お姫様女優として売れっ子スターになるアニタ・ルイーズがミリーの娘コニー役で登場。もともと子役出身である彼女は当時まだ16歳だった。
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評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※DVD-BOX「Pre-Code Hollywood: The Risque Years #1」収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:84分/時間:Roan Group Archival Entertainment
特典:なし



by nakachan1045 | 2021-04-13 16:04 | 映画 | Comments(0)

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