なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「大怪獣ヨンガリ」 大怪獸 용가리 (1967)

脚本:キム・ギドク
ソ・ユンソン
撮影:ピョン・インジ
特撮:中川健一
着ぐるみ製作:八木正夫
音楽:チョン・チョングン
出演:オ・ヨンイル
ナム・ジョンイム
イ・スンジェ
カン・ムニョン
イ・グァンホ
チョ・ギョンミン
韓国・日本合作/80分/カラー作品


舞台はもちろん韓国。中東で核実験が行われる可能性が浮上し、新婚ホヤホヤの宇宙飛行士グァンナム(イ・スンジェ)がロケットに乗って宇宙から偵察することになる。新妻ユリ(カン・ムニョン)も見守る中、グァンナムの乗った宇宙ロケット7-X号の打ち上げは成功。確かに予測通り中東で核実験は行われたのだが、その直後に7-X号からの通信が途絶えてしまう。心配して宇宙センターに駆けつけたユリの妹スンア(ナム・ジョンイム)と幼い弟イチョ(イ・グァンホ)、スンアの恋人で有能な若手科学者コ・イル(オ・ヨンイル)。やがて7-X号との通信は復活し、不可解な事実が判明する。核実験の影響で地震が発生したばかりか、その震源が猛スピードで地底を移動(!)しているというのだ。しかも、その行き先は朝鮮半島だった。

その後、グァンナムは無事に地球へと帰還。急きょ韓国政府は地震対策本部を設置するものの、しかし地震の震源が移動するという前代未聞の現象に誰もが戸惑い、一般市民への警戒発令は後回しにされてしまう。そうこうしているうちに、謎の物体は黄海道(ファンヘド)へと到達。大きな地震の揺れと共に地中から姿を現したのは伝説の巨大怪獣ヨンガリだった。さらに、ヨンガリは板門店からソウル近郊へと接近。政府はすぐさま戒厳令を施行するものの、逃げ惑うソウル市民は大混乱に陥ってしまう。

いよいよ怪獣ヨンガリはソウル市内へ。イルは科学者として自分の目でヨンガリを確かめようと中心部へ向かうのだが、一緒についていった好奇心旺盛なわんぱく小僧イチョがパニックの渦中でひとりだけはぐれてしまう。物陰に隠れながらヨンガリの行動を観察していたイチョは、ヨンガリが石油貯蔵所でタンクのオイルを飲み干す様子を目撃。怪獣は燃料を食料としていたのである。ところが、とあるタンクを間違って破壊したヨンガリは、その物質に触れた途端、全身が痒くなって苦しみ始める。すぐさま自宅へ戻ってイルにそのことを報告したイチョ。どうやらヨンガリがアレルギー反応を起こしたのはアンモニアのようだった。

一方、政府は破壊行為を続けるヨンガリに対してミサイル攻撃を計画する。しかし、それではかえって石油やガソリンなどの燃料を食料とするヨンガリにエネルギー源を与えることになってしまう。すぐさま対策本部へ駆け込んだイルは、ひとまずヨンガリをソウルの市街地からよそへと誘導することを提案。その間にアンモニアの沈殿物を用いた特殊な薬品を開発し、それを空から散布してヨンガリを退治しようというのだ。果たして、彼の目論見通りに怪獣ヨンガリを倒すことは出来るのだろうか…!?

怖いというよりも、どことなくお茶目なルックスのヨンガリ。デザインは韓国側から出されたそうだが、しかし実際のスーツ製作はエキスプロダクションの八木正夫氏が手掛けたためか、顔つきはガメラとかギャオスとかによく似ている。しかも、アンモニアのアレルギー反応で「痒い!痒いよー!」と体を搔きむしったり、ロックンロール風にアレンジされた「アリラン」をBGMにノリノリでゴーゴーダンスを踊ったりと、なんだかとってもチャーミング!「ヨンガリはお腹がすいて食べ物を探しているだけなのに、殺しちゃうなんて可哀想だよ」というイチョ少年の気持ちはよーく分かる。この子供目線の純朴さもまた『ガメラ』シリーズっぽい。とはいえ、腹をすかせた巨大怪獣のせいで何千何万という罪なき市民が殺されちゃかなわないので、心を鬼にして倒さにゃならんわけなのだけれどね。そんな一抹のほろ苦さをたたえた結末もまたおつなものである。

韓国へ招待された大映の特撮スタッフが、経験のない現地スタッフを指導しながら完成させたという特撮シーンもなかなか健闘している。まあ、合成されたミニチュアと人間のサイズ比がおかしかったり、崖から墜落する自動車がもろにミニカーだったりと、思わず突っ込まずにはいられないトホホな場面もないではないのだけれど(笑)。まあ、それも味みたいなもんですよ。そういえば、ヨンガリがソウルに迫っている!みんな逃げなあかん!と街中がパニックに陥る中、ヤケクソになったオジサンたちが食堂でドカ食いしたり、同じくヤケクソになった若者たちがゴーゴークラブで踊りまくったりするシーンも、ああ、なんか『復活の日』とかでも同じような場面あったわよね、恐怖のあまり頭が真っ白になって思考停止してしまう人間心理って万国共通なのかもしれんね、なんて妙に感慨深くなったり(笑)。

感慨深いといえば、劇中に出てくる当時の韓国の景色や風俗文化もやけにノスタルジーを掻き立てられる。なんというか、チマチョゴリを着ている女性たちを除けば、あとは懐かしき昭和30年代辺りの日本を彷彿とさせるような光景が盛りだくさん。まあ、世代的に筆者はその時代を当時の映画や記録映像でしか知らないんだけれど、それでもやたらと親近感が湧くわけですよ。それに加えて、今でも十分に通用しそうな爽やかイケメン俳優オ・ヨンイルに、一昔前のK-POPアイドルみたいなコケティッシュ美女ナム・ジョンイムなど、主演スターたちも日本の日活や東宝の青春映画なんかに出ていてもおかしくないような感じ。そうそう、今や大御所ベテラン俳優となったイ・スンジェの若かりし姿を拝めるのもちょっとしたサプライズかもしれない。

一方、日本のゴジラが「核の脅威」のメタファーであり、世界唯一の被爆国として核廃絶への願いが作品に込められていたように、板門店から南下してくるヨンガリが「共産主義の脅威」のメタファーであることは明白だろう。そして、破壊神ヨンガリとの戦いに朝鮮戦争の悲劇を投影し、怪獣をはなから倒すべき敵として見做す大人たちとは対照的に、同じ地球上の生物としてヨンガリに理解と同情を示すイチョ少年の優しさに朝鮮半島の未来への希望が託されているようにも感じられる。

ちなみに、韓国映画として初めてアメリカでも配給されたという本作。配給元のアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズが英語版を制作し、'70年代に全米各地のローカルテレビ局で頻繁に放送されていたそうだ。ところが、当時まだ韓国映画界は国外へ作品を輸出した経験があまりなかったため、製作元の極東フィルムは勝手の分らぬまま映画のオリジナル・ネガフィルムを送り出してしまったという。恐らく、上映用プリントも繰り返し再生しているうちに劣化して破棄されてしまったのだろう。そのためオリジナルの韓国語バージョンは失われてしまったものと考えられ、現存するフィルムは英語吹替バージョンのみとなっている。なお、その他大勢のAIP配給作品と同様、現在はMGMが『大怪獣ヨンガリ』英語バージョンの著作権を保有しており、同社のクレジットがないDVD商品は全て海賊版と見做して間違いない。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※現在はMGMからライセンス許諾を受けたKino Lorber社によるBlu-Rayも発売済み
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono・2.0ch Dolby Digital Stereo/言語:英語・スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/時間:80分/発売元:MGM/20th Century Fox
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-04-19 02:52
| 映画
|
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