なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「シャーロック・ホームズ」 Sherlock Holmes (1922)

製作:F・J・ゴッドソル
原作:アーサー・コナン・ドイル
戯曲:ウィリアム・ジレット
脚色:アール・ブラウン
マリオン・フェアファックス
撮影:J・ロイ・ハント
美術:チャールズ・L・キャッドウォーラダー
出演:ジョン・バリモア
キャロル・デンプスター
ヘッダ・ホッパー
ペギー・ベイフィールド
マーガレット・ケンプ
ローランド・ヤング
グスタフ・フォン・セイファーティッツ
アンダース・ランドルフ
ウィリアム・H・パウエル(ウィリアム・パウエル)
ロバート・シャブル
レジナルド・デニー
ペリー・ナイト
アメリカ映画/136分/モノクロ・サイレント作品


物語の始まりはケンブリッジ大学。教授が保管していたアスリート基金の現金が盗まれ、学生である欧州某国のアレクシス王子(レジナルド・デニー)に犯人の疑いがかけられる。もしも逮捕されたら王室の名誉が汚されるばかりか、国際問題にまで発展してしまうと危惧したアレクシス王子は、寮のルームメイトである医学生ワトソン(ローランド・ヤング)に相談。そこでワトソンは、頭脳明晰と学内でも評判の同学年シャーロック・ホームズ(ジョン・バリモア)に犯人探しを頼もうと思いつく。その頃、下宿先でのんびりと過ごしていたホームズは、たまたま転んで怪我をしたところを介抱してくれた女性アリス・フォークナー(キャロル・デンプスター)に一目惚れをする。

ワトソンからアレクシス王子の件を相談され、犯人探しに協力することとなったホームズ。すると、すぐに怪しい人物の存在が浮上する。同じケンブリッジの学生ウェルズ(ウィリアム・パウエル)だ。夜中に学生寮をうろついて何かを探しているウェルズが、アレクシス王子の部屋で見つかったカフスボタンの持ち主だと見抜いたホームズは、逃げようとしたウェルズを捕まえて問い詰めたところ、自らが盗難事件の犯人であることを白状する。

実は、ウェルズの父親はロンドンの下町を根城にする犯罪王モリアーティ教授(グスタフ・フォン・セイファーティッツ)の手下だったのだが、その父親が亡くなったためにウェルズはモリアーティ教授から後を継ぐよう強制され、上流階級の人々との繋がりを作るためケンブリッジ大学へ送り込まれたのだった。しかし、ウェルズ自身は犯罪の世界を嫌悪していたことから、モリアーティ教授の組織から逃げようと考え、その資金にするため盗みを働いたのである。アレクシス王子に濡れ衣を着せたのは、外国の王族なら逮捕を免れるだろうと思ったからだ。しかし、アレクシスは3番目の王子で王位継承権がないため、外国王室の特権が通用しなかった。

こうして真相を突き止めたホームズは、巨大な地下組織を率いる犯罪王モリアーティ教授に強い関心を示す。そして、ウェルズの身代わりにモリアーティと直接面会した彼は、「モリアーティ一味の犯罪を阻止すること」を人生最大の使命にしようと決意する。一方、アレクシス王子は2人の兄が交通事故で死亡したとの電報を受け、急きょ母国へと戻ることになる。王位継承者となったため、もはや盗難事件の犯人探しも不要だった。さらに、彼にはローズ(ペギー・ベイフィールド)という一般人の婚約者がいたものの、この件で婚約は破棄されることに。実は、ローズはホームズが一目惚れしたアリスの姉だった。その後、国王となったアレクシスは隣国の姫君と成婚し、傷心のローズは滞在先のスイスで投身自殺を遂げてしまう。

それから数年後、ロンドンのベイカー街221Bに居を構えたホームズは、スコットランド・ヤードの捜査に協力をして数々の難事件を解決する名探偵となっていた。同居人であるワトソン博士は結婚したばかりだが、ホームズは姉ローズの死後に消息を絶ったアリスのことをいまだ忘れられずにいた。その頃、モリアーティ教授もまたアリスの行方を捜していた。というのも、アレクシス国王がローズに宛てたラブレターを手に入れて某国王室を脅迫しようと考えたのである。蜘蛛の巣のように張り巡らされた組織網を駆使し、貧しい生活を送るアリスの居場所を突き止めたモリアーティ教授は、手下のララビー(アンダース・ランドルフ)とその妻マッジ(ヘッダ・ホッパー)をオーストラリア人の実業家に仕立て、彼らの元でアリスを秘書として雇うことに成功。彼女が保管している手紙を奪う機会を虎視眈々と狙っていた。

一方、自分の書いた手紙が脅迫のネタに使われようとしていると知ったアレクシス国王は、今やその名声を欧州各国にも轟かせるホームズのもとを訪れて捜査を依頼する。結果的にローズを自殺へ追い込んだアレクシス国王を責め、最初はその依頼をきっぱりと断るホームズ。だが、モリアーティ教授の魔手がアリスに迫っていると知り、一転して引き受けることにする。まずは敵の内情を探るべく、執事に仕立てたウェルズをララビー夫妻の屋敷へと送り込んだホームズは、屋敷に住み込みで働くアリスを救い出し、モリアーティ教授の陰謀を阻止すべく動き出すのだったが…!?

原作はアーサー・コナン・ドイルの小説シリーズではなく、1899年にブロードウェイで初演されたウィリアム・ジレットの舞台劇版。もともとアメリカの大物演劇興行師チャールズ・フローマンがコナン・ドイルに持ちかけた企画で、実際にコナン・ドイル自身が戯曲も書き上げていたのだが、しかし出来上がった台本が舞台で上演するには不向きだったことから、ホームズ役に決まっていた人気舞台俳優ウィリアム・ジレットが丸ごと書き直したらしい。この舞台劇版は'16年にもジレット自身の主演で映画化されているのだが、本作ではアメリカ映画界における女性脚本家の草分けマリオン・フェアファックスとブロードウェイの劇作家アール・ブラウンが脚色を担当。その結果、小説版「シャーロック・ホームズ」シリーズとはだいぶ異なった趣きの、さながら犯罪メロドラマとも呼ぶべき作品となっている。

一応、主だったストーリーはコナン・ドイルの「ボヘミアの醜聞」や「最後の事件」「緋色の研究」を下敷きにしているものの、しかし全体を見渡すと小説版からかなりかけ離れた自由な脚色および解釈が施されている。だいたい、女性嫌いで有名なホームズが親切にしてくれた通りすがりの美女に一目惚れするってどういうこと!?という感じだし、小説版では出身校不詳のホームズとロンドン大学出身のワトソンがケンブリッジ大学の学友だったりするし。「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーン・アドラーをモデルにしたという女性アリス・フォークナーも、ホームズを出し抜く悪女のイメージからは程遠い清楚な悲劇のヒロインとして描かれている。こうした改変は原作者コナン・ドイル自身のお墨付きを得ていたそうだが、しかし果たしてシャーロキアン的にはオッケーなのだろうか?

ただ、本作の一番の問題は恐らくセリフに頼り過ぎていることだろう。それゆえにアクションが少なく、反対に字幕カードが頻繁に出てくる上に、その文字量がかなり多い。実は本作、もともと劇場初公開時は2時間10分を超える大作で、しかし現存するフィルムを元に再構築された修復版は85分しかないため、実質的に50分以上のフィルムが行方不明になっている。なので、もしかするとアクションシーンはもっと多かったのかもしれないが、しかし当時のマスコミ・レビューを呼んでも字幕の多さが批判の対象になっているため、恐らくそれほどの大差はなかったのだろう。やはり、サイレント映画でセリフに頼り過ぎるのはキツイ。ぶっちゃけ飽きてしまう。ゆえに、当時の映画の多くは字幕カードを最小限に抑えるような演出・脚本・芝居の工夫がされ、それゆえに原作物はだいぶディテールが端折られたりするわけだが、しかしそれは観客を飽きさせないために必要な措置だったわけだ。

そんなわけで、映画としては残念ながら面白いとは言えず、今となっては歴史資料的な価値しかないように思える本作だが、しかしホームズ役を演じているジョン・バリモアは文句なしに素晴らしい。ひと目で、あ、この人、シャーロック・ホームズだ!と納得できるくらいホームズのイメージにピッタリだし、なによりクールでスマートでハンサムでカッコいい。100年前のアメリカ女性たちがバリモアに熱狂したのもごもっとも。しかも、彼が演じると恋に悩めるホームズがシェイクスピア悲劇のヒーローにも見えてくるのだから面白い。ただし、どうも棚ぼた的に謎を解明したり危機を切り抜けたりする場面が多く、ろくに推理をしていうように見えないところはどうかとも思うけれど(笑)。まあ、これは脚本の問題ですな。

ヒロインのアリス・フォークナーを演じているのは、リリアン・ギッシュに続く巨匠D・W・グリフィスのミューズだったキャロル・デンプスター。グリフィス作品以外への出演はたったの2本しかないのだが、本作はそのうちのひとつである。また、後に大スターとなるローランド・ヤングとウィリアム・パウエルが本作で映画デビューを飾っているのも要注目。どちらもえらく若いのが新鮮だが、特にパウエルは我々がよく知る彼よりもだいぶ垢抜けない印象で、ああ、この人は年齢を重ねるごとに良くなっていくタイプの俳優だったんだなということがよく分かる。ちなみに、当時まだ無名だったパウエルを本作に推薦したのがバリモアで、そのことをパウエルは後々まで感謝していたらしい。また、悪女マッジ役を演じているのはヘッダ・ホッパー。そう、その後ハリウッドの情け容赦ないゴシップ・コラムニストとして大勢の映画人に恐れられ、『市民ケーン』のボイコット・キャンペーンやハリウッドの赤狩りを扇動するなどの銭ゲバ極右保守オバサンとして悪名を馳せる、あのヘッダ・ホッパーである。

そうそう、あと本作で忘れてならないのは、物語の舞台となるイギリスで撮影されていることだろう。製作会社はまだ合併してハリウッド最大のスタジオMGMとなる以前の中堅ゴールドウィン・ピクチャーズ。恐らくスタジオに大掛かりなロンドンのセットを組むだけの予算がなかったため、実際に現地へ行って撮影した方が安上がりだったのかもしれない。屋内シーンはニューヨークで撮影されたそうだが、しかし屋外のロケ・シーンは空撮を含めて本物のロンドンおよびケンブリッジ。さらに、僅かではあるもののスイスのシーンも実際にスイスで撮影されたようだ。100年近く前のトラファルガー広場周辺やピカデリー・サーカス周辺が今とあまり変わらないのは、そうと知っていてもちょっと感動する。

評価(5点満点):★★☆☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital(伴奏)/言語:英語(字幕カード)/地域コード:ALL/時間:85分/発売元:Kino International
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-05-01 14:25
| 映画
|
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