なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ギャラクシーナ」 Galaxina (1980)
製作:マリリン・J・テンサー
脚本:ウィリアム・サックス
撮影:ディーン・カンディ
特殊メイク:クリストファー・J・ウェイラス
特殊効果監督:ジョージ・バーント
特殊効果監修:チャック・コールウェル
出演:スティーブン・マクト
ドロシー・ストラットン
アヴェリー・シュレイヴァー
ジェームズ・デヴィッド・ヒントン
ライオネル・マーク・スミス
タッド・ホリノ
ロナルド・ナイト
アメリカ映画/95分/カラー作品
物語の舞台は宇宙旅行が当たり前となった3008年。知的生命体の住む惑星同士の交流も活発となり、やがて銀河連邦政府が樹立される。政府は銀河系の治安を維持するため宇宙警察を発足し、パトロール用の宇宙船を各エリアへ派遣することに。そのひとつが、宇宙警察艇308番インフィニティ号である。乗組員は船長のコーネリアス・バット(アヴェリー・シュレイヴァー)に第一航海士のソー巡査(スティーブン・マクト)、宇宙カウボーイのバズ(ジェームズ・デヴィッド・ヒントン)、エイリアンの整備士モーリス(ライオネル・マーク・スミス)、なにかと格言ばかりつぶやく中国人の老人サム(タッド・ホリノ)、そしてセクシーでグラマラスな人型アンドロイドのギャラクシーナ(ドロシー・ストラットン)の6名である。彼らは某惑星王家の宝石を食べてしまったお尋ね者エイリアン、ロック・イーターを捕えて帰路に就くところだった。
そんなある日、インフィニティ号は正体不明の怪しげな宇宙船を発見して追跡する。パイロットはモードリック星のオードリック(ロナルド・ナイト)と名乗るものの、航海の目的も行き先も一切明かそうとはせず、そればかりかインフィニティ号に攻撃を仕掛けてくる。ギャラクシーナの機転もあって、なんとか攻撃をかわしたソー巡査やバズたちだったが、しかしオードリックには逃げられてしまった。その晩、いつものように夕食のテーブルを囲むバット船長とソー巡査、バズの3名。ギャラクシーナがウェイトレス役を務める。とはいえ、毎度おなじみの錠剤型ディナーに3人とも飽きている様子。すると、バズが奇妙な卵をポケットから取り出す。ロック・イーターがどこかで拾ったものらしい。話に聞くと、昔はみんな卵を食べたそうだ。好奇心に駆られたバット船長は、ソー巡査やバズの止めるのも聞かずに卵を割って食べてしまう。その場で苦しみだすバット船長。暴れる船長をソー巡査たちが取り押さえようとしたところ、彼の口から不気味なエイリアンの赤ちゃんが飛び出し、猛スピードでどこかへと消え去る。
その後、本部からの指令でインフィニティ号は監獄惑星アルテアー・ワンへ向かうことに。無限のパワーを持つ原石ブルー・ストーンが盗まれ、その犯人がアルテアー・ワンへと逃げたらしいのだ。目的地まで27年の歳月がかかるため、長旅の前に売春宿で羽目を外したクルーたちは、帰艦後に低温マシンで睡眠期間へ入ることに。その間、宇宙船の操縦を任されたギャラクシーナは、自らの機能をアップデートして言葉を喋れるようになった。やがてインフィニティ号はアルテアー・ワンへと到着。そこは、まるで西部開拓時代を彷彿とさせる無法地帯だった。ブルー・ストーンを奪還するため単独で乗り込んでいくギャラクシーナ。そんな彼女をオードリックが待ち受ける。銀河系の支配を目論む彼もまた、ブルー・ストーンを手に入れようと狙っていたのだ…!
ということで、『スター・ウォーズ』よろしく下から上へとテロップが流れていくオープニングをはじめ、『スター・トレック』や『エイリアン』といった有名なSF映画のパロディを寄せ集めた作品。登場人物の誰かが「ブルー・ストーン」と声に出すたび、どこかからか聖歌隊風のコーラスが鳴り響いてみんながキョロキョロするというギャグは『ヤング・フランケンシュタイン』が元ネタだろう。また、監獄惑星アルテアー・ワンでギャラクシーナとオードリックが対決するシーンの、顔や手や足のクロースアップと遠景ショットを交互に切り替える演出は、明らかに『荒野の用心棒』を筆頭とするセルジオ・レオーネ監督へのオマージュである。かつて、下積み時代にイタリアで音響編集の仕事をしていたウィリアム・サックス監督は、その当時使っていたマカロニ・ウエスタン用のサウンド・エフェクト素材を本作でも使いまわしたのだそうだ。
そのほか、メル・ブルックス風のコッテコテにベタでおバカなアメリカン・ジョークが盛りだくさん。そういえば、監獄惑星アルテアー・ワンでは、テレビ『バットマン』で使用されたオリジナルのバットモービルが登場するのも要注目。なぜか馬に乗ったヘルズ・エンジェルス風バイカー野郎たちが、絶対神「ハーレイ・ダヴィッド・ソン」を崇拝するカルト集団ってのも笑えるし、エイリアン専用の「人間レストラン」って何のことかと思ったら、出される料理の食材が人間だったってオチも嫌いじゃない。まあ、確かに下らないっちゃ下らないし、明らかにスベっているネタも少なくないものの、暇つぶしで見るには十分楽しめることだろう。
日本ではSFホラーの怪作『溶解人間』('77)で知られるウィリアム・サックス監督だが、実はもともとコメディ畑の人。よくよく考えてみると、『溶解人間』だってノリとしては'50年代SFホラーのパロディに近かった。ただし、監督によると本来はSFではなく、西部劇のパロディ映画を作るつもりだったという。西部劇要素が目立つのはその名残りなのかもしれない。パラマウント・スタジオの西部劇用セットを安く借りたというサックス監督だが、しかし当時は既に西部劇映画が廃れてしまって久しく、使い古されたセットもろくにメンテナンスされないままボロボロの状態。ならばいっそのこと、今流行りのSF映画をパロディにしちゃえ!ということで生まれたのが本作だったというわけだ。
特殊メイクには『スキャナーズ』や『グレムリン』、『ザ・フライ』などで有名になる大御所クリス・ウェイラスが、フルネームのクリストファー・J・ウェイラス名義で参加。バット船長の口から飛び出したエイリアンのデザインが、どことなく『ザ・フライ』のハエ男に似ているのはご愛敬だ。ユニークな形をした宇宙船インフィニティ号は、スーパーで買い物中に見かけたアーティチョークをヒントにサックス監督自身がデザインしたのだとか。特殊視覚効果には『スター・ウォーズ』シリーズのアニメーター、クリス・キャサディも名を連ねている。まあ、『スター・ウォーズ』や『エイリアン』などに比べるとショボい仕上がりだが、しかし弱小インディペンデント会社クラウン・インターナショナルの作品ということを考えれば大健闘。これをクズだカスだという映画マニアは、まだまだ修行が足りないとしか言いようがありませんな(笑)。ただ、監獄惑星アルテアー・ワンのシーンだけ赤外線撮影されているのは、試みとしては面白いかもしれないが、しかしちょっと見づらく感じることも否めない。
主人公であるギャラクシーナを演じたドロシー・ストラットンは、人気プレイメイトというネームバリューで選ばれたと思いきや、実はちゃんとオーディションを勝ち残ったのだという。アンドロイドという設定もあって顔も体も完璧な美女を探していたサックス監督は、数か月のオーディションを経てカルヴァン・クラインの広告でも有名なトップモデルのパティ・ハンセンと、テレビ『アメリカン・ヒーロー』でブレイクする前の女優コニー・セレッカの2人に候補を絞ったものの、どちらも決定打に欠けるため迷っていたという。そんな折、オーディション会場に現れたのがドロシー・ストラットン。ハイヒールを履くと身長180センチを超えるドロシーは、会場にいたスタッフ全員が息を呑んで静まり返るほどのオーラだったそうで、サックス監督もその場で即決したそうだ。なので、ギャラクシーナ役にドロシーが選ばれたのは幸運な偶然であって、本編に彼女のヌード・シーンがないのは、そもそも最初からそういう類の映画ではなかったから。ドロシー自身も女優業では裸を売りにするつもりはなかったようだ。
とはいえ、彼女をギャラクシーナ役に起用したことで、サックス監督は厄介な問題も抱え込んでしまう。そう、ドロシーの嫉妬深くて支配欲の強いヒモ夫リック・スナイダーである。当時、既にドロシーとの結婚生活は破綻状態で彼女に避けられていたスナイダーは、連日のように撮影現場へ乗り込んできては彼女を見張り、スタッフと揉め事になることも少なくなかったという。「あれほど邪悪で薄気味の悪い人間は見たことがない」というサックス監督だが、そのたびにドロシーが凍り付いて芝居どころじゃなくなってしまい、たびたび撮影の中断を余儀なくされたという。しかし、スケジュールが延びれば予算がオーバーしてしまう。そのため、やむなく脚本からカットせざるを得なかったシーンもあったそうだ。さらに、ドロシーは当時付き合い始めていたピーター・ボグダノヴィッチ監督からも本作を降板するよう迫られていたらしい。というのも、ボグダノヴィッチ監督としては次に撮影する自作『ニューヨークの恋人たち』('81)をドロシーの「ハリウッド・デビュー作」にしたかったため、それ前に彼女の主演映画が公開されるのは都合が悪かったのだ。実際、その後もボグダノヴィッチ監督は映画界でドロシーを最初に発掘したのは自分だと主張し続けている。
クレジット上の主演はロバート・アルドリッチ監督の『クワイヤボーイズ』('77)や『吸血こうもり/ナイトウィング』('78)などで頭角を現しつつあったスティーブン・マクト。今や、日本でもリメイクされた人気ドラマ『SUITS/スーツ』('11~'19)の主演俳優ガブリエル・マクトの父親と言った方が分かりやすいかもしれない。「お尻」という名前のバット船長役には、お笑いコンビ「バーンズ&シュレイヴァー」の片割れとしてアメリカのお茶の間に親しまれた有名な喜劇俳優アヴェリー・シュレイヴァー。本作ではアドリブ連発のハチャメチャな演技で笑わせてくれる。エイリアンのモーリス役を演じているライオネル・マーク・スミスはシカゴの舞台俳優で、同郷のデヴィッド・マメット監督やスチュアート・ゴードン監督の映画の常連俳優だった。また、中国人の老人サム役のタッド・ホリノは、本名をタダシ・ホリノという日系人俳優。ちなみに、「人間レストラン」でビュッフェ・テーブルに並べられた死体の生首として顔を出しているのは、製作元クラウン・インターナショナルの創業社長令嬢で本作のプロデューサーでもあるマリリン・J・テンサーなんだとか。サックス監督曰く、「ノリが良くて楽しい女性だった」そうだ。
日本でもアメリカでも様々なバージョンでソフト発売されている本作だが、今のところベストと呼べるのは'05年にアメリカのBCI Eclipse社からリリースされた25周年記念版DVD。本編は84分のアメリカ公開バージョンだが、ちゃんとオリジナル・アスペクト比のシネスコサイズで収録されているし、95分のインターナショナル・バージョンで追加されたシーンも特典映像として入っている。5.1chサラウンドにリミックスされた音声トラックもまずまずの迫力。ゲップまでサラウンドで立体的に鳴り響く(笑)。また、ウィリアム・サックス監督とスティーブン・マクトの音声解説や、'00年前後に録音されたと思しきサックス監督の音声インタビューも、知られざる舞台裏エピソードが盛りだくさんで楽しい。DVD-ROMデータとしてオリジナル脚本と撮影用脚本や、公開当時の雑誌記事などを読めるのもファンには嬉しいポイントだ。
なお、本作の撮影終了後もドロシー・ストラットンとリック・スナイダーの関係は悪化し、ボグダノヴィッチ監督と同棲するようになったドロシーは夫に離婚を切り出す事態に。このままでは棄てられてしまう、金づるを失ってしまうと危惧したのだろうか。『ニューヨークの恋人たち』の撮影を終えたドロシーを、離婚協議のために別居中の自宅へと呼び出したスナイダーは、彼女をショットガンで撃ち殺したうえに自殺。『ギャラクシーナ』の劇場公開から約2か月後の、1980年8月14日のことだった。
評価(5点満点):★★☆☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※25周年記念特別版
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:5.1ch Dolby Digital Surround・5.1ch DTS Surround/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:84分/発売元:BCI Eclipse Company/Crown International Pictures
特典:ウィリアム・サックス監督とスティーブン・マクトによる音声解説/ウィリアム・サックス監督の音声インタビュー(約58分)/インターナショナル版追加シーン集(約12分)/劇中コマーシャル映像オリジナル集(約4分)/ドロシー・ストラットン・ギャラリー/映画スチル・ギャラリー/撮影舞台裏ギャラリー/ポスター・ギャラリー/脚本データ(オリジナル版&撮影用・DVD-ROM)/雑誌「スターログ」&「ファンゴリア」の関連記事データ(DVD-ROM)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-05-02 08:03
| 映画
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