なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「侵略者」 Attila (1954)

製作:ディノ・デ・ラウレンティス
カルロ・ポンティ
脚本:エンニオ・デ・コンチーニ
プリモ・ゼリオ
撮影:アルド・トンティ
音楽:エンツォ・マゼッティ
出演:アンソニー・クイン
ソフィア・ローレン
アンリ・ヴィダル
イレーネ・パパス
エドゥアルド・チアネッリ
クロード・レデュ
コレット・レジー
エットーレ・マンニ
クリスチャン・マルカン
グイド・チェラーノ
カルロ・ヒンテルマン
ジョルジュ・ブレハ
マリオ・フェリチアーニ
イタリア・フランス合作/80分/カラー作品


そうした中、ジュゼッペ・デ・サンティス監督の『にがい米』('49)やフェデリコ・フェリーニ監督の『道』('54)などで頭角を現していたプロデューサー・コンビ、ディノ・デ・ラウレンティスとカルロ・ポンティは、本格的な世界市場への進出を目論んでハリウッドと合作の史劇映画『ユリシーズ』('54)を手掛ける。この成功に手応えを感じた彼らは、ハリウッドの力を借りずとも自分たちだけで世界に通用する映画を作れるのではないか、ハリウッドの有名俳優を使えばアメリカの配給会社が買ってくれるんじゃないかと考え、ちょうど『ユリシーズ』に出演したばかりのアンソニー・クインを主演に据えた独自のスペクタクル史劇を企画する。それがこの『侵略者』だったというわけだ。

しかし、野心的なプロデューサー陣の目論見とは裏腹に、アメリカでの配給先はなかなか決まらなかった。やはり、当時のアメリカで知名度のあるスターがアンソニー・クインひとりだけというのが弱みだったのだろう。ところが、ヒロインを演じたソフィア・ローレンが『島の女』('57)で華々しくハリウッド・デビューを飾り、たちまちセックス・シンボルとしてセンセーションを巻き起こしたことから、ようやく'58年にアメリカの独立系配給会社エンバシー・ピクチャーズが本作を全米公開することとなる。その際に同社の社長ジョセフ・E・レヴィンが編み出した配給戦略が注目され、その後アメリカの映画業界でポピュラーな手法となった。

これは、配給会社側の融通がきく全米各地の2番館劇場を期間限定で安くブッキングし、浮いた予算を宣伝費に回してテレビやラジオのCM、新聞や雑誌の広告を集中的に大量投下することで、短期間で効率的に収益をあげるという手法。その結果、『侵略者』はたったの10日間で200万ドルの興行収入を稼ぎ出し、これに感心したワーナー・ブラザーズはレヴィンと組んで、同じくピエトロ・フランチージが監督したイタリア産スペクタクル史劇『ヘラクレス』('58)を買い付けることに。これがまた同じ戦略で破格の470万ドルを売り上げたことから、アメリカ中の配給会社がイタリアのスペクタクル史劇映画を次々と輸入するようになったのである。

時は西暦450年。ヨーロッパ大陸では、ヴォルガ川を越えてアジアから来襲した遊牧民フン族が、ゲルマン民族を支配して巨大な帝国を築いていた。東西ローマ帝国とは和平協定を結んでいたものの、依然としてフン族による小規模な略奪行為は続いている。そんなある日、西ローマ帝国の全軍司令官である名将アエティウス(アンリ・ヴィダル)が、皇帝ワレンティニアヌス三世(クロード・レデュ)の書簡を携えてフン族を訪れたところ、ルーア王は既に2ヶ月ほど前に他界しており、その甥っ子であるアッティラ(アンソニー・クイン)とブレダ(エットーレ・マンニ)の兄弟が後継者となっていた。

民衆のためにも和平協定の継続を望む兄ブレダに対し、前王の悲願だった世界征服の野望を沸々と燃やしている弟アッティラ。腹心オネゲシウス(エドゥアルド・チアネッリ)の助言もあり、東西ローマ帝国に強硬姿勢で臨もうとするアッティラは、自由意思でキリスト教徒に改宗したフン族の人質たちの返還をアエティウスに要求する。さもなくば和平協定を破棄すると。彼はあえて理不尽な要求をすることで、戦闘開始の口実を探っていたのだ。少年時代をフン族の人質として育ち、アッティラとは親友とも呼ぶべき仲のアエティウスは説得を試みるものの、しかし戦うことこそがフン族の宿命と考えているアッティラは頑なだった。

西ローマ帝国の首都ラヴェンナへ戻ったアエティウスを待っていたのは、派手な酒盛りにうつつを抜かす皇帝ワレンティニアヌス三世だった。母親である皇后ガッラ・プラキディア(コレット・レジー)に甘やかされて育った皇帝は無能なうえに我がままで子供じみており、政治の実権を握る皇后も息子を溺愛するあまり正常な判断が出来ないでいた。おかげで西ローマ帝国の権威は失墜して崩壊寸前だったが、彼らはそんな現実から目を背けるように享楽的な毎日を送っていたのだ。アッティラからの要求に憤慨したワレンティニアヌス三世は、我が帝国にフン族と戦うだけの余力はもう残されていないと説得するアエティウスに逆切れし、彼を軍司令官から解任し逮捕してしまう。

そんなアエティウスに接近したのが、ワレンティニアヌス三世の姉ホノリア(ソフィア・ローレン)。愚かな弟や母親に愛想を尽かしていた野心家の彼女は、秘かにクーデターを目論んでおり、人望の厚いアエティウスを味方に付けようと考えたのだ。しかし、軍人として国家とその民衆に忠誠を誓うアエティウスは申し出を拒否。そこでホノリアはアッティラに自らの指輪と書簡を送り、同盟を組もうと持ち掛ける。皇女である自分と結婚すれば、西ローマ帝国の皇位継承権が発生する。その暁に現皇帝と母親を亡き者にして国を奪おうというのだ。その頃、対立する兄ブレダを殺害して単独で王位に就いたアッティラは、ホノリアとの結婚は災いを招くと警告する愛人の巫女グルーネ(イレーネ・パパス)の反対を無視し、これを口実に西ローマ帝国へ攻め入る準備を進める。そうと知った皇后ガッラはアエティウスを復権させ、可愛い我が子の命を守るためにもフン族を撃退して欲しいと涙ながらに頭を下げる。かくして、戦いの火ぶたは切って落とされるのだったが…?

ということで、基本的には史実を元にしたフィクション。登場人物の大半は実在した歴史上の人物だし、アエティウスがアッティラと親しかったのも、ワレンティニアヌス三世が西ローマ帝国の崩壊を招いた愚帝だったことも、ホノリアがアッティラに指輪と書簡を送って謀反を企てたのも本当だが、しかしフン族のルーア王が亡くなったのはだいぶ前のことだし、劇中で描かれるアエティウスやガッラ・プラキディアの最期は史実と全く異なる。そもそも戦争の勝敗結果がまるで逆。まあ、物語の半分くらいはデタラメと考えて差し支えないだろう。愛憎と裏切りのドラマを軸としつつ反戦と平和を訴えるストーリーは予定調和が多く、最終的にローマ法王の説くキリスト教の人類愛が蛮族に打ち勝つという唐突なクライマックスも呆気にとられるが、豪華な美術セットや大勢のエキストラを動員したスペクタクルな見せ場の連続は飽きさせず、80分弱のコンパクトな尺に収めたスピード感も悪くない。『ベン・ハー』や『スパルタカス』などとは比べるべくもないが、しかし大衆娯楽映画として見れば良心的な出来栄えだ。

メキシコ人の血を引くエキゾチックな顔立ちとワイルドで男臭い個性を持つアンソニー・クインは、中央アジアからやって来た蛮族のリーダー、アッティラ役にはまさしくうってつけ。当時のハリウッド俳優でこの役を演じられるのは、恐らくジャック・パランスかアンソニー・クインの2人以外にはいなかっただろう。己の野心のために弟や母親を平気で裏切る悪女ホノリアを演じるソフィア・ローレンもはまり役。当時はまだデビューして4年目だったが、既に30本近くの出演作があったこともあってか、20歳になったばかりとは思えないほどの堂々たる貫録と存在感だ。巨匠ルネ・クレマンの名作『海の牙』('46)でも知られるアンリ・ヴィダルは、巨匠アレッサンドロ・ブラゼッティによる戦後初のイタリア産史劇映画『ファビオラ』('49)に主演していた。

さらに、アッティラの3人の息子の母親である巫女グルーネには、当時まだ24歳だったギリシャの大女優イレーネ・パパス。彼女はちょうどこの頃、マーロン・ブランドと知り合って激しい恋に落ちる。ヒステリックなマザコン男のワレンティニアヌス三世を演じるクロード・レデュは、ロベール・ブレッソンの初期傑作『田舎司祭の日記』('50)では主人公の繊細な若き田舎司祭だった。アッティラと対立する平和主義者の兄ブレダ役のエットーレ・マンニは、これを機にイタリア産スペクタクル史劇のスターとなり、さらにマカロニ西部劇の悪役としても活躍するようになるタフガイ俳優だが、本作の当時はまだスレンダーで若い!また、当時まだ駆け出しだったクリスチャン・マルカンが、フン族の部族長のひとりとして顔を出している。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※DVD-BOX「Sophia Loren 4^Film Collection」収録
カラー/スタンダードサイズ(1.37:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:イタリア語/字幕:英語/地域コード:1/時間:79分/発売元:Lionsgate/Studiocanal
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-05-12 07:21
| 映画
|
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