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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「早熟」 Inga (1968)

「早熟」 Inga  (1968)_f0367483_11545978.jpg
監督:ジョセフ・W・サルノ
製作:ドナルド・デニス
脚本:ジョセフ・W・サルノ
撮影:ブルース・スパークス
音楽:クレイ・ピッツ
出演:マリー・リシュダール
   モニカ・ストレムマルステット
   トマス・ウンゲヴィッター
   カステン・ラッセン
   エルセ=マリー・ブラント
   シシー・カイザー
スウェーデン・アメリカ合作/81分/モノクロ作品




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かつてフリーセックス大国とも呼ばれた北欧スウェーデン。'60年代後半から'70年代にかけて、保守的で封建的な古い性の概念からの解放を提唱する「性革命」が世界中で吹き荒れたわけだが、その中でも特に進歩的な国がスウェーデンだった。男性も女性も平等、ゆえに女性だって男性と同じようにセックスを楽しんで構わない。そもそもセックスは決して恥ずべき行為ではないのだから、変に隠し立てする必要だってなし。そんな性に対するオープンな考え方は映画にも影響し、アカデミー外国語映画賞候補になった『歓び』('64)をはじめとするスウェーデン映画の大胆な性描写は各国で物議を醸す。中でも、ヴィルゴット・シェーマン監督の『私は好奇心の強い女』('67)は世界中でセンセーションを巻き起こし、これを機にマック・アールバーグ監督の『私はおんな』('67)や『ファニー・ヒル』('68)、トーグニー・ウィックマン監督の『醜聞』('68)に『アブノーマルSEX/異常なる性生活』('71)、そして一連のクリスチナ・リンドバーグ主演作などのスウェーデン産ソフトポルノが大量生産される。本作もその中のひとつだ。
「早熟」 Inga  (1968)_f0367483_04490871.jpg
ただしこの映画、厳密に言うと純然たるスウェーデン映画ではない。確かにロケ地はスウェーデンだし出演者も全員スウェーデン人だが、しかし実際はアメリカ人の監督がアメリカ資本で撮った作品だったのだ。監督は'60年代初頭からニューヨークのアングラシーンで成人向け映画を撮っていたジョセフ・W・サルノ。その傍らでスウェーデンに関するドキュメンタリー映画に携わっていた彼は、そこで培った人脈や経験を活かしてアメリカ資本のスウェーデン産ソフトポルノを撮ることになったのである。恐らくトレンドに乗って一発当てようという目論見はあったはずだ。実際、本作は英語吹替版が場末のグラインドハウス映画館で上映される一方、英語字幕付きのスウェーデン語版は『私は好奇心の強い女』と同じように、ヨーロッパの芸術映画としてアートハウス系映画館で封切られている。
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舞台はストックホルム近郊の小さな町。何年も前に夫と死別した裕福な未亡人グレタ(モニカ・ストレムマルステット)は、作家志望の恋人カール(カステン・ラッセン)と毎晩のように若者向けのパーティで遊び狂っているものの、実はもうすく34歳になってしまう。本人は精いっぱいの若作りで年齢を誤魔化していたが、しかし周囲の仲間たちは薄々気づいていた。まだ21歳のハンサムなカールは若い女性たちからモテモテ。そんな彼をなんとか繋ぎとめておくため、グレタはアパートの家賃を払ったり、高級スポーツカーを買い与えるなどして貢いでいたのだが、実はそろそろ銀行の預金残高が心もとなくなってきていた。そんな折、すっかり分不相応の贅沢が身に付いてしまったカールが、今度は自家用ボートを欲しいと言い出す。
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いよいよ経済的な窮地に陥ってしまったグレタ。唯一頼れそうなのが、彼女に言い寄って来る亡き夫の親友エイナル(トマス・ウンゲヴィッター)だ。出版社を経営する裕福なエイナルは既婚者なのだが、病弱な妻ヒルダは入院してばかりで夫婦生活などないに等しく、そのため金銭で割り切れる関係の愛人女性を求めていた。家政婦フリーダ(エルセ=マリー・ブラント)にも後押しされ、エイナルからのデートの誘いに乗って一夜を共にするグレタ。しかし、彼の気取った上流階級の友達とはそりが合わないし、なによりカールのことを考えると気がとがめる。踏ん切りがつかずに悩んでいたグレタだったが、そこへ思いがけない解決策が転がり込む。
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実は、数か月前にグレタの姉が亡くなっており、17歳になる姪っ子インガ(マリー・リシュダール)を彼女が引き取ることになっていた。本ばかり読んでいる真面目で控えめなインガは、グレタの目から見れば地味で目立たない女の子だったが、しかしどうやら男性の目には魅力的な少女と映るようだ。しかも、クラシック音楽鑑賞が好きというのだから、エイナルやその友達とも趣味が合うはず。そこでグレタは、金銭と引き換えにインガをエイナルの愛人としてあてがうことを思いつく。何も知らないインガを言葉巧みに誘導し、エイナルと親しくなるよう仕向けていくグレタ。一見したところ上手く行っているように思えたのだが、しかし実はインガが恋に落ちたのはエイナルではなくカールだった…。
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ということで、年下のヒモ男に貢ぐため女衒の真似事をしようとした女性が、反対に手痛いしっぺ返しを食らってしまうというお話。全体的な雰囲気はイングマール・ベルイマン風のアート映画といった印象で、事実サルノ監督は本作を機に「セックス映画界のベルイマン」などと呼ばれるようになったそうなのだが、しかし心理描写はわりと大雑把で唐突な展開も多く、正直なところソープオペラの域を出るものではない。セックス描写も今見ると意外に大人しめだ。なるほど、みんなが見ている前で男性経験のない女の子の処女を奪うパーティ・シーンや、インガがカールのことを想像しながらオナニーするシーンなどは、当時の観客(特にアメリカの)にとってショッキングだったであろうことは想像に難くないものの、とはいえスクリーン上では肝心な部分をしっかりと隠しており、あくまでも具体的な描写は観客の想像に委ねられている。劇場公開時にアメリカでは成人指定を受けたそうだが、少なくとも性描写に関しては今なら問題なくR指定で通るだろう。
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むしろ、当時よりも今の方が物議を醸すであろう要素は、本作のインガ役を演じて映画デビューを飾った主演女優マリー・リシュダールである。というのも、実際に撮影時まだ17歳の未成年だった彼女が、劇中では一糸まとわぬヌードを披露するばかりか、先述したようなオナニー・シーンや濡れ場にも挑戦しているからだ。まあ、オナニーは基本的に顔しか見えないようにカメラ・アングルが工夫されているし、濡れ場にしてもムード重視のソフトな仕上がりではあるものの、やはり17歳の少女に演じさせるというのは今なら問題視されることだろう。とはいえ、天使のように清らかで可憐なマリー・リシュダールはとても魅力的。本作で一躍新世代のセックス・シンボルとなった彼女は、ジェス・フランコ監督がマルキ・ド・サドの世界を描いた『悪徳の快楽』('69)やオスカー・ワイルド原作の『ドリアン・グレイ/美しき肖像』('70)などに出演するも、ますます性表現や暴力描写が過激になる一方の映画界に違和感を抱いたこともあって、デビューからたったの3年で潔く女優業を引退してしまった。
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また、劇中に登場する当時のトレンド・カルチャーやストックホルムの美しい街並みなどもお洒落!'60年代好きにはたまらない。映画としては時代に色褪せてしまった平凡な作品だが、しかし世界中で若者文化が花開いた'60年代末の新鮮な空気を詰め込んだタイムカプセルとして一見の価値は十分にある。ちなみに、本作の出資者として共同製作を手掛けたのがキャノン・フィルム。そう、'80年代にチャック・ノリスの戦争アクション映画やショー・コスギのニンジャ映画などで一時代を築く、あのキャノン・フィルムである。'79年にメナハム・ゴーランとヨーラム・グローバスに買収されることとなるキャノン・フィルムだが、当時はまだ創立2年目の独立系プロダクションで、彼らにとって本作は初めてのヒット作となった。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※3枚組BOX「Joe Sarno's Inga Collection」収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語・スウェーデン語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:81分/発売元:Retro Seduction Cinema
特典:ジョセフ・W・サルノ監督と夫人ペギー・ステファンス・サルノの音声解説/マリー・リシュダールの音声インタビュー('01年収録・約9分)/オリジナル劇場予告編集/アウトテイク集(約9分)



by nakachan1045 | 2021-05-13 04:52 | 映画 | Comments(0)

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