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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「92 in the Shade」 (1975)

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監督:トーマス・マクゲイン
製作:ジョージ・パパス
製作総指揮:エリオット・カストナー
原作:トーマス・マクゲイン
脚本:トーマス・マクゲイン
撮影:マイケル・C・バトラー
音楽:マイケル・J・ルイス
出演:ピーター・フォンダ
   ウォーレン・オーツ
   マーゴット・キダー
   バージェス・メレディス
   ハリー・ディーン・スタントン
   エリザベス・アシュリー
   シルヴィア・マイルズ
   ウィリアム・ヒッキー
   ルイーズ・レイサム
   ジョン・ホファーマン
   ジョー・スピネル
アメリカ映画/91分/カラー作品




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'70年代のアメリカ文壇でヘミングウェイやフォークナーとも比較され、映画『ミズーリ・ブレイク』('76)や『トム・ホーン』('81)などの映画脚本家としても活躍した作家トーマス・マクゲインが、自らの代表作を映画化した唯一の監督作である。残念ながら日本では劇場公開はおろか、テレビ放送もビデオ発売もされた形跡なし。しかし、主演がピーター・フォンダにウォーレン・オーツにマーゴット・キダーと聞けば、思わず食指を動かされる中高年の映画ファンも少なくないだろう。
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舞台はアメリカ南部のフロリダ州キー・ウェスト。久しぶりに実家へ戻ってきた物静かな青年トム・スケルトン(ピーター・フォンダ)は、地元の有力者である弁護士ゴールズボロー(バージェス・メレディス)の孫だったが、定職にも就かず気ままな毎日を過ごしている。普段することといえば、恋人である良家のお嬢様ミランダ(マーゴット・キダー)と釣りや散歩を楽しむことくらい。そんな彼が、ある日突然思い立って観光客向けの釣りボートのガイドを始めようとする。これに難色を示したのが、その釣りボートのガイドとして生計を立てている粗野な中年男ニコラス・ダンス(ウォーレン・オーツ)と仲間のファロン・カーター(ハリー・ディーン・スタントン)。大して客も来ないというのに、素人のお坊ちゃんに仕事を奪われてはたまらないというわけだ。
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そこでニコラスとファロンの2人は、トムを懲らしめるために仲間を総動員して悪質なドッキリを幾つも仕掛ける。しかし、これに普段温厚なトムは憤慨。仕返しとしてニコラスのボートに火をつけて木っ端みじんにしてしまった。仕事道具を失ったニコラスはトムに賠償請求をしようとするが、実は多額の保険金が下りることをトムの祖父が突き止めて請求は取り下げられる。確かに俺たちもちょっとやり過ぎた。少なからず反省したニコラスは、トムがガイドの仕事を諦めることを条件に和解を申し出る。ただし、もし約束を守らなかったら撃ち殺すと。ところが、その直後にトムは祖父から金を借りて、ニコラスやファロンの安物ボートとは比べ物にならない最新型の豪華ボートを特注で作ってしまう…。
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要するに、自由で気ままなヒッピー世代の風来坊とひねくれ者で子供じみたレッドネックの中年オヤジが、釣りボートのガイドという仕事の縄張りを巡って意地の張り合いをするという、本当にただそれだけのお話(笑)。これといってドラマチックな出来事があるわけでもなく、実にのんびりとしたムードの作品に仕上がっている。ヘミングウェイにも愛されたフロリダ半島の島キー・ウェストの古き良きアメリカの風情を残した、しかしそれでいてちょっと寂れたような景色がまたニューシネマ的な味わいを加味する。基本的に会話劇が中心の物語なのだが、抽象的で皮肉を効かせた独特な表現の台詞が多く、何を言わんとしているのかにわかには分かりづらい。筆者の英語力の問題もあるかとは思うが、しかし海外の批評でも同様の感想が少なくないため、やっぱり難解なのだろう。なんというか、小説家ならではの言葉遊びという感じ。なので、本当に理解するためには何度か繰り返し見る必要があるのかもしれない。
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主人公2人の周りを固める登場人物たちがまた風変わりで面白い。いつも苛立っていて喧嘩腰なうえに、言うこととやることが正反対でトムを戸惑わせる祖父ゴールズボロー、なぜかいつも庭先に置いた屋根付きグランドベッドに横たわって皮肉な冗談ばかり飛ばすトムの病弱な父親(ウィリアム・ヒッキー)、家庭菜園が趣味の天然ボケで呑気なトムの母親(ルイーズ・レイサム)、仕事ばかりで構ってくれない夫に不満を持ってなぜかチアリーディングに没頭するファロンの妻ジーニー(エリザベス・アシュリー)などなど、どれもこれもちょっとズレた不思議なキャラクターばかり。それでいて、誰もが満たされぬ夢や人生の後悔などを抱えており、シニカルなユーモアの中にも一抹の哀しみが漂う。そういう意味では、ニューシネマの隠れた傑作『グライド・イン・ブルー』('73)に通じる哀愁があると言えるだろう。
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なので、これはストーリーよりもキャラクターの面白さを堪能する作品。そもそも、「てめえ、今度こそマジでぶっ殺すぞ」と鼻息を荒くしながら、なんだかんだで「まあ、俺も酷いことしちまったし、今回は許したるわ」と決定的な局面を避けようとするニコラスもやたらと憎めないし、反対にいつも笑顔で飄々とした性格ながら、やけに頑固で強情で意地っ張りなトムも何を考えているのかよく分からない。そんな2人の間に立って愚痴をこぼしつつも優柔不断なファロンにもクスリとさせられる。いやはや、実に微笑ましい男たちの小競り合いだ。それだけに、唐突過ぎるバッドエンドなクライマックスには違和感を覚える向きもあるだろう。実は本作のラストには2種類のバージョンがあるらしく、筆者が購入したリマスター版DVDはバッドエンド・バージョンだった。どうやらこちらはマクゲインの原作に忠実なディレクターズ・カットで、当時の劇場公開版の終わり方は全く違ったらしい。是非とも、そのもうひとつのクライマックスも見てみたい。
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もちろん、豪華なキャスト陣も大いに魅力的。ピーター・フォンダは『イージー・ライダー』('70)のワイアット、ウォーレン・オーツは『ガルシアの首』(74)のベニーのイメージから恐らくキャスティングされたのだろう。マーゴット・キダーは色添えの域を出ないような役柄だが、しかし自由奔放で天真爛漫な明るい現代女性を伸び伸びと自然に演じている。ヒッピー風の'70年代ファッションがまたお洒落だ。そうそう、トムの祖父の秘書兼愛人役として、出番は少ないながらも強烈な印象を残すのが『真夜中のカーボーイ』('69)の怪女優シルヴィア・マイルズ。いや~、バージェス・メレディスとシルヴィア・マイルズですよ。この2人のアドリブを交えた濃厚な絡み合いの異様な光景ときたら(笑)。
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なお、本作は劇場公開時に映画よりも撮影舞台裏での騒動がマスコミを賑わせた。当時最初の妻レベッカと離婚協議中だったマクゲイン監督は、本作でジーニー役を演じている女優エリザベス・アシュリーと付き合っていたのだが、なんと撮影中に主演女優マーゴット・キダーとデキてしまったのだ。確かに、エリザベス・アシュリーとマーゴット・キダーは顔立ちが似ているので、恐らくどちらもマクゲインのタイプだったのだろう。でもって、マーゴットの方がエリザベスより若い。結局、撮影終了後に離婚が成立したマクゲイン監督はマーゴットと再婚。実はその一方で、彼の前妻レベッカも本作の主演俳優ピーター・フォンダと付き合っていて、ちょうど同じ時期にこちらも再婚しているのだ。結局、エリザベス・アシュリーだけがひとり割を食ってしまった。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:91分/発売元:Scorpion Releasing
特典:オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2021-07-17 06:12 | 映画 | Comments(0)

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