なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「黒いジャガー/アフリカ作戦」 Shaft in Africa (1973)
製作:ロジャー・ルイス
脚本:スターリング・シリファント
撮影:マルセル・グリニョン
音楽:ジョニー・ペイト
主題歌:フォー・トップス
出演:リチャード・ラウンドツリー
フランク・フィンレイ
ヴォネッタ・マッギー
ネダ・アルネリッチ
デベベ・エシェトゥ
スピロス・フォカス
ジャック・エルラン
ジョー・ジェンキンス
ウィリー・ジョナー
アドルフォ・ラストレッティ
マーン・メイトランド
フランク・マクレー
ジャック・マラン
サイ・グラント
アルド・サンブレル
アメリカ映画/112分/カラー作品
『黒いジャガー』シリーズの第3弾にして最終章。今回はホームグランドであるニューヨークから舞台を移し、遠く離れたアフリカ大陸およびヨーロッパを股にかけたシャフトが、アフリカ人の労働力を搾取する人身売買組織を一網打尽にする。劇中に「俺はジェームズ・ボンドじゃない、どっちかというとサム・スペードだ」というセリフがあるが、しかしノリとしてはまさしくジェームズ・ボンド映画そのもの。それもロジャー・ムーア版ボンドである。いろんな意味で1作目から遠く離れた作品に仕上がっており、もはや『黒いジャガー』シリーズである必要すらないようにも思えるが、これはこれでライトなアクション・エンターテインメントとして十分に面白い。
物語の始まりはニューヨーク。いつものようにランニングを終えて自宅へ帰った私立探偵ジョン・シャフト(リチャード・ラウンドツリー)だったが、待ち構えていた見知らぬアフリカ人たちに襲われ、睡眠薬を塗った吹き矢で意識を失って拉致されてしまう。意識を取り戻したシャフトの前に現れたのは、エチオピアの部族の酋長エミール(サイ・グラント)と政府役人ゴンダー大佐(マーン・メイトランド)。彼らによると、人身売買組織に騙されたアフリカの若者たちがイタリア経由でフランスのパリへと送り込まれ、安い賃金で奴隷のような強制労働を強いられているというのだ。エミールの息子もその犠牲者だった。彼らは高額報酬でシャフトに潜入捜査を依頼する。アフリカ人のふりをしてエチオピアへと乗り込み、組織のボスの正体を暴いて人身売買ルートを壊滅させようというのだ。当初は全く乗り気でなかったシャフトだが、しかし作戦を仕切るエミールの美しい娘アレメ(ヴォネッタ・マッギー)にひと目惚れし、この危険なミッションを引き受けることにする。
一方その頃、パリに住む人身売買組織のボス、アマフィ(フランク・フィンレイ)はシャフトの存在に気付いていた。実はエミールの右腕ワッサ(デベベ・エシェトゥ)はアマフィのスパイだったのだ。ニューヨークから飛行機でエチオピアのアディスアババへ向かったシャフト。行く先々でアマフィの差し向けた刺客が彼に襲いかかるものの、そのたびにゴンダー大佐が手配した味方の工作員に助けられながら敵を始末していく。まんまとアフリカ人労働者の集団に紛れ込み、人身売買ルートを辿って組織の実態を掴もうとするシャフト。業を煮やしたアマフィは、色情狂の愛人ジャザル(ネダ・アルネリッチ)を派遣し、色仕掛けでシャフトを陥れようと画策するのだったが…?
前作までのゴードン・パークスに代わって演出を任されたのは、この翌年に『タワーリング・インフェルノ』('74)を大ヒットさせるジョン・ギラーミン監督。当時のギラーミンと言えば、名作『ブルー・マックス』('66)の大ヒットを皮切りに、『非情の切り札』('68)や『レマゲン鉄橋』('69)などのアクション大作を連発していた時期である。しかも、脚本は『ポセイドン・アドベンチャー』('72)を筆頭とするアーウィン・アレン製作のディザスター映画群でお馴染みのスターリング・シリファント。ギラーミンとは『タワーリング・インフェルノ』でも再びタッグを組む。この顔ぶれにしてこの映画。そりゃあガラリと作風が変わるのも当然であろう。ロケ地も大都会ニューヨークからエチオピアに移っているしね。ビジュアルの雰囲気も全く違う。
ちなみに、現地で募集した貧しいアフリカの若者たちに渡航費用や諸経費などの名目で借金させ、返済が終わるまでタコ詰め状態でアパートの一室に軟禁(しかも法外な部屋代を給料から差し引く)し、朝から晩まで違法に安い賃金で働かせるという劇中における人身売買組織のブラックな手口は、まるで昨今の日本で社会問題になっている外国人技能実習生制度そっくり。脚本家のスターリング・シリファントは、当時の新聞記事で見かけた実際の人身売買事件を参考にして本作の脚本を書いたそうだが、50年前のアフリカ~ヨーロッパ間で行われていたような犯罪行為が、21世紀の日本においては政府のお墨付きで合法的に行われているわけですよ。まさしく糞ヘルJAPAN。まったく、嫌んなっちゃいますな。
閑話休題。ロジャー・ムーア版ジェームズ・ボンド映画よろしく、下世話なセックスとバイオレンスをほど良く散りばめつつ、スケール感のあるダイナミックなスパイ・アクション映画に仕立てたギラーミン監督の演出は、文字通り手堅い職人技といった印象。この手の純然たる大衆娯楽映画で、赤裸々な性描写がふんだんに盛り込まれるというのも'70年代ならではだろう。ミッションの合間に下半身も思う存分満喫するヒーロー、シャフトってのも実に'70年代的なヒーロー像。美女を見ると思わず顔がニヤけてしまうリチャード・ラウンドツリーがなんとも憎めない。フリーセックス万歳。改めて思い返すと、今はハリウッド映画の性描写もだいぶ保守的になったもんである。
そうそう、敵方ボス役がイギリスのフランク・フィンレイ、その愛人役にユーゴスラヴィアのネダ・アルネリッチ、パリ警察の刑事クセット役にフランスのジャック・マランなどなど、国際色豊かなキャストもジェームズ・ボンド映画的。スピロス・フォカスやアドルフォ・ラストレッティ、アルド・サンブレルなどなど、マカロニ・ウエスタンやポリス・アクションなどのイタリア映画でお馴染みの俳優たちも悪役で顔を出している。そういえば、ヒロイン役のヴォネッタ・マッギーもデビュー作はマカロニ・ウエスタン『殺しが静かにやって来る』('68)だったっけ。エチオピアの政府関係者ゴンダー大佐役のマーン・メイトランドは、この翌年にジェームズ・ボンド映画『007 黄金銃を持つ男』('74)にも出演する。
音楽スコアを担当するジョニー・ペイトは、B・B・キングやインプレッションズなどのR&Bアーティストを数多く手掛けた名プロデューサー。ここでは、前作までのアイザック・ヘイズやゴードン・パークスとは一味違った、グルーヴィーでスムースなジャズ・ファンクをたっぷりと堪能させてくれる。また、テーマ曲をモータウンの看板男性ボーカルグループだったフォー・トップスが担当。アイザック・ヘイズが手掛けた1作目のテーマ曲ほどのインパクトはないものの、劇場公開時にビルボードのトップ20に入るスマッシュヒットを記録している。ちなみに、前作よりもさらに予算を増額して作られた本作だが、路線変更によって幅広い観客層の支持を狙ったスタジオの思惑とは裏腹に、興行収入は前作を遥かに下回ることとなってしまい、あわよくば4作目、5作目をと期待されていた『黒いジャガー』シリーズも、残念ながらこれをもって幕を閉じることとなってしまった。
なお、前作同様に日本ではDVDリリースされたきりの本作だが、アメリカでは既にブルーレイで発売されている。BD化に際して新たにインターポジからの2K解像度でのデジタルスキャンとレストアを敢行。前作『黒いジャガー/シャフト旋風』のブルーレイもかなりの高画質だったが、こちらはさらにその上を行くクリスタルクリアな超高画質に仕上がっている。色彩や質感のリアルな鮮やかさは50年近く前の映画とは思えないほど。モノラルの音声トラックも極めて状態が良く、明瞭なうえに厚みがあることから、お手頃なホームシアター・システムでも十分な迫力を感じさせる。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.40:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間112分/発売元:Warner Archives
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-07-18 00:12
| 映画
|
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