なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「続・あの空に太陽が」 The Other Side of the Mountain Part 2 (1978)
製作:エドワード・S・フェルドマン
脚本:ダグラス・デイ・スチュワート
撮影:リック・ウェイト
音楽:リー・ホールドリッジ
出演:マリリン・ハセット
ティモシー・ボトムズ
ナン・マーティン
ベリンダ・J・モンゴメリー
グレッチェン・コーベット
ウィリアム・ブライアント
ジェームズ・A・ボトムズ
ジューン・デイトン
カーティス・クレデル
チャールズ・フランク
アメリカ映画/99分/カラー作品
配給会社ユニバーサルの予想を大きく覆す大成功を収めた『あの空に太陽が」('75)から3年後、その間にアクション・スリラー『パニック・イン・スタジアム』('76)を順調に成功させたラリー・ピアース監督と製作者エドワード・S・フェルドマンが、前作のサプライズヒットよ今一度とばかりに送り出した続編である。今回ももちろん主人公は実在の元スキー選手ジル・キンモント。前作が全米公開された後に結婚していたジルだが、本作ではその夫ジョンとの出会いからゴールインまでが描かれる。
1956年の冬季オリンピックでスキー競技アメリカ代表の有力候補と目されながら、その前年に開催された選手権大会で転落事故を起こし、首から下の神経が麻痺してしまった元スキー選手ジル・キンモント(マリリン・ハセット)。過酷なリハビリと猛烈な勉強を経て、車椅子生活ながら先住民居留区の小学校教師となったジルだったが、しかしそんな彼女を精神的に支えてくれた婚約者ディック・ビュークは自家用飛行機の事故で帰らぬ人となってしまった。それからおよそ20年後、ロサンゼルスで暮らすようになったジルは相変わらず先住民の子供たちの教育に情熱を注ぎ、その功績が高く評価されて世間から尊敬を集めていたが、しかしその一方で今もなお最愛の人を失った心の傷は癒えていない。そればかりか、身の回りの世話をしてくれる母親ジューン(ナン・マーティン)に苦労ばかりかけていることも気がかりだ。表向きは元気で明るく振る舞うジルだったが、しかしいつまでも他人に頼らねば生活できない我が身を内心では情けなく思っていた。
そんなある時、ジルは親友オードラ・ジョー(ベリンダ・J・モンゴメリー)やリンダ(グレッチェン・コーベット)に誘われ、母親を伴って故郷ビショップのキャンプ場で夏休みを過ごすことになる。そこで知り合ったのが、キャンプ場のオーナーでもあるトラック運転手ジョン・ブース(ティモシー・ボトムズ)だった。口下手だが繊細で心優しいジョンに惹かれるジル。1年前に離婚したばかりというジョンもまた、飾らない性格で車椅子生活にもめげない前向きなジルを大切に思うようになる。あなただって、そろそろ幸せを掴んでもいいはずよ、と積極的に応援するオードラ・ジョーとリンダ。しかし、当のジル本人はどうしても躊躇してしまう。
たとえ今は私のことを好きだとしても、いずれ障碍者との生活が負担になって愛想を尽かしてしまうはず。彼のことを愛しているからこそ苦労をかけるのは辛い。なにより、ジルはジョンとの幸せな生活の先に不幸が待っているのではないかと恐れていた。ディックが亡くなってから10年後に元恋人のバディ・ワーナーも事故死し、さらに父親ビル(ウィリアム・ブライアント)もこの世を去った。私の愛した男性はみんな先に死んでしまう。今度だって、きっと何か悪いことが起きるに違いない。恋愛の第一歩を踏み出す勇気を持てないでいたジルだったが、そんな彼女をジョンは2人きりの旅行へ誘う。結婚して共同生活を送ることが出来るのかどうか、一緒に旅をすることで答えが出るのではないかと考えたのだ。ジョンに導かれて各地を巡り、これまでの人生で最も幸福な時間を過ごすジル。彼となら人生を共に歩めるかもしれない。そう確信し始めた矢先、ある思いがけない事件が起きてしまう…。
オリジナル脚本を書いたのは『愛と青春の旅立ち』('82)でオスカー候補になるダグラス・デイ・スチュワート。正直なところ、ストーリーは全体的に地味で弱い。恋人を失ったトラウマと身体的な障害のコンプレックスを抱え、自分には幸せになる権利などないと思い込んでしまったヒロインが、ようやく巡り合った運命の男性による真実の愛で救われるというお話。実話を基にしているので仕方がないとはいえ、ドラマチックな展開の殆どないストーリーは面白みに欠ける。「脚本の出来はまあまあといったところ」というピアース監督は、続編の企画を打診された際に「あれ以上何か語るべきことなどあるのだろうか?」と疑問に思ったそうだが、なるほど確かに余計な続編という印象は拭えないかもしれない。
ただ、誰かの世話にならないと生きていけない身体障碍者の複雑な心情、障碍者が自立するにあたって立ち塞がる様々な現実、バリアフリーという概念のまだ乏しかった当時の米国社会において障碍者へ向けられる様々な偏見など、前作では十分に描き切れなかったテーマが盛り込まれているところは注目に値する。そうした問題を押しつけがましくないように散りばめ、前作同様に爽やかな口当たりのラブストーリーとして仕上げたラリー・ピアース監督の演出も好感が持てる。確かに前作と比べれば見劣りするものの、しかしこれはこれで悪くない。
前作に引き続いてジル・キンモント役を演じるマリリン・ハセットも相変わらずの好演。シャイで不器用で実直なジョン役のティモシー・ボトムズも理想的なキャスティングだ。自分がいなくなっても娘がひとりで生きて行けるよう願いつつ、いざとなると「かわいい子に旅をさせる」ことを躊躇してしまう母親の矛盾した愛情を演じるナン・マーティンも素晴らしい。また、当時テレビ・シリーズ『ロックフォードの事件ファイル』('74~'80)の弁護士ベス役で注目されていたグレッチェン・コーベットが、前作では別の女優が演じていた友人リンダ役で劇場用映画の本格デビューを飾っている。
なお、今のところアメリカでしかブルーレイ化されていない本作。画質は1作目と同じように可もなく不可もなくという印象で、確かに傷も汚れもないクリアな映像ではあるものの、若干の退色が見られるなど全体的に素材フィルムの古さが少なからず感じられる。色調補正やレストアの余地はあったかもしれない。まあ、それもVHSの時代から考えれば贅沢な要求なのだけれど。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※『あの空に太陽が』とのカップリング
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:99分/発売元:Kino Lorber
特典:ラリー・ピアース監督のインタビュー('21年制作・約20分)※両作共通/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-08-09 04:07
| 映画
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