なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「エメラルド大作戦」 Green Ice (1981)
製作:ジャック・ウィーナー
製作総指揮:サー・リュー・グレイド
脚本:エドワード・アンハルト
レイ・ハセット
アンソニー・シモンズ
ロバート・デ・ラウレンティス
撮影:ギルバート・テイラー
メイン・タイトル・デザイン:モーリス・バインダー
音楽:ビル・ワイマン
主題歌:マリア・マルダー
出演:ライアン・オニール
アン・アーチャー
オマー・シャリフ
ドミンゴ・アンブリッツ
ジョン・ラロケット
フィリップ・ストーン
マイケル・シアード
イギリス映画/117分/カラー作品
『ピンク・パンサー2』('75)で念願の映画界初進出を果たしたグレイドは、始めのうちこそ『さらば美しき女よ』('75)や『カサンドラ・クロス』('76)、『戦争のはらわた』('77)などをヒットさせたものの、しかしやがて『オフサイド7』('78)や『リベンジャー』('79)、『スペース・サタン』('80)など、多額の予算をかけて豪華キャストを集めただけの空虚なブロックバスター映画を連発するようになり、中でも当時としては破格の4000万ドルという予算を投入した『レイズ・ザ・タイタニック』('80)は記録的な大赤字を出してしまう。これを機にグレイドは映画の世界から徐々に遠のいていくわけだが、そんな終末期とも呼べる時期に手掛けた映画のひとつが、007シリーズと『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』を合わせたような冒険アクション『エメラルド大作戦』('81)だった。
主人公はアメリカ人の有能な電子工学技師ジョセフ・ワイリー(ライアン・オニール)。その才能を活かした発明品で一獲千金を狙っていたワイリーだが、しかし実験に没頭し過ぎたせいで妻には逃げられ、さらには仕事までクビになってしまった。気分転換にハワイ旅行を計画したものの、なんと土壇場で飛行機に乗り遅れてしまう。とことんツイていない彼は、ならば近場で安上がりなバケーションを楽しもうとメキシコへ行くことに。その途中でヘリコプターの故障で立ち往生していた美女リリアナ・ホルブルック(アン・アーチャー)と出会ったワイリーは、彼女を高級リゾート地ラス・ハダスまで送り届けることとなる。
超高級ホテルの得意客であるリリアナの厚意で、広々としたスイートルームに泊めてもらうこととなったワイリーだったが、しかし貧乏性の彼は気分が落ち着かないからと、プレンティス氏(デルロイ・ホワイト)というビジネスマンのシングルルームと交換してもらう。すると、そこに怪しげな電話がかかってくる。ワイリーをプレンティス氏と勘違いした相手は、ベッドの隣の引き出しにエメラルドのサンプルが入っているという。このホテルでは秘かにエメラルドの違法取引が行われていたのだ。金の匂いを嗅ぎつけたワイリーは山師心がうずき、そのままプレンティス氏のふりをして取引現場の海岸へ向かうことに。ところが、すぐに偽物だと正体がバレて殺されそうになる。そこへボートに乗って救出に現れたのがリリアナ。わけが分からず混乱するワイリーにリリアナが事情を説明する。
実はアメリカのダイヤモンド王の令嬢だったリリアナ。世界最大のエメラルド産地であるコロンビアの独裁政権と繋がり、エメラルド市場を実質的に牛耳っている大富豪アルジェンティ(オマー・シャリフ)と婚約している彼女だが、その裏には行方不明となった妹ケリー(タラ・フェルナー)を探し出すという目的があった。世界中の貧困問題の解決に取り組む左翼活動家だったケリーは、コロンビアの反政府勢力を支援するためエメラルド鉱山へ向かったまま、同行したゲリラたちと一緒に消息を絶ってしまったのだ。コロンビア中のエメラルド鉱山を支配するアルジェンティに接近すれば、ケリーの行方も掴めるのではないかと考えたのである。
そんなリリアナとお互いに惹かれあうようになったワイリーは、2人の関係を怪しむアルジェンティによってコロンビアのボゴタへ招待されることとなる。大量のエメラルドをオフィスビルに保管しているアルジェンティは、自慢のハイテク・セキュリティシステムの検証を専門家であるワイリーに任せることに。その傍らでリリアナの妹探しに力を貸すワイリーだったが、しかしほどなくしてケリーの無残な遺体が発見される。反政府ゲリラは秘かにエメラルドの鉱脈を発見し、それを貧しい人々のために役立てようとしていたのだが、その運搬に協力したケリーは仲間のゲリラたちと一緒に捕まり、アルジェンティの配下にある軍警察によって処刑されていたのだ。地元の貧しい人々と心を通わせるようになったワイリーは、リリアナと共に反政府ゲリラに協力することに。電子工学技師仲間のクロード(ジョン・ラロケット)を呼び寄せた彼は、セキュリティシステムのチェックを口実にアルジェンティのオフィスビルへと忍び込み、大量のエメラルドを奪って反政府ゲリラに送り届けることを画策する…。
とりあえず見た目はかなりゴージャスな作品。メキシコのリゾート地における贅の限りを尽くしたエキゾチックで優美な景色から、当時のハイテク技術を駆使したオフィスビルの近未来的なデザインまで、'80年代らしいリッチで派手なムードがこれでもかと満載である。エメラルドグリーンのネオンに彩られたボゴタの夜景(実際のロケ地はメキシコ)なんかも息を呑むような美しさ。『ニコライとアレクサンドラ』('71)でオスカーに輝くイヴォンヌ・ブレイクがデザインをした、アン・アーチャーが身にまとうハイソなドレスやパンツルックもエレガントだし、それを捉えるカメラもスタイリッシュで洗練されている。さすがはカメラマン出身のアーネスト・デイ監督だけあって、ビジュアリストぶりが遺憾なく発揮されていると言えよう。しかも、撮影監督は『スター・ウォーズ』('77)や『フラッシュ・ゴードン』('80)のギルバート・テイラーですよ。そりゃ見栄えが良いのも当たり前っちゃ当たり前かもしれませんな。
ただし、予定調和の連続で意外性に乏しい脚本は面白みに欠けるし、残念ながらアーネスト・デイの演出にもスリルや緊張感がない。というか、アクション・シーンの編集におけるテンポの悪さと、なぜここでこんな音楽を!?と首を傾げざるを得ない音楽スコアの使い方にも疑問が残る。シリアスとユーモアのバランス感覚もチグハグ。モーリス・バインダーがデザインしたオープニングとエンディングのクレジットシーンを見ると、当時のロジャー・ムーア版ボンド映画的な軽妙洒脱さを目指していることは一目瞭然なのだが、しかし肝心の本編を見る限りでは路線がいまひとつ定まっていない。もともと本作はドキュメンタリー出身のアンソニー・シモンズ(脚本に名前が残っている)が監督に起用されたものの、製作会社との意見の違いから撮影途中で降板してしまい、第二班監督だったアーネスト・デイが後を引き継いだという経緯があった。その辺も全体のまとまりのなさに影響しているのかもしれない。ちなみに、デイ監督は『007は二度死ぬ』('67)のカメラオペレーターで、なおかつ『007/黄金銃を持った男』('74)から『007/ムーンレイカー』('80)までのボンド映画の第2班監督だった。
とまあ、そんな感じでなんとも中途半端なアクション・エンターテインメントではあるのだが、しかし先述したような'80年代的ゴージャス感は妙に心地良いし、軽薄だけれどチャーミングで憎めないライアン・オニールと美しさの絶頂期だったアン・アーチャーの顔合わせも魅力的。オマー・シャリフもリッチでパワフルな南米の悪徳実業家役にはうってつけだ。ローリング・ストーンズのビル・ワイマンが手掛けた音楽スコアも、セルジオ・メンデスかハーブ・アルパートかといった感じの、トロピカルなラテン・ムードを漂わせて悪くない。個人的にどうしても嫌いになれない映画ではある。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Stereo/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:117分/発売元:Scorpion Releasing/ITV Studios
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-08-11 00:27
| 映画
|
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