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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「心の青空」 No Man Of Her Own (1932)

「心の青空」 No Man Of Her Own  (1932)_f0367483_01570247.jpg
監督:ウェズリー・ラグルズ
製作:アルバート・ルイス
原案:エドマンド・グールディング
   ベンジャミン・グレイザー
脚本:モーリン・ワトキンス
   ミルトン・H・グラッパー
撮影:レオ・トーヴァー
音楽:W・フランク・ハーリング
出演:クラーク・ゲーブル
   キャロル・ロンバード
   ドロシー・マッケイル
   グラント・ミッチェル
   エリザベス・パターソン
   ジョージ・バービエ
   J・ファレル・マクドナルド
   トミー・コンロン
   ウォルター・ウォーカー
   ポール・エリス
   チャーリー・グレープウィン
アメリカ映画/82分/モノクロ映画




ハリウッド史上最高のカップルとも呼ばれるクラーク・ゲーブルとキャロル・ロンバードが共演した唯一の映画である。当時のゲーブルは、伝説のセックス・シンボル、ジーン・ハーロウと共演した『紅塵』('32)でMGMを代表する男性スターとなったばかり。MGMといえば「夜空の星の数よりも多くのスターがいる」と言われた、黄金期のハリウッドにおける最大の映画スタジオである。そこの看板を担うスターともなれば、もはやハリウッドの頂点を極めたも同然であろう。そんな彼が本作では、ライバル会社パラマウントに貸し出されることとなった。まずはそのいきさつから話を始めよう。

大きなカギを握るのは、悪名高き新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの愛人だった女優マリオン・デイヴィスだ。ハーストが彼女のために設立した映画会社コスモポリタン・ピクチャーズに所属していたデイヴィス。そのコスモポリタン作品を配給・共同製作するビジネスパートナーがMGMだった。当時、トップ歌手から映画界へと進出した若手ビング・クロスビーに夢中だったデイヴィスは、次回作の相手役になんとしてでもクロスビーを!と熱望し、MGMのゲーブルと交換で彼をパラマウントから借り受けようと思いつく。当然、MGM社長ルイ・B・メイヤーは難色を示すものの、ハーストに説得されて押し切られることに。かくして、マリオン・デイヴィスとビング・クロスビーの共演作『虹の都へ』('33)の撮影が終了するまで、パラマウントへ送り込まれることとなったゲーブル。その間の出演作として提案された脚本の中から彼が選んだのが、この『心の青空』だったというわけだ。

当初はジョージ・ラフトとミリアム・ホプキンスを主演に、ジェームズ・フラッドが演出に予定されていたという本作。ところが、ラフトの代わりにゲーブルが登板したことで、ミリアム・ホプキンスが企画を降りてしまう。というのも、MGMとパラマウントとの間の契約では、ゲーブルの名前をトップに据えることが定められていたため、ブロードウェイの大物スター女優から映画界へ華麗なる転身を遂げたばかりのホプキンスは、どうやら自分が二番手扱いされることに腹を立てたらしい。そこでパラマウントが白羽の矢を立てたのが、当時売り出し中の若手女優キャロル・ロンバードだったのである。

先述したように、その後ハリウッド最強のパワーカップルとなるゲーブルとロンバードだが、しかしお互いに初対面だった本作では、単なる共演者以上でも以下でもなかったらしい。というのも、ロンバードは当時ハリウッドのトップスター、ウィリアム・パウエルと結婚したばかり。ゲーブルも同じく、2番目の妻リアと再婚したばかりだった。どちらの結婚生活もまだ蜜月の真っ只中だったため、恋愛関係に発展しようがなかったのである。2人がお互いを意識し始めるのは4年後にパーティで再会してからのこと。当時のロンバードは既にパウエルと離婚して独身だったが、しかしゲーブルはリアとの結婚生活が破綻していたとはいえ婚姻関係にあった。まだアメリカでは不倫がタブーだった時代だが、しかし2人はそんなこと全く意に介さずパーティやプレミアへ連れ立って出かけ、ファンの間でも彼らが恋人同士であることは公然の事実に。やがて多額の慰謝料を条件にリアが離婚に応じ、ようやくゲーブルとロンバードがゴールインしたのは'39年3月のこと。ハリウッドきってのおしどり夫婦と呼ばれた彼らだが、しかしその幸せもあまり長続きはせず、'42年1月16日にロンバードは飛行機事故で帰らぬ人となってしまう。

そんな2人の最初の出会いとなった本作。ストーリーは極めてたわいない。ゲーブルが演じるのはニューヨークのカード賭博師ジェリー・スチュワート。愛人ケイ(ドロシー・マッケイル)や親友チャーリー(グラント・ミッチェル)ら仲間と組んで劇場型詐欺を仕掛け、社交界の名士をやらせ賭博のカモにして大金を巻き上げているような人物だ。男同士の友情には厚いが、その一方で女に対してはどこまでも薄情。一度寝ただけで恋人面するケイのことも粗末に扱っている。腹を立てたケイは賭博詐欺のことを被害者や警察にバラすと脅かすが、しかし当のジェリーは平気のへっちゃらだ。なぜなら、社交界の名士たちはスキャンダルを最も恐れるため、絶対に警察沙汰などにはしないからだ。ところが、大富豪モートン氏(ウォルター・ウォーカー)をカモにした際、自分の部屋にモートン氏が出入りする様子を警察のコリンズ刑事(J・ファレル・マクドナルド)に見られてしまった。ほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠そう。そう考えたジェリーは、たまたま列車の時刻表で見かけた田舎町グレンデールへ向かうことにする。

一方その頃、グレンデールの図書館で司書として働く若い女性コニー(キャロル・ロンバード)は、あまりにも平和過ぎて刺激のない退屈な田舎暮らしに飽き飽きとしていた。恋愛しようにもろくな男はいないし、遊ぶ場所だって湖畔のキャンプ場くらいのものだ。しかも、日頃から不平不満ばかりのコニーを、両親(ジョージ・バービエ、エリザベス・パターソン)や町の人々は問題児扱いばかりする。ゆえに尚更のこと、彼女はすぐにでも誰か都会から来たよそ者と結婚して、この町を出ていきたいと願っていた。そんな彼女に目を付けたのが、グレンデールへ到着したばかりのジェリー。巧みな口説き落としにも惑わされず、簡単にイエスとは言わない肝っ玉の据わった美女コニーの態度は、ジェリーの闘争本能に火をつける。それを知ってか知らずか、やり逃げなんか真っ平ごめんよ、私が欲しいのなら結婚してと迫るコニー。かくして、ジェリーと結婚することになったコニーは、憧れの大都会ニューヨークへやって来る。

これにビックリ仰天したのが親友チャーリー。彼女はお前が詐欺師だってこと知っているのか?秘密にしたままでどうやって結婚生活を続けるんだ!?とジェリーの正気を疑う。しかしジェリー本人は呑気なもの。なぜならば、どうせ2~3カ月もすれば都会の生活にも飽きて、さっさと田舎へ帰ってしまうだろうと高をくくっていたのだ。ところが、コニーはジェリーの想像以上に賢くて聡明で地に足の付いた女性だった。夫の正体に薄々勘付きながらも、あえて問い詰めたりなどすることなく、彼の愛情と善意を信じるコニー。そんな彼女の誠意に心動かされ、真人間に生まれ変わろうと考え始めるジェリーだったが…?

大都会の裏社会に生きる胡散臭いプレイボーイの詐欺師が、運命の女性と出会ったことによって犯罪の世界から足を洗おうとする。ありきたりと言えばありきたりなお話だし、主人公たちの恋愛感情の移り変わりも決して上手く描けているとは言えないが、しかしリズミカルな会話劇を中心とした軽妙洒脱な語り口は意外と悪くない。当初予定されていたジェームズ・フラッドに代わって演出を担当したのは、前年の西部劇大作『シマロン』('31)がアカデミー作品賞候補となった名匠ウェズリー・ラグルズ。あくまでもゲーブルとロンバードのスター映画であることを踏まえ、あまり出しゃばり過ぎない控えめな演出を心掛けているという印象。それゆえに、良くも悪くも平均的なロマンティック・コメディに仕上がっている。

ゲーブルやロンバードにとっても、決して代表作とは呼べないような作品であろう。それでもなお、尊大な自信家でありながらチャーミングで憎めない主人公ジェリーを演じるゲーブルは、2年後にアカデミー主演男優賞を獲得する『或る夜の出来事』('34)を如実に彷彿とさせるし、まだどこか垢抜けない感じの若々しいロンバードも、気の強い鉄火肌女のように見えて意外にも純情な乙女、しかも海千山千の男ジェリーより実は一枚も二枚も上手という賢い女性コニーを軽やかに演じ、後の「スクリューボール・コメディの女王」の片鱗をそこかしこで垣間見せてくれる。そういう意味で、ハリウッド・クラシック映画ファンであれば大いに一見の価値はあるだろう。

ちなみに、映画本編のクレジットから外されているものの、原作はヴァル・リュートン(後のRKOホラー映画のプロデューサー)が書いたベストセラー小説「No Bed Of Her Own」で、もともとは世界大恐慌で職を失った女性が体を売って生計を立てるというストーリーだったらしい。しかし、その内容だと刺激が強すぎると問題視されたことから、スタジオの指示で脚本が大幅に書き直されることに。結局、小説版の要素はタイトルのみに残されただけで、肝心の中身はほとんど原形をとどめなくなってしまったらしい。

なお、日本では戦前に劇場公開されている本作。かつてCICユニバーサルからビデオ発売されたものの、DVDの時代になってからは一度もソフト化されたことがない。アメリカでは幾度となくDVDで出ており、昨年にはキャロル・ロンバードのボックスセット・シリーズの収録作としてブルーレイ化も実現している。本編映像は若干の経年劣化が見られるものの、しかしおよそ90年前という制作年代を考えれば十分に高画質。音声トラックも同様で、確かに所々でヒスノイズのようなものが聞こえるものの、保存状態そのものはかなり良好で、セリフの聞き取りにもほとんど支障はない。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:82分/発売元:Kino Lorber/Universal Studios
特典:映画評論家ニック・ピンカートンの音声解説



by nakachan1045 | 2021-08-21 08:02 | 映画 | Comments(0)

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