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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night (1972)

「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_01335934.jpg
監督:セオドア・ガーシュニー
製作:ジェフリー・コンヴィッツ
   エイミー・アーツィ
原案:ジェフリー・コンヴィッツ
   アイラ・テラー
脚本:セオドア・ガーシュニー
   ジェフリー・コンヴィッツ
   アイラ・テラー
撮影:アダム・ギファード
音楽:ガーション・キングズリー
出演:パトリック・オニール
   ジェームズ・パターソン
   メアリー・ウォロノフ
   ウォルター・エイベル
   ジョン・キャラダイン
   アストリッド・ヒーレン
   フラン・スティーヴンス
   ウォルター・クレイヴァン
   フィリップ・バーンズ
   キャンディ・ダーリング
アメリカ映画/85分/カラー作品




「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20174220.jpg
スラッシャー映画の歴史を紐解くうえで欠かすことの出来ないカルト・ホラーである。とあるクリスマス・イヴの夜、忌まわしい過去のある古い屋敷で正体不明の殺人鬼が人々を血祭りにあげていく。記念日や祝祭日に凄惨な連続殺人事件が起きるというプロットは、ご存知の通りスラッシャー映画における定番中の定番。同じくクリスマス・イヴを舞台にした『暗闇にベルが鳴る』('75)を先駆けていることはもちろん、スラッシャー映画の金字塔『ハロウィン』('78)の親戚筋にも当たる映画とも言える。さらに興味深いのは、犯人が常に黒革の手袋をはめているということ。そう、これはマリオ・バーヴァ監督の『モデル連続殺人!』('64)に端を発するイタリアの猟奇犯罪サスペンス=ジャッロの伝統的アイテムだ。殺人鬼の手元だけを映すカメラワークや、電話口で囁くように話す犯人の喋り声などはダリオ・アルジェント監督の『歓びの毒牙』('70)を彷彿とさせる。ジャッロがスラッシャー映画に与えた影響はしばしば指摘されるところだが、これなどはその関係性を検証する材料のひとつにもなり得るだろう。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20141086.jpg
物語の始まりは1950年のクリスマス・イヴ。マサチューセッツ州の田舎町イースト・ウィラードの郊外にある大豪邸で、裕福な初老の資産家ウィルフレッド・バトラー(フィリップ・バーンズ)が火だるまになって焼死する。警察はろくに調べることもなく事故死と断定。バトラーは黒い噂の絶えない人物ゆえ、葬儀には僅かな友人しか集まらなかった。彼の一人娘マリアンは若くして他界していたため、残された邸宅は都会へ出て行った10代の孫息子ジェフリーが相続することに。それ以来、バトラー邸は長いこと空き家となり、地元の人々も忌み嫌って滅多に近づくことがなかった。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20151067.jpg
時は移って1970年のクリスマス・イヴ。都会の弁護士ジョン・カーター(パトリック・オニール)と愛人イングリッド(アストリッド・ヒーレン)がイースト・ウィラードへやって来る。カーター弁護士はジェフリーの代理人として、忌まわしい記憶の残るバトラー邸の売却を任されていた。町役場に集まったアダムス町長(ウォルター・エイベル)や保安官メイソン(ウォルター・クレイヴァン)、地方紙経営者タウマン(ジョン・キャラダイン)、そして故バトラーの娘マリアンと親しかった電話交換手テス(フラン・スティーヴンス)らは、5万ドルという破格値で町が屋敷を買い取って処分することを決める。ジェフリー自身が現金での売却を希望していたことから、アダムス町長が5万ドルを準備するまでカーター弁護士は待つことに。そのため、彼はイングリッドと2人でバトラー邸に宿泊することにする。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20144881.jpg
ところがその晩、バトラー邸でくつろいでいたカーター弁護士とイングリッドは、黒革の手袋をはめた何者かによって斧でズタズタに惨殺される。イングリッドの遺体に十字架を握らせた殺人鬼は、保安官メイソンに電話をかけてバトラー邸へと呼び出し、電話交換手テスに自らを「マリアン」だと名乗る。囁くように喋る不可解な電話を受けて、ひとまずバトラー邸を確認することにした保安官。電話の主の発言に衝撃を受けたテスもまた、非番の電話交換手マギーを急いで呼び出し、保安官の後を追ってバトラー邸へ向かうことにする。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20170871.jpg
その頃、ひとりの男性がバトラー邸を訪れる。所有者ジェフリー・バトラー(ジェームズ・パターソン)だ。屋敷がもぬけの殻であったことから、彼はアダムス町長の自宅へと向かうものの、町長は現金を用意するため銀行へ出かけていて留守だった。町長の娘ダイアン(メアリー・ウォロノフ)によると、バトラー邸の所有者を名乗る「マリアン」という女性から町長宛てに屋敷から電話があったという。不可解に思った2人は保安官事務所へ向かうことにする。一方、屋敷へ向かっていた保安官メイソンは、その途中でウィルフレッド・バトラーの墓が荒らされていることに気付き調べようとしたところ、背後から忍び寄った何者かに殺されてしまう。さらに、後から屋敷へ到着したテスも犠牲となってしまった。何かがおかしいと感じたジェフリーとダイアン。タウマンの新聞社オフィスを訪れた彼らは、バトラー家に隠された恐ろしい秘密を知ることになる。果たして連続殺人鬼の正体は何者なのか、死んだはずのジェフリーの母親マリアンなのか、そしてなぜ犯人は町長ら町の有力者たちを狙うのか…?
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20161618.jpg
マイナーキーにアレンジされた「きよしこの夜」のメランコリックなメロディが、なんとも厳かで不気味で悲しげなムードを盛り上げるオープニングからして秀逸。バトラー家の過去に秘められた忌まわしい出来事を、まるでサイレント映画のようなセピア色の粗いモノクロームで描くフラッシュバックも実に悪夢的だ。ドイツ表現主義的な歪んだカメラアングルなどから、『カリガリ博士』からの影響も垣間見れるだろう。閉鎖的な村社会に精神病や近親相姦が絡んで来る西洋版・横溝正史的なドロドロ感も捨てがたいし、直接的なゴア描写を避けながらもしっかりと陰惨さを醸し出す殺人シーンも印象的。寂れ行く古き良きアメリカの原風景を残したロードアイランドのロケーションもなかなか良い。脚本そのものは比較的凡庸だが、しかし全体を包み込む禍々しい空気感はなんとも魅力的だ。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20142611.jpg
監督はニューヨークを基盤にしていたインディーズ映像作家セオドア・ガーシュニー。実は彼、長編処女作『ラブ・オア・マーダー 愛欲殺人』('70)をイタリアで撮っている。なので、本作にジャッロ映画の影響があったとしても何らおかしくはないだろう。ただし、この『ラブ・オア・マーダー~』という作品、完成間際に出資者が亡くなってしまったことから、遺産相続人が未完のままのフィルムをガーシュニーから取り上げ、現金に換えるため配給会社へ売り払ってしまったという。同作の主演女優メアリー・ウォロノフと結婚したガーシュニーは、ニューヨークへ戻ってすぐに本作の製作に着手。知人の作家ジェフリー・コンヴィッツと組んだ彼は、どうやら本作をあくまでもアート映画と見做していたらしい。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20154283.jpg
ただし、当時妻だったウォロノフ曰く、演出家としてのガーシュニーは「絶望的なまでに才能がなかった」といのこと。最初の出会いとなった『ラブ・オア・マーダー~』でガーシュニーと意気投合したウォロノフだったが、しかし本作では二転三転する気まぐれな彼の演出に翻弄され、やがて監督としてだけでなく夫としても愛想を尽かしてしまうことに。結局、3作目のソフトポルノ『Sugar Cookies』('73)を最後に2人は離婚することとなる。ことあるごとに本作を「酷い映画」と一刀両断するウォロノフだが、もしかするとその辛辣な言葉の裏には、かつて一度は愛したガーシュニーへの失望感があるのかもしれない。とはいえ、劇場公開時のマスコミ・レビューも散々だったので、ホラー映画好きな好事家以外には理解されづらい作品という可能性もありますな(笑)。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20165120.jpg
クレジット上の主演は『クレムリン・レター/密書』('69)や『追憶』('73)などでお馴染みの名脇役パトリック・オニール。なぜ彼が本作のような低予算のインディーズ映画に出たのかは定かでないものの、キャストの中では最も一般的な知名度の高い俳優ゆえにトップビリングされたことは間違いないだろう。実質的な主人公ジェフリーを演じるのは、トニー賞受賞歴もあるブロードウェイ俳優ジェームズ・パターソン。彼は本作を最後にガンのため亡くなっている。さらに、'30年代の二枚目スターだったウォルター・エイベルにジョン・フォード映画でお馴染みのジョン・キャラダインと、撮影当時はすでに過去の人となっていた往年の名優たちも共演。『ハリーとトント』('74)で主人公ハリーの風采の上がらない息子を演じたフィリップ・バーンズが、惨劇の元凶であるウィルフレッド・バトラーに扮している。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20172278.jpg
また本作で興味深いのは、キャンディ・ダーリングやオンディーン、タリー・ブラウン、スーザン・ローゼンバーグといった、アンディ・ウォーホル一派の「スーパースター」たちがフラッシュバックシーンに顔を出していること。これは恐らく、自身がウォーホルお気に入りの「スーパースター」だったメアリー・ウォロノフの人脈であろう。もともとファクトリーのダンサーとしてヴェルヴェット・アンダーグランドのイベントにも参加していた彼女は、『チェルシー・ガールズ』('66)を筆頭に数多くのウォーホル映画にも出演していた。本作ではフラッシュバックシーンのパーティ・ゲストや精神病患者として登場する「スーパースター」たちだが、なるほど、確かにエキセントリックな前衛芸術家の彼らにはうってつけ(?)の役回りかもしれない。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20162926.jpg
なお、'70年に撮影されたもののなかなか買い手が見つからず、'72年になってようやく、当時設立されたばかりのキャノン・フィルムによってドライブイン・シアター向けに配給された本作。当初のタイトルは「Night of the Full Dark Moon」だった。その翌年、「Silent Night, Bloody Night」と改題して再リリース。キャノンはゴーラン&グローバス時代の'81年にも「Deathhouse」というタイトルで本作をリバイバル上映しているが、いずれも興行的には当たらなかったらしい。ところが、'80年代に入ってテレビの深夜枠で放送されたことをきっかけに、ホラー映画マニアの間で高く評価されるようになり、いつしかカルト映画として愛されるように。ニューヨークのローカルテレビ局WWORでは、かつて毎年クリスマス・シーズンになると本作を放送して好評を博していたという。また、'13年には『13日の金曜日』のファイナル・ガールことエイドリアン・キングも出演したリメイク版が、'15年にはその続編が作られている。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20155731.jpg
現在は日本を含む世界各国でパブリックドメイン素材の激安DVDが数えきれないほど出回っているが、これは劇場初公開時に著作権登録の申請がなされなかったため。恐らくオリジナルのマスターフィルムも残っていないのだろう。激安DVDで使用されている本編は、'80年代にアメリカのパラゴン・ビデオから発売されたVHSのコピー映像。なので、画質は尋常じゃないくらいに悪い。そうした中、'13年にフィルム・チェスト社より発売されたのがHD修復版DVD。これは'81年にリバイバル公開された「Deathhouse」名義の35ミリフィルムを使い、2K解像度でデジタルスキャンした上でレストア処理が施されている。あくまでも上映用フィルムなので画質の鮮明度にも限界があるし、音声トラックを含めて素材の経年劣化はカバーしきれていないものの、従来の激安DVDに比べるとかなりマシな画質に仕上がっている。
「聖し血の夜」 Silent Night, Bloody Night  (1972)_f0367483_20152393.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:85分/発売元:Film Chest, Inc.
特典:なし



by nakachan1045 | 2021-10-10 20:31 | 映画 | Comments(2)
Commented by くさのま at 2021-10-11 19:17
 いつも楽しく拝見しております。
 昔中古でDVDを所有していましたが、オープニングなど、あまりに映像の状態が酷いのでびっくりした記憶があります。後半の、過去の惨劇をセピア色で表現している箇所は、後の『TATARI』のオープニングに影響を与えているように思いました。真相にかなり無理があるのが残念ですが、修復版DVDの日本版が出たら恐らく買ってしまうでしょう(笑)。
Commented by nakachan1045 at 2021-10-11 23:46
くさのま様

書き込みありがとうございます。
これ、やはり面白いかどうかというと疑問ですし、ストーリーよりも映像と音楽の醸し出す陰鬱なムードを味わう雰囲気映画だと思うので、そもそも画質が悪いというのは致命的なんですよね(笑)。

なるほど!『TATARI』のオープニングですか。確かに、セピアっぽい映像といい精神病院の設定といい、少なからず影響を与えている可能性はありそうですね。『アメリカン・ホラー・ストーリー』シーズン1も、なんとなくライアン・マーフィが参考にしたんじゃないかなと思われる部分があったように思います。

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