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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「Il profumo della signora in nero(黒衣の婦人の香り)」 (1974)

「Il profumo della signora in nero(黒衣の婦人の香り)」 (1974)_f0367483_22511629.jpg
監督:フランチェスコ・バリーリ
製作:ジョヴァンニ・ベルトルッチ
脚本:フランチェスコ・バリーリ
   マッシモ・ダヴァク
撮影:マウロ・マシーニ
音楽:ニコラ・ピオヴァーニ
出演:ミムジー・ファーマー
   マウリツィオ・ボヌリア
   ドナ・ジョーダン
   マリオ・スカッチャ
   ジョー・ジェンキンス
   ニケ・アリーギ
   ダニエラ・バーンズ(ララ・ウェンデル)
   アレクサンドラ・パイージ
   レナータ・ダメンゲ
   カルラ・マンシーニ
特別出演:オラツィオ・オルランド
イタリア映画/104分/カラー作品




アルド・ラド―監督の傑作ジャッロ『死んでいるのは誰?』('72)の脚本を書いたフランチェスコ・バリーリの監督デビュー作である。同作のレビューでも記したように、もともとバリーリは『死んでいるのは誰?』で自ら監督も兼ねるつもりだったが、しかし結果的にプロデューサーの判断で既に実績のあるラドーが選ばれてしまった。当然ながら大いに不満を持った彼は、別の製作会社に新たな企画を持ち込み、友人ベルナルド・ベルトルッチの従兄弟ジョヴァンニの力添えもあって、ようやく念願だった長編劇映画監督デビューを飾る。それがこの『Il frofumo della signora in nero(黒衣の婦人の香り)』。これは海外のジャッロ・ガイドブックでも必ず紹介される作品だが、どちらかというとバリーリが大ファンだったというロマン・ポランスキーの影響が濃厚なサイコロジカル・ホラーに仕上がっている。

主人公はローマ市内の高級アパートにひとりで暮らす女性シルヴィア(ミムジー・ファーマー)。化学薬品研究所の主任研究員として働き、人類学教授ロベルト(マウリツィオ・ボヌリア)と交際している自立したインテリ女性だが、しかし外出する際には必ず部屋の明かりを全て点けたままでないと不安なほど神経質で、普段はプライベートでの人付き合いをなるべく避けているほどの人見知りだ。そんな彼女がある晩、珍しくロベルトの友人であるアフリカ出身の大学教授アンディ(ジョー・ジェンキンス)の自宅へ晩さん会に招かれる。食後のくつろぎの時間、いつしか話題はアフリカの黒魔術に。アフリカでは本人に全く気付かれぬまま悪魔への生贄を選び、ゆっくりと時間をかけて標的を自殺へ追い込んでいく邪悪なカルト集団がいるという。それはヨーロッパでも秘かに信者を増やしているのだそうだ。そんなものは愚かな迷信だと片づけるシルヴィアだったが、しかしなぜか心に引っかかるものを感じる。

翌日、夕方に目覚めて仕事を欠勤してしまうシルヴィア。几帳面な彼女にとってあり得ない事態だ。それ以来、シルヴィアの身辺で不可解な現象が相次いでいく。突然目の前に現れる20年前に自殺した母親の幻影、少女時代の暗い記憶を呼び覚ます悪夢のような幻覚。霊能者オルキデア(ニキ・アリーギ)が透視する船乗りだった実父の死と、母親の再婚相手ニコラ(オラツィオ・オルランド)による性的虐待のトラウマ。骨董品店で見かけたガラス製の花瓶は継父の愛用品だったが、その数日後に差出人不明のプレゼントとしてシルヴィアのもとに届けられる。過去からの亡霊に悩まされ、仕事も手につかなくなっていくシルヴィア。ある晩、深夜に鳴り響く部屋の呼び鈴。扉を開けた彼女の前に階段の暗がりから現れた白いドレスの少女。それは幼き日のシルヴィア(ララ・ウェンデル)だった。まるで過去から目を背けて生きてきたシルヴィアを責めるように、攻撃的な挑発を繰り返す少女時代のシルヴィア。心かき乱された彼女は、今は廃墟となった生家へ足を踏み入れる。

その一方で、本作はシルヴィアの周辺の人々の奇妙で不可解な行動も同時に描いていく。隣の部屋に住む男やもめの孤独な元教師ロセッティ氏(マリオ・スカッチャ)、同じく隣人の猫好きな老女カルディーニ夫人(アレクサンドラ・パイツィ)、上の階に暮らす自由奔放なセレブ美女フランチェスカ(ドナ・ジョーダン)、アパート住人の身の回りの世話をする管理人ルイジ(ウーゴ・カルボーニ)、毎日のように通りがかる骨董品店の女性店主(ロベルタ・カドリンゲル)、一緒に働く研究所の同僚(ルイジ・アントニオ・ゲッラ)など、誰もが笑顔で親切そうにシルヴィアと接しながら、それでいて彼女の私生活を常に監視している様子だった。シルヴィアにとって最大の理解者である恋人ロベルトも、あえて彼女を精神的に追いつめるような言動を繰り返す。しかも、彼らは夜な夜な連れ立って廃線となった鉄道駅に集まり、地下奥深くの暗闇へと姿を消していく。いったい彼らの正体は何者なのか。そして、地下の暗闇では何が行われているのか…?

もともとは「強欲なスイスの銀行家たちが顧客の財産を次々と吸い尽くし、さらに彼らを殺害してその人肉を喰らう」という、資本主義社会を痛烈に風刺する悪夢的な現代の御伽噺だったという本作。しかし、この企画をバリーリ監督が映画会社ユーロシネに持ち込んだところ、同社社長の逆鱗に触れてしまう。というのも、その社長自身がスイスの元銀行家だったからだ。いやはや、それは全くもって迂闊でしたな(笑)。改めて企画を練り直すことにしたバリーリは、大好きなロマン・ポランスキー監督の代表作『反撥』('65)と『ローズマリーの赤ちゃん』('68)を参考にして新たな脚本を書き上げる。それが、「現代の大都会ローマに張り巡らされた悪魔崇拝カルトの組織網」によって、「広いアパートの部屋でひとり静かに狂っていくトラウマを抱えた神経質な若い女性」の物語だったというわけだ。

その後にポランスキーが発表した『テナント/恐怖を借りた男』('76)や、同じくポランスキー作品に影響されたセルジオ・マルティーノ監督の傑作ジャッロ『Tutti i colori del buio(暗闇の全ての色)』('72)にも似たストーリーは、今となっては新鮮味に欠けると言わざるを得ないものの、しかし細やかなディテールを丹念に積み重ねがら、ヒロインの恐怖とトラウマの根源を浮き彫りにしていくバリーリ監督の知的な演出はなかなか秀逸。メランコリックで悲しげな音楽スコアも素晴らしい。なによりも、表現主義やシュールレアリズムの影響も垣間見られる、絵画的でスタイリッシュなビジュアルには抗しがたい魅力がある。まるで動くモダン・アートだ。鮮烈な原色カラーを散りばめた色彩感覚などは、ポランスキーというよりもマリオ・バーヴァかダリオ・アルジェント。そこはやはりイタリア人らしい芸術センスだと言えよう。

しかし、やはり本作の魅力は主演女優ミムジー・ファーマーを抜きに語ることは出来ない。日本では'21年11月5日より主演作『More/モア』('71)と『渚の果てにこの愛を』('71)のリバイバル公開が控えており、にわかに再評価の動きが目立ち始めている女優ミムジー・ファーマー。もともとアメリカ出身の生粋のハリウッド女優なのだが、代表作のほとんどがイタリアやフランスでの仕事ゆえ、ヨーロッパ映画女優というイメージを持たれているファンも少なくないだろう。アンニュイで中性的な美貌と、自由奔放でありながらガラス細工のように繊細な個性の持ち主。そのユニークなキャリアを含めて、ジーン・セバーグやジェーン・バーキンの系譜に属する女優と言えよう。バリーリ監督はアルジェント作品『4匹の蠅』('71)の彼女を見て当て書きしたそうだが、確かに情緒不安定で神経質で内向的な女性シルヴィア役として、これ以上ないほどの適材である。というより、恐らくミムジー・ファーマーが主演でなければ、このどこか掴みどころのないミステリアスな映画は成立しなかったはずだ。もしかすると、この翌年に主演したジャッロ映画『炎のいけにえ』('75)は本作の影響下にあるのではないかとも思えてくる。

日本では残念ながら劇場公開はおろかテレビ放送やビデオソフト発売すらされたことのない本作。是非とも、先述した『炎のいけにえ』との2本立てでリバイバル初公開して欲しいところだが、ひとまず興味のある方にはアメリカ盤ブルーレイをお勧めしたい。2K解像度でデジタル修復された本編映像は、滑らかなグレインがフィルムの質感をほど良く残したきめ細やかな高画質。鮮やかに再現された色彩がまた美しい。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:イタリア語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:104分/発売元:Raro Video
特典:フランチェスコ・バリーリ監督の未公開短編「The Wandering Knight(Il Cavaliere Errante)」(23分)/フランチェスコ・バリーリ監督インタビュー(15分)/オリジナル劇場予告編/フルカラーブックレット封入



by nakachan1045 | 2021-10-12 08:08 | 映画 | Comments(0)

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