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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「永遠のアムバア」 Forever Amber (1947)

「永遠のアムバア」 Forever Amber  (1947)_f0367483_11310154.jpg
監督:オットー・プレミンジャー
製作:ウィリアム・パールバーグ
原作:キャスリーン・ウィンザー
脚色:ジェローム・キャディ
脚本:フィリップ・ダン
   リング・ラードナー・ジュニア
撮影:レオン・シャムロイ
美術:ライル・ホイーラー
衣装:ルネ・ヒューバート
音楽:デヴィッド・ラクシン
出演:リンダ・ダーネル
   コーネル・ワイルド
   リチャード・グリーン
   ジョージ・サンダース
   グレン・ランガン
   リチャード・ヘイドン
   ジェシカ・タンディ
   アン・リヴェール
   ジョン・ラッセル
   レオ・G・キャロル
   アルマ・クルーガー
   アラン・ネイピア
アメリカ映画/138分/カラー作品




当時の20世紀フォックスが社運を賭けて世に送り出した時代劇ロマンスの超大作である。製作費は当時のハリウッドでも破格の640万ドル。これは現在の金額に換算すると4400万ドルに相当する。しかも、原作は全米で300万部以上を売り上げる大ベストセラーとなった、作家キャスリーン・ウィンザーの歴史大河ロマン小説「永遠のアンバー」。17世紀のイギリスを舞台に、野心的で上昇志向の強い農家の娘アンバーが、富と名声を得るため自らの美貌を利用して男たちの間を渡り歩き、売春や強盗、さらには殺人まで犯して成り上がっていくという物語は、その赤裸々な性描写を含めて全米14州で発禁本となるほどの賛否両論を巻き起こし、アメリカ映画協会からも「映画化するに不適切な作品」との烙印を押されてしまった。しかし、これを全く意に介さなかったのが20世紀フォックスの社長ダリル・F・ザナック。原作者ウィンザーから20万ドルで映画化権を買い取ったザナックは、ハリウッド映画の金字塔『風と共に去りぬ』に匹敵するブロックバスター映画として製作に乗り出したのである。

清教徒革命による内戦の嵐が吹き荒れる17世紀半ばのイングランド。とある農家の軒先に、「アンバー」と名前が刺繡された毛布にくるまれた赤ん坊が置き去りにされる。クロムウェルを支持する円頂党に追い詰められた騎士党貴族の女児だったが、清教徒である農夫グッドグルーム(レオ・G・キャロル)とその妻は赤ん坊を不憫に思って育てることにする。それから16年後、クロムウェルの死去によってスチュアート朝のチャールズ二世がイングランド王に即位し、いわゆる王政復古の時代が訪れると、それまでの禁欲的で抑圧された清教徒政治の反動として、自由で享楽的な風潮が社会に蔓延していく。その影響は、年頃の美しい娘に成長したアンバー(リンダ・ダーネル)が暮らす田舎の村にも及びつつあった。

畑の土にまみれた質素な田舎暮らしを嫌い、都会の優雅な宮廷生活に憧れるアンバー。いつかは私も玉の輿に乗って、綺麗なドレスを着て贅沢な生活がしたい。そんな分不相応な野心を持つ娘に眉をひそめる父親は、同じ村の農家の真面目な後継ぎ息子とアンバーを結婚させようとする。そんな折、ロンドンへ向かう騎士党員の一派が村で一泊することに。これを千載一遇のチャンスと考えたアンバーは、彼らが宿泊する宿屋に乗り込んでリーダーのブルース・カールトン男爵(コーネル・ワイルド)にロンドンへ連れて行ってほしいと直談判する。しかし、実直で頭の固いカールトンはこれを拒絶。どうしても諦めきれないアンバーは単身ロンドンへ先回りし、予め調べておいたカールトンの常宿で彼を待ち受ける。断り切れなくなったカールトンはアンバーを従姉と偽って宿泊させ、華やかなロンドンの観光名所へ彼女を連れ歩くのだった。

いつしか、ハンサムで将来有望なカールトンを本気で愛してしまうアンバー。絶対に彼と結婚するんだと心に誓うものの、しかし当時の上流階級では政略結婚が当たり前。田舎貴族とはいえ男爵家の家督を継ぐカールトンが、家柄も土地も財産も持たない庶民の娘アンバーと結婚するメリットなどなかった。そんな折、以前からカールトンが願い出ていた私掠船(新大陸の近海で敵国スペインから物資を奪う海賊船)の航海を国王チャールズ二世(ジョージ・サンダース)が許可。愛人バーバラとカールトンの仲を疑った国王が、体よく彼を遠くへ追いやるつもりで許可したのだが、退屈な宮廷生活を嫌って刺激を求めるカールトンにとっては朗報だ。落胆するアンバーに「君はもう故郷へ帰った方がいい」と助言するカールトンの親友アームズビューリー卿(リチャード・グリーン)。だが、カールトンのことを一途に愛し、秘かに彼の子供を身ごもっていたアンバーは、彼が航海から戻って来るまでに結婚相手として相応しい社会的地位と財産を手に入れようと闘志を燃やす。

かくして、恵まれた美貌とセックスを武器に上流社会での成り上がりを目指すアンバー。はじめのうちこそ投資詐欺に騙されて多額の負債を抱えてしまい、借金返済の不履行で逮捕されて刑務所行きとなったアンバーだが、獄中で知り合った悪名高い盗賊ブラック・ジャック(ジョン・ラッセル)と共に脱獄し、彼の窃盗団に美人局役として加わって富裕層の男たちから金品を強奪。運悪くブラック・ジャックが警官隊に包囲されて殺されると、今度は騎兵隊の将校モーガン大尉(グレン・ランガン)を誘惑して愛人となったアンバーは、警察の追跡から身を隠すためにモーガン大尉の紹介で王立劇団の女優となる。というのも、当時のイングランドでは国王の庇護のもとにある演劇関係者を警察は逮捕できなかったのだ。女優としては大根だが群を抜く美人だったアンバーは、ここで父親ほど年の離れた貴族ラドクリフ伯爵(リチャード・ヘイドン)に見初められて結婚。念願だった爵位を手に入れたばかりか、国王リチャード二世の寵愛まで受けるようになる。着実に上流階級の階段を上っていくアンバーだったが、しかしなりふり構わず欲しいものを手に入れようとする彼女のハングリー精神は、質実剛健を重んじるカールトン男爵の価値観とは相容れぬものだった…。

華やかで贅沢な宮廷生活を夢見る野心家のアンバーと、貴族社会の虚飾を嫌って冒険を愛する自由人のカールトン男爵。どちらも自分の理想を追い求めて脇目もふらず突っ走っていくタイプだが、しかし目指す方向性の違いゆえに深く愛し合いながらもすれ違ってしまう。そんな2人の激しいまでに情熱的なロマンスは、さながらスカーレット・オハラとレット・バトラーの如し。ロンドンが火の海となる1666年の「ロンドン大火」や、まるで戦争時のようにロンドンが疫病の死者で埋め尽くされるパンデミックなど、ビジュアル的にも『風と共に去りぬ』を彷彿とさせるスペクタクルな見せ場が満載だ。なんたって、美術デザインは『風と共に去りぬ』でオスカーに輝いたライル・ホイーラーである。グロリア・スワンソンのご贔屓だったデザイナー、ルネ・ヒューバートによる豪華絢爛なコスチュームにも目を奪われる。『哀愁の湖』('45)などでオスカーを受賞した撮影監督レオン・シャムロイの、中世ヨーロッパの絵画をそのまま映像化したようなビジュアルは、スタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』('77)にも相通じるものがある。

監督は当時『ローラ殺人事件』('44)でアカデミー監督賞候補になったばかりの巨匠オットー・プレミンジャー。撮影スタート直後に解雇されたジョン・M・スタール監督の後任だったプレミンジャーは、原作小説が嫌いだったことから当初あまり気乗りしなかったそうだが、しかし『黄金の腕』('55)では麻薬中毒を、『或る殺人』('59)ではレイプを、『野望の系列』('62)では同性愛をと、当時のハリウッドにおいてタブー視されていたテーマに次々と取り組んだ人だけあって、結果的にこのセンセーショナルでスキャンダラスな映画の監督として適任だったと言えよう。というのも、社会的地位の低い農家の娘が男たちを踏み台にしてのし上がっていく本作のストーリーには、やはり当時のハリウッドではセンシティブな題材だった「フェミニズム」という裏テーマが隠されているからだ。

欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばず、盗賊の愛人になって詐欺や強盗を働き、イングランド国王を含めた権力者の男性たちを次々と色仕掛けで誘惑し、父親ほど年の離れた貴族男性との愛のない結婚も厭わないアンバーは、確かに責められるべき点も少なくない悪女ではあるものの、しかし女性が家や男性の所有物に過ぎなかった当時の封建的な英国社会にあって、一介の庶民の娘に過ぎない彼女が立身出世をするための手段は他になかったのである。貧しい農家の主婦として畑仕事と子育てに追われる人生なんて絶対に嫌だ!美しいものに囲まれた豊かな生活を手に入れて幸せになりたい!そんな強烈な野心と向上心に燃える主人公アンバーを、本作では鋼の意思を持った勇敢な女性として捉え、彼女の成り上がり物語を通して「女性が己の幸福を追求する権利」を見る者に問うていく。

ただし、小説版で描かれるアンバーに比べると、映画版のキャラクター造形はかなりトーンダウンしている。なにしろ、原作のアンバーは詐欺や強盗だけでなく買春や殺人などやりたい放題だし、踏み台にした男や出産した子供の数も映画版より遥かに多い。年上の夫ラドクリフ伯爵の最期だって、映画では伯爵から虐待されていた召使いの復讐で命を落としているが、しかし原作ではアンバー自身が手にかけて殺している。また、映画版では理性的なモラリストとして描かれるカールトン男爵も、原作ではアンバーに負けず劣らずの野心家で、なおかつ人妻になったアンバーとその義理の娘を同時に妊娠させるような女たらし。結末もアンバーが自らの行動のしっぺ返しを受ける映画版と、さらなる野心を胸に抱いて新大陸へ旅立つ原作とでは大きく違う。

さすがに原作をそのまま映画化するとアメリカ映画協会の審査で引っかかるため、本作ではヒロインの「悪事」を当時の道徳基準でギリギリの許容範囲内に収め、さらにその行動原理に「身分違いの純愛を成就させるため」というもっともらしい理由を付加したうえで、彼女と対照的な紳士カールトン男爵に道徳的な規範を体現させ、最終的にヒロインは自ら犯した罪の罰を受けることとなる。恐らく、プレミンジャー監督や脚本家チームにとっては最大限の譲歩だったのだろう。しかし、それでもなお本作は封切直後にカトリック系モラル監視団体から「不道徳だ!」「犯罪を美化している!」と猛抗議を受けたことから、フォックスは再編集を施したうえにアンバーの罪深さを改めて強調するカールトン男爵のモノローグをクライマックスに追加している。まだまだヘイズ・コードの影響力が強かった時代。ハリウッドでは表現の自由に制限が課されていたのである。

主人公アンバー役に起用されたのは、当時キャリアが行き詰まっていたフォックスの元看板女優リンダ・ダーネル。15歳でフォックスと専属契約を結んで映画デビューしたダーネルは、子供の頃から憧れだったという剣劇スター、タイロン・パワーとのコンビで大々的に売り出されるものの、社長のザナックと折り合いが悪くなったことから失速。ジョン・フォード監督の名作『荒野の決闘』('46)など悪女役で新規路線を模索するものの成功には至らなかった。本作ももともとは、ザナックお気に入りの英国人女優ペギー・カミングスのハリウッド・デビュー作となるはずだったが、しかしアンバー役を演じるには幼過ぎるという理由で降板することに。その代役として白羽の矢を立てられたのがダーネルだった。第2の『風と共に去りぬ』としてハリウッド中の若手女優が切望していた役柄だけあって、この棚ボタ的な交代劇にはダーネル本人もビックリしたそうだが、願ってもないチャンスを存分に活かした彼女は、欲望と情熱に突き動かされるタフな女性像を大熱演。これを機に人気が復活した彼女は、巨匠プレストン・スタージェスと組んだ『殺人幻想曲』('48)やアカデミー作品賞候補にもなった『三人の妻への手紙』('49)などに主演することとなる。

その相手役には『楽聖ショパン』('45)や『哀愁の湖』('45)で注目されていた新進スターのコーネル・ワイルド。ヒッチコックの『レベッカ』('40)や『海外特派員』('40)でもお馴染みの名優ジョージ・サンダースが、一癖も二癖もあるイングランド王チャールズ二世を人間味たっぷりに演じて抜群に巧い。脇役で特に印象深いのは、フォックスが次世代の西部劇スターとして売り出そうとしていた盗賊ブラックジャック役のジョン・ラッセル。また、アンバーと刑務所で知り合って親しくなり、彼女の召使として忠実に仕える女性ナン役を、当時38歳だった後の大女優ジェシカ・タンディが演じている。

なお、日本では一度もソフト化されたことのない本作だが、アメリカでは発売当時の20世紀フォックスからライセンス許諾を受けたTwilight Time社が3000枚限定プレスのブルーレイをリリース。テクニカラーのゴージャスな色彩を鮮やかに再現したフィルムらしい高画質は、まるで中世の宮廷絵画が動き出したかのような映像美を存分に堪能させてくれる。残念ながら現在は廃盤となっている模様だ。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※3000枚限定プレス
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:138分/発売元:Twilight Time/20th Century Fox
特典:ドキュメンタリー「Linda Darnell: Hollywood's Fallen Angel」(約44分)/音楽トラック独立再生機能



by nakachan1045 | 2021-10-26 16:08 | 映画 | Comments(0)

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