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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「恐怖城」 White Zombie (1932)

「恐怖城」 White Zombie  (1932)_f0367483_10253064.jpg
監督:ヴィクター・ハルペリン
製作:エドワード・ハルペリン
脚本:ギャレット・ウェストン
撮影:アーサー・マーティネリ
特殊メイク:ジャック・ピアース
出演:ベラ・ルゴシ
   マッジ・ベラミー
   ジョセフ・コーソーン
   ロバート・フレイザー
   ジョン・ハロン
   ブランドン・ハースト
   ジョージ・バー・マッキャナン
アメリカ映画/67分/モノクロ作品




映画史上初のゾンビ映画である。といっても、本作以前にゾンビの登場する短編映画があったそうなので、厳密には「映画史上初の長編ゾンビ映画」と呼ぶのが正しいのだけれど、いずれにせよ21世紀の現在へと続くゾンビ映画の長い歴史はここから始まったというわけだ。ただし、ここに出てくるゾンビはジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』('68)以降のゾンビとは大きくかけ離れている。人肉を喰らうこともなければ、血液を介して感染する心配もなし。そもそも彼らは「生ける屍」ですらない。どういうことかというと、本作に出てくるゾンビはヴードゥー教の司祭によって仮死状態にされただけの人々なのだ。

ターゲットの人間にゾンビパウダーを飲ませて仮死状態にした司祭は、さらにヴードゥー人形を用いた催眠術で相手を自分の意のままに操り、彼らを奴隷として農園や工場などでタダ働きさせる。まあ、あまりにも自由自在に操ることが出来るので、ん~、それって催眠術というよりもほぼテレキネシスとかじゃね?と突っ込みたくもなるわけだが、いずれにせよ本作のゾンビはハイチにおけるヴードゥー教の伝説をベースにしており、ロメロ以降の人喰いリビングデッドたちとは根本的に別物である。むしろ、世界観としてはオカルト的なゴシック・ホラーのそれに近いと言えよう。

アメリカ人の若いカップル、ニール(ジョン・ハロン)とマデリーン(マッジ・ベラミー)は、旅行中に知り合った裕福な農園主ボーモン(ロバート・フレイザー)に招待され、彼の大豪邸で結婚式を挙げるために西インド諸島のハイチへやって来る。馬車でボーモン邸へ向かう途中、奇妙な一団と遭遇した2人。血相を変えた御者によると、彼らは「甦った死者=ゾンビ」なのだという。戸惑いながらも屋敷へ到着したカップルを出迎えたボーモン。実は、彼には秘かな企みがあった。美しいマデリーンに横恋慕したボーモンは、この機会に彼女を自分のものにしてしまおうと考えていたのだ。

ボーモンが助けを求めたのはヴードゥー教の司祭レジャンドル(ベラ・ルゴシ)。先ほどニールとマデリーンが遭遇したゾンビ集団のご主人様だ。どうにかしてマデリーンを自分のものにすることは出来ないのかと相談するボーモンに、レジャンドルは人間をゾンビへと変えてしまう秘薬を手渡す。最初のうちは躊躇していたボーモンだが、しかしマデリーンのニールに対する愛が想像以上に強かったため、最終手段として秘薬を使うことにする。ボーモンから渡された花に秘薬が降りかけられているとも知らず、その匂いを嗅いでしまうマデリーン。結婚式はつつがなく行われたものの、その直後にマデリーンは意識を失い、そのまま帰らぬ人となってしまう。

それから暫くして、マデリーンの遺体を霊廟から運び出して蘇らせるレジャンドルとボーモン。しかし、ゾンビとなったマデリーンは魂の抜け殻に過ぎず、自らの意思もなければ喜怒哀楽の感情もなく、言葉すら喋ることがなかった。こんなはずじゃなかったと嘆くボーモンは、彼女をもとの人間へと戻して欲しいと願うが、そんなボーモンをもレジャンドルはゾンビに変えようとする。彼は最初からマデリーンを自分のものにするつもりだったのだ。その頃、マデリーンの霊廟が空になっていることに気付いたニールは、ハイチの事情に詳しい宣教師ブルーナー(ジョセフ・コーソーン)に相談。ヴードゥー教の司祭レジャンドルによる仕業だと気付いたブルーナーは、ニールを連れて断崖絶壁にそびえ立つレジャンドルの城へと乗り込んでいく…。

ということで、本作における恐怖の根源はゾンビではなく、彼らを操る魔術師スヴェンガリ的なヴードゥー教司祭レジャンドル。演じる俳優ベラ・ルゴシは、当時ユニバーサル・ホラー『魔人ドラキュラ』('31)のドラキュラ役が大当たりしたばかりで、ここでもドラキュラの邪悪なイメージをそのまま活かしている。催眠術を使ってゾンビを操るレジャンドルの、カッと見開いた目にフォーカスしたクロースアップショットなどは『魔人ドラキュラ』のパクリだ。ただし、『魔人ドラキュラ』の予算が34万ドルだったのに対し、本作の予算はたったの5万ドル。現在の金額に換算しても89万ドル(約9700万円)程度にしかならない。というのも、本作は当時のハリウッドで「Poverty Row(貧民窟)」と呼ばれた弱小スタジオによるインディペンデント映画だったのである。

監督のヴィクター・ハルペリンと製作のエドワード・ハルペリンは実の兄弟。サイレント映画の時代から数々の弱小スタジオを渡り歩いてきた2人は、本作を手掛けるにあたって新たにハルペリン・プロダクションを設立。ちょうど当時のアメリカではハイチのヴードゥー教に関する書籍が話題となり、さらに折からのユニバーサル・ホラー『魔人ドラキュラ』('31)や『フランケンシュタイン』('31)の大ヒットでホラー映画に人気が集まっていた。本作がそのブームに便乗する企画であったろうことは想像に難くない。ユニバーサル・スタジオの貸オフィス・スペースをレンタルして事務所とした2人は、同社の『魔人ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』、『ノートルダムのせむし男』('23)、『猫とカナリヤ』('27)などのセットを流用。さらに、邦題にもなっている司祭レジャンドルの城は、RKOスタジオに残されていたセシル・B・デミルの超大作『キング・オブ・キングス』('27)のセットを使っている。同作はパテ社の製作だったが、撮影はRKOの前身FBOのスタジオで行われたので、恐らくそのままになっていたのだろう。当時の各メジャー・スタジオでは小遣い稼ぎのため、使い終わったセットを予算の少ない弱小スタジオに安くレンタルしていた。要するに二次使用である。

それこそ「残り物に福あり」ではないが、こうしたメジャー映画のセットを流用することで、インディペンデント映画ゆえの安っぽさ回避することが出来た『恐怖城』。スプリットスクリーンや重ね焼き合成などの特殊効果を駆使したヴィクター・ハルペリンの演出もかなり野心的で、後にヴァル・リュートンが手掛けた傑作『私はゾンビと歩いた』('43)にも相通ずる詩情豊かで悪夢的なゴシック・ホラーに仕上がっている。『フランケンシュタイン』の特殊メイクで有名なジャック・ピアースによるゾンビ・メイクも地味ながら薄気味が悪い。確かに荒唐無稽な脚本の陳腐さは否めないものの、ビジュアル的には見るべき点の多い作品といえるだろう。

また、劇場公開時はキャスト陣の「サイレント映画みたいに大仰な芝居」が批評家から不評だったらしいが、しかしこれは仕方がないだろう。なにしろ出演者の大半が、トーキー時代になって仕事にあぶれた元サイレント映画スターばかりなのだから。ヒロインのマデリーンを演じるマッジ・ベラミーは、サイレント時代にフォックス社(20世紀フォックスの前身)の看板スターだった清純派女優。しかし'29年のトーキー初進出作が大失敗し、さらに撮影現場での横柄な態度が問題視されてフォックスをクビに。本作は久しぶりのカムバック作品だったが、残念ながら映画のヒットは彼女自身の評価に繋がらず、その後自分を棄てて若いモデルと結婚した恋人の実業家を銃撃し、殺人未遂で逮捕されてしまった。映画でのイメージとは違って、素顔は相当に気性の激しい女性だったようだ。

なお、既に著作権保護期間が切れてパブリック・ドメインとなっていることから、アメリカでも日本でも画質の悪い廉価版DVDが大量に出回っている本作。ブルーレイもアメリカでは何種類かリリースされているのだが、その中でちゃんとデジタル修復作業を施しているのはKino Lorber社とVCI Entertainment社のブルーレイのみ。筆者は後者を所有しているのだが、複数のフィルム素材を繋ぎ合わせて再構築された本編映像は画質にバラツキがあるものの、製作年代を考えると全体的には良好な仕上がり。音声トラックもそこかしこで経年劣化によるノイズが聞こえるが、しかしトーキー初期の映画としてはかなり明瞭だ。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.32:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:67分/発売元:VCI Entertainment
特典:映画史家ゲイリー・ドン・ローズによる音声解説/リバイバル版予告編/『魔人ドラキュラ』予告編/ポスター&スチル・ギャラリー



by nakachan1045 | 2021-10-28 04:59 | 映画 | Comments(2)
Commented by na at 2021-10-29 23:05
(1)「魔人ドラキュラ」だけでなく「フランケンシュタイン」、「ノートルダムのせむし男」、「猫とカナリヤ」、さらに「キング・オブ・キングス」のセットまで使われていたなんて知らなかったです(「魔人ドラキュラ」のセットが流用されているのは知っていましたが)。もしかしてこれらの映画のセットは全て同じものが使いまわされているんですか?それともそれぞれ別のセットなんですか?

(2)それにしてもベラ・ルゴシ、晩年はものすごい不遇でしたね。映画のようなゴミと評されるエド・ウッド作品に出演するまでに落ちぶれましたし。この映画や魔人ドラキュラの出演していたときの栄光が嘘のようです。

(3)ベラ・ルゴシは遺作となった「プラン9」の後にホラーホストの仕事を依頼されていたが残念ながら亡くなってしまったため出演は叶わなかったそうです。エド・ウッドから受けた唯一のまともな仕事だったらしいので惜しまれますね。なかざわひでゆきさんはベラ・ルゴシがエド・ウッドからホラーホストの仕事を依頼されていたことは知っていましたか?

(4)なかざわひでゆきさんにぜひこのブログで記事にしてほしい映画があります。エド・ウッドの作品でベラ・ルゴシの遺作「プラン9・フロム・アウタースペース」と同じくエド・ウッド作品の「怪物の花嫁」及びその続編の「ナイト・オブ・ザ・グールス(NIGHT OF THE GHOULS)」、「海獣ビヒモス」、ハマー・プロの「怪獣ウラン」、そして「原子怪獣現わる」の6作品です。理由はなんとなくですが記事にしたら面白そうと思ったからです。どうでしょうか?
Commented by nakachan1045 at 2021-10-30 06:11
(1)バルコニーは『ノートルダムのせむし男』から、秘密通路は『フランケンシュタイン』から…といった具合に、それぞれの映画のセットを流用したそうです。
(2)(3)エド・ウッドのテレビシリーズ(確かパイロット版だけ作られてボツになった)は最近まで知りませんでした。ベラ・ルゴシがホスト役をオファーされていたんですね。彼が落ちぶれてしまったのは、やはり英語の訛りが強すぎたことと、大袈裟過ぎる芝居のせいだろうとは思います。
(4)そうですね、基本的に気の向くまま緩く書いているブログなので、いずれは…という感じで(笑)。

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