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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「さすらいの航海」 Voyage of the Damned (1976)

「さすらいの航海」 Voyage of the Damned  (1976)_f0367483_19162855.jpg
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
製作:ロバート・フライヤー
提供:サー・リュー・グレイド
原作:ゴードン・トーマス
   マックス・モーガン=ウィッツ
脚本:スティーヴ・シェイガン
   デヴィッド・バトラー
撮影:ビリー・ウィリアムズ
音楽:ラロ・シフリン
出演:フェイ・ダナウェイ
   マックス・フォン・シドー
   オスカー・ウェルナー
   マルコム・マクダウェル
   オーソン・ウェルズ
   ジェームズ・メイソン
   ベン・ギャザラ
   リー・グラント
   キャサリン・ロス
   ルーサー・アドラー
   マイケル・コンスタンティン
   デンホルム・エリオット
   ホセ・フェラー
   リン・フレデリック
   ヘルムート・グリーム
   ジュリー・ハリス
   ウェンディ・ヒラー
   ポール・コスロ
   ネヘマイア・パーソフ
   フェルナンド・レイ
   レオナード・ロシター
   マリア・シェル
   ヴィクター・スピネッティ
   ジャネット・サズマン
   サム・ワナメイカー
   ジョナサン・プライス
   ラウラ・ジェムサー
イギリス映画/158分/カラー作品




第二次世界大戦勃発の直前に起きた、ユダヤ人難民を乗せた豪華客船「セントルイス号」の実話を映画化した作品である。時は1939年、ナチス・ドイツによるポーランド侵攻の約4ヶ月前に当たる5月13日、937名のユダヤ人乗客を乗せた「セントルイス号」が、キューバのハバナへ向けてドイツのハンブルグ港から出航する。当時のドイツでは既にユダヤ人の強制収容所送りが始まっていたのだが、ヒトラーは国際社会に対するプロパガンダ目的の「人道的措置」として、特別にキューバへの亡命を希望するユダヤ人たちの出国を許したのだ。しかし、この航海には一部のナチス高官しか知らない別の目的があった。既にキューバ国内で「反ユダヤ主義」を扇動していたナチスは、現地の政府が「セントルイス号」の入港やユダヤ人の上陸を認めないことを計算した上で、これを「ユダヤ人はドイツ以外でも嫌われ者」という悪質な印象操作に利用し、これから自らが行おうとしているホロコーストの虐殺を正当化しようと考えていたのだ。

主な登場人物は、清廉潔白な人道主義者でユダヤ人に同情的なドイツ人船長シュレーダー(マックス・フォン・シドー)、その船長を尊敬する純粋で真面目な船員マックス・ギュンター(マルコム・マクダウェル)、ナチス幹部の指示で船員を装って潜入した卑劣な工作員シエンディック(ヘルムート・グリーム)、ナチス幹部の治療をすることで特権的な地位にあった高名な医師クライスラー教授(オスカー・ウェルナー)と妻デニーズ(フェイ・ダナウェイ)、ゲシュタポから追われる身で精神的に不安定な弁護士ローゼン(サム・ワナメイカー)と妻リリアン(リー・グラント)、その美しい年頃の娘アンナ(リン・フレデリック)、ハバナに住む娘のもとへ向かう初老のハウザー(ネヘマイア・パーソフ)とハウザー夫人(マリア・シェル)、同じくハバナにいる子供たちと合流するつもりの女性教師アリス(ジュリー・ハリス)、高齢で病身のワイラー教授(ルーサー・アドラー)と献身的な妻レベッカ(ウェンディ・ヒラー)、強制収容所から解放された教師ジョゼフ(ジョナサン・プライス)とポズナー(ポール・コスロ)などなど。同じドイツ人でもナチス信者とそれ以外で考え方がハッキリと分かれるように、一口にユダヤ人と言っても階級差のヒエラルキーは歴然と存在し、人によってバックグランドも考え方も異なるのだが、ただひとつ共通するのは「ユダヤ人」という属性によって理不尽な迫害に遭ってきたこと。ここでは、そんな彼らの様々な事情や想いの交錯する人間模様を通して、新天地へと向かうこの航海に生きる希望を賭けたユダヤ人難民たちの怒りや悲しみや不安を浮き彫りにしていく。

その一方で、「セントルイス号」船内における人間模様と並行して描かれるのは、彼らの運命を大きく左右する国際社会の政治的な思惑だ。祖国を追われた同胞たちを助けようと奔走するトローパー(ベン・ギャラザラ)らユダヤ人組織の代表たち、船に乗る幼い娘たちの身を案じる父親シュトラウス医師(ヴィクター・スピネッティ)、実は高級娼婦として生計を立てていたハウザー夫妻の娘ミラ(キャサリン・ロス)など乗客の家族たち。しかし、そんな彼らの切なる願いをよそにキューバのブルー大統領(フェルナンド・レイ)は世論を盾にして難民の受け入れを認めようとはせず、移民局長官ベニテス(ホセ・フェラー)は入国許可と引き換えに高額な賄賂を要求し、ユダヤ人に力を貸す有力者エステデス(オーソン・ウェルズ)の対応もノラリクラリ。政府高官の中では良心的なレモス国務長官(ジェームズ・メイソン)も保身のため積極的に動こうとはしない。結局、ユダヤ人難民のキューバ上陸は不可能となり、ナチス高官に脅されたシュレーダー船長は仕方なくヨーロッパへ引き返すことに。ユダヤ人組織のトローパーは各国政府に受け入れを要請するが、ヨーロッパの不安定な政情に巻き込まれたくないアメリカ政府には断られ、ナチス・ドイツを刺激したくないヨーロッパの国々も躊躇する。しかし、もしこのまま「セントルイス号」がハンブルグ港へ戻ってしまえば、それすなわちユダヤ人たちの死を意味する。ほくそ笑むシエンディックら船内のナチス信者たち。不安と焦りで過激な行動に出ようとする一部の乗客たち。責任感の強いシュレーダー船長は、ユダヤ人たちを救うために一か八かの賭けに出ようとするのだが…?

あくまでも「史実を基にしている作品」であるため、少なからず映画的な脚色は施されているようだが、しかしハリウッド的なメロドラマ性を排した名匠スチュアート・ローゼンバーグ監督の骨太な演出は抑制が効いており、国際情勢や政治家の思惑に翻弄されるユダヤ人たちの苦悩と葛藤を丹念に描いて説得力がある。歴史を単に娯楽として消費するのではなく、そこから普遍的な教訓を学ぼうという姿勢が明確だ。確かにこれはユダヤ人たちの物語ではあるのだが、しかし同時に古今東西全ての迫害される民族の物語でもあると言えよう。パレスチナ難民もシリア難民もロヒンギャ難民も問題の本質は同じ。現代の我々に無関係な80年以上前の出来事として片付けるわけにはいかない。実際、愛国心や民族主義を煽るナチスに心酔して己の醜い差別心を隠さず、ユダヤ人への嫌がらせでナチス党歌を歌ってみたり、恋愛映画のフィルムをヒトラーの演説映像に入れ替えたりしてせせら笑うシエンディックなんて、ああ、まるっきり日本のネトウヨと同じじゃんと思わせられる。ハーゲンクロイツが日の丸や旭日旗に替わっただけだ。我々日本人も過去の歴史から学ばねば、近い将来に必ず同じ過ちを繰り返してしまうだろう。

ちなみに、本編の最後では「セントルイス号」の乗客937名のうち600名がホロコーストの犠牲となったとのテロップが流れるものの、その後に行われた追跡調査によって正確なホロコースト犠牲者の数は254名だったことが判明している。結果的にイギリスとフランス、ベルギー、オランダへの受け入れが認められた乗客は907名。イギリスへ移住することが出来た288名はまだ幸いだったが、しかし第二次世界大戦が勃発するとフランスもベルギーもオランダもナチス・ドイツに侵略支配されたため、それらの国に住んでた大勢のユダヤ人が迫害され強制収容所へ送られてしまった。おのずと、その中には「セントルイス号」の難民たちも含まれていたのである。

'70年代は『タワーリング・インフェルノ』('74)や『オリエント急行殺人事件』('74)などオールスターキャスト映画が流行していたこともあってか、本作も新旧の錚々たるスターや名優がズラリと勢揃い。これは本作の出資者として「提供」クレジットされているイギリスのメディア王サー・リュー・グレイドのカラーでもあった。なにしろ、『カサンドラ・クロス』('76)や『オフサイド7』('78)をプロデュースした人ですからね。また、設定やテーマが似ているスタンリー・クレイマー監督の『愚か者の船』('65)を参考にしたのかもしれない。いずれにせよ主要キャストが多すぎるため、中にはフェルナンド・レイやデンホルム・エリオットのようにワンシーンしか出てこないケースもあり、それ以外でも単なる顔見せで終わってしまった役者も少なくない。もともと本作はテレビ映画として企画されたものの、予算が莫大になってしまったことから劇場用映画に変更されたという経緯があったらしいが、それぞれのキャラクターをじっくりと掘り下げるにはテレビのミニシリーズという手もあっただろう。

それはともかくとして、ナチスの圧力と己の信念の狭間で葛藤するシュレーダー船長役のマックス・フォン・シドーや、ナチスに対する嫌悪感と恐怖感に押し潰されていく弁護士ローゼン役のサム・ワナメイカー、夫や娘を苦悩から救えなかったことで半狂乱となる妻リリアン役を演じてオスカー候補になったリー・グラント、幼い娘たちを救いたい一心で奔走するシュトラウス医師役のヴィクター・スピネッティあたりが出色。『地獄に落ちた勇者ども』('69)などでも冷酷非情なナチス将校を演じていたヘルムート・グリームも、さすがにこの手の役柄はとても上手い。また、ローゼンとリリアンの娘アンナ役のリン・フレデリックの端正な美貌も目を引く。彼女は当時飛ぶ鳥を落とす勢いで注目されていたイギリスの若手女優で、本作でもオスカー候補を期待されるほどの高い評価を得ていたが、しかしこの翌年に29歳年上の大スター、ピーター・セラーズと結婚してから仕事をセーブし、さらに彼の死後に勃発した義理の子供たちとの遺産相続争いで著しく評判を落としてしまい、実質的な女優引退を余儀なくされてしまう。さらに男性のコアな映画ファンならば、オーソン・ウェルズ演じるエステデスの「友人」として、イタリアン・エロス「黒いエマニエル」シリーズで有名なカルト女優ラウラ・ジェムサーが顔を出しているのも見逃せない。

アメリカやドイツなど各国でブルーレイ化されている本作だが、恐らく日本盤ブルーレイも同じマスターを使用しているものと思われる。本編の画質は概ね良好であるものの、部分的にフィルムの褪色や傷汚れも見受けられるので、どうやら新たなレストアやリマスターはされていない様子。DVD用に制作した古いHDマスターを流用したのかもしれない。なので、ツルツルピカピカの超高画質を期待すると少なからずガッカリするかもしれないが、これはこれで'70年代の映画らしいオーガニック感やフィルム感があって悪くはないだろう。なお、米国盤やドイツ盤には予告編とフォトギャラリーが収録されているものの、日本盤は特典映像なしである。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:日本語/地域コード:ALL/時間:158分/発売元:復刻シネマライブラリー
特典:なし



by nakachan1045 | 2021-11-09 00:27 | 映画 | Comments(0)

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