なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「飢ゆるアメリカ」 Heroes for Sale (1933)

製作:ハル・B・ウォリス
脚本:ロバート・ロード
ウィルソン・マイズナー
撮影:ジェームズ・ヴァン・トゥリーズ
衣装:オリー=ケリー
音楽:バーンハード・カウン
出演:リチャード・バーセルメス
アリーン・マクマホン
ロレッタ・ヤング
ゴードン・ウェスコット
ロバート・バラット
バートン・チャーチル
グラント・ミッチェル
チャールズ・グレイプウィン
ロバート・マクウェイド
アメリカ映画/71分/モノクロ作品


本作が作られた1933年と言えば、まさしく世界大恐慌の真っ只中。誰もが生きるために必死で他者のことなど顧みる余裕もなく、その一方で富裕層の多くは依然として富裕層のままだった。そうした不公平な世の中にあって、本作ではより良い社会を望むがゆえに無欲無私を貫く主人公の生き様を通して、恐らくウェルマン監督はアメリカの良心を体現した「理想の英雄像」を描こうとしたのだろう。どれだけ理不尽な目に遭っても誰かを恨んだりなどせず、たとえ躓いたり転んだりしても起き上がり前を向いて歩いていく主人公は、さながら『素晴らしき哉、人生!』('46)のジョージ・ベイリーの如し。そういう意味で、これは極めてフランク・キャプラ的な映画でもあると言えよう。

物語の始まりは第一次世界大戦の最中。ヨーロッパ戦線でドイツ軍と戦う青年トム・ホームズ(リチャード・バーセルメス)は、敵側の情報を得るためドイツ軍兵士を捕虜にすることに成功するも銃弾に倒れ、戦うことを拒んでいた臆病な戦友ロジャー(ゴードン・ウェスコット)に捕虜を託す。戦わずして捕虜を連れ帰ったロジャーが英雄として勲章を与えられる一方、死んだと思われていたトムはドイツ軍に助けられ、大怪我を負いながらも生き延びていた。やがて戦争は終結。捕虜の交換でトムはアメリカへ帰国することになり、怪我が完治するまでの鎮痛薬として医師からモルヒネを処方される。そして、祖国へ向かう軍用船でトムはロジャーと再会。意図してなかったとはいえ、結果的に手柄を横取りしてしまったことを謝るロジャーを、トムは「もしも俺が君の立場だったら同じことをしただろう」と許すのだった。

ロジャーの父親が経営する銀行で働くようになったトム。しかし、実は人知れずモルヒネ中毒で苦しんでおり、仕事でもミスが多くなっていく。遂にはモルヒネ中毒の事実が社長の耳に届いて解雇されることに。戦場での武勲が本当はトムの功績であることがバレるのを恐れたロジャーは彼を弁護しなかった。療養施設に収容されたトムは2年後に社会復帰するのだが、その間に最愛の母親は死亡。住む家もなく職を探してシカゴの街を彷徨っていた彼は、貧しい人々のために食事と部屋を安く提供するパパ・デニス(チャールズ・グレイプウィン)とその娘メアリー(アリーン・マクマホン)の店に迎えられ、隣人のルース(ロレッタ・ヤング)からクリーニング会社の配達ドライバーの職を紹介される。その勤勉な仕事ぶりが評価されて昇進し、美しいルースとも愛し合い結婚したトム。そんな折、社会主義者で発明家の隣人マックス(ロバート・バラット)が自動洗濯マシンを開発。これがあればクリーニング会社の作業は楽になり、従業員の負担も減って生活が向上すると考えたトムは特許出願の費用を捻出し、誰もクビにしない・給料も減らさないことを条件にギブソン社長(グラント・ミッチェル)と独占契約を結ぶ。

自動洗濯マシンのおかげで売り上げが伸び、従業員の給料も余暇の時間も増えたクリーニング会社。トムとルースも可愛い息子に恵まれ、全てが順調のように思えた。そんな矢先、良心的な経営者だったギブソン社長が死亡。経営権を受け継いだ新社長は強欲な資本家で、人件費削減のため自動洗濯マシンを拡大して従業員を大量解雇する。マシンの導入者であるトムも解雇されたのだが、しかし逆上した元同僚たちは怒りの矛先を彼に向ける。お前が余計なことをするからこうなったのだと。さらに怒りの収まりきらない彼らは、マシンを破壊するべく暴徒と化してクリーニング工場へと乱入。何とかして破壊行為を止めようとするトムだったが、警官と群衆の大乱闘に巻き込まれた妻ルースが死亡し、自身も暴徒の扇動者と誤解されて5年の懲役刑を言い渡される。

真面目に刑期を終えて出所したトム。世の中は大恐慌によって様変わりし、シカゴでも職を失った大勢の困窮者が溢れていた。パパ・デニスとメアリーが無料で食事を提供していると知ったトムは、この5年間に一切手を付けずに貯まった自動洗濯マシンの莫大な使用料を全て彼らに寄付することに。自身は労働組合や社会主義者を監視する警察の赤狩り部隊「レッド・スクワッド」にマークされたため、息子ビリーをメアリーに託して放浪の旅へ出ることとなる…。

およそ15年間に渡る出来事を70分余りに詰め込んだ本作。まかり間違えばダイジェスト版みたいになりかねないところだが、しかし要点を押さえながら描くべきことをきっちり描いていくウェルマン監督の演出は非常に的確で、むしろ下手に尺を伸ばしてストーリーを複雑化するよりも明瞭にテーマが浮かび上がる。近ごろのハリウッド映画は2時間を超えるものが当たり前だが、そもそも映画は長ければいいってもんじゃない。もちろん、『限りなき旅』('32)でオスカーに輝くロバート・ロードとウィルソン・マイズナーの脚本に負うところも大きいだろう。特に、若い頃は無法者として中西部を渡り歩いて悪名を馳せ、その後も賭博師やボクシングマネージャーやホテルマンやレストラン経営や歌手に劇作家と様々な職業を口八丁手八丁で転々とした奇人ウィルソン・マイズナーが、こういうシリアスな社会派映画の脚本を手掛けているのは興味深い。

それにしても、本作を見ていて考えさせられるのは人間の飽くなき欲望と業の深さだ。貧しい労働者を搾取して要らなくなれば切り捨てる強欲な資本家たちは言うに及ばず、その資本家の打倒を訴える過激な社会主義者だった発明家マックスは大金を手にした途端に貧困層を見下す拝金主義者となってしまうし、トムがマシンを導入したおかげで生活が楽になったクリーニング会社の労働者たちも解雇された途端に恩義を忘れてトムを逆恨みする。トムの武勲を横取りしたことを恥じながら、かといって真実を告白する勇気もないロジャーだって同様だ。結局、みんな自分のことが一番可愛いため、いざとなれば自己の利益や保身に目がくらんでしまう。そのうえ、警察も裁判所も庶民の味方どころか強者の論理で杓子定規に弱者を断罪。善良で無欲で思いやりのある人ほど割を食う。まさしく弱肉強食の世の中だ。本作はそんな当時のアメリカ社会の在り方に強く疑問を呈し、私利私欲に走ってしまう人間の弱さに批判の目を向けつつ、自己犠牲の難しさと尊さを描いていく。我々に必要なのは資本主義でも社会主義でもない人道主義=ヒューマニズムなのだと。

主演は巨匠D・W・グリフィスの名作『散り行く花』('19)や『東への道』('20)で知られる二枚目スター、リチャード・バーセルメス。次々と襲いかかる不幸と逆境に苦悩・葛藤しながらも、常に己の良心に従って行動する信念の人トムを力強く演じている。その妻となる下町に咲く可憐な一輪の花ルース役には、当時ワーナーの新進スターとして活躍していた大女優ロレッタ・ヤング。真面目で謙虚なトムが思わず一目惚れしてしまうのも無理がないくらい美しい。だが、やはり本作で一番の儲け役はメアリー役のアリーン・マクマホンであろう。ブロードウェイ出身の名脇役女優だったマクマホンだが、本作ではトムに秘かな想いを寄せつつも黙って支え続け、恵まれない人々のために身を削って働く無欲無私の女性を演じて強い印象を残す。本作のもう一人の主人公とも呼べるだろう。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※DVDボックス収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/時間:71分/発売元:Warner Brothers Home Video
特典:映画史家ジョン・ギャラガーによる音声解説/短編映画『The Trans-Atlantic Mystery』('32年制作・約22分)/短編アニメ『Sittin' on a Backyard Fence』('33年制作・約7分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-11-11 11:36
| 映画
|
Comments(2)
Commented
by
大頭茶
at 2021-11-13 19:12
NHKも「バック・トゥ・ザ~」なんて民放のあとを追いかけるようなセレクトを止めて、ウェルマン特集みたいな企画をオンエアしてもバチは当たらないと思いますが。
ジュネス企画のソフトは例によって出所不明のシロモノで画質もガックリのレベルでしたから正規マスターでぜひ観直したいものです。
ジュネス企画のソフトは例によって出所不明のシロモノで画質もガックリのレベルでしたから正規マスターでぜひ観直したいものです。
1
書き込みありがとうございます。
確かにその通りですね、せっかくの公共放送なのだから、NHKには今の民放では流さない・流せないような名作映画を、もっと積極的にオンエアして欲しいと思います。
ジュネス企画を筆頭に、古い名画やマニアックなカルト映画ほど、それちゃんと権利元からマスターを取り寄せているの?違うでしょ?と言いたくなるようなメーカーから出ていたりしますよね。最近は復刻シネマライブラリーさんなどちゃんとした正規版を出してくれるメーカーさんも増えましたが、それでも'40年代以前の作品はカバーしきれていませんし。昔は中国も韓国も海賊盤DVDが…と揶揄されていましたが、日本だってよそ様のことは言えません。
確かにその通りですね、せっかくの公共放送なのだから、NHKには今の民放では流さない・流せないような名作映画を、もっと積極的にオンエアして欲しいと思います。
ジュネス企画を筆頭に、古い名画やマニアックなカルト映画ほど、それちゃんと権利元からマスターを取り寄せているの?違うでしょ?と言いたくなるようなメーカーから出ていたりしますよね。最近は復刻シネマライブラリーさんなどちゃんとした正規版を出してくれるメーカーさんも増えましたが、それでも'40年代以前の作品はカバーしきれていませんし。昔は中国も韓国も海賊盤DVDが…と揶揄されていましたが、日本だってよそ様のことは言えません。
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