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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「マダム・サタン」 Madam Satan (1930)

「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_12290915.jpg
監督:セシル・B・デミル
製作:セシル・B・デミル
脚本:ジーニー・マクファーソン
   グラディス・アンガー
   エルシー・ジョーンズ
撮影:ハロルド・ロッセン
美術:セドリック・ギボンズ
   ミッチェル・レイゼン
衣装:エイドリアン
音楽:クリフォード・グレイ
   ハーバート・ストサート
   エルシー・ジョーンズ
   ジャック・キング
出演:ケイ・ジョンソン
   レジナルド・デニー
   リリアン・ロス
   ローランド・ヤング
   エルサ・ピーターソン
   ジャック・キング
   エドワード・プリンツ
   ボイド・アーウィン
   ウォーレス・マクドナルド
   タイラー・ブルック
   イネス・シービューリー
アメリカ映画/116分/モノクロ作品




「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22110978.jpg
ハリウッド黄金期最大の巨匠セシル・B・デミルが手掛けた奇想天外でクレイジーなセックス・コメディである。セシル・B・デミルといえば『クレオパトラ』('34)や『サムソンとデリラ』('49)、『十戒』('56)など巨額の予算をかけたスペクタクルな史劇大作を思い浮かべる映画ファンも多いと思うが、しかしもともとはサイレント時代にスキャンダラスでセンセーショナルなブルジョワドラマで一時代を築いた映画監督。中でも、上流階級の貴婦人の視点から男尊女卑や階級社会を辛辣に風刺した『男性と女性』('19)や『何故妻を換へる?』('20)などの女性ドラマはデミルにとって十八番中の十八番だった。
「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22105230.jpg
その延長線上にある本作では、いつまでも子供みたいに刺激を求めて家庭を顧みない無責任な夫に腹を立てたブルジョワ妻が、謎に包まれた妖艶なフランス美女「マダム・サタン」に扮して浮気性の夫にお灸をすえる。この基本プロットだけでも「なんじゃそりゃ?」だが、さらにここでは奇抜なコスチュームの男女が舞い踊るド派手なミュージカルに、金持ちの紳士たちが豪華絢爛なドレスに身を包んだ美女を競り落とす破廉恥な乱痴気パーティ、しまいには大規模な特撮を駆使した飛行船の墜落パニックまで盛り込んでしまったもんだからさぁ大変!もはや支離滅裂なくらい欲張りな娯楽映画に仕上がっているのだ。
「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22094243.jpg
主人公は社交界の花形アンジェラ(ケイ・ジョンソン)。忙しい実業家の夫ボブ(レジナルド・デニー)のために居心地の良い家庭を作ろうと、召使いたちに指示をしてインテリアから食事まで細かく気を配る完璧な女主人だったが、しかしいつまでも子供のように刺激を求めて悪友ジミー(ローランド・ヤング)と遊び呆けているボブは、まるで非の打ちどころのない妻を疎ましく思っていた。そんなある日、新聞の朝刊を読んでいたアンジェラは、社交欄の記事で夫が別の女性と夜遊びしていたことを知る。いや、あれはジミーの奥さんなんだよ、そう、こいつ最近結婚したばかりなの、えっ、知らなかった?と、昨晩の出来事を問い詰めるアンジェラに苦し紛れの言い訳をするボブとジミー。もちろん、それが真っ赤な嘘であることなどアンジェラはお見通しだ。だんだんと焦り始めたボブは、「そうだよ、男ってのはみんな子供なんだよ!」「僕はね、いつまでも恋をしていたいロマンチストなんだ!」「いつから君はそんな退屈な女になってしまったんだい?恋人だった頃は楽しかったのに!」と開き直って逆ギレ。その言葉にアンジェラはいたく傷つく。
「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22101767.jpg
こうなったら相手の女を自分の目で確かめてやろう!と、夫のポケットから見つけたカードの住所へ向かうアンジェラ。慌てたジミーは先回りし、ボブの浮気相手である踊り子トリクシー(リリアン・ロス)に警告しようとするも、その前にアンジェラがやって来てしまう。目の前にいるのがボブの妻だと知って血相を変えたトリクシーは、ジミーに話しを合わせて彼の新妻のふりをするも、騙されたふりをするアンジェラが「今晩はここに泊まらせてもらうわね。お友達同士だからいいでしょ?」と言い出して大慌て。すると、そこへ何も知らないボブがやって来る。妻が隠れているとも知らず、家では見せないプレイボーイぶりを発揮するボブ。そんな夫を見てショックを受けたアンジェラは、トリクシーと2人だけになると「あなたみたいな安っぽい女のどこがいいの?」と本音をこぼしてしまう。これにイラっとしたトリクシーは「あんたみたいにお高くとまった奥様と違ってね、あたしは男が女に求めるものを全部与えてあげるの!いつでも彼の望む通りに振る舞って、キスとハグでチヤホヤして王様みたいな気分にさせてあげて、ついでにこの若い肉体で喜ばせてあげるのさ!」と猛反撃。要するに、「あなた好みの女」を演じてバカな男を虜にするというわけだ。「そんなのあたしにだって、やろうと思えばできるわよ!」とブチ切れたアンジェラは、夫を振り向かせるための計画を実行することにする。
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その数日後、豪華で巨大なツェッペリン飛行船でジミーの主催する仮面舞踏会が開かれる。集まって来たのは遊び慣れた社交界の紳士淑女たち。その中には、もちろんボブとトリクシーの姿もあった。奇抜で肌も露わなコスチュームでパーティを盛り上げるダンサーたち。招待客らも贅の限りを尽くした豪華な衣装で大騒ぎを繰り広げる。やがて、男性客がダンス相手の女性をオークションで競り落とすという破廉恥な余興がスタート。トリクシーは自分が最高値を付けるだろうと自信満々だ。すると、そこに「マダム・サタン」を名乗る自称フランス人の仮面美女が飛び入り参加し、会場中の男たちを夢中にさせてしまう。最高値で「マダム・サタン」を競り落としたのはボブ。彼女の正体はアンジェラなのだが、しかし全く気付いていないボブはすっかりメロメロとなり、「君みたいな女性が現れるのをずっと待っていたんだ!」と口説き始める。最初のうちこそ「してやったり!」とほくそ笑んでいたアンジェラだが、しかし夫の色ボケぶりにだんだんと腹が立ち、やがて悲しくなってくる。そんな時、天候の悪化で落雷が飛行船を直撃!さらに船体が乱気流に呑み込まれ、パーティ会場は一瞬にして修羅場と化してしまう…。
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脚本を担当したのは初期D・W・グリフィス作品のミューズにして、ユニバーサル映画の最初期の看板スターのひとりだった女優ジーニー・マクファーソン。'13年に監督兼脚本家として処女作を発表すると、これを高く評価したセシル・B・デミルのプロダクションに脚本家として招かれる。先述した名作『男性と女性』を含めて、サイレント期~トーキー初期にかけてデミルが発表した女性映画の大半はマクファーソンの脚本。女性ならではの鋭い視点によって、身勝手で愚かな男たちをバサバサと斬り捨てていくところなどは、まさしくデミル×マクファーソン作品の醍醐味といったところだが、しかしこれほど荒唐無稽に暴走していく映画は他になかったのではないだろうか。同じく女優出身のエルシー・ジョーンズや、伝説の大富豪チャールズ・タイソン・ヤークスの愛人とも噂されたグラディス・アンガーといった女性脚本家も名を連ねているが、どうやら彼女たちはマクファーソンが書いた草稿のリライトを担当したようだ。
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やはり最大の見どころは絢爛豪華な仮面舞踏会シーンとクライマックスの飛行船パニックであろう。中でもMGMが誇るトップ・デザイナー、エイドリアンによるエクストラヴァガンザなコスチュームの数々は最高!『マタ・ハリ』('31)や『クリスチナ女王』('33)など大女優グレタ・ガルボの衣装デザインで名を馳せたエイドリアンだが、本作でも当時の保守的なアメリカン・ファッションの常識を覆すようなぶっ飛んだデザインを披露してくれている。特撮シーンを手掛けた担当者が誰なのかは分からないが、ミニチュアと実物大のセットを使用した大掛かりな飛行船の墜落シーンは、あの『ヒンデンブルグ』('75)も真っ青…というより、大空の『ポセイドン・アドベンチャー』といった感じだ。やはりセシル・B・デミル作品にスペクタクルは欠かせない。
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主人公アンジェラ役はブロードウェイの大物女優で、名匠ジョン・クロムウェルの奥さんだったケイ・ジョンソン。そう、『ベイブ』('95)シリーズや『L.A.コンフィデンシャル』('97)などでお馴染みの名優ジェームズ・クロムウェルの母親である。そのダメ夫ボブを演じているレジナルド・デニーはサイレント時代のマチネー・アイドル。幽霊コメディの名作『天国漫歩』('36)でオスカー候補になったローランド・ヤングが、ボブの間抜けな悪友ジミー役を軽妙に演じている。そして、ボブの愛人にしてアンジェラのライバルである鉄火肌の踊り子トリクシー役には、スーザン・ヘイワードがオスカーに輝いたメロドラマ『明日泣く』('55)のモデルとなった伝説のクラブ歌手リリアン・ロス。本作は数少ない映画出演作のひとつで、仮面舞踏会シーンでは歌声も披露している。
「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22100081.jpg
なお、セシル・B・デミル監督作品の中でも最も風変わりな映画として、今ではカルト的な人気を得ている本作だが、ミュージカル仕立てにしたことが仇となって、劇場公開時の興行成績は振るわなかったという。というのも、'27年の『ジャズ・シンガー』を皮切りにトーキー映画の時代へ突入したハリウッドでは、「音の出る映画」というセールスポイントを最大限に活かしたミュージカル映画がブームとなったのだが、あまりにも粗製乱造が過ぎたために観客から飽きられてしまった。本作が公開されたのは、まさにミュージカル映画がそっぽを向かれた時期だったのである。また、世界大恐慌の時代に突入したばかりというタイミングも、本作のようなブルジョワ階級の不倫だパーティだを面白おかしく描いた映画にとってはマイナスだったであろう。当時既に『十誡』('23)や『キング・オブ・キングス』('27)などの史劇大作を撮っていたデミルだが、これを最後に得意ジャンルだったブルジョワ映画を完全に封印し、莫大な予算をかけた歴史物と西部劇に注力していくこととなる。
「マダム・サタン」 Madam Satan  (1930)_f0367483_22103476.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※オンデマンドDVD-R
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:116分/発売元:Warner Home Video
特典:なし



by nakachan1045 | 2021-11-12 00:03 | 映画 | Comments(0)

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