なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「バイオレンス・マン」 Man of Violence (1970)

製作:ピート・ウォーカー
脚本:ブライアン・コンポート
ピート・ウォーカー
撮影:ノーマン・ラングレイ
音楽:シリル・オーナデル
出演:マイケル・ラティマー
ルアン・ピータース
デレク・エイルワード
モーリス・カウフマン
デレク・フランシス
ケネス・ハンデル
ジョージ・ベルビン
シドニー・カナビア
イギリス映画/109分/カラー作品
長編処女作『ザ・アンタッチャブル/暗黒街のハスラー』('68)が低予算のインディーズ映画としては好調なヒットを飛ばしたことから、これに味をしめた(?)ピート・ウォーカー監督が再び挑んだハードボイルドなノワール映画。セックスとバイオレンスを全面に押し出した作風は基本的に『ザ・アンタッチャブル~』と同じだが、特筆すべきはウォーカー監督の演出が格段に上達していること。中でも細かいカットを多用したシャープなアクションシーンは、ダラダラと間延びした『ザ・アンタッチャブル~』のそれとは大違いである。しかも、今回はチュニジアでのロケを敢行するなど予算も明らかに潤沢。必ずしも良く出来た映画とは言い難いものの、しかしB級娯楽映画としては普通に真っ当な仕上がりだ。
土地開発業者ブライアント(デレク・フランシス)と実業家グレイソン(モーリス・カウフマン)の2大勢力によって支配されているロンドンの裏社会。このところ経営するナイトクラブやレストランがグレイソン一味に相次いで荒らされたブライアントは、信頼する右腕ニクソン(デレク・エイルワード)に事態の収集を命じる。そのニクソンが雇った仕事人が、フリーランスの凄腕ヒットマン、ムーン(マイケル・ラティマー)。ブライアントの差し金だと気付かれぬよう、グレイソンの手下たちを一網打尽にしろというのだ。ところがこのムーンという男、実はグレイソンにもブライアント一味の動向を監視するという名目で雇われていた。狡賢くてしたたかな彼は、ブライアントとグレイソンの両者から多額の報酬を巻き上げていたのである。
そんなある日、ムーンは自分と同じように両陣営へ出入りする謎めいたブロンド美女エンジェル(ルアン・ピータース)と知り合う。彼女曰く、ブライアントとグレイソンの対立が激化している背景には特別な事情があった。というのも、中東某国が所有する大量の金塊が輸送中に行方不明となり、両者はそれを手に入れんとしてお互いに牽制しあっていたのである。エンジェルはその中東某国が探りを入れるために差し向けたスパイだった。そうと知ったムーンはエンジェルを味方につけ、ブライアントとグレイソンを出し抜いて金塊を手に入れるべく、有力な情報を求めてチュニジアへと向かうのだが、そんな2人をギャングのみならず国際警察や英国諜報部、中東某国の軍部までもがマークしていた…。
さながら黒澤明の『用心棒』×ジェームズ・ボンド。アストンマーチンを乗り回すハンサムなプレイボーイの凄腕ヒットマンが、ロンドンの裏社会を牛耳る二大勢力の間を渡り歩いて金塊を独り占めしようとする。この主人公ムーンのキャラクターがユニークで、ボンドばりに美女たちを次々と夢中にさせるのはもちろんのこと、時にはゲイバーでナンパした若い男と行きずりのセックスを楽しむようなバイセクシャルなのだ。当時のイギリスでは1967年に同性愛が合法化されたばかり。'70年にはイギリスで初めてのゲイ・パレードが催されているが、そうした時代の空気が少なからず本作にも反映されていると言えよう。さらに『ザ・アンタッチャブル~』と同様、スウィンギン・ロンドンなファッションやインテリアも満載だし、スタイリッシュでゴージャスなロケーションもたっぷり。ウォーカー監督の演出スタイルもだいぶ洗練されており、かなり凝ったカメラワークを楽しませてくれる。お洒落なカウンターカルチャー・ムービーとしての見どころはいっぱいだ。
惜しむらくは、説明的なセリフが多すぎてストーリーの展開がとても遅いこと。『ザ・アンタッチャブル~』はまだ尺が68分しかなかったのでそれほど気にならなかったが、本作ではおよそ1時間40分の大半が会話シーンで成り立っているのでたまらない。そのうえ、中盤に差し掛かると様々な組織がストーリーに絡み、さらに裏切りだのどんでん返しだのといった仕掛けも相次ぐため、ただでさえややこしい相関関係が必要以上に複雑となってしまった。それゆえ、後味の悪い皮肉なクライマックスもいまいちスッキリしない。なんというか、ありきたりなボンド映画もどきに終わらせたくないという野心は強く感じるものの、それがかえって足手まといになってしまったような印象だ。せっかくアクションシーンの演出は冴えているのに勿体ない。
主演はハマー・フィルムの『紀元前3万年の女』('66)でヒーロー役を演じていたマイケル・ラティマー。エンジェル役のルアン・ピータースもハマーの『恐怖の吸血美女』('71)と『ドラキュラ血のしたたり』('71)に出ていた。彼女は一時期、『恋は火の鳥』の大ヒットで有名な人気バンド、5000ボルトのメンバーだった(ただし歌声はティナ・チャールズ)ことでも知られている。そのほか、デレク・エイルワードやエリカ・ラファエル、ヴァージニア・ウェザレルなど『ザ・アンタッチャブル~』のキャスト陣も登場。彼らはみな、当時ウォーカー作品の常連組だった。
ちなみに、情報ソースによって公開時期が1969年とも1970年とも1971年ともされている本作。もともと本国では「Man of Violence」と「Moon」という2種類のタイトルで上映されているらしいので、その辺が情報の混乱を招いていしまった原因なのかもしれない。今のところ、イギリスでは『ザ・アンタッチャブル~』とのカップリングで、アメリカでは「The Pete Walker Collection Volume 2」の特典コンテンツとしてブルーレイが発売中。本編映像は部分的にフィルムの経年劣化が原因と思われる褪色が見られるものの、それ以外はついさっき撮り下ろしてきたばかりのような超高画質だ。英国盤も米国盤もソースとなるマスターは一緒だが、前者はリージョンBで、後者はリージョンAでブロックされているので注意が必要である。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※「The Pete Walker Collection Volume 2」収録
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:109分/発売元:Kino Lorber/Redemption Films
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-11-13 00:18
| 映画
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