なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「予期せぬ出来事」 The V.I.P.s (1963)

製作:アナトール・ド・グルンウォルド
脚本:テレンス・ラティガン
撮影:ジャック・ヒルドヤード
衣装:ジヴァンシー
音楽:ミクロス・ローザ
出演:エリザベス・テイラー
リチャード・バートン
ルイ・ジュールダン
エルサ・マルティネッリ
マーガレット・ラザフォード
マギー・スミス
ロッド・テイラー
オーソン・ウェルズ
リンダ・クリスチャン
デニス・プライス
リチャード・ワッティス
ドナルド・フレイザー
デヴィッド・フロスト
マイケル・ホーダーン
イギリス映画/119分/カラー作品

これぞまさしく古き良きハリウッド映画。いや、正確にはイギリスの巨匠アンソニー・アスキスが監督し、ロシア系イギリス人プロデューサーのアナトール・ド・グルンウォルドが製作し、MGMのイギリス支社が出資・配給した純然たるイギリス映画で、主演のエリザベス・テイラーもリチャード・バートンもよくよく考えればイギリス人なのだが、しかし大勢の人々が行き交う国際空港を舞台に、折からの濃霧で足止めを食らった乗客たちの人生が交差し、やがて彼らの運命が変わっていくという「グランド・ホテル形式」のストーリーをオールスターキャストで描く手法は、「グランド・ホテル形式」の語源となったMGM映画『グランド・ホテル』('32)の昔からハリウッド映画の王道スタイルである。そもそもアスキス監督自身が若い頃にハリウッドで映画作りを学び、ハリウッド映画に多大な影響を受けた人物。国際マーケットをターゲットに定めて巨額の予算をかけた本作は、特にその傾向が強く表れているように思われる。

舞台はイギリスのロンドン空港(現ヒースロー空港)。VIP専用の空港ラウンジには、搭乗時間を待つビジネス界や芸能界などの要人たちが次々と集まってくる。彼らを迎え入れる接客担当職員サンダース(リチャード・ワッティス)は大忙しだ。物語の中心となるのは、世界有数の大富豪ポール・アンドロス(リチャード・バートン)と妻フランシス(エリザベス・テイラー)。休暇のためひとりでジャマイカへ向かうフランシスを、忙しい仕事の合間を縫ってポールが見送りに来たのだが、実はフランシスは秘かに恋人マーク(ルイ・ジュールダン)とニューヨークへ駆け落ちするつもりだった。結婚して13年になるアンドロス夫婦だったが、仕事人間のポールはほとんど家庭を顧みることなく、フランシスはずっと孤独に苛まれていたのだ。折に触れて高額なプレゼントを買い与え、贅沢な暮らしをさせていれば妻も満足だろう。そう考えていたポールだが、フランシスが求めていたのは金品ではなく愛情だった。それを惜しみなく与えてくれて、自分が必要とされていると実感できる相手がマークだった。悪名高いギャンブラーでプレイボーイのフランス人マークにとっても、フランシスは初めて本気で愛した女性だ。妻の置手紙を読んで2人の関係に気付いたポールは、空港へ戻ってマークに多額の慰謝料を払って別れさせようとするが、しかし頑なにそれを断るマークから「そうやって何でも金で片を付けようとするからフランシスの愛情まで失うんだ」と言われて激しく動揺する。

同じくニューヨーク行きの出発便に搭乗する予定なのが、オーストラリア人の実業家レス・マングラム(ロッド・テイラー)。一代でトラクター製造会社を大きくした苦労人のマングラムだったが、その会社が大手企業による敵対的買収の危機に直面していた。なんとかロンドンで必要な分の株式を確保した彼は、ニューヨークで開かれる取締役会で買収を阻止せねばならなかったのだが、しかし土壇場になって味方の友人が裏切って株式を手放してしまう。慌てて手形を切って友人から株式を買い取ろうとするマングラムだったが、しかし実は額面金額に対して銀行の残高が足りない。ニューヨークで契約書にサインをすれば万事解決なのだが、しかし間に合わなければ不渡り手形を出してしまうことになる。窮地に立たされたマングラムを心配するのは、控えめで忠実な女性秘書ミス・ミード(マギー・スミス)。常にマングラムを陰で支えてきた彼女は、実は彼のことを深く愛しているのだが、しかしマングラムには社交界の花形であるミリアム(リンダ・クリスチャン)という恋人がいた。

空港でひときわ注目を集めているのは、新作映画を撮り終えたばかりの世界的な大物プロデューサー、マックス・ブーダ(オーソン・ウェルズ)と愛人のイタリア女優グロリア(エルサ・マルティネッリ)。イギリス人でありながら節税対策のためスイスに住んでいるブーダは、是が非でも今日の出発便でイギリスを離れなくてはならなかった。さもないと課税対象になって莫大な金額の税金を徴収されてしまうからだ。その一方で、マイアミ行きの便に搭乗予定のブライトン侯爵夫人(マーガレット・ラザフォード)は、高齢にも関わらず向こうで働かねばならなかった。というのも、先祖代々受け継いできた屋敷は維持費が高いため、働いて稼がなければ他人の手に渡ってしまう。周囲からうやうやしく扱われている高貴な老婦人も、実のところ財政事情は決して楽ではなかったのである。

やがてロンドンは濃い霧に包まれ、飛行機の離発着がほぼ不可能に。出発時間の延期はどんどんと長引いていき、結局この日の全便がキャンセルされることとなってしまった。足止めを食らったVIPたちは翌日の代替便に乗るため、ひとまず航空会社が用意した空港ホテルの部屋で宿泊することに。ようやく人目を気にせず2人だけの時間を過ごせると安堵したフランシスとマークだったが、どうしても諦めきれないポールが部屋へ乗り込んで来る。もはや万事休す、ニューヨークの取締役会に間に合わないとなれば会社を手放すしかないと諦めたマングラムとミス・ミードは、ホテルのレストランでシャンパンを開けてお互いを慰める。慣れない外泊に気持ちが落ち着かずソワソワするブライトン侯爵夫人。このままでは高い税金を取られてしまうと焦るブーダ。それぞれに複雑な事情を抱えながら眠れない夜を過ごす人々だったが…?

群像劇といっても主なストーリーラインは4つ。離婚の危機に直面した大富豪夫婦と妻の愛人、会社存続の危機に直面した若手実業家とその秘書、脱税を図るドケチな大物映画プロデューサーと金目当ての女優、社会的地位の高さが収入に見合わない老貴婦人と、それぞれに悩みも事情も全く異なっているのだが、しかしいずれも共通しているのは「お金の問題」である。大富豪夫婦は有り余る財産ゆえに夫婦関係が冷え切ってしまい、青年実業家と秘書は金策の苦労を分かち合うことで絆を深める。1シリングでも取られたくないと節税対策に知恵を絞る映画プロデューサーに、先祖から受け継いだ屋敷を取られたくないと出稼ぎせねばならない老貴婦人。そして、誰かの持て余した余分な金が、ひょんなことから誰かのピンチを救うことになるのだ。金というものは諸刃の刃で、持つ人間の使い方や使い道によって呪いにもなれば恵みにもなる。必ずしも沢山あればいいというわけではないが、かといってなくても困るのが金だ。なにかとバートン&テイラー演じる夫婦の愛憎ドラマばかりがクロースアップされる本作だが、むしろ金にまつわる悲喜こもごもの人間模様を散りばめた作品として見るべきだろう。

ただ、それゆえに全体を通して何を伝えたいのかがいまひとつ不明瞭で、まとまりに欠ける映画という印象は否めない。それぞれのエピソードもいたって平凡。最終的にそれとそれがこうやって繋がるのね!という意外性は多少あるものの、だからといって話が面白くなるわけでもなく、むしろ結末を無難に収めてしまったようにも思える。特にバートン&テイラーのエピソードはメロドラマ的な予定調和の連続で、なおかつ無理矢理すぎるオチのつけ方に激しく首を傾げてしまう。まあ、当時はまだ不倫も離婚も重大なタブーだった時代だし、なにより主要マーケットであるアメリカは特に保守的だったため、こうするしかなかったのかなとは思うのだが。さらに実はこれ、ヴィヴィアン・リーがローレンス・オリヴィエと別れてピーター・フィンチと駆け落ちしようとしたところ、濃霧でロンドンから飛行機が飛ばなかったために思いとどまった…という実話をヒントにしているそうで、その元ネタの再現にこだわったという事情もあったのかもしれない。いずれにせよ、晩年のアンソニー・アスキス作品はあまり評判がよろしくないのだが、本作や『黄色いロールスロイス』('65)なんかを見ていると少なからず納得せざるを得ない。

それでも本作が世界興収で1500万ドル(現在の金額で約1億3000万ドル)を超える大ヒットを記録したのは、ひとえに主演を務めるエリザベス・テイラーとリチャード・バートンのおかげであろう。映画史上最高額の製作費をかけたことで話題を呼んだ超大作『クレオパトラ』('63)の撮影で知り合い、世界中のマスコミを騒がせたダブル不倫の末、'64年に結婚したテイラーとバートン。本作が公開されたのは、まさにそのスキャンダル報道合戦の真っ只中の時期だったため、騒動の渦中にある美男美女トップスターのダブル主演、しかも夫婦役でドロドロの愛憎劇を演じるという話題性が、本作の集客に一役も二役も買ったであろうことは想像に難くない。映画スターがまだ雲の上の存在だった時代。世の東西を問わず、多くの観客はスターを見るために映画館へ足を運んでいたのでる。

脇を固めるキャストも当時のビッグネームばかり。しかも、フランスのルイ・ジュールダンにイタリアのエルサ・マルティネッリ、ハリウッド映画の生ける伝説オーソン・ウェルズに英国演劇界の至宝マーガレット・ラザフォードと国際色豊かな顔ぶれだ。中でもオーストラリア訛りで叩き上げの実業家を演じるロッド・テイラーと、その彼を秘かに愛する地味で控えめな秘書役のマギー・スミスの2人は特に印象深い。慣れない飛行機の旅にオロオロして、次々と珍騒動を起こしてしまう侯爵夫人役のラザフォードも、同じく「グランド・ホテル形式」映画の代表格『大空港』('69)におけるヘレン・ヘイズみたいな役回りでユーモラス。ただ、アカデミー助演女優賞を取るほどの役柄とは思えない。むしろ、当時まだ頭角を現し始めたばかりのマギー・スミスの方が相応しかったように思う。なお、マングラムの恋人ミリアム役のリンダ・クリスチャンは、あのタイロン・パワーの奥さんだったことで有名なメキシコ女優。イタリアのポップス歌手として成功したロミナ・パワーは彼女の娘だ。

ちなみに、当時まだロンドン空港と呼ばれていたヒースロー空港を舞台にした本作だが、実際にヒースローでロケ撮影されたのは一部の外観ショットのみで、それ以外はロンドンのMGMスタジオに建てた本物そっくりの実物大セットで撮影されている。筆者が初めてヒースローに降り立った40年前は既に改築された後で、その後も度重なるターミナルの増築で大きく様変わりしているため、現在の姿とは比べるべくもないものの、しかしガラス張りの外観風景は今も少なからず名残りがある。世界各国の航空会社の看板が並んだチェックイン・カウンターに、日本航空のマークとロゴがあるのもちょっと嬉しい。子供時代に外国生活の長かった筆者は、行く先々の空港でJALのマークを見つけるとホッとしたものである。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※日本盤DVDあり
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/時間:119分/発売元:Warner Home Video
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-11-14 00:36
| 映画
|
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