なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「空とぶギロチン」 血滴子 (1975)

製作:ランメ・ショウ
脚本:ニー・クァン
撮影:ツァオ・ホイチ
美術:ジョンソン・ツァオ
武術指導:シュー・アルニウ
音楽:ワン・フーリン
出演:チェン・カンタイ
クー・フェン
フランキー・ウェイ
リュウ・ウーチー
ワン・ユー
アイ・ティ
リン・ウェイツー
チアン・ヤン
香港映画/105分/カラー作品
数あるショウ・ブラザーズ映画の中でも世界的に最も人気の高い作品のひとつであり、なによりも香港カンフー映画でお馴染みの武器「空とぶギロチン(血滴子)」の元祖としてあまりにも有名な映画である。この血滴子とは鉄の帽子のような形をした飛び道具のこと。遠くから敵の頭をめがけて放り投げ、すっぽりと被さったところで紐を引っ張ると、内側に仕込まれた複数の刃がシャキーンと相手の首を切断する。いわば首狩り用の武器だ。この実に残酷で血生臭くてクールなガジェットはインパクト強烈で、続編に当たる『続・空とぶギロチン~戦慄のダブル・ギロチン~』('77)が作られたほか、ジミー・ウォング監督・主演の『片腕カンフー対空とぶギロチン』('76)から『ワンダーガールズ東方三侠』('93)、インドネシアの『デビルズ・ソード/ワニ人間の逆襲』('82)から日本の『片腕マシンガール』('08)まで、様々なカンフー映画・アクション映画にも「空とぶギロチン」が登場している。厳密に言うと、本作の以前にも血滴子が出てくる香港映画はあったようだが、世界の映画ファンにその存在を知らしめたのは本作が最初だったと言えよう。
時は清王朝の雍正帝(チアン・ヤン)の時代。朝廷は漢人を蔑視して激しい弾圧を行い、その暴政を批判した文人までをも次々と処刑したことから、民衆の雍正帝に対する憎悪は頂点にまで達していた。そうした厳しい世論を憂慮した2人の大臣が度重なる処刑を止めるよう雍正帝に懇願するものの、雍正帝はこれを自分に対する侮辱と捉えて大臣たちの暗殺を近衛兵シン(クー・フェン)に指示する。ただし、これ以上無駄に民衆の怒りを買わぬよう、朝廷の仕業と決してバレないような方法を考えろという。そこでシンは大道芸人の曲芸技からヒントを得た新しい武器を開発する。それが、離れた遠くからでも確実に相手の首を取ることが出来て、なおかつ証拠を一切残すことのない「血滴子」だった。この武器をいたく気に入った雍正帝は、近衛兵の中から12名の精鋭を選んで暗殺部隊を組織し、血滴子の使い方を完璧にマスターさせるようシンに命じる。
かくして、日々鍛錬に鍛錬を重ねていく皇帝の暗殺部隊。中でも特に優秀なのがマー・トン(チェン・カンタイ)とその親友シェ・ティエンフー(ワン・ユー)の2人だった。やがて、機が熟したと見た雍正帝より暗殺の勅令が下る。当初の標的は大臣2人だけのはずだったが、暗殺部隊の仕事ぶりに満足した皇帝は、自分の政策に反対する要人を次々と始末させる。これに大きな疑問を持ったのがマーとシェ、そして共通の友人であるロー・ポン(リン・ウェイツー)だった。清朝に盾突く不届きな謀反人を成敗するものと思っていたのに、自分たちが殺す相手はいずれも民衆から慕われている要人ばかりだからだ。これでは自分たちが逆賊みたいではないか。そんな不満を抱き始めた3人だったが、中でも精神的に追いつめられたシェが錯乱してミスを犯してしまい、それを知った雍正帝の命令で妻ともども仲間に暗殺されてしまう。
皇帝の命令とあれば苦楽を分かち合ってきた仲間まで殺すのか?怒りを露わにするマーだったが、それを見た同僚シー・ショアンクン(フランキー・ウェイ)が雍正帝に「マーが謀反を企んでいる」と密告する。実は彼、皇帝が暗殺部隊内部に送り込んだ密偵だったのだ。追われる身となったマーは、ローの協力で市中へと逃亡。さらに、道中で命を救ってくれた大道芸人の女性ユイピン(リュウ・ウーチー)と恋に落ちた彼は、彼女と共に遠くへ逃げて身を隠すことにする。一方、マーを捕らえなければ一族郎党皆殺しにすると雍正帝から命じられたシンは、部下たちを引き連れて全国を血眼で捜索することに。ところが、予てから隊長の座を虎視眈々と狙っていたシーが、この機に乗じてシンを謀反人に仕立て上げようと画策する…。
血も涙もない独裁者に大切な家族や友人を殺された名もなき武人の若者が、その激しい怒りを胸に強大な権力ヘ対して反旗を翻す…というのは香港のカンフー映画や武侠映画の定番的なストーリーで、そういう意味では本作も当時の平均的なプログラムピクチャーの域を出るものではない。ただ、よくある単純明快な勧善懲悪に終始しなかったのは、さすがは名脚本家ニー・クァンというべきか。例えば血滴子の開発者にして暗殺部隊の隊長である近衛兵シンだが、手塩にかけて育てた弟子でも皇帝の命とあらば平然と手にかけるのは、万が一でも雍正帝の不興を買えば自分はおろか一族郎党まで皆殺しにされてしまうから。苦労して新たな武器・血滴子を考え出したのも、暗殺部隊を鍛え上げたのも含めて、全ては我が身を守るための処世術であり、彼自身は必ずしも悪人ではない、むしろ雍正帝に嫌われることを恐れている無力な軍人に過ぎないことがきちんと描かれている。
その諸悪の根源たる雍正帝もまた、ただの愚かな独裁者などではなく、狡猾で抜け目のない策士であり、見方を変えれば非常に有能な支配者だ。常に自らが周囲の動向に注意深く目を光らせ、各所に送り込んだ密偵を通じて正確な情報をきちんと把握している。そのため、密偵シェンが個人的な恨みからマーに謀反人の濡れ衣を着せようとした時も、たちまち彼の嘘と魂胆を見抜いてしまう。なぜなら情報源となる皇帝の密偵はシェンだけではないし、そもそも自身が策士であるからこそ策士の手口や心理が簡単に読めるのだ。もちろん、だからといって公明正大な人物というわけではなく、全ては皇帝としての自分の地位を強固なものにするため。利用できる人間を見極めて最大限に利用し、邪魔になる人間を見つけ出して謀反の芽を摘んでしまおうというわけだ。なので、その配下にいる人間はたまらない。どれだけ皇帝に忠誠を尽くしても、いつ手のひらを返されるか分かったもんじゃないし、ちょっとでも隙を見せればライバルに寝首をかかれる危険や心配も常に付きまとう。「誰一人として信用してはならない」という独裁政治・恐怖政治の恐ろしさが、物語の背景として丁寧に描写されている点は特筆すべきだろう。基本的にはシリアスな武侠映画であり、奇抜なタイトルから連想されるようなトンデモB級映画ではない。
とはいえ、やはり最大の見どころが恐怖の殺人兵器「空とぶギロチン=血滴子」であることは間違いないだろう。生きたまま人間の首を刈り取るという残虐性もさることながら、首をなくした胴体が大量の血を吹き出しながらのたうち回る様子などは、もはや完全に猟奇ホラー映画である。この臆面もないスプラッター描写の数々は、『液体人間オイルマン』('76)や『降頭』('75・日本未公開)などのエログロ・ホラーでも知られている娯楽職人ホー・メンファ監督ならではの醍醐味だろう。その分、武侠映画らしいチャンバラ・アクションは小ぢんまりとして控えめだが、追われる身となったマーが鉄傘の武器を作って血滴子に対抗したり、クライマックスでは岩場に身を隠しながらの殺し合いが展開したりと、スケールは小さくとも知恵を絞りながら最後まで飽きることなく楽しませてくれる。
主演は巨匠チャン・チェ監督の『上海ドラゴン英雄拳』('71)や『嵐を呼ぶドラゴン』('72)でトップスターとなったチェン・カンタイ。ショーブラの2大看板だったデヴィッド・チャンやティ・ロンのような美男子ではないものの、いかにも素朴で真面目そうな雰囲気と切れのあるカンフーアクションが好感度の高い役者だ。その師匠から転じて敵となるシンには、『大女侠』('66)や『片腕必殺剣』('67)シリーズでもお馴染みのクー・フェン。善人から悪人まで幅広くこなす名優だけあって、そのどちらとも言えないシンのある種の空虚さを巧みに演じて非常に巧い。マーの妻となるユイピン役のリュウ・ウーチーの可憐な美しさも印象に残る。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:北京語/字幕:日本語/地域コード:ALL/時間:105分/発売元:ツイン/パラマウントジャパン
特典:ニュートレーラー
by nakachan1045
| 2021-11-17 00:06
| 映画
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