なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「プレジャー・プラネット」 Vicious Lips (1986)

製作:トーマス・F・カーノフスキー
脚本:アルバート・ピュン
撮影:ティム・サーステッド
特殊視覚効果:クイック・シルバーFX
特殊メイク:グレッグ・キャノム
ジョン・カール・ビュークラー
音楽:マイケル・マッカーティ
主題歌:ドロック
出演:ドルー=アン・ペリー
ジーナ・カラブリース
リンダ・ケリッジ
シェイン・ファリス
アンソニー・ケンツ
クリス・アンドリュース
メアリー・アン・グレイヴス
アメリカ映画/81分/カラー作品


舞台は人類が遥か銀河系へと進出し、宇宙旅行がカジュアルになった遠い未来。銀河系最大のライブハウス「ラジオアクティブ・ドリーム」に出演予定だったバンドが事故で全員死亡し、そのマネージャーが自殺してしまったことから、音楽界の女帝的な存在である経営者マキシン(メアリー・アン・グレイヴス)は女性ばかりのロックバンド「ヴィシャス・リップス」に白羽の矢を立てる。ところが、タイミング悪く「ヴィシャス・リップス」はリードボーカリストを失ったばかりだった。困ったマネージャーのマティ・アッシャー(アンソニー・ケンツ)は、オーディション会場で見つけた女子高生ジュディ・ジェットソン(ドルー=アン・ペリー)を急きょスカウトする。ちゃんとしたボーカリストが見つかるまでのピンチヒッターのつもりだったのだが、しかし実際にライブで歌わせてみるとバンドとの相性も抜群だったため、マティは彼女を「ラジオアクティブ・ドリーム」での大舞台へ連れていく事にする。

しかし、この決定に不満だったのがバンドメンバーのブリー(ジーナ・カラブリース)、ウィンジー(リンダ・ケリッジ)、マンダー(シェイン・ファリス)の3人。マティが亡くなった元ボーカリスト、エース・ルーカスの名前を芸名としてジュディに与えたことも、メンバーの彼女に対する風当たりを強くした。とはいえ、今はとにかく銀河系の向こう側にある「ラジオアクティブ・ドリーム」へ向かわねばならない。金のないマティはスペースポートで大型の宇宙輸送船を盗み、「ヴィシャス・リップス」のメンバーたちを乗せて宇宙へと飛び立つ。ところが、運転席でよそ見をしていたマティは隕石にぶつかりそうになり、慌ててよけたものの宇宙船は見知らぬ惑星へと不時着してしまう。外は見渡す限りの砂漠だったが、一刻も早く宇宙船を修理せねばならないため、マティがひとりで助けを呼びに行くことに。その間、バンドメンバーたちは船内で待っていたのだが、気が付くと船のカーゴ・エリアから奇妙な音が聞こえてくる。実はこの宇宙輸送船には、邪悪で凶暴な金星ミュータント、マイロ(クリス・アンドリュース)が積まれていたのだ…!

ということで、実はこの未知の惑星に不時着するまでのおよそ30分間ほどが、恐らく本作のハイライトと言えるかもしれない。ネオンカラーに彩られた『ブレードランナー』的なサイバーパンク・ワールド、いかにも'80年代的なワイルドヘアーと近未来ファッションに身を包んだ男女、極端に様式化された不自然で演劇的な芝居、そしてデュラン・デュランやユーリズミックス辺りを彷彿とさせるブリティッシュ・ニューウェーブ的なロックサウンド。'80年代の商業映画というのは多かれ少なかれMTVブームの影響を受けているのだが、本作はさながら映画全体が一本のミュージック・クリップを志向しているように見える。『マネキン』('87)や『ビルとテッドの大冒険』('89)のティム・サーステッドによる撮影もけっこうお洒落だし、『クリッターズ』('86)を手掛けたクイック・シルバーFXによる特殊視覚効果も当時の低予算映画としては上出来。確かにどうでも良くて下らない話だなとは思うが、しかしこういうシュールなノリは嫌いじゃない。なんだ、意外と面白くない?と思う筆者みたいに奇特な映画マニアも少なくないだろう。

ところが…である。宇宙船が未知の惑星に不時着してマッティが助けを呼ぶために出かけ、「ヴィシャス・リップス」のメンバーが船内で帰りを待つことになる辺りから一気にペースがおかしくなる。箸にも棒にも掛からないメンバー同士のいざこざや愚痴り合いが延々と続くばかりで、宇宙船内の薄暗いセットをグルグルと巡るだけの絵面もほとんど変化なし。時たま、砂漠のど真ん中でスッポンポンの美女たちと遭遇するマティの珍冒険(?)が挿入されるものの、ちょっとエロいだけで大して面白くもない。というか、非常に退屈である。で、ようやく狂暴なモンスターが登場して『エイリアン』みたいな展開になるのかなと思ったら、わけのわからないゾンビ集団まで出てきて安っぽい前衛演劇版「美女と野獣」もどきが繰り広げられる。ネタバレに関わるのでこれ以上はストーリーに触れないものの、まあ、要するにスターになりたいと憧れる世間知らずな少女が、いざその夢が叶うとなった時に直面する迷いや葛藤をダークな御伽噺として描こうとしたのだと思うのだが、残念ながら上手くいっているとは言えない。

恐らく、中盤以降のストーリーを中心に全体を思い切って短くカットし、その代わりにライブ・シーンをもっと増やすことで、あくまでも音楽をメインにした40~50分程度のショートムービーにしてしまった方が良かったかもしれない。要するにミュージック・クリップの拡大オムニバス版だ。まあ、それだと映画館でかけるのが難しくなってしまうけど(笑)。でも、劇中で使用されている楽曲はかなり良いのだよね。テーマ曲「Vicious Lips」を演奏しているDrockなるバンドは詳細不明だが、しかしそれ以外の楽曲は『ラジオアクティブ・ドリーム』やアラン・ルドルフ監督のロック映画『ローディー』('80)のサントラにも参加していた、L.A.のニューウェーヴ・バンド、スー・サード&ザ・ネストのメンバーが主に担当。当時のブリティッシュ・ニューウェーヴは勿論のこと、初期ベルリンやミッシング・パーソンズにも通じるエッジ―なサウンドがカッコ良く、ヒロインのボーカルを吹き替えているスー・サードのパンチの効いた歌声も素晴らしい。作曲した同バンドのギタリスト、トニー・リパレッティとドラマーのジェームズ・サードは、ピュン監督の『サイボーグ』の音楽スコアも担当している。

なお、劇場公開時によっぽど客入りが悪かったためか、アメリカ本国でも長いことビデオソフト化されなかった本作だが、'13年になってようやく米Shout FactoryからB級映画4本立てセットの1本として初DVD化され、その後同社から単体でブルーレイ発売もされている。筆者は最初のDVDを所有しているが、画質はなかなか良好だしステレオ音声(裏ジャケットのモノラル表記は誤り)も迫力があり、改めてBDで買い直す必要もないかなという感じなのだが、既に旧DVDは廃盤で入手困難になっているようだ。

評価(5点満点):★★☆☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※「4 Cult Movie Marathon Volume One」収録
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Stereo/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:81分/発売元:Shout Factory/MGM
特典:なし
by nakachan1045
| 2021-11-19 11:53
| 映画
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