なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ガイアナ 人民寺院の悲劇」 Guyana: Crime of the Century (1979)

製作:ルネ・カルドナ・ジュニア
脚本:ルネ・カルドナ・ジュニア
カルロス・ヴァルデマール
撮影:レオポルド・ヴィラセニョール
音楽:ネルソン・リドル
ボブ・サマーズ
ジョージ・S・プライス
出演:スチュアート・ホイットマン
ジーン・バリー
ジョン・アイアランド
ジェニファー・アシュリー
イヴォンヌ・デ・カーロ
ブラッドフォード・ディルマン
ナディウシュカ
ロバート・ドクイ
トニー・ヤング
ダナ・ベイカー
シャロン・センパー
特別出演:ジョセフ・コットン
メキシコ・スペイン・パナマ合作/90分/カラー作品
1978年11月18日、南米ガイアナ共和国のジャングルを開拓した集落ジョーンズタウンにて、アメリカの新興宗教団体「人民寺院」の教祖ジム・ジョーンズとその信者たち900名以上が集団自殺を遂げ、世界中に大きな衝撃を与えた。当時まだ小学4年生でソ連のモスクワに住んでいた筆者も、日本から送られてきた雑誌に掲載されていた集団自殺現場の生々しい写真を見て、少なからぬショックを受けたことを鮮明に記憶している。このいわゆる「ジョーンズタウンの惨劇」をいち早く映画化した作品が、なぜかアメリカではなくお隣のメキシコで作られた『ガイアナ人民寺院の悲劇』だった。
監督はあのルネ・カルドナ・ジュニア。そう、『ジョーズ』ブームに便乗した『タイガーシャーク』('77)や『大竜巻/サメの海へ突っ込んだ旅客機』('78)、『インディ・ジョーンズ』シリーズの大ヒットにあやかった『アマゾンの秘宝』('84)など、数々の低予算キワモノ映画で知られるメキシコ産B級映画の名物監督である。恐らく本作も事件の話題性に当て込んだ便乗企画であったろう事は、発生からたったの10ヶ月という猛スピードで劇場公開されていることからも想像に難くない。また、彼の父親ルネ・カルドナは、墜落した飛行機の生存者が飢えをしのぐために死者の肉を食ったという「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」を題材にした映画『アンデス地獄の彷徨/航空機墜落・極限の乗客たち』('76)をアメリカでヒットさせている。同作品の製作・脚本を担当したジュニアが、「あの成功体験をもう一度」と考えたとしてもおかしくはないだろう。
冒頭のテロップでも説明されているように、実際の事件のあらましを忠実に(本当は脚色ありだけど)再現しつつも、関係者に配慮して登場人物の名前を変えた本作。例えば、教祖ジム・ジョーンズはジェームズ・ジョンソンに、ジョーンズタウンはジョンソンタウンに、下院議員レオ・ライアンはリー・オブライエンに変更されている。物語の始まりは1977年初頭のサンフランシスコ。反人種差別と社会主義の理想を掲げて勢力を拡大したキリスト教系新興宗教団体・人民寺院だったが、しかしその内情はカリスマ的な教祖ジョンソン(ジェームズ・ホイットマン)の個人崇拝が常態化しており、マインドコントロールされた信者たちは全財産を教団に捧げていた。知名度の上昇と共にマスコミ報道が過熱したことから、その実態が世間にバレることを恐れたジョンソンは、アメリカ政府が我々をホロコーストのように迫害しようとしていると信者たちを扇動し、新天地を求めて全員が南米のガイアナ共和国へ移住することを決める。
その頃、人民寺院の信者だった若者が列車に轢かれて死亡。父親は息子がジョンソンの手先に殺されたと考え、友人であるリー・オブライエン下院議員(ジーン・バリー)に相談する。相次ぐ信者の家族や脱退者からの訴えを憂慮していたオブライエン議員は、この事件を問題視して人民寺院の本格的な調査に乗り出す。一方、ガイアナ共和国のジャングルを開拓し、地上の楽園ジョンソンタウンを作り上げた人民寺院。最初の頃は暮らし向きも豊かで平和だったが、次第に信者たちは長時間の農作業など過酷な重労働を強いられるようになり、食事もだんだんと粗末なものになっていき、日頃から警備兵の厳重な監視下に置かれるようになる。そればかりか、自らを神と名乗り始めたジョンソンは横暴な独裁者と化し、規則に違反したり脱走を図ったりした信者には容赦ない制裁が加えられた。しかも、薬物中毒で病魔に侵されたジョンソンは、信者を道連れにした集団自殺を計画し、忠実な部下である医師ショウ(ブラッドフォード・ディルマン)に毒薬の準備をさせていたのである。その噂はオブライエン下院議員の耳にも届き、すぐにでも現地を視察しようと考えた彼は、マスコミの取材チームを伴ってガイアナ共和国へ向かう。しかし、これが結果的に未曽有の惨劇を招くこととなってしまった…。
あくまでもジム・ジョーンズおよび人民寺院の異常性と「ジョーンズタウンの惨劇」を再現することに主眼が置かれているため、地方の小さな新興宗教団体に過ぎなかった人民寺院がどうして勢力を広げたのか、ジョーンズはどのようにして信者の人心を掌握したのか、なぜ一介の宗教家である彼があそこまで怪物化してしまったのかなど、事件にまつわる背景の掘り下げや考察はほとんど見られない。その代わりと言ってはなんだが、強烈なナルシシズムとパラノイアが混然一体となったジョーンズ(本作ではジョンソン)の狂気に満ちた言動の数々や、もはや強制収容所と呼ぶべきジョーンズタウン(ジョンソンタウン)における信者たちの過酷な暮らしはたっぷりと描かれる。中でも、お腹を空かせて食料を盗んだ子供たちに激しい体罰を加えたり、禁止されているセックスをした若い男女を公衆の面前で凌辱したりといった残酷描写が印象的だ。そういう意味では、タブロイド紙的なセンセーショナリズムを煽ったエクスプロイテーション映画に類すると言えよう。
ただちょっと意外だったのは、あくまでもルネ・カルドナ・ジュニア監督作品としては…という断り書きが付くものの、全体的にとてもシリアスで真面目な仕上がりだということ。先述したような懲罰シーンの残酷描写も、あまり露骨になり過ぎないような配慮がなされている。ストーリーの語り口も淡々としたドキュメンタリー・タッチで、もちろん映画的な脚色が全くないわけではないが、それでも過剰な演出は意図的に避けているようだ。恐らく、事件の記憶も覚めやらぬ時期だっただけに、なるべく信者の遺族や関係者を刺激しないように気を付けたのかもしれない。まあ、信者役のエキストラの多くが明らかにアメリカ人じゃなくてメキシコ人だったり、編集やカメラワークが雑だったりなど、ぶっちゃけ胡散臭く感じる部分も少なくないのはカルドナ・ファミリーの映画ならではだが、しかし基本的にはわりと真っ当な実録ドラマとなっている。
ちなみに、本作はオリジナル・カットに当たる115分のメキシコ公開版と90分に短縮されたアメリカ公開版、さらに108分のイギリス公開版が存在する。筆者はメキシコ公開版とアメリカ公開版を見ているのだが、最大の違いはアメリカ公開版だとオリジナルの冗長に感じられるような会話シーンなどをバッサリとカットし、その代わりに集団自殺の直前に集落を脱出した元信者が状況説明をするナレーションが付け加えられていることだ。そのため、メキシコ公開版は中弛みするシーンが多いのに対して、アメリカ公開版は話の流れがスピーディでタイトだし、実は背景事情に関する情報量もメキシコ公開版より多い。そのうえ、ドキュメンタリー色もさらに強くなっている。個人的にはアメリカ公開版の方がおススメだ。
往年のハリウッド映画スターを配した豪華(?)キャストも要注目ポイント。まあ、いずれも当時は既に過去の人となってしまった役者ばかりだが、主人公ジョンソン役を演じているタフガイ俳優スチュアート・ホイットマンの怪演ぶりは特筆するべきだろう。異様なカリスマ性を持った狂人を、もの凄い熱量で演じ切ってなかなか見事だ。対するオブライエン議員役のジーン・バリーも、良識的で正義感の強い誠実な政治家を颯爽と演じて説得力がある。この2人のキャスティングが、本作の最大の強みと言えるかもしれない。それ以外のスターたちはほとんど顔見せも同然で、ジョセフ・コットンやジョン・アイアランドなどはちょっとしか出てこない。個人的には『コフィー』('76)のキング・ジョージ役で有名なロバート・ドクイ、イタリアやスペインのセックス・コメディで活躍した女優ナディウシュカの出演が興味深かった。なお、カルドナ・ファミリー作品の常連俳優ヒューゴ・スティグリッツもジャーナリスト役で出ているのだが、アメリカ公開版ではほとんどの出番がカットされてしまった。
日本では劇場未公開のビデオ発売のみ。筆者が最初に見たのもレンタルビデオだったと記憶している。その後、20年近く前に日本盤DVDがリリースされたきりだが、アメリカではつい先日、版権元のユニバーサルより許諾を受けたCode Redレーベルからブルーレイが発売されたばかりだ。本編はアメリカ公開版のみ。新たに2K解像度でスキャンしたフィルムをマスターに使用しているようだが、恐らくレストア作業まではされていないのだろう。ところどころに経年劣化が顕著に見られるものの、全体としては色調補正もしっかりとされており、ブルーレイとしては決して悪くない仕上がり。特典の少なさだけが惜しまれる。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:90分/発売元:Code Red/Universal Studios
特典:音楽スコア&音響効果の独立再生機能/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2021-11-22 02:58
| 映画
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