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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「恐怖の振子」 Pit and the Pendulum (1961)

「恐怖の振子」 Pit and the Pendulum  (1961)_f0367483_23422242.jpg
監督:ロジャー・コーマン
製作:ロジャー・コーマン
製作総指揮:ジェームズ・H・ニコルソン
      サミュエル・Z・アーコフ
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本:リチャード・マシスン
撮影:フロイド・クロスビー
美術:ダニエル・ホラー
音楽:レス・バクスター
出演:ヴィンセント・プライス
   ジョン・カー
   バーバラ・スティール
   ルアナ・アンダース
   アントニー・カーボーン
   パトリック・ウェストウッド
   リン・バーネイ
   ラリー・ターナー
アメリカ映画/80分/カラー作品




いやあ、これはやはりホラー映画史上屈指の傑作であろう。ご存知、ロジャー・コーマンが'60年代に次々と手掛けたエドガー・アラン・ポー映画のひとつ。その記念すべき第1作目は『アッシャー家の惨劇』('60)だったが、しかし恐らくシリーズの人気と評価を決定づけたのは、第2弾に当たるこの『恐怖の振子』だったと言えよう。格調高いクラシカルなゴシック・ホラーのスタイルはそのままに、前作よりも壮麗でダークな禍々しいムードをたっぷりと盛り込み、前作よりもショッキングな恐怖描写を散りばめながら、前作よりもさらに複雑怪奇なストーリー展開で観客を恐怖のどん底へ突き落す本作は、一連のハマー・フィルム作品から始まったゴシック・ホラー・ブームの頂点を極める映画だったと言えるかもしれない。

舞台は16世紀半ばのスペイン。荒々しい海に面した崖の上にそびえ立つ薄気味悪い古城へ、ひとりの高貴な身分の青年が訪れる。彼の名前はフランシス・バーナード(ジョン・カー)。城主であるニコラス・メディーナ(ヴィンセント・プライス)に会うため、遠路はるばるイギリスのロンドンからやって来たのだ。というのも、彼の妹エリザベス(バーバラ・スティール)はニコラスの妻で、半年前に突然病気で亡くなってしまったのだが、手紙に記された説明に納得がいかなかったため、大切な妹の死の真相を自身で確かめようと考えたのである。体調がすぐれないというニコラスに代わって応対に出たのは、兄を心配してバルセロナから帰省したという妹キャサリン(ルアナ・アンダース)。しかし、自室で休んでいるはずのニコラスは、古城の地下に籠って何かをしているようだった。ニコラスに対する不信感を強めるフランシス。彼をエリザベスの亡骸が眠る地下霊廟へ案内したニコラスは、改めて彼女は血液の病で亡くなったと説明するも、その言葉を信用できないフランシスは城に滞在することを決める。

その晩、ディナーの最中に予期せぬ客人が訪れる。ニコラスの古い友人であり、エリザベスの死亡宣告をした高名な医師レオン(アントニー・カーボーン)だ。そこでレオン医師は、エリザベスが恐怖のあまり心臓発作で亡くなったことを明かす。これ以上隠し通せないと考えたニコラスは、ことの次第をフランシスに詳しく説明するのだった。実は、ニコラスの父親で先代の城主セバスチャンは悪名高い異端審問官で、古城の地下奥深くにある拷問部屋で大勢の人々を拷問・虐殺した人物だった。今も残されている拷問具の数々に魅せられたエリザベスは、ある時誤って「鉄の処女」に閉じ込められてしまい、そのショックで亡くなってしまったというのである。確かに合理的な説明ではあったが、しかしフランシスはニコラスの言葉や態度に「罪悪感」のようなものを感じ取っていた。まだ彼はなにか隠しているのではないか。そんな疑念を抱くフランシスに、キャサリンがある事実を打ち明ける。

それはニコラスがまだ少年(ラリー・ターナー)だった頃。地下の拷問室に迷い込んでしまった彼は、そこでたまたま恐ろしい現場を目撃してしまう。母と叔父の不倫を知った父セバスチャンが、2人をニコラス少年の目の前で惨殺したのだ。それ以来、彼は情緒不安定になってしまった。だから、周囲には彼の言動が不可解に感じられるのだと。ところがその晩、エリザベスの愛用していたハープシコードが深夜の城内に響き渡る。さらに、女中マリア(リン・バーネイ)が彼女の声を聞き、エリザベスの部屋が何者かによって荒らされた。この城はエリザベスの亡霊に呪われている!と震え上がるニコラス。レオン医師によると、実はニコラスの母親は嫉妬に狂った父親によって、生きたまま地下霊廟に埋められたのだという。そのため、ニコラスは「生き埋め」に対する過剰な恐怖心を抱いており、自分もエリザベスを同じ目に遭わせてしまったのではないかと恐れていた。フランシスが感じた「罪悪感」とはそれだったのだ。幽霊になって出てきたということは、やはり自分は彼女を生き埋めにしてしまったに違いない!と動揺するニコラス。もはやエリザベスの遺体を確認するしかない。そう考えたフランシスたちが霊廟の棺を開けると、そこには死後に息を吹き返して苦悶の表情を浮かべたエリザベスの亡骸があった。懸念が現実となって激しいショックを受けるニコラス。しかし、この一連の「幽霊騒動」の裏には、さらに恐ろしい秘密が隠されていた…!

原作はエドガー・アラン・ポーの小説「落とし穴と振り子」。そこへ、同じくポーの「黒猫」や「早すぎた埋葬」、そして「アッシャー家の崩壊」の要素を盛り込みながら、ほぼオリジナルに近い「ポー風」の恐怖譚へと仕上げたリチャード・マシソンの脚本が素晴らしい。というのも、小説「落とし穴と振り子」はスペインの異端審問官に拷問される人物の恐怖体験を主観で克明に描いただけで、これといって明確なストーリーがあるわけではないからだ。フランシスが妹エリザベスの死の真相を調べるために寂れた古城を訪れるという導入部分は「アッシャー家の崩壊」…というよりもその映画化『アッシャー家の惨劇』とそっくり。名門一族の忌まわしい歴史を刻んだ古い城が、今現在そこに住む人間の精神にも負の影響を与えていくという概念も『アッシャー家の惨劇』と同じである。さらに、ニコラスの母親が生きたまま壁に埋められるのは「黒猫」、エリザベスが死後に息を吹き返していたという設定は「早すぎた埋葬」からの引用。本作ではこうしたポー作品のスピリットをきちんと踏襲しつつ、幼い頃の恐怖体験に囚われてしまったニコラスの不安と狂気をフロイト的解釈で描いていく。そのうえで、合理的な心理描写を逆手に取った意外などんでん返しを次々と仕掛けるのだ。特に、皮肉と言えばあまりにも皮肉なクライマックスは、本当に見事というほかない。

格調高い古典的なゴシック・ロマンスの世界に、グランギニョール的ないかがわしさを融合させたロジャー・コーマンの堂々たる演出も特筆すべきだろう。屋外のロケーション撮影を最小限にとどめ、全編をほぼスタジオのセットとマット画だけで完結させているのは『アッシャー家の惨劇』と同じだが、しかしクレーンショットやドリーショットを駆使したハイレベルなカメラワークは前作よりも遥かに進化しており、もはや巨匠の風格すら感じさせてくれる。前作ではわりと控えめだった恐怖シーンのショック演出も、今回はかなりきわどい線まで攻めている。苦悶の表情を浮かべながらミイラ化したエリザベスの無残な遺体などは、今見てもなかなかショッキングだ。タイトルにもなっている拷問用の振り子が、不気味な音をたてながらジワジワと迫って来る恐怖感も抜群。60年前の観客は手に汗握る思いだったに違いない。

また、中世ヨーロッパ貴族の城を細部まで丹念に再現した大掛かりなセットも壮麗にして壮大!一部には前作『アッシャー家の惨劇』の屋敷セットを拡張して使用しているらしく、そのスケールの大きさと豪華絢爛な装飾には息を呑む。デザインを手掛けたのは美術監督ダニエル・ホラー。当初から予算には限界があったため、ユニバーサルなど各メジャー・スタジオの倉庫から借りてきた古い映画セットのパーツを寄せ集めたのだそうだ。その後も、このセットは増築・改装を繰り返して他の映画にも流用されていくのだが、このような知恵と工夫を凝らした低予算映画らしからぬ見栄えの良さもコーマン作品の醍醐味だと言えよう。中でも、クライマックスの目玉である「恐怖の振子」のセットは圧巻!いかにも書き割りといった感じのマット画も、むしろ悪夢的な異空間の禍々しさを盛り上げる。こういう「作り物感」も古典的なホラー映画の魅力だ。

それにしても、正味80分程度の低予算B級ホラーとはいえ、これだけの重量感あふれる立派な映画を、たったの15日間で撮影してしまったというのだから驚きである。改めてロジャー・コーマン、恐るべし。当時は世界中で大ヒットした本作だが、イギリスでは上映中に恐怖のあまり亡くなった観客には1万ポンドを支払うという死亡保険をかけたことでも話題を呼んだという。また、イタリアではマリオ・バーヴァ監督の『白い肌に狂う鞭』('63)など、多くのイタリア産ゴシック・ホラー映画が本作の影響下にあると言われている。そういえば、エリザベス役を演じているバーバラ・スティールは、バーヴァの『血ぬられた墓標』('60)でスクリーム・クィーンとなった女優。反対にバーヴァは『ブラック・サバス/恐怖!三つの顔』('63)で、『アッシャー家の惨劇』のマーク・ダモンを起用していた。恐らく、イタリアン・ホラーの巨匠も少なからずロジャー・コーマンのポー映画を意識していたのだろう。

主演は勿論、アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの誇るホラー映画の帝王ヴィンセント・プライス。これがまた水を得た魚のような怪演ぶりで、少年時代のトラウマによる恐怖に怯える情緒不安定なニコラスと、狂人のごときサディスティックで残酷な父親セバスチャンを見事に演じ分けている。彼独特の演劇的で大袈裟な芝居がまた、本作の常軌を逸した悪夢的な世界観にマッチしている。というより、これはあえて極限まで非現実的な仰々しさを追求したのだろう。そのニコラスの妹キャサリンを演じているルアナ・アンダースもいい。初期コーマン組の常連スターだった彼女は、『ディメンシャ13』('63)の悪女役や『イージー・ライダー』('69)のヒッピー娘役など現代劇のイメージが強い女優だが、ここでは繊細で控えめで清純な若き貴婦人役を凛とした雰囲気で演じている。実質的なヒーロー役に当たるフランシスには、『お茶と同情』('56)や『南太平洋』('58)で知られる二枚目俳優ジョン・カー。また、先述したようにマリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』で脚光を浴びたばかりだったバーバラ・スティールは、出番こそ少ないものの強烈な個性と存在感で印象を残す。

日本では20年近く前にDVD化されたきりの本作だが、アメリカでは幾度となくDVDリリースされており、現在はAIP時代のヴィンセント・プライス主演作を集めたブルーレイBOX「The Vincent Price Collection」にも収録されている。MGMの所有するオリジナルネガから2K解像度でデジタル修復された本編映像は、一部に多少の経年劣化が見受けられるものの、それ以外は撮影監督フロイド・クロスビーによる原色カラーを鮮やかに再現した見事な高画質。特典映像はちょっと少なめだが、貴重な幻のプロローグ映像はファン必見であろう。これは1968年に初めて本作が全米地上波テレビで放送された際、2時間枠の足りない分を補うために追加撮影された5分間の映像で、精神病院に収容されたキャサリンが過去の出来事を振り返る…という新たな導入部になっている。

評価(5点満点):★★★★★



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※4枚組BOX「The Vincent Price Collection」収録
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:80分/発売元:Scream Factory/MGM
特典:ロジャー・コーマン監督による音声解説/ヴィンセント・プライスによるイントロダクション('82年制作・約5分)/テレビ放送用プロローグ('68年制作・約5分)/オリジナル劇場予告編/フォト・ギャラリー



by nakachan1045 | 2021-11-24 07:06 | 映画 | Comments(0)

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