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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「Travels with My Aunt」 (1972)

「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_01451750.jpg
監督:ジョージ・キューカー
製作:ロバート・フライヤー
   ジェームズ・クレッソン
原作:グレアム・グリーン
脚本:ジェウ・プレッソン・アレン
   ヒュー・ウィーラー
撮影:ダグラス・スローカム
衣装:アンソニー・パウエル
マギー・スミスの衣装:ジャーミナル・ランジェル
美術:ジョン・ボックス
音楽:トニー・ハッチ
出演:マギー・スミス
   アレック・マっコーエン
   ルー・ゴセット(ルイス・ゴセット・ジュニア)
   ロバート・スティーブンス
   シンディ・ウィリアムズ
   ロバート・フレミング
   ホセ・ルイス・ロペス・ヴァスケス
   レイモン・ジェローム
   ダニエル・エミルフォルク
   コリンヌ・マルシャン
   アルド・サンブレル
アメリカ映画/109分/カラー作品




「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17081406.jpg
巨匠ジョージ・キューカーに大女優マギー・スミスという豪華な顔合わせで、第45回アカデミー賞では最優秀主演女優賞を含む4部門にノミネート(うち最優秀衣装デザイン賞を獲得)されながら、なぜか日本では劇場公開どころかテレビ放送やビデオ発売すらされたことのない幻の名作である。原作はミステリ小説の大家グレアム・グリーンが1968年に発表した小説「叔母との旅」。幾つになっても自由と冒険と恋愛に生きる破天荒な75歳の老女と、まるで正反対の生真面目で保守的で堅物な銀行員の甥っ子が、ヨーロッパを股にかけたスパイ小説さながらのスリリングなアドベンチャーを繰り広げる。エレガントにして軽妙洒脱、人生の歓びと悲哀をユーモアとロマンたっぷりに描いたチャーミングな映画だ。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17084774.jpg
イギリスはロンドンの閑静な郊外。仕事一筋に生きてきた真面目な銀行員で、庭いじりだけが趣味の地味で潔癖で全く面白みのない独身中年男ヘンリー・プリング(アレック・マッコーエン)は、母親の葬儀で派手な身なりをした風変わりな老女と出会う。ヘンリーの叔母だという彼女の名前はオーガスタ・バートラム(マギー・スミス)。母親から死んだと聞かされていた叔母の登場に戸惑い、さらに自分が養子だったことを初めて知らされて混乱するヘンリーを、オーガスタはロンドン市内の自宅へと連れていく。そこはヘンリーが初めて足を踏み入れる繁華街のいかがわしい酒場の2階。しかも、叔母は親子ほど年の離れたアフリカ人の占い師ザッカリー(ルイス・ゴセット・ジュニア)と同棲していた。自分には縁もゆかりもない世界で生きる叔母に困惑しながらも、今や唯一の親戚となった彼女に妙な親近感を覚えるヘンリーは、ひょんなことからオーガスタと一緒にフランスのパリへ行くことになる。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17101147.jpg
これまでの人生で外国はおろか地元からすら一歩も出たことのないヘンリーは、生まれて初めてのパリ行きにオロオロとするばかりで、なおかつファーストクラスでシャンパンを飲みまくる叔母の豪遊ぶりに目を丸くする。しかも、パリでの宿泊先は叔母御用達の超高級ホテル。こんなのお金の無駄遣いだ!と呆れるヘンリーに、あなたは人生の楽しみ方を知らない!と言い返すオーガスタだが、実は彼女が甥っ子をパリを連れて来たことには理由があった。それはまだ彼女が世間知らずで好奇心旺盛な女学生だった頃。教師に引率されてパリ観光に訪れたオーガスタは、年上のハンサムで優しいイタリア人の詐欺師エルコーレ・ヴィスコンティ(ロバート・スティーブンス)と恋に落ち、やがて高級娼婦となってパリの夜の人気者となる。数々の社交界の名士たちと浮名を流した彼女だが、しかし生涯で最も愛した男性はエルコーレただひとりだった。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17112308.jpg
ところがつい最近、エルコーレを誘拐したという犯人グループから、身代金10万ドルを要求する脅迫状とかつて彼にプレゼントした指輪、さらに切断された彼の指が届いた。困った彼女はロンドン裏社会の黒幕クローダー(ロバート・フレミング)からマネーロンダリングの仕事を請け負い、パリで5万ポンドをドルに換金する代わりとして10%の手数料を受け取ることになる。しかし、それだけの大金を国外へ持ち出すのは違法。そこで彼女は、何も知らないヘンリーに5万ポンド入りのバッグを持たせることを考え付く。見るからに真面目そうな銀行員の彼なら、通関の荷物チェックで疑われることはないだろうと踏んだのだ。そのことを知って怒り心頭のヘンリー。しかしオーガスタは全く悪びれる様子もなく、そればかりか次なる目的地のイスタンブールへヘンリーを同行させる。誘拐犯グループに10万ドルを渡してエルコーレを救い出すためだ。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17102782.jpg
オリエント急行の寝台車に乗り込んだオーガスタとヘンリー。そこで彼らは、恋人と合流するためイスタンブールへ向かうというアメリカ人のヒッピー娘トゥーリー(シンディ・ウィリアムズ)と親しくなる。天真爛漫で自由奔放で冒険心の旺盛なトゥーリーだったが、実はCIA高官の堅物な父親と折り合いが悪く、さらに恋人の子供を妊娠して深く思い悩んでいた。そんな彼女に同情したヘンリーは、忘れかけていた若い頃の気持ちを思い出し、一緒にマリファナを吸うほど仲良くなる。その一方で、途中停車したイタリアのミラノでオーガスタに会いに来た男性マリオ(レイモン・ジェローム)が、彼女とエルコーレの私生児だと知って眉をひそめるヘンリー。彼には叔母が無責任で自堕落な女性に思えたのだ。やがてオリエント急行は最終目的地のイスタンブールへ到着。ところが、ここで現金の密輸が当局にバレてしまい、オーガスタとヘンリーは現金を没収されたうえにパリへ強制送還されることとなる。このままではエルコーレが殺されてしまう。考えあぐねたオーガスタは、かつての愛人である大富豪ダンブリューズ(ホセ・ルイス・ロペス・ヴァスケス)を頼ろうと考えるのだが、そこで思いがけない事態が起きてしまう…。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17092199.jpg
イギリス中産階級の保守的で偏屈な価値観に凝り固まり、広い世界を知らないまま狭い地域社会に安住し、異性に愛を告白するような勇気もなく、挑戦することも冒険することもリスクを負うこともせずに生きてきた究極の凡人ヘンリーが、まるで正反対な叔母オーガスタにてんやわんやと振り回されていくうち、一度きりしかない人生を楽しむことの意味と歓びに目覚めていく。一方のオーガスタもまた、若い頃から心の赴くがまま自由気ままに人生や恋愛を謳歌し、モラルにも法律にも縛られないスリルと冒険の毎日を送って来たものの、甥っ子ヘンリーとの時間を通してこれまで自身が目を背けていた数々の責任(ヘンリーの出生にも関係する)と向き合い、人生のままならなさを思い知らされることとなる。ヨーロッパ縦断の大冒険と珍騒動は、どちらにとっても自身の生き方を見つめ直す機会だったというわけだ。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17090575.jpg
必要とあらば盗みや詐欺まで働くオーガスタに呆れたヘンリーが、「なんて不道徳なんだ!あなたもお友達も!まったく見下げた人たちだよ!」と憤慨したところ、それまで一度も怒らなかったオーガスタが鬼の形相になり、「私は人生で一度だって誰かを見下したことなどない。それなのに、いつも安全な場所に引きこもってリスクも取らず、身を切ることもなく、思い悩んだことも失ったことも愛したこともない、そのうえ夢すら持たないあなたに他人を見下す権利はない!」とブチ切れるシーンが印象的。人生は必ずしも思い通りにはならないが、だからこそ幸福を追求するべきだし、そのためには勇気を出して挑戦することも必要なのだ。もちろん、人間だから過ちだって犯すし、その因果応報を引き受ける覚悟もなくてはならないのだけれど。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17104824.jpg
もともとジョージ・キューカーはオーガスタ役に長年の盟友キャサリン・ヘプバーンを切望していたらしいのだが、しかし当時既に60代半ばのヘプバーンに回想シーンの若きオーガスタを演じることは無理があったため、プロデューサーの判断で37歳のオスカー女優マギー・スミスに白羽の矢が立ったという。優雅で勝ち気で自信に溢れたロマンチストな若き日のオーガスタと、自らの年齢にいまひとつ自覚の足りないエキセントリックな老婆となったオーガスタを、嬉々として楽しげに演じ分けるマギー・スミスはまさに水を得た魚といった感じだが、しかし同時にキューカーが彼女の中にヘプバーンの片鱗を垣間見ていることも感じられるだろう。実際、スミスの演じる老オーガスタには『シャイヨの伯爵夫人』('68)や『恋の旅路』('75)のヘプバーンが重なって見える。また、ヘプバーンと組んだ往年の『赤ちゃん教育』('38)や『フィラデルフィア物語』('40)を彷彿とさせるキューカーの軽妙洒脱なコメディ演出も、スミスの演技にヘプバーン的な魅力を纏わせているように思える。いずれにせよ、キューカー&スミスのコンビはとても相性がいい。そうそう、特殊メイクで高齢の老女になりきったマギー・スミスが、実際に年齢を重ねた近年の彼女そのものなのが面白い。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17095004.jpg
さらに目を奪われるのが、『アラビアのロレンス』('62)や『ドクトル・ジバゴ』('65)でオスカーに輝く大御所美術監督ジョン・ボックスによる、ベルエポックの香り漂うパリの豪華ホテルや高級レストランなどを再現した煌びやかなセットデザイン。とにかく細部まで手の込んでいること!これぞ贅沢の極みといった感じだ。さらに、アンソニー・パウエルとジャーミナル・ランジェルの手掛けた華麗なる衣装の数々にもうっとりとする。中でも、マギー・スミスの細くて華奢な体型を活かした流れるようなラインのドレスが素晴らしく、デザインを担当したランジェルは以降もスミスの衣装をたびたび手掛けることとなる。また、軽やかでロマンティックな音楽スコアを、'60年代にペチュラ・クラークとの名コンビで次々とヒットを飛ばし、イギリスのバート・バカラックとも呼ばれた名作曲家トニー・ハッチが書いているのも要注目である。なお、本作はイギリス、フランス、イタリア、モロッコ、スペイン、トルコ、ユーゴスラヴィアの7か国で撮影されており、異国情緒あふれるロケーションもまた楽しい。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17114111.jpg
オーガスタの甥っ子ヘンリーを演じているのは、ヒッチコックの『フレンジー』('72)の刑事役や『ネバーセイ・ネバーアゲイン』('83)のQ役で知られるアレック・マッコーエン。若い頃から地味な脇役一筋だった彼にとって、これが初めての大役となったわけだが、その地味さがヘンリーの役柄にピッタリだったと言えよう。ちなみに、彼は叔母役のマギー・スミスより9つ年上である。女心を弄ぶ詐欺師エルコーレ役のロバート・スティーブンスは、ビリー・ワイルダーの『シャーロック・ホームズの華麗なる冒険』('70)のホームズ役でお馴染み。ローレンス・オリヴィエの正統な後継者とも呼ばれた舞台の名優で、当時はマギー・スミスの旦那でもあった。そのほか、当時はまだルー・ゴセットを名乗っていたルイス・ゴセット・ジュニア、翌年の『アメリカン・グラフィティ』('73)で有名になるシンディ・ウィリアムズ、'40~'50年代に英国演劇界のマチネー・アイドルだったロバート・フレミング、ヌーヴェルヴァーグの名作『5時から7時までのクレオ』('62)のコリンヌ・マルシャン、マカロニ西部劇の悪役俳優アルド・サンブレルなどが出演している。
「Travels with My Aunt」 (1972)_f0367483_17110911.jpg
評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※オンデマンドDVD-R
カラー/ワイドスクリーン(2.4:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:109分/発売元:Warner Home Video
特典:オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2021-11-25 17:14 | 映画 | Comments(0)

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