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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「泥棒成金」 To Catch A Thief (1955)

「泥棒成金」 To Catch A Thief  (1955)_f0367483_04342844.jpg
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:アルフレッド・ヒッチコック
原作:デヴィッド・ドッジ
脚本:ジョン・マイケル・ヘイズ
撮影:ロバート・バークス
衣装:イーディス・ヘッド
音楽:リン・マレー
出演:ケーリー・グラント
   グレース・ケリー
   ジェシー・ロイス・ランディス
   ジョン・ウィリアムズ
   シャルル・ヴァネル
   ブリジット・オーベール
   ジャン・マルティネッリ
   ジョルジェット・アニー
アメリカ映画/106分/カラー作品




『裏窓』('54)や『知りすぎていた男』('56)と並んで、ヒッチコック黄金時代の幕開けを告げた名作のひとつである。イギリス時代の『三十九夜』('35)や『バルカン超特急』('38)がアメリカでも大ヒットしたことから、大物製作者デヴィッド・O・セルズニクの招きでハリウッドへ拠点を移したヒッチコック。『レベッカ』('40)や『海外特派員』('40)、『逃走迷路』('41)などをヒットさせ、ハリウッドでも好調な滑り出しを見せたヒッチコックだったが、しかし『パラダイン夫人の恋』('47)辺りから批評的にも興行的にも失敗作が続いていく。実際、48~'54年までのワーナー・ブラザーズ時代は、一部の例外を除いて確かに精彩を欠いており、当時のヒッチコック本人も「バッテリーを充電する必要がある」と漏らすほどの慢性的なスランプに陥っていた。

転機となったのは、ワーナー時代最後の作品となった『ダイヤルMを廻せ』('54)。原作はブロードウェイの舞台劇で、ヒッチコックにとってはワーナーとの契約を履行するため選んだ作品に過ぎなかったが、しかしその軽い気持ちがむしろプラスに作用したのか、「サスペンス映画の神様」と呼ばれるに相応しい往年の勘を取り戻して大成功。ヒッチコック映画最高のミューズ、グレース・ケリーとの出会いも大きかっただろう。その年、パラマウントへと移籍したヒッチコックは、彼のフィルモグラフィーの中でも恐らく3本指に入るであろう傑作『裏窓』('54)を発表。このパラマウント時代の4本は批評家から大絶賛され、『ハリーの災難』('56)こそ興行的にイマイチだったものの、それ以外の『裏窓』『泥棒成金』『知りすぎていた男』の3本はメガヒットを記録。ようやくスランプを脱したヒッチコックは、いよいよ最盛期へと突入していく事になる。

舞台は南フランスのリヴィエラ。高級ホテルの宿泊客を狙った宝石盗難事件が相次ぎ、引退したはずの宝石泥棒「キャット」ことジョン・ロビー(ケーリー・グラント)の仕業ではないかとマスコミが大々的に報じる。これにおかんむりなのが当のロビー本人。戦前のフランスで名うての宝石泥棒として鳴らしたアメリカ人のロビーだったが、戦時中に対独レジスタンスとして活躍したことからフランス政府に罪を許され、今では郊外の広い邸宅で悠々自適の引退生活を送っていた。新聞の記事によると、新たに現れた宝石泥棒は、かつてのロビーと全く同じ手口を使っているという。自分を良く知る何者かの犯行に違いない。そう考えたロビーは、事情聴取に押しかけた刑事たちを巻いて、かつての泥棒仲間ベルトラニ(シャルル・ヴァネル)が経営する海辺のレストランへと向かう。

久しぶりの再会ながら、あまり嬉しそうな顔を見せないベルトラニ。というのも、彼のレストランで働くフッサード(ジャン・マルティネッリ)など従業員はかつての仲間ばかりなのだが、みんな今回の事件がロビーの仕業だと思っており、彼のおかげで警察から共犯を疑われると迷惑がっていたのだ。ベルトラニたちの協力を得られないと分かったロビーは、警察の捜査網を潜り抜けながらひとりで真犯人を探すことに。そんな彼にベルトラニは、イギリスから来ている保険調査員ヒューソン(ジョン・ウィリアムズ)を紹介する。富裕層の多くは宝石に多額の保険をかけている。宝石泥棒の出没は保険会社としても由々しき問題で、一刻も早く真犯人を捕らえて事態を収めたかったのだ。ひとまずロビーが無実であることを納得して、偽キャットに狙われそうな顧客リストを渡すヒューソン。その中でロビーが目を付けたのは、アメリカから遊びに来ている石油王未亡人ジェシー(ジェシー・ロイス・ランディス)とひとり娘フランシス(グレース・ケリー)のスティーヴンス母娘だった。

アメリカ人の裕福な材木商を名乗って高級ホテルに宿泊し、ヒューソンの紹介でスティーヴンス母娘に接触するロビー。ジェシーの宝石を盗みに現れた偽キャットを捕らえようという算段だ。見るからに遊び人風の彼を面白がる母親ジェシーに対し、お高くとまったお嬢さまフランシスは無関心を装っていたが、しかし母親の目の届かない場所では積極的にアプローチする。若くて美人でリッチな彼女は男性から引く手あまたで、どこへ行っても言い寄ってくる男は絶えなかったのだが、それだけに自分を口説きもしないロビーに強く惹かれたのだ。そんな彼女のライバルが、以前からロビーに好意を抱いているフッサードの娘ダニエル(ブリジット・オーベール)。まだ10代という若さを武器にロビーへ猛アタックするダニエルだが、しかしフランシスは大人の余裕でロビーを魅了していく。しかも、彼女は最初からロビーの正体を見抜いていた。急速に距離を縮めていくロビーとフランシス。ところが、そんな時に母親ジェシーの宝石が盗まれ、警察ばかりかフランシスまでロビーの犯行を疑う。ジェシーとヒューソンの手助けで身を隠したロビーは、いよいよ真犯人へと迫っていくのだが…?

身に覚えのない宝石泥棒で警察に追われる主人公が、濡れ衣を晴らすために真犯人を追っていくという筋立ては、『三十九夜』から『逃走迷路』、『知りすぎていた男』に『北北西に進路を取れ』('59)などヒッチコック映画では定番のプロット。ここではそこに、ハンサムな独身貴族の主人公が鼻っ柱の強いブロンド美女に追いかけられるという第3の追跡劇(?)が加わり、大人向けの洒落たロマンティック・コメディの様相を呈していく。もともとコメディもロマンスもヒッチコック映画には欠かせない要素ではあるものの、しかしストレートなロマンティック・コメディとして作られた『スミス夫妻』('41)を例外にすれば、ヒッチコック映画でこれほどロマンスの要素が濃厚な作品は珍しいかもしれない。それだけに、サスペンスとして見るとスリルも緊張感もかなり希薄で、脚本にも都合の良すぎる展開が目立つことは否めない。とはいえ、ヒッチコックご贔屓の脚本家ジョン・マイケル・ヘイズのウィットに富んだセリフは実に愉しく、少々エキセントリックな登場人物にも人間的な魅力が溢れており、軽妙洒脱で洗練されたヒッチコックの演出にもワクワクとさせられる。

さらに、ハリウッドのスタジオではなく実際に南フランスのリヴィエラで撮影された、風光明媚でゴージャスなロケーションも大きな見どころだ。もともと天候や環境に左右されがちなロケ撮影を嫌い、全てをコントロール出来るスタジオ撮影を好んだヒッチコックにとって、本編の大部分をロケーション撮影に費やした映画はこれが初めてだった。実は前作『裏窓』の撮影終了後、長期休暇を取る予定だったヒッチコック。そんな折、パラマウント関係者からデヴィッド・ドッジの原作小説を紹介された彼は、ストーリーの内容よりも舞台設定に強く惹かれる。ヒッチコックが愛してやまない南フランスのリヴィエラが舞台だったからだ。これは休暇と仕事を兼ねる絶好のチャンスだと考えたヒッチコックは、お気に入りのスタッフとキャスト、さらには妻アルマと娘パットも連れてフランスへ乗り込んだのである。全編に漂うバカンス気分はそのためだろう。地中海に面したヨーロッパ有数の避暑地を舞台に、美男美女による恋の駆け引きと泥棒サスペンス、そして憧れの観光名所を存分に楽しむエレガントなバカンス映画。それこそが本作の醍醐味だ。

また、本作ではパラマウント映画が開発した高解像度のワイドスクリーン・システム「ヴィスタヴィジョン」を採用。おかげで、バカンス気分がさらに盛り上がることとなった。歴史ある古い村々が点在する南フランスの美しい自然風景を、ダイナミックなエリアルショットで捉えたカーチェイス・シーンなどは見事だ。撮影監督は『見知らぬ乗客』('51)から『マーニー』('64)まで至るヒッチコック作品の殆どを手掛けた盟友ロバート・バークス。明るいパステルカラーを配した開放的な昼間シーンと、エメラルドグリーンやブルーなどの照明を用いたミステリアスな夜間シーンの、巧みな色彩の使い分けが非日常的なゴージャス感を演出する。イーディス・ヘッドがデザインした女優陣のドレスも素晴らしく、中でもクライマックスの仮面舞踏会シーンは見ものだ。ちなみに、劇中でケーリー・グラントやグレース・ケリーが宿泊する高級ホテルは、映画スターや各国セレブの御用達ホテルとして有名なカンヌのカールトン・ホテル。カンヌ国際映画祭やMIPTV(国際テレビ番組見本市)の開催期間中はマスコミの取材場所としても使用され、筆者も5年ほど前にここでハリウッド・スターの独占インタビューをさせてもらった。

主演のケーリー・グラントとグレース・ケリーは25歳という年齢差ながら、これが初めての共演とは思えないほど相性がピッタリ。どちらもヒッチコックと組むのはこれが3回目で、慣れ親しんだ撮影チームとの仕事を楽しんでいる雰囲気が如実に伝わってくる。そういえば、保険調査員ヒューソン役のジョン・ウィリアムズも『パラダイン夫人の恋』と『ダイヤルMを廻せ』に続いて3度目のヒッチコック映画だ。ケリーの母親ジェシー役を演じているジェシー・ロイス・ランディスは、4年後の『北北西に進路を取れ』ではグラントの母親役を演じていたが、本作では彼女がまたいい味を見せてくれる。少々頭でっかちなお嬢様育ちの娘フランシスとは対照的に、酸いも甘いも噛み分けた気風の良い自由奔放なオバサマ。死んだ旦那が若い頃に詐欺師だったため、ロビーの正体が元宝石泥棒と知っても驚くどころか興味津々(笑)。偽キャットの正体を暴く作戦にも一役買う。なお、ダニエル役を演じるフランス女優ブリジット・オーベールは、劇中では10代という設定だが当時は既にアラサーで、実はグレース・ケリーよりも年上だった。なので、さすがに10代ですと言われてもちょっと無理がある。

巨匠ヒッチコックの代表作のひとつということもあって、わりと早い段階でブルーレイ化された本作だが、しかしその後の'13年に4K解像度で修復作業が施されたデジタル・リマスター版がリバイバル公開されている。これは'20年に日本でもブルーレイ発売されているのだが、とても65年以上も前の映画とは思えないくらいの超高画質。それだけに、リア・プロジェクションで合成されたシーンの不自然さがより一層のこと目立ってしまうのは玉に瑕だが、細部のディテールまできめ細かく鮮やかに再現された古き良き南仏の美しい風景に胸がときめく。今はだいぶくたびれてしまったからなあ。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:5.1ch Dolby TruHD・2.0ch Dolby Digital(英語以外)/英語・日本語・ドイツ語・スペイン語・フランス語・イタリア語/言語:英語・日本語・デンマーク語・ドイツ語・スペイン語・フランス語・イタリア語・オランダ語・ノルウェー語・フィンランド語・スウェーデン語/地域コード:ALL/時間:106分/発売元:NBCユニバーサルエンターテインメント
特典:ヒッチコック研究者ドリュー・キャスパーによる音声解説(日本語字幕なし)/「ヒッチコックという人物:「泥棒成金」の魅力」('20年制作・約7分)/「制作の裏側:ケーリー・グラントとグレース・ケリー」('09年制作・約6分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2022-01-10 00:10 | 映画 | Comments(0)

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