なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ゴードンの戦い」 Gordon's War (1973)

製作:ロバート・L・シャフェル
脚本:ハワード・フリードランダー
エド・スピールマン
撮影:ヴィクター・J・ケンパー
音楽:アンディ・バダール(アンジェロ・バダラメンティ)
アル・エリアス
主題歌:バーバラ・メイソン
出演:ポール・ウィンフィールド
カール・リー
デヴィッド・ダウニング
トニー・キング
ギルバート・ルイス
カール・ゴードン
ネイサン・ハード
グレース・ジョーンズ
アメリカ映画/90分/カラー作品


ベトナム戦争で数々の武勲を立てた戦場の英雄ゴードン・ハドソン(ポール・ウィンフィールド)は、数年ぶりにニューヨークへ戻って愕然とする。最愛の妻ロバータがコカインの過剰摂取で亡くなっていたのだ。そればかりか、生まれ故郷のハーレムでは麻薬組織が幅を利かせており、今やすっかり治安が悪化していた。妻を麻薬漬けにした売人ビッグ・ピンク(ネイサン・ハード)を探し出して半殺しの目に遭わせるゴードン。しかし、すぐに身元が割れて組織の連中から報復を受けてしまう。こうなったら麻薬組織を一網打尽にして、将来ある黒人の若者たちのためにもハーレムからドラッグを一掃しなくてはいけない。そう考えたゴードンは、ベトナム時代の部下ビショップ(カール・リー)にオーティス(デヴィッド・ダウニング)、ロイ(トニー・キング)を集めて自警団を結成する。

誰からも怪しまれないハーレムの廃墟ビルに作戦本部を設置し、ありとあらゆる武器を可能な限り集めるゴードンたち。次に売人たちの動向を監視しながら組織の密売ルートを把握し、まずはドラッグの配給網を断つという作戦に出る。売人の元締めルーサー(カール・ゴードン)を脅してハーレムから追い出した自警団は、さらに運び屋メアリー(グレース・ジョーンズ)を尾行してコカインの製造拠点を壊滅することに成功。当然ながらハーレムを仕切る麻薬組織の幹部スパニッシュ・ハリー(ギルバート・ルイス)も黙ってはいない。実は、麻薬組織の本部はマンハッタンのビジネス街にある白人の大企業。正体不明のボスから、すぐにでも事態を収拾するようせっつかれていたのだ。組織の張り巡らした情報網によって素性がバレてしまい、殺し屋に命を狙われるゴードンたち。もはや全面戦争しかないと考えた彼らは、一か八かの危険な賭けに出ることとなる…。

俳優に劇作家、映画監督として活躍する一方で公民権運動の活動家としても知られ、マーティン・ルーサー・キング牧師の右腕的な存在でもあったオシー・デイヴィス。『ロールスロイスと銀の銃』では黒人の同胞を食い物にする黒人の犯罪者に警鐘を鳴らしていたが、本作でも同様の自己批判的な問題意識を共有しつつ、結局のところハーレムの裏社会を我が物顔で仕切る黒人ボスとて、所詮は白人の資本家に雇われた小物に過ぎないという、当時のアメリカ社会の権力構造を浮かび上がらせていく。同胞や隣人同士が力を合わせて自分たちのコミュニティを守らねばどうする!というわけだ。ただまあ、テレビシリーズ『燃えよ!カンフー』のクリエイターだったエド・スピールマンと、同作のスタッフライターのひとりだったハワード・フリードランダーの手掛けた脚本は予定調和の連続で、ぶっちゃけ当時のテレビ犯罪ドラマの拡大版エピソードみたいな印象は否めないだろう。

その一方で、オシー・デイヴィスの演出はポップでコミカルな『ロールスロイスと銀の銃』から一転して『ダーティハリー』('71)的なリアリズムに徹しており、実際にニューヨークのハーレムで撮影されたエッジーなストリート感も功を奏している。中でも、『フレンチ・コネクション』('72)を彷彿とさせる終盤のカーチェイスはなかなかの出来栄え。高速道路ばかりか住宅街や団地をバイクと車が猛スピードで突っ切っていくシーンなど、よくこんなところで撮影出来たもんだと感心する。実際、当時のニューヨークは今と違って映画ロケの規制が緩く、わざわざ撮影許可を取る必要のないケースも多かったらしい。その代わり地元住民の協力は欠かせなかったため、本作はハーレムで最も影響力のあるムスリム系黒人住民からの全面サポートを得たそうだ。撮影中の食事も彼らが用意してくれたのだとか。もちろん、その代わり配給を担当する20世紀フォックスから地元住民への謝礼は支払われていたそうなのだが。いずれにせよ、当時量産されたブラックスプロイテーション映画の中では可もなく不可もなくだが、低予算の犯罪アクション映画として手堅い仕上がりではある。

ちなみに、劇中では裸の女性たちがブラックライトで照らされた部屋の中でコカインを袋詰めにする製造工場シーンも印象的なのだが、実際のコカイン製造工場でも同様のシステムで作業していたらしい。女性たちがパンツ一枚で袋詰めするのは、こっそりコカインを服に忍ばせて盗むことを防ぐため。白いコカインが目立つようにブラックライトで照らすのも同様の理由だ。作業する女性たちには爪を切ることも義務付けられていた。なぜなら、爪の間にコカインを詰めて少量ずつ盗み出すケースもあったから。それもブラックライトなら一発でバレる。いやあ、勉強になりますな(笑)。

そうそう、ブラックスプロイテーション映画の醍醐味のひとつであるファンキーな音楽スコアも大きな魅力。後に『ツイン・ピークス』('90)で有名になるアンジェロ・バダラメンティが、アンディ・バダール名義で作曲に参加しているのは嬉しい驚きだ。バダラメンティとリズム&ブルースというのは意外な組み合わせのように思えるが、実は'60年代からニーナ・シモンやデルフォニックス、メルバ・ムーアなどのソウル系アーティストにも楽曲を数多く提供している。「Yes, I'm Ready」や「Another Man」のヒットで有名なソウル歌手バーバラ・メイソンによるメロウ&スウィートな主題歌「Child of Tomorrow」も秀逸。また、元モータウンの作曲家ハーヴェイ・フクアが結成したR&Bバンド、ニュー・バースも挿入曲「Come On And Dream Some Paradise」を提供。このサントラ盤の充実ぶりも本作の要注目ポイントで、バダラメンティとアル・エリアスの手掛けた「Hot Wheels(The Chase)」はパブリック・エナミーがサンプリングネタに使ったり、ケミカル・ブラザーズがカバーしたりするほど有名だ。

主演は世界大恐慌下のアメリカ南部に生きる黒人一家の苦難を描く『サウンダー』('72)でアカデミー主演男優賞候補になった名優ポール・ウィンフィールド。『スーパーフライ』('72)のカール・リーや『ハーレムの首領』('73)のトニー・キング、『110番街交差点』('73)のギルバート・ルイスなどブラックスプロイテーション映画でお馴染みの役者も揃う。トニー・キングはイタリア映画『地獄の謝肉祭』('79)でもベトナム帰還兵を演じていた。また、グレース・ジョーンズが本作で映画デビューを飾っている。彼女は当時、トニー・キング夫妻とルームメイトだったそうだ。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※『サイゴン』('88)とカップリング
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:90分/発売元:Shout Factory/20th Century Fox
特典:撮影監督ヴィクター・J・ケンパーと俳優トニー・キングによる音声解説/オリジナル劇場予告編/テレビスポット2種類
by nakachan1045
| 2022-01-11 16:24
| 映画
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