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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「はめる/狙われた獲物」 Max et les ferrailleurs (1971)

「はめる/狙われた獲物」 Max et les ferrailleurs  (1971)_f0367483_06144714.jpg
監督:クロード・ソーテ
製作:レイモン・ダノン
原作:クロード・ネロン
脚本:クロード・ソーテ
   クロード・ネロン
   ジャン=ルー・ダバディ
撮影:ルネ・マテラン
音楽:フィリップ・サルド
出演:ミシェル・ピッコリ
   ロミー・シュナイダー
   ベルナール・フレッソン
   フランソワ・ペリエ
   ジョルジュ・ウィルソン
   ボビー・ラポワント
   フィリップ・レオタール
   ミシェル・クレトン
   ベティ・ベッケル
   アンリ=ジャック・ユエ
フランス・イタリア合作/112分/カラー作品




クロード・ソーテ監督にミシェル・ピッコリ、ロミー・シュナイダーという、名作『すぎ去りし日の…』('70)の黄金トリオが再集結した激渋なフレンチ・ノワールである。どちらかというと芸術性の高いロマンス映画や洒落たコメディ映画を得意とし、あまりノワール映画のイメージがないソーテ監督だが、しかし脚本家としては『ボルサリーノ』('70)などの犯罪物を少なからず手掛けているし、そもそも初期監督作の『墓場なき野郎ども』('60)や『L'Arme à gauche(独裁者の銃)』('65)なんかは純然たるノワール映画だった。なので、意外に馴染みのあるジャンルだったと言えよう。

主人公はパリ市警の刑事マックス(ミシェル・ピッコリ)。もともと裁判所の判事として刑事事件を取り扱っていたが、証拠不十分で殺人犯に無罪判決を下さねばならないケースにぶち当たり、自ら裁判官のエリートコースを棄てて刑事へと転職。実は裕福なワイン醸造業者の御曹司である彼は、働かずとも一生暮らしていけるほどの資産家だったが、その強い正義感に突き動かされて犯罪撲滅に人生を捧げていたのだ。犯罪捜査の最前線ならば、己の正義を全うできるかもしれない。そう考えて刑事となったマックスだったが、しかし実際に検挙するのはチンケなアマチュアばかり。狡猾で計算高いプロの犯罪組織は現場に証拠を残さないため、警察は手も足も出なかったのである。それでも執念深く諦めないマックスは、悪名高い強盗団を何年も追い続けていたのだが、いつも一歩先を越されて深い屈辱を味わっていた。

そんなある日、彼は若い頃の友人アベル(ベルナール・フレッソン)と17年ぶりに再会する。不幸な出来事が続いて苦労を重ねた彼は、仲間たちとパリ郊外で廃品回収業を営んでいるという。もちろん、それだけじゃ食っていけない。だから時々、同業者からこっそり鉄や銅を盗み出したり、廃車置き場からまだ乗れそうな車を持ち出しては売り捌いているんだと自嘲気味に話すアベル。それを聞いたマックスはこう考える。こういう連中がいずれは銀行強盗のような大それた犯罪に手を染めるのだろう。いや、絶対にそうなるはずだ。アベルと仲間たちの監視を主張するマックスだったが、しかし上司である署長(ジョルジュ・ウィルソン)は「まだ何もしていない一般人を疑うわけにはいかない」と消極的で、郊外を管轄する担当刑事のロシンスキー警部(フランソワ・ペリエ)も「確かに品行方正とは言えないが気のいい無害な連中だ」と取り合わなかった。

こうなれば、アベルたちに銀行強盗を計画させるしかない。それを現行犯で逮捕すれば警察の信用も回復するだろうし、世の犯罪者たちへの見せしめにもなる。なにより、これまで自分をバカにしてきた連中のことを見返せるはずだ。そう考えたマックスは、アベルの恋人である売春婦リリー(ロミー・シュナイダー)に目を付ける。リッチなバツイチの銀行支店長を名乗り、客を装ってリリーに接近するマックス。まずは外堀から埋めていこうという作戦だ。気前よく大金を払ってくれるくせに、指一本触れようとしないマックスをはじめは怪訝に思っていたリリーだが、どこか孤独な影の漂う彼に少しずつ親近感を抱いていく。マックスもまた、恵まれない境遇に育ちながらも明るく前向きで、売春婦の仕事に誇りを持っているリリーに共感みたいなものを覚える。はじめはリリーに入れ知恵をして、アベルたちが銀行強盗をするよう仕向けるつもりだったマックス。しかし、このリリーとの奇妙な信頼関係が想定外の障害となっていく…。

治安の悪化する'70年代初頭のパリを舞台に、犯罪撲滅に執念を燃やす一匹狼の頑固な中年刑事が、その強すぎる正義感と潔癖すぎる倫理観のあまり、単なる街の落ちこぼれ集団を銀行強盗犯に仕立て上げて検挙しようとする。モノトーンを基調とする凍てついた映像美やスタイリッシュでハードボイルドな演出はジャン=ピエール・メルヴィルを彷彿とさせるが、しかしメルヴィル作品のような犯罪者の孤独も美学もここには存在しない。本作でクロード・ソーテ監督が描かんとするのは、杓子定規な正義感と理想主義を振りかざして社会的弱者の過ちを断罪するエリートの独善的な傲慢と、社会の底辺で後ろ指を指されながらも肩を寄せ合いながら生きる落伍者たちの哀しみだ。

人生のツキに見放されて流転の人生を送り、今はパリ郊外でしがない廃品回収業を営むアベル。その仲間たちもまた、恵まれない境遇が原因で社会のレールから外れてしまった連中ばかりだ。生活のため盗みを働くことはあれど、それとて大した金にはならないため、およそ贅沢とは程遠いような貧しい暮らしをしている。それはアベルの愛人リリーも同様。幼くして戦争で親を亡くした彼女は、生きるために10代の頃から街角で体を売り、暴力的なポン引きから救ってくれたアベルと同棲している。苦労ばかりの毎日で唯一の楽しみと言えば、引退した娼館マダムが経営する場末のバーに集まって飲み明かすこと。しかし、みんなそれで満足している。確かに模範的な市民ではないかもしれないが、かといって責められるような言われもないだろう。

しかし、裕福な家庭に生まれてエリートコースを歩んできた立派な優等生マックスから見れば、アベルとその仲間たちみたいな落ちこぼれは犯罪者予備軍も同然だ。彼らがなぜ社会の底辺にまで堕ちてしまったのか、なぜチンケな犯罪に手を染めないと生きていけないのか。恵まれた人生ゆえに想像力の働かないマックスは、さらに犯罪を憎悪する強い正義感によって目が曇ってしまい、恵まれないアベルと仲間たちに同情するどころか社会に不要なゴミと彼らを見做し、警察の信頼と自らの名誉を回復するための人身御供にしようとする。その関係性は、さながらジャン・ヴァルジャンとジャベール警部のごとし。そういう意味で、これはフレンチ・ノワール版「レ・ミゼラブル」とも言えるだろう。ただし、ミイラ取りがミイラになってしまう皮肉な結末はだいぶ違うのだけれど。

警察の同僚からも疎まれるほど真面目一筋の堅物刑事マックス。その怪物的な冷淡さの裏に人間的な弱さを垣間見せながら、己の作り上げた「正義」の概念と矛盾する感情に足元をすくわれていく男の悲劇を演じるミシェル・ピッコリが素晴らしい。貧しくとも今が楽しければそれでいいと考えていた娼婦リリーが、裕福なエリートのマックスと知り合うことで別の世界の存在を初めて認識し、自身の生き方に疑問を抱いていく心の揺れ動きを巧みに演じたロミー・シュナイダーも魅力的だ。しかも、当時のシュナイダーは文字通り美しさの絶頂期!どちらも'70年代のクロード・ソーテ作品に欠かせないスターだが、この「美女と野獣」的な顔合わせの相性は抜群に良い。脇を固めるのもベルナール・フレッソンにジョルジュ・ウィルソン、フランソワ・ペリエと渋い名優ばかり。当時まだ映画デビューしたての新人だったフィリップ・レオタールが、マックスの相棒である若手刑事ロスフェルドを演じているのも要注目だ。

日本では残念ながら劇場未公開。VHS時代にレンタルビデオ発売されたのみの本作だが、アメリカでは既にブルーレイ化されている。35ミリのオリジナルネガから4K解像度でデジタル修復されたという本編は、適度なグレインを残しながらも滑らかでクリアな極上の高画質。文字サイズの小さめな英語字幕が若干見ずらいものの、表示時間に余裕があるのはとても助かる。なにしろ、海外盤のDVDやBDは日本盤と違って、どうやら字幕の表示時間にルールがないらしく、あっという間に切り替わってしまうことが多いので…。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:フランス語/字幕:英語/地域コード:A/時間:112分/発売元:Kino Lorber/Studiocanal
特典:映画史家サム・デーハンの音声解説/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2022-01-12 00:03 | 映画 | Comments(0)

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