なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Misterios de ultratumba(死後の世界の秘密)」 (1959)

製作:アルフレード・リプスタイン
脚本:ラモン・オボン
撮影:ヴィクトル・エレーラ
音楽:グスタフォ・C・カリヨン
出演:ガストン・サントス
ラファエル・ベルトラン
マピタ・コルテス
カルロス・アンシラ
カロリーナ・バレット
ルイス・アラゴン
ベアトリス・アギーレ
アントニオ・ラヘル
メキシコ映画/82分/モノクロ作品


人里離れたハシエンダで精神病院を経営するマザーリ博士(ラファエル・ベルトラン)とアルマーダ博士(アントニオ・ラヘル)。死後の世界に関心を寄せていた2人は、以前からある約束を交わしていた。それは、どちらか先に死んだ方が「向こう側」の様子を調べて報告し、生きている方を死後の世界へ招いて現世へ無事に戻す方法を探るというものだった。そして今、病に臥していたアルマーダ博士が臨終の時を迎える。アルマーダ博士が息を引き取る前に約束を再確認するマザーリ博士。それから数日後、ジプシー女(カロリーナ・バレット)の交霊術によってアルマーダ博士の亡霊が甦り、マザーリ博士に死後の世界を体験させて現世へ無事に戻す方法が見つかったと伝える。しかし、この計画を実行するには「恐ろしい代償」を支払わねばならないという。それでも本当に死後の世界を見たいのか?不安よりも好奇心が勝ったマザーリ博士は、迷うことなく未知の体験を希望する。するとアルマーダ博士の亡霊は、今から3ヶ月後の11月15日、夕刻9時に「ある出来事」が起きるから、それまで待つようにと伝えて姿を消す。

一方その頃、都会のナイトクラブで働く踊り子パトリシア(マピタ・コルテス)は、夢の中に出てきた若い男性とそっくりな人物を客席に見つけて狼狽する。その若い男性とは、医大を卒業したばかりのエドゥアルド・ヒメネス博士(ガストン・サントス)。彼もまた、夢の中で見たパトリシアが目の前で踊っていることに驚く。この不可解な出来事を恐ろしく感じたパトリシアは、ナイトクラブを辞めてどこか別の場所へ引っ越そうと考える。すると、そんな彼女の前に謎めいた男性が現れる。アルマーダ博士の亡霊だ。実は、パトリシアはアルマーダ博士の生き別れた娘なのだが、物心つく前に母親と家を出たため父親の顔を覚えておらず、そればかりか母親からはとっくの昔に父親は死んだと聞かされていた。父親からの伝言を届けに来たという目の前の人物が何者か知らぬまま、実は君の父親はつい最近まで生きていたと教わり、母親の形見の中にある小さな鍵をマザーリ博士へ届け、そこで父親の遺品を受け取るようにと指示されるパトリシア。どこにも行く当てがない彼女は、この機会に父親のことを知ろうと考える。

ハシエンダの精神病院を訪れたパトリシア。そこで彼女は、インターンとして働くことになったエドゥアルドと再会する。あまりの偶然に驚きつつも、お互いに運命を感じて惹かれあっていくパトリシアとエドゥアルド。ところが、父親ほど年の離れたマザーリ博士もまた、若いパトリシアに恋焦がれるようになっていく。彼女がエドゥアルドと恋仲であることに気づかないまま、一方的に彼女との結婚を思い描くマザーリ博士。予てから死後の世界の探索に反対していた助手のゴンザレス博士(ルイス・アラゴン)は、パトリシアのためにも危険な真似は止めるよう懇願する。そんな折、精神病患者ロサリオ(ベアトリス・アギーレ)が暴れたせいで、看護スタッフのエルメル(カルロス・アンシラ)が顔面に大怪我を負うという事件が発生する。やがて、11月15日の夜9時が訪れるのだが、復讐心に駆られたエルメルがロサリオを殺害して現場から逃走。第一発見者のマザーリ博士に殺人容疑がかけられ、なんと裁判で死刑判決が出てしまう。これがアルマーダ博士の言っていた「死後の世界を体験する方法」なのか?ならば死刑になってもすぐに生き返ることが出来る。そう高をくくっていたマザーリ博士だったが、しかし予想だにしない代償を支払わねばならなくなる…。

確かに生き返ることが出来るとは言ったが、しかし元の体に戻れるとは約束していない…というのがストーリーのミソ。一見したところ無関係に思えるような数々の出来事が、やがてショッキングなクライマックスへ向けて意味を成していくという作劇構成はとても上手く、なおかつ肝心の「死後の世界」を最後まで一切見せず、あえて観客の想像に委ねるという判断も非常に賢明だ。ファンタジーとリアリズムの境界線を巧みに行き来する脚本は極めてインテリジェントである。光と影のコントラストを強調した、ドイツ表現主義的な怪奇幻想ムードがまた格別。ディテールの描写が丁寧過ぎるため全体がスローテンポで、雰囲気のわりにいまひとつ怖くないという難点はあるものの、クラシカルな正統派ゴシック・ホラー映画としてなかなか良く出来た作品だ。

主演はメキシコの有名な元闘牛士で、同じくメンデス監督の西部劇ホラー『El grito de la muerte(死の叫び)』('59)にも主演したガストン・サントス。ただ、実質的な主役はマッドサイエンティストのマザーリ博士を演じているラファエル・ベルトランである。メキシコの犯罪アクション映画『Raffles』('58)で、タイトルロールのハンサムでダンディな紳士強盗ラッフルズを演じた二枚目スター。本作では死後の世界への好奇心に取り憑かれ、正常な判断が出来なくなっていくインテリの狂気を大熱演している。ヒロインのパトリシアを演じているマピタ・コルテスは当時19歳のプエルトリコの出身で、ミス・ユニバースのプエルトリコ代表にも選ばれた美女。「ボレロの王様」と呼ばれた大物歌手ルチョ・ガティカの奥さんでもあった。

なお、アメリカでは『The Black Pit of Dr.M(M博士の黒い落とし穴)』というタイトルで、グラインドハウスやドライブインシアター向けに配給された本作。古いメキシコ映画の多くがそうであるように、オリジナルのネガフィルムは残っていないらしく、現存するデジタルリマスター版は複数の上映用プリントをソースにしているという。長いことメキシコ以外では見るチャンスの少ない幻の映画だったが、'05年にアメリカのCasa NegraレーベルからDVDがリリースされている。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/時間:82分/発売元:Casa Negra/Panik House Entertainment
特典:IVTV社長フランク・コールマンによる音声解説/フォト・エッセイ「Mxican Monsters Invade the U.S.」/21st Century Artによるロック・ビデオ/フェルナンド・メンデス監督のバイオグラフィー/キャスト・バイオグラフィー/英語吹替版の脚本/オリジナル劇場予告編/ポスター&スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2022-01-16 00:42
| 映画
|
Comments(0)
以前の記事
2026年 04月2026年 03月
2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
最新のコメント
| “Hanzo The R.. |
| by Matemu at 07:49 |
| > Matemuさん .. |
| by nakachan1045 at 22:54 |
| 前回の丁寧な御回答に感謝.. |
| by Matemu at 13:32 |
| > にこらさん 書き込.. |
| by nakachan1045 at 08:59 |
| (3)日本におけるシャン.. |
| by にこら at 23:46 |
| なかざわ様、 最近シャ.. |
| by にこら at 23:45 |
| > Matemuさん .. |
| by nakachan1045 at 13:14 |
| 2024/6/5に発売さ.. |
| by Matemu at 05:08 |
| この映画はデンマーク軍が.. |
| by na at 08:27 |
| ランドマスターは本当にか.. |
| by na at 17:53 |
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
ハリウッド映画(546)70年代(357)
ホラー映画(288)
60年代(271)
80年代(217)
イタリア映画(186)
アクション(132)
ダンス(132)
ドラマ(122)
ポップス(113)
50年代(108)
サスペンス(107)
イギリス映画(107)
カルト映画(95)
30年代(70)
70年代音楽(63)
日本映画(61)
ロマンス(60)
40年代(59)
2020年代音楽(50)
80年代音楽(48)
SF映画(46)
コメディ(46)
フランス映画(44)
ノワール(41)
ソウル(40)
90年代(40)
ジャッロ(39)
1920年代(37)
西部劇(35)
K-POP(34)
香港映画(32)
エロス(28)
ドイツ映画(26)
スペイン映画(26)
ファンタジー(23)
サウンドトラック(21)
ミュージカル(21)
歴史劇(21)
ワールド映画(21)
戦争(20)
2010年代音楽(20)
アドベンチャー(19)
ラテン(19)
テレビ(18)
メキシコ映画(18)
イタリア映画音楽(18)
2000年代音楽(18)
90年代音楽(18)
アニメーション(17)
1910年代(16)
ルーマニアン・ポップス(15)
スパイ(14)
ロシア映画(13)
アナウンス(11)
時代劇(10)
60年代音楽(10)
ラウンジ(9)
カナダ映画(9)
ロック(9)
フィリピン映画(9)
ロシア音楽(8)
バルカン・ポップス(7)
青春(7)
ジャズ(7)
フレンチ・ポップ(6)
シットコム(5)
EDM(5)
フリースタイル(5)
連続活劇(4)
2010年代(4)
シャンソン(3)
2000年代(3)
J-POP(3)
LGBT(3)
イタロ・ディスコ(3)
パニック(3)
フランス映画音楽(2)
韓国映画(2)
アンダーグランド(2)
トルコ映画(2)
カントリー・ミュージック(2)
00年代音楽(2)
オーストラリア映画(2)
カントリー(1)
インド映画(1)
伝記映画(1)
文芸(1)
民族音楽(1)
2020年代(1)
ブラジル音楽(1)
1920年代音楽(1)
ヒップホップ(1)
サルサ(1)
ギリシャ音楽(1)
音楽DVD(1)
音楽ライブ(1)
ギャング(1)
ブログパーツ
最新の記事
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-04-17 00:42 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-04-16 01:46 |
| 「Intégrale Pat.. |
| at 2026-04-15 00:49 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-04-14 00:11 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-04-13 01:43 |

