人気ブログランキング | 話題のタグを見る

なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「ターヘル・アナトミア/悪魔の解体新書」 Im Schloß der blutigen Begierde (1968)

「ターヘル・アナトミア/悪魔の解体新書」 Im Schloß der blutigen Begierde  (1968)_f0367483_06493623.jpg
監督:パーシー・C・パーカー(アドリアン・ホーフェン)
製作:アドリアン・ホーフェン
   ピエル・A・カルミナッチ
脚本:エリック・マルティン・シュニッツラー
   パーシー・C・パーカー(アドリアン・ホーフェン)
撮影:ホルヘ・エレーロ・マルティン
   フランツ・ホファー
音楽:ジェリー・ファン・ルーイェン
出演:ジャニーヌ・レイノー
   ハワード・ヴァーノン
   ミシェル・ルモワン
   エルヴィラ・ベルンドルフ
   クラウディア・ビューテヌート
   ヤン・ヘンドリクス
   ピエル・A・カルミナッチ
   ウラジーミル・メーダー
西ドイツ映画/83分/カラー作品




知る人ぞ知る西ドイツのカルト映画監督アドリアン・ホーフェンが手掛けた、かなりエロティックなゴシックホラー映画である。もともとオーストリアの出身で、'50~'60年代に西ドイツ映画界の二枚目スターとして活躍したホーフェン。ロミー・シュナイダーと共演した『女王さまはお若い』('54)の王子様役をはじめ、主にハンサムな好青年を演じて人気を博したものの、本人は二枚目役ばかりをあてがわれることに辟易していたらしい。そこで、映画製作に関心を持つ大富豪の資産家ピエル・A・カルミナッチと組んで、自らの製作会社アキーラ・フィルムを設立。プロデューサー兼俳優としてジェス・フランコ監督の『濡れた恍惚』('68)や、マイケル・アームストロング監督の『残酷!女刑罰史』('70)などを製作する傍ら、自ら監督業にも進出して低予算のエクスプロイテーション映画を撮るようになる。本作もその中のひとつだった。

舞台は現代のオーストリア。プレイボーイとして知られるブラック男爵(ミシェル・ルモワン)のパーティに参加した女性ヴェラ(ジャニーヌ・レイノー)は、男爵から田舎の別荘へ遊びに来ないかとナンパされ、妹エレナ(エルヴィラ・ベルンドルフ)とその恋人ロジャー(ピエル・A・カルミナッチ)、さらにその親友ジョージ(ヤン・ヘンドリクス)を誘うことにする。ジョージはブラック男爵の婚約者マリオン(クラウディア・ビューテヌート)の兄で、そのマリオンも一緒に男爵の別荘へ向かうことになる。ブラック男爵とエレナの2人が先に到着するのだが、そこで本性を著した男爵がエレナをレイプしてしまう。

その後、ヴェラやロジャーたちも遅れて別荘へと到着。パーティの続きで賑やかに騒いでいると、話題は近隣に住む名門貴族サクソン伯爵(ハワード・ヴァーノン)のことになる。かつてこの付近一帯を支配していた伯爵家。ブラック男爵の別荘も、もとはといえばサクソン伯爵の所有だった。しかし、近隣住民との付き合いは殆どなく、伯爵家の人々は滅多に城から出てくることもないという。そんなサクソン伯爵の一人娘が、3日前に森で何者かにレイプされたらしい。その話を聞いて先ほどの出来事がフラッシュバックしたエレナは、いたたまれなくなって別荘を飛び出してしまう。エレナの行方を探すヴェラやブラック男爵たち。やがて夕暮れ時となり、一行はサクソン伯爵の城へと辿り着く。

落馬して気を失ったエレナは伯爵家の城に担ぎ込まれていた。ヴェラたちを迎え入れたサクソン伯爵は、娘のカタリーナ(クラウディア・ビューテヌート2役)が暴行を受けたショックで亡くなったことを打ち明ける。彼によると、伯爵家は先祖代々呪われているのだという。それは300年以上も前のこと。サクソン伯爵の先祖は三十年戦争に出征したのだが、その留守中に娘が3人の暴漢に襲われてレイプされ、ショックのあまり亡くなってしまった。娘の存在を煙たがった後妻が暴漢を招き入れたと知った伯爵は、怒りのあまり後妻を殺害して絞首刑となってしまう。それ以来、伯爵家では不幸な出来事が絶えないのだという。ヴェラを一目見て、先祖の後妻の肖像画に似ていると語るサクソン伯爵。そこへマリオンとジョージが遅れてやって来るのだが、伯爵はマリオンが娘カタリーナと瓜二つであることに驚く。そのマリオンが森で怪我をしたこともあって、一行を城へ泊めることにするサクソン伯爵。しかし、その裏には別の目的があった。実は優れた外科医でもあるサクソン伯爵は、マリオンの心臓を移植して娘カタリーナを蘇らせようと考えていたのだ…!

『顔のない眼』と『フランケンシュタイン』を足して割ったようなプロットはどこまでも平凡。似たような話のホラー映画をどれだけ見てきたことか。しかも、全体的にグロよりもエロが圧倒的に多めで、ゴシックホラー風味のソフトポルノという印象が強い。あられもない女性のヌードや暴力的なレイプシーンは盛りだくさん。性描写について言えば、'60年代の一般作映画としてかなり大胆かつ過激だ。しかし、肝心のホラー要素はだいぶ控えめ。確かに伝奇的なゴシックムードはたっぷりなのだが、しかし本当にムードだけに終始している。一応、本物の心臓外科手術シーンの記録映像を劇中で使用しており、まあ、それはそれでショッキングなのかもしれないが、ホラー映画ファンが求めるグロ要素とはちょっと違うだろう。

しかも、メインプロットとサブプロットの交通整理が上手く出来ていない…というより、ちゃんと説明すべきところと省略しても構わないところの配分がおかしいため、恐らく作り手の意図とは関係なく観客の誤解や混乱を招くような展開が少なくない。一説によるとジェス・フランコが脚本にタッチしていたと言われるが、なるほど、さもありなんといった感じではある。ストーリーの独特な語り口やテンポ、さらには「背徳的なセックス」への強いこだわりも含めて、なんとなくジェス・フランコ映画っぽい印象を受けることは間違いないだろう。ちょうど当時のホーフェン監督は、立て続けにフランコ作品をプロデュースしていたので、少なからず影響を受けた可能性は否定できまい。

そんな本作の最大の見どころは、主な舞台となる中世の古城の幻想的かつ神秘的な雰囲気である。ロケ地はオーストリア北東部ニーダーエスターライヒ州のレオベンドルフに実在するクレウゼンシュタイン城。ここは12世紀に建てられたという由緒正しい城なのだが、しかし17世紀半ばの三十年戦争に巻き込まれ、城の大部分が破壊されてしまった。現在のクレウゼンシュタイン城は、長いこと廃墟となっていた城の残骸を再利用して19世紀半ばに再建されたもの。その際、ヨーロッパ各地より集められた古い城のパーツを建物や内装に移植したことから、まるで中世ヨーロッパにおける建築美術の集大成とも呼ぶべき独特な美しさを備えているのだ。本作では、その「本物」ならではの歴史の重みを存分に活かし、スタジオ撮影では決して表現できない悪夢的な映像美を堪能させてくれる。これだけでも一見の価値はあると言えよう。

主演は『濡れた恍惚』をはじめ、当時のジェス・フランコ監督作品で活躍したフランス女優ジャニーヌ・レイノー。不道徳な快楽主義者の色情狂という設定は、まさに彼女が最も得意とした役柄である。そのほか、彼女の実生活の夫だったミシェル・ルモワンや怪優ハワード・ヴァーノンといったフランコ作品の常連組が登場。これもまた、本作がジェス・フランコ映画っぽい印象を与える理由であろう。1人2役を演じるクラウディア・ビューテヌートは、ジャッロ映画の名作『ソランジェ 残酷なメルヘン』(72)で犠牲者のひとりブレンダを演じていた女優さん。エレナ役のエルヴァイラ・ベルンドルフはミス・ドイツ出身の元トップモデルで、ハリウッド映画『悲しみよさようなら』('57)にも端役で出演していたそうだが、'18年に母親の莫大な遺産を巡って争っていた実の兄にワインボトルで撲殺されている。

なお、日本では'80年代にレンタルビデオとして発売されたきりの本作だが、本国ドイツでは'17年にノーカット・バージョンのデジタル・リマスター版がブルーレイ化されている。これはオリジナルのカメラネガではなく、そこからコピーされたインターポジをマスターに使用している。というのも、現存するカメラネガは輸出用のインターポジを作成後、ドイツ国内での公開用に再編集が施されており、その際にカットされたセックス・シーンやバイオレンス・シーンのフィルムは処分されてしまったらしい。筆者が所有する米Severin Films社のアメリカ盤ブルーレイも、ドイツ盤と同じデジタル・リマスター版を使用しているが、どうやら独自の色調補正がなされている模様だ。適度なグレインを残した滑らかなフィルムの質感と、濃厚で鮮やかな色彩に目を奪われるなかなかの高画質。アドリアン・ホーフェンの未亡人と息子が振り返る撮影舞台裏エピソードの数々がまたとても興味深い。

評価(5点満点):★★★☆☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・ドイツ語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:83分/発売元:Severin Films
特典:未亡人ジョイス・ホーフェンと息子ペーシー・ホーフェンのインタビュー('17年制作・約20分)/未亡人ジョイス・ホーフェンと息子パーシー・ホーフェンのQ&A('17年制作・約31分)/ロケ地再訪ドキュメンタリー('17年制作・約13分)/オリジナル劇場予告編集(3種類)/タイトル・クレジット別バージョン集(4種類)/VHS用エンディング/スチル・ギャラリー



by nakachan1045 | 2022-01-17 01:28 | 映画 | Comments(0)

カテゴリ

全体
映画
音楽
未分類

以前の記事

2026年 04月
2026年 03月
2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月

お気に入りブログ

なにさま映画評(跡地)

最新のコメント

> キルゴア二等兵さん ..
by nakachan1045 at 23:09
>今でも日本で見ることの..
by キルゴア二等兵 at 16:55
“Hanzo The R..
by Matemu at 07:49
> Matemuさん ..
by nakachan1045 at 22:54
前回の丁寧な御回答に感謝..
by Matemu at 13:32
> にこらさん 書き込..
by nakachan1045 at 08:59
(3)日本におけるシャン..
by にこら at 23:46
なかざわ様、 最近シャ..
by にこら at 23:45
> Matemuさん ..
by nakachan1045 at 13:14
2024/6/5に発売さ..
by Matemu at 05:08

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ

検索

タグ

(547)
(358)
(288)
(272)
(217)
(186)
(134)
(132)
(122)
(114)
(108)
(107)
(107)
(95)
(70)
(63)
(61)
(61)
(59)
(50)
(50)
(46)
(46)
(45)
(41)
(41)
(40)
(39)
(37)
(35)
(34)
(32)
(28)
(26)
(26)
(23)
(21)
(21)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(19)
(18)
(18)
(18)
(18)
(18)
(17)
(16)
(15)
(15)
(13)
(11)
(10)
(10)
(9)
(9)
(9)
(9)
(8)
(7)
(7)
(7)
(6)
(5)
(5)
(5)
(4)
(4)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)

ブログパーツ

最新の記事

「0011ナポレオン・ソロ/..
at 2026-04-21 00:36
「雨のエトランゼ」 Un b..
at 2026-04-19 00:31
DANCE CLASSICS..
at 2026-04-18 00:16
DANCE CLASSICS..
at 2026-04-17 00:42
DANCE CLASSICS..
at 2026-04-16 01:46

外部リンク

ファン

ブログジャンル

映画
ライター