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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「いそしぎ」 The Sandpiper (1965)

「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_03255602.jpg
監督:ヴィンセント・ミネリ
製作:マーティン・ランソホフ
原案:マーティン・ランソホフ
脚色:アイリーン・カンプ
   ルイス・カンプ
脚本:ダルトン・トランボ
   マイケル・ウィルソン
撮影:ミルトン・クラスナー
衣装:アイリーン・シャラフ
音楽:ジョニー・マンデル
出演:エリザベス・テイラー
   リチャード・バートン
   エヴァ・マリー・セイント
   モーガン・メイソン
   チャールズ・ブロンソン
   ロバート・ウェッバー
   トリン・サッチャー
   トム・ドレイク
   ジェームズ・エドワーズ
   ダグ・ヘンダーソン
アメリカ映画/117分/カラー作品




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合計11本もの映画で共演したエリザベス・テイラーとリチャード・バートンの黄金コンビが、MGMを代表する巨匠ヴィンセント・ミネリと組んだ恋愛メロドラマである。映画史上屈指の超大作『クレオパトラ』('63)の撮影で知り合い恋に落ち、既婚者同士のダブル不倫としてマスコミを大いに賑わせたテイラーとバートン。なにしろ、当時のアメリカはまだ浮気も離婚も重大なタブーだった時代。ハリウッドのトップスター同士の不倫ロマンスは世紀の一大スキャンダルだったのだ。しかし、その話題性がむしろ呼び水となってテイラーとバートンの共演作は次々に大ヒット。当時の2人はハリウッドきってのパワーカップルだった。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06242194.jpg
そして、'64年3月15日にようやく結婚をした2人にとって、初めて夫婦として共演することになった作品が、この『いそしぎ』('65)である。興行収入1300万ドル(現在の金額に換算すると約1億1000万ドル)を超える大ヒットを記録した本作は、テイラー&バートン・コンビの興行的な価値の高さを改めて世界に知らしめたわけだが、その一方で当時の批評家からは軒並み酷評されてしまったという。確かに、基本的にはハリウッド流のベタな不倫ドラマ。批評家受けが悪かったのは分からなくもない。だが、ビート・ジェネレーションからヒッピー・ムーブメントへと移行していく過渡期にあった'60年代半ばの、アメリカ社会における価値観の揺れ動きを敏感に捉えたストーリーは興味深く、時代の空気を封じ込めたタイムカプセルとして一見の価値があるように思う。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06254416.jpg
舞台はカリフォルニア州のセントラルコーストに位置する沿岸部ビッグサー。手付かずのままの雄大な自然に囲まれたこの地域は全米屈指の景勝地とされ、第二次世界大戦以降は文明社会と決別した芸術家やナチュラリストたちが、自由と癒しを求めて集まってくるアート・コロニーとなっていた。そんな地上の楽園ビッグサーの小さなコッテージに暮らす画家ローラ・レイノルズ(エリザベス・テイラー)は、幼い息子ダニー(モーガン・メイソン)を一人で育てるシングルマザー。もともとインディアナポリスの裕福な家庭に生まれ育ったお嬢様だったが、しかし保守的な上流階級や男性社会の息苦しさに耐えかね、恋人との子供であるダニーを出産すると実家を飛び出し、ニューヨークで絵を学んだあとにビッグサーへ移住したのだ。息子だけは世間の常識に囚われず自由に育てたい。そう考えた彼女はダニーを学校へ通わせず、自分なりの方法で教育していたのだが、しかしたびたび問題を起こすダニーには常識を学ぶ必要があると考えた地方判事トンプソン(トリン・サッチャー)の判断で、息子をキリスト教系の全寮制男子校へ預けねばならなくなる。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06222630.jpg
無神論者でもあるローラはこれに猛反発するが、しかし判事から「さもなくば少年院行き」と脅されて仕方なく了承することに。ダニーが学ぶことになったのは米国聖公会系の私立サンシメオン校。校長のエドワード・ヒューイット(リチャード・バートン)は良くも悪くも平均的な常識人で、教師を務める妻クレア(エヴァ・マリー・セイント)とも仲睦まじいおしどり夫婦だ。2人の息子も大学生となった。かつては教育の理想に燃えて学校を創設したエドワードだったが、しかし今では資金集めや人脈作りなどのビジネスに忙殺され、生徒たちのことは妻に任せっきりとなっている。厄介な母親の息子を引き受けることになったと肩をすくめるエドワード。だが、ダニーがチョーサーの「カンタベリー物語」を中英語で暗唱できると知って驚く。問題児どころじゃない。既に上級生並みの高い教養を身につけている秀才だったのだ。
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ダニーの教育方針を相談するため、たびたびローラのもとを訪れるようになるエドワード。自由な精神に基づく独自の道徳基準を持つローラと、保守的で杓子定規な道徳観念に染まったエドワードは文字通り水と油で、はじめのうちは意見の対立が絶えなかった。しかし、やがてエドワードは偽善的な常識に疑問を抱いて物事の本質を見極めようとするローラの理想主義的な純粋さに惹かれていく。また、女性を所有物のように扱って支配しようとする家父長的な男ばかりを見てきたローラもまた、たとえ考え方は違っても自分を対等の人間と見做す公明正大な紳士エドワードに好意を抱くようになる。いつしかお互いの愛を確認し、男女の一線を越えてしまうローラとエドワード。そんな2人の関係を、サンシメオン校の有力な支援者である富豪ヘンドリクス(ロバート・ウェッバー)が気付いてしまう。実はローラのニューヨーク時代の愛人だったヘンドリクス。ローラと寄りを戻そうとして拒絶された彼は、嫉妬のあまり2人の関係をクレアにバラしてしまう…。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06225750.jpg
さながら、保守的な旧世代とリベラルな新世代の対立と和解をモチーフにしたようなラブストーリー。まあ、ソープオペラもどきのベタな展開は、よくある不倫メロドラマの域を出ていないものの、しかしそこは本作において重要なポイントではないだろう。資本主義に毒され形骸化したアメリカの伝統的良識を体現するような聖職者エドワードは、ビートニックの洗礼を受けたカウンターカルチャーの申し子とも呼ぶべき自由人ローラと愛し合うことで、忘れかけていた若き日の初心へと立ち戻っていく。一方のローラもまた、世事に賢いエドワードとの交流の中で社会の複雑さを改めて理解し、たとえ不本意でも時には現実と折り合いを付けねばならないことを学ぶ。古いアメリカと新しいアメリカが衝突しながらも求め合い、やがて傷の癒えた鳥「いそしぎ」のごとく成長して自由に飛び立っていく。それこそが、来るべき'60年代後半の「革命の時代」を予見したような本作の核心的なテーマだと言えよう。
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売れない無名画家であるローラのため、良かれと思って建築中の大聖堂の壁画制作を依頼したエドワードが、反対に「それだけの大金があるのなら、なせ貧しい人たちのために使わないの?」とローラに指摘され、思わず言葉を詰まらせてしまうシーンなどは象徴的だ。寄付を募ってサンシメオン校を一流の名門校にするため、政治家や富裕層に取り入ることばかりに腐心していたエドワードは、自分がいつの間にか肝心の「神の教え」をおろそかにしていたことに気づかされる。むしろ、聖フランチェスコのごとく清貧を貫く無神論者ローラの方が、ある面でよっぽど聖職者らしいように思えるのは全くもって皮肉な話であろう。
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このローラという女性がまた、色々な面で時代の先端を行くようなキャラクターだ。女性の経済的自立と男女同権を標榜するフェミニストであり、現代文明を否定して自然との調和を求めるエコロジストであり、結婚制度に縛られない男女の自由な恋愛を実践するフリーセックス主義者でもある彼女は、まさしくヒッピーの先駆的な存在だと言えよう。少女時代から周囲の男性に性的な眼差しを向けられ続けたローラが、その息苦しさに耐えられなかったことを告白するシーンなどは、幼い頃より美少女スターとして世間の注目を浴びながら育ったエリザベス・テイラー自身の告白のようでもあり、同時に昨今の日本でもようやく当事者たる女性たちが声をあげるようになった「女性の性的客体化」の問題提起でもある。一般的にモテることを勲章のように誇る傾向が強い男性には理解を得づらいテーマだが、しかし近年になってビョルン・アンドレセンの告白が欧米で大きな話題となったように、よく知りもしない相手から一方的に性的な欲望の対象とされることは、実のところ女性だけでなく男性にとっても恐怖や苦痛となり得る。'65年の時点で、この問題にまで斬り込んでいたというのは先見の明だ。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06215520.jpg
ダグラス・サークを彷彿とさせるヴィンセント・ミネリ監督の演出は、まさにハリウッド・メロドラマの王道といった趣き。赤狩りのブラックリスト入りから解放されたダルトン・トランボとマイケル・ウィルソンの脚本が、早くも次世代を見据えていたのに対し、MGMミュージカル黄金時代の立役者であるミネリ監督の演出は、恐らく劇場公開当時でも少々古めかしく感じられたかもしれない。まあ、それもまた今となっては大きな魅力なのだが。ロケ地であるビッグサーの大自然をシネスコサイズのワイド画面いっぱいに捉えた映像の美しさも見どころだ。ちなみに、劇中でチャールズ・ブロンソン演じる彫刻家が制作しているエリザベス・テイラーの木製彫像は、実際にビッグサー在住だった彫刻家エドワード・カラの手によるもの。また、本作はジョニー・マンデル作曲、ポール・フランシス・ウェブスター作詞のテーマ曲「Shadow of Your Smile(いそしぎのテーマ)」があまりにも有名で、'65年度のアカデミー賞で最優秀歌曲賞に選ばれたほか、アンディ・ウィリアムスやトニー・ベネット、クロディーヌ・ロンジェにジョニー・マシスなど数多くのアーティストがカバーしている。
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基本的にエリザベス・テイラーとリチャード・バートンの映画であるため、脇を固める役者陣にはこれといった見せ場は用意されていない。そのため、エドワードの妻役を演じるエヴァ・マリー・セイントも残念ながら宝の持ち腐れという印象。ロバート・ウェッバーも単なる憎まれ役以上でも以下でもない。ちなみに、この2人は本作からおよそ20年後、テレビシリーズ『こちらブル―ムーン探偵社』でシビル・シェパード演じる主人公マディの両親役として再共演している。そのほか、エドワードに嫉妬する彫刻家コスにチャールズ・ブロンソン、ローラの親友でもある黒人男性ラリー役に『勇者の家』('48)のジェームズ・エドワーズ。また、ローラの息子ダニー役のモーガン・メイソンは英国の名優ジェームズ・メイソンの息子で、現在は'80年代の人気歌手ベリンダ・カーライルの旦那さんだ。
「いそしぎ」 The Sandpiper  (1965)_f0367483_06253410.jpg
評価(5点満点):★★★★☆



参考DVD情報(アメリカ盤)※日本盤もあり
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語・フランス語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/時間:117分/発売元:Warner Home Video
特典:ドキュメンタリー「Stature for the Sandpiper」('65年制作・約4分)/ドキュメンタリー「The Big Sur」('65年制作・約9分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2022-01-19 06:30 | 映画 | Comments(0)

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