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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「Red Ensign」 (1934)

「Red Ensign」 (1934)_f0367483_20173747.jpg
監督:マイケル・パウエル
製作:ジェローム・ジャクソン
脚本:ジェローム・ジャクソン
   マイケル・パウエル
台詞:L・デュ・ガード・ピーチ
撮影:レスリー・ローソン
出演:レスリー・バンクス
   キャロル・グッドナー
   アルフレッド・ドレイトン
   フランク・ヴォスパー
   キャンベル・ガラン
   パーシー・パーソンズ
   フューラス・レウェリン
   ヘンリー・オスカー
   エレン・ジーイエス
   ドナルド・キャスロップ
   ヘンリー・ケイン
イギリス映画/66分/モノクロ作品




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エメリック・プレスバーガーとのコンビで『黒水仙』('47)や『赤い靴』('48)、『ホフマン物語』('51)などの傑作を世に送り出した英国映画界の名匠マイケル・パウエル。彼が映画界へと足を踏み入れた'20年代末~'30年代のイギリス映画界は、黄金時代を迎えたハリウッド映画に国内市場を侵食され低迷していた。そこで、イギリス政府は激減する国産映画のシェアを確保するための法令(Cinematograph Films Act 1927)を'27年に制定。国内の映画館で上映されるイギリス映画の数にノルマ(当初は全体の7.5%、後に20%へと引き上げ)を課したのである。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05130340.jpg
これに対応するため、映画界では低予算のB級映画を急ごしらえで大量生産することに。おかげでイギリス映画の製作本数は以前のように回復したものの、しかしその一方で、これらの作品の大半はノルマを満たすためだけに粗製乱造された代物ばかりで、その質の悪さも相まって「Quota Quickie(割り当てやっつけ映画)」と呼ばれた。新人監督時代のマイケル・パウエルも、こうした低予算映画を多い時で年間7本も撮っていたのだが、本作『Red Ensign(英国商船の赤旗)』もそのひとつだったのである。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05120048.jpg
長い歴史と伝統を誇りながらも、安価な外国製に押されて低迷するイギリスの造船業界。グラスゴーで造船会社を経営するデヴィッド・バー(レスリー・バンクス)は、従来よりも多くの荷物を搭載可能で、なおかつ燃料費を少なく抑えられる新型の貨物船をデザインする。模型を使った厳格なテストをパスすることにも成功。これを実用化すれば会社が儲かるだけではなく、衰退したイギリスの造船業界を盛り返すことが出来るし、仕事を失った大勢の労働者たちを食わせることもできる。理想に燃えて奮起するデヴィッドだったが、しかし問題はどうやって資金を調達するかだった。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05111978.jpg
一隻当たりの製造コストを抑えるためには20隻をまとめて作らねばならないが、いずれにせよ莫大な費用が掛かってしまう。経営の行き詰まった会社には十分な資金はないし、具体的な販売計画のめどが立っているわけではないため、銀行からの融資も期待できない。政府に補助金を申請したものの、前例のない新型モデルであることから、にべもなく却下されてしまった。そこで株主のひとりディーン卿(フランク・ヴォスパー)が提案したのは、同業他社の海運王マニング(アルフレッド・ドレイトン)に協力を仰ぐことだった。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05143700.jpg
低迷するイギリスの造船業界で唯一の勝ち組であるマニングならば、新型貨物船を大量生産するだけの十分な資金がある。彼に設計図を高額で売却し、さらにロイヤリティで稼げばいいじゃないかというわけだ。しかし、デヴィッドはこのアイディアに猛反発する。なぜなら、マニングの会社がひとり勝ちしているのは、彼がイギリスではなく外国で安上がりに貨物船を製造し、外国人労働者たちを低賃金で働かせているからだ。イギリスの業界にとっても労働者にとっても、むしろ彼は国賊とも呼ぶべき敵である。そんな人物を頼りにするわけにはいかない。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05124324.jpg
そこでデヴィッドは株主たちの反対を押し切り、自らの私財を投じて新型貨物船の製造に着手する。久しぶりの仕事に労働者たちもやる気満々だ。ところが、新型貨物船の特許権を手に入れようと考えるマニングは、その労働者たちの中にスパイを何人も紛れ込ませ、デヴィッドの計画を頓挫させようと破壊工作を企む。一方、会社創業者の一族で筆頭株主の女性ジューン(キャロル・グッドナー)はデヴィッドの理想に共感し、やがて2人は愛し合うようになるのだが、しかしジューンの婚約者でもあるディーン卿がこれに激しく嫉妬し、株の売却を持ち出してデヴィッドを脅迫する…。
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新人時代のマイケル・パウエルが初めて才能の片鱗を見せた作品と呼ばれ、初期代表作のひとつに数えられることも少なくない本作。なるほど、確かにこれは面白い。低予算で短期間に作られた映画であることは一目瞭然だが、会社の命運と業界全体の将来を憂慮してチャレンジする理想主義者デヴィッドと、そんな彼を邪魔しようとする私利私欲にまみれた悪徳経営者マニングの攻防戦を軸に展開するストーリーはスリリングだし、己の利益よりも社会全体の幸福を最優先に追求し、貧しい労働者たちのために奔走する実業家デヴィッドの高潔な理想にも胸を動かされる。暗躍するスパイたちの破壊工作、ミニチュア特撮を用いた工場爆破のスペクタクルなど、低予算ながらも娯楽映画としての見せ場もちゃんと用意されている。ドキュメンタリー映像を織り交ぜたリアリズム演出や、エイゼンシュタインのモンタージュ理論を彷彿とさせる編集も興味深い。後の名作群とは比べるべくもないとはいえ、これはこれで非常に良く出来たプログラムピクチャーと言えるだろう。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05114041.jpg
実際にイギリスの造船業界が劇中で描かれているような状況だったのかは明るくないが、しかし当時は世界大恐慌の真っ只中にあったことを考えると、イギリスの造船業界がその煽りを受けていたであろうことも想像に難くないだろう。なにしろ、第一次世界大戦で受けた経済的ダメージから回復したばかりのイギリスにとって、アメリカ同様に世界大恐慌の影響は甚大だった。そのため、政府は自国通貨と自国産業の保護に躍起となったのだが、本作にはそうした当時の政策を大衆に周知するプロパガンダの側面もあったと言えよう。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05132724.jpg
と同時に、パウエル監督が本作のストーリーにイギリス映画産業の状況を投影していたのではないかとも考えられる。冒頭で述べたように、当時のイギリス映画界はハリウッド映画の勢いにすっかり押され、政府が守られねばならないほどの危機的状況にあった。法律によってノルマを課されたことで製作本数は増えたものの、しかし実はその中にはアメリカの配給会社の現地法人が出資した作品も少なくなかった。要するに、安上がりなイギリス映画を量産して名目上のノルマを満たすことで、逆にハリウッド映画のシェアを維持しようというわけだ。そのため、むしろイギリス映画産業の停滞を長引かせたのではないかとの指摘もある。そうした状況に対して、パウエル監督が抱いていたであろう不満や危機感が透けて見えるようにも思う。
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主演はハリウッド映画『猟奇島』('32)の残忍なロシア貴族ザロフ伯爵役でも知られる名優レスリー・バンクス。『暗殺者の家』('34)や『岩窟の野獣』('39)など、初期ヒッチコック作品の主演スターとしても有名だ。ヒロインのジューンを演じるキャロル・グッドナーは、当時イギリスの低予算コメディやミュージカルで活躍していたアメリカ人女優。テリー・サヴァラスに似た悪徳実業家マニング役のアルフレッド・ドレイトンは、戦前のイギリスで大衆に愛された舞台の人気喜劇俳優だった。
「Red Ensign」 (1934)_f0367483_05135194.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※オムニバスDVD「Classic British Thrillers」収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:66分/発売元:MPI Home Video/Granada Internatoinal
特典:なし



by nakachan1045 | 2022-01-25 02:21 | 映画 | Comments(0)

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