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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「怪談呪いの霊魂」 The Haunted Palace (1963)

「怪談呪いの霊魂」 The Haunted Palace  (1963)_f0367483_12414130.jpg
監督:ロジャー・コーマン
製作:ロジャー・コーマン
原作:H・P・ラヴクラフト
   エドガー・アラン・ポー
脚本:チャールズ・ボーモント
撮影:フロイド・クロスビー
美術:ダニエル・ホラー
音楽:ロナルド・スタイン
出演:ヴィンセント・プライス
   デブラ・パジェット
   ロン・チェイニー・ジュニア
   フランク・マクスウェル
   レオ・ゴードン
   イライシャ・クック・ジュニア
   ジョン・ディアークス
   ミルトン・パーソンズ
   キャシー・マーチャント
   ガイ・ウィルカーソン
アメリカ映画/87分/カラー作品




ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー映画シリーズの第6弾…であるはずなのだが、実のところポーの要素は「The Haunted Palace」というタイトルとクライマックスに流れるエピグラフだけ。これらはポーが1839年に発表した同名の詩から拝借されているのだが、しかしストーリー自体はポーとも並び称される米国怪奇小説の大家H・P・ラヴクラフトの短編小説「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」を下敷きにしている。

大ヒットした『アッシャー家の惨劇』('60)を皮切りに『恐怖の振子』('61)や『姦婦の生き埋葬』('62)、『黒猫の怨霊』('62)など、立て続けにエドガー・アラン・ポー原作のゴシックホラー映画を成功させていたコーマン。AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)から『忍者と悪女』('63)に続いてまたもやポー映画をオファーされた彼は、そろそろ何か違ったものを作りたいと考えてラヴクラフトの映画化を提案する。ポーとラヴクラフトはどちらも古典的な怪奇幻想作家という意味で似ているが、しかし描かれる恐怖の質は全く違う。違和感なく新機軸を打ち出すには最適な題材だったのだろう。AIPもその意図をちゃんと承知し、企画はすぐにゴーサインが出された。

ただし、コーマン曰く「AIPは最初からラヴクラフトの作品をエドガー・アラン・ポーの作品として売るつもりだったに違いない」とのこと。もともと映画のタイトルもラヴクラフトの原作と同じだったが、しかし途中からAIPの意向でポーの詩「The Haunted Palace」へとタイトル変更されることに。それに伴って劇中にも詩の一節が引用され、宣伝ポスターや予告編にも「エドガー・アラン・ポー」の名前が堂々と使われることとなった。これにコーマンは反対したものの、会社の要請とあれば仕方ない。そもそも、ラヴクラフトがポーと並び称されるようになるのは、再評価の動きが高まった'70年代以降のこと。当時は一般的な知名度が低かったため、恐らくAIPとしてはポーの名前を出した方が売れると踏んだのだろう。

物語の始まりは1765年、場所はマサチューセッツ州の小さな町アーカム。夜な夜な若い女性が行方不明となり、記憶を失った状態で戻ってくるという奇妙な事件が続いていることから、町の住民は高台の上にそびえ立つ大きな屋敷で暮らす怪しげな男ジョゼフ・カーウェン(ヴィンセント・プライス)を疑っていた。実はカーウェンの正体は魔術師。彼は愛人ヘスター(キャシー・マーチャント)と結託し、屋敷の地下室にうごめく異形の怪物に女性たちを捧げる(劇中では描かれないが、恐らく生殖行為をさせる)ことで、新たな人類を生み出そうとしていた。ある晩、トランス状態の女性がカーウェンの屋敷へ向かう光景を目撃したエズラ・ウィードン(レオ・ゴードン)とマイカ・スミス(イライシャ・クック・ジュニア)は、怒りに燃える村人たちを引き連れて屋敷を襲撃し、カーウェンを火あぶりにして殺してしまう。その際、カーウェンはいつの日か地上に甦って復讐すること、アーカムの住民たちを末代まで呪うことを宣言して息絶える。

それから110年後、高台のカーウェン邸を相続した子孫チャールズ・ウォード(ヴィンセント・プライス2役)は、妻アン(デブラ・パジェット)を連れてアーカムへやって来る。暗く人気のない寂れきった町の様子に戸惑いを隠せないチャールズとアン。しかも、住民の多くに明らかな身体的異常(恐らく怪物との混血)が見受けられた。一方、住民たちもチャールズの姿を一目見て恐れおののく。肖像画で見たジョゼフ・カーウェンと瓜二つだったからだ。予言通りカーウェンが復活したのに違いない!我々の手で町を守らねば!と警戒するエズラの子孫ジェイコブ(レオ・ゴードン2役)とマイカの子孫ピーター(イライシャ・クック・ジュニア2役)。しかし、言い伝えなど全く信じていない町医者ウィレット(フランク・マクスウェル)は、チャールズとアンを客人として歓迎して何かと面倒を見る。

町の住民から向けられる敵対的な視線に困惑し、屋敷を整理したらすぐにボストンへ戻ろうと考えていたチャールズとアン。そんな彼らを怪しげな管理人サイモン(ロン・チェイニー・ジュニア)が待っていた。屋敷の広間に飾られたカーウェンの肖像画を見て、なにか胸騒ぎのようなものを覚えるチャールズ。その晩、ひとりで寝付けないでいたチャールズは、カーウェンの肖像画を眺めているうちに表情がガラリと変わる。カーウェンの魂がチャールズの体を乗っ取ったのだ。実は、管理人サイモンの正体は同じく現世に甦った魔術師だった。そこに仲間のハッチンソン(ミルトン・パーソンズ)を加えた3人は、ある邪悪な計画を実行に移そうと企んでいた。しかし、カーウェンにはまだチャールズの体を完全に支配するだけの力がなく、短時間で肉体を離脱せねばならない。それでも、カーウェンがチャールズに成り代わる時間は徐々に長くなり、やがて彼はアーカムの住民たちへの復讐を始める。一方、夫の変化に気づき始めた妻アンは、町医者ウィレットと共に真相を探ろうとするのだが…?

原作の基本設定や登場人物名を活かしつつも、かなり大胆に換骨奪胎した映画版。没落した田舎町に怪物と混血した人々が隠れるようにして住むという光景は、同じくラヴクラフトの名作「インスマウスの影」にインスパイアされている。女性キャラが重要な役割を果たすあたりはラヴクラフト作品らしからぬ設定だが、それを含めてストーリー全体をポー映画の雰囲気に寄せたという印象だ。その一方で、テクニカラーの色調を抑えながら殺伐としたリアリズムを志向したダークな映像美は、それまでのポー映画とは一線を画しており、屋敷の地下室にうごめく未知のモンスター(特撮担当はジム・ダンフォース!)の存在もラヴクラフト作品ならではの禍々しいSF的要素。ラヴクラフトの小説を原作とする長編劇映画はこれが初めてで、クトゥルーやアーカム、ネクロノミコンといった名称が映画に登場するのも本作が最初だったそうだが、一連のポー映画とは一味違うアメリカン・ゴシック・ホラーをというコーマン監督の目論見はひとまず成功していると言えよう。以降、AIPは『襲い狂う呪い』('65)や『ダンウィッチの怪』('70)などのラヴクラフト映画を製作することになる。

邪悪な魔術師ジョセフ・カーウェンと温厚な紳士チャールズ・ウォードの2人を演じるのは、AIPの看板スターでもあったホラー映画の帝王ヴィンセント・プライス。一応、カーウィンがチャールズの肉体を乗っ取った時はメイクで顔色を悪くしているものの、それでも表情の変化だけで両者の入れ替わりを的確に表現する演技力はさすがというほかない。チャールズの妻アン役のデブラ・パジェットは、'50年代に20世紀FOXから売り出された清純派スターで、プライスとは『十戒』('56)で共演したことがあった。当時再婚したばかりだった彼女は、これを最後に映画界から引退している。さらに、ユニバーサル映画の狼男俳優としても知られるロン・チェイニー・ジュニアが怪しげな管理人(実は魔術師)サイモン役で登場。もともと、この役はボリス・カーロフの予定だったものの、大柄で風格のあるカーロフではイメージに合わないという理由で変更された。そのほか、西部劇映画の名脇役レオ・ゴードンやノワール映画の名物俳優イライシャ・クック・ジュニア、ブロードウェイの名優フランク・マクスウェルなどが出演している。

日本では20年近く前に一度DVD化されたきりの本作だが、アメリカでは4枚組「The Vincent Price Collection」収録で既にブルーレイ化済み。2K解像度でデジタル修復された本編映像は色合いもナチュラルな美しい高画質で、部分的に細かなフィルムの傷も見受けられるがほとんど気にならない程度である。モノラル音声もクリアで厚みがある。特典映像は少ないものの、オーディオコメンタリーに収録されている女優デブラ・パジェットの電話インタビューは貴重で興味深い。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※「The Vincent Price Collection」収録
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:87分/発売元:Scream Factory/MGM
特典:ヴィンセント・プライスによるイントロダクション('82年制作・約5分)/映画評論家ルーシー・チェイスによる音声解説/映画評論家トム・ウィーヴァーによる音声解説(デブラ・パジェットの電話インタビュー含む)/ロジャー・コーマン監督のインタビュー('03年制作・約11分)/オリジナル劇場予告編/スチル&ポスター・ギャラリー



by nakachan1045 | 2022-01-28 00:58 | 映画 | Comments(0)

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