なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「血の祝祭日」 Blood Feast (1963)

製作:デヴィッド・F・フリードマン
脚本:アリソン・ルイーズ・ダウン
撮影:ハーシェル・ゴードン・ルイス
音楽:ハーシェル・ゴードン・ルイス
出演:トーマス・ウッド(ウィリアム・カーウィン)
マル・アーノルド
コニー・メイソン
リン・ボルトン
スコット・H・ホール
トニ・カルヴァート
アシュリン・マーティン
アストリッド・オルソン
サンドラ・シンクレア
ジーン・カーティエ
ルイーズ・キャンプ
アメリカ映画/67分/カラー作品


それもこれも、監督のハーシェル・ゴードン・ルイスと製作者デヴィッド・F・フリードマンが、いわゆるアングラのインディペンデント映画作家だったからこそ可能だった。要するに、ハリウッド映画やヨーロッパ映画などの一般的な配給ルートには乗らず、もちろんアメリカ映画協会の認証など受けることもなく、主に場末のグラインドハウス映画館やドライブイン・シアターで上映される、超マイナーな自主製作映画だったのである。そもそも製作費はたったの2万4500ドル。出演者も地方劇団の役者やモデル、もしくは全くの素人などの無名俳優ばかり。それにも関わらず、その過激な残酷描写が口コミで大評判となり、インディペンデント映画としては異例の興行収入400万ドルという大ヒットを記録したのである。

もともとシカゴを拠点にして制作会社を立ち上げたゴードン・ルイスとフリードマン。「大手スタジオが絶対に作らないような映画を作る」をモットーとした彼らが最初に手を付けたのは、折しもアメリカでブームになっていたヌーディスト・キャンプを取材したヌーディスト映画のジャンルだった。当時のアメリカ映画界でバイオレンス描写以上にタブーだったのが性描写。ヌーディストたちの生態に迫る!を口実にしたこれらの映画は、合法的に女性のヌードを楽しめるという点で、いわばポルノ映画の代用品だったのである。

しかも、実際のヌーディスト・キャンプに出向いてカメラを回せば作れてしまう。時間もコストもほとんどかけることなく稼げるわけだ。例えば、最初のヒット作『The Adventures of Lucky Pierre』('61)は製作費7500ドルと言われている。これは現在の貨幣価値に換算しても7万ドル以下だ。もはや映画を作る金額じゃない。実に美味しい商売である。だがしかし、このウルトラ・ローバジェットが結果的に自分の首を絞めることになった。というのも、制作費がどれくらいなのか興行主たちに自慢したところ、映画のレンタル料をどんどん値切られるようになってしまったのだ。なんというアホな(笑)。そこで次なる手としてゴードン・ルイスとフリードマンが思いついたのが、やはり大手スタジオが忌避する血みどろ残酷描写をふんだんに盛り込んだスプラッター映画だったというわけだ。

若い女性ばかりを狙う正体不明の連続殺人鬼が徘徊するフロリダ州。犠牲者はいずれも人体の一部を切断され、そのうえ心臓を抜き取られていた。捜査を担当する警察のピート・ソーントン刑事(ウィリアム・カーウィン)と上司フランク警部(スコット・H・ホール)は、この宗教的儀式を連想させる不可解な事件に頭を悩ませている。一方その頃、ソーントン刑事の恋人スゼット(コニー・メイソン)の誕生日が近づき、母親ドロシー(リン・ボルトン)は知人に紹介されたケータリング業者ラムゼス氏(マル・アーノルド)にバースデー・パーティの食事を依頼することにする。5000年前のエジプト王族の料理を忠実に再現するというラムゼス氏。偶然にもスゼットが古代エジプトに関心があることから、ドロシーは「とてもいいアイディアね!楽しみにしているわ!」と大いに喜ぶ。

ところが、実はこのラムゼス氏こそが連続殺人事件の犯人だった。古代エジプトの女神イシュタル(本当は古代メソポタミアの女神)を崇拝する彼は、殺した女性たちを食材にしてケータリングの料理を作り、それをパーティ客に食べさせて生贄の儀式を再現しようとしていたのだ。しかも、儀式を完成させるためにパーティの主賓であるスゼットをイシュタルの生贄に捧げようと考えていた。その後も続く連続殺人。ついにはスゼットの親友トゥルーディ(トニ・カルヴァート)まで犠牲となってしまう。果たしてソーントン刑事はラムゼス氏の犯行に気づき、スゼットを邪悪な儀式から救うことが出来るのか…!?

ってなわけで、いやあ、実に安っぽい映画である(笑)。なにしろ、先述したように予算がない。確かにヌーディスト映画に比べれば金がかかっているものの、しかしそれでも長編劇映画であることを考えると超激安だ。おのずとスタッフや機材の数と質にも限界があるし、まともに芝居の出来る役者を雇うことだって難しい。スタジオにセットを作る予算などないので全てロケ撮影だし、照明も2つしか用意できなかったので車のヘッドライトまで使っている。撮影技術の未熟さも一目瞭然。あとあれね、女神イシュタルの彫像なんか、デパートのマネキンに金色塗料を塗りたくっただけなの丸分かり。どこが古代エジプトの彫像やねん!っていうか、そもそもイシュタルってエジプトの女神ですらなくね!?と突っ込みたくなること必至だ。そのうえ、ストーリーも稚拙ならセリフだって稚拙。劇場公開時に「最初から最後までプロの仕事とは思えない」と酷評されたのも仕方はあるまい。

やはり、本作の見どころは血糊と肉片をたっぷりと使った残酷スプラッターの数々。ゴードン・ルイス監督も「あくまでこれは見世物映画ですから!」と割り切ったかの如く、あえて最大の売りである血みどろシーンに注力しているように見受けられる。特殊メイクと呼ぶにはあまりに原始的ではあるものの、女性の脚のひざから下を切断する、女性の口を無理やりこじ開けて舌を抜く、女性の頭皮を生きたまま引ん剝くなどのゴア描写が盛りだくさん。まあ、出来栄えはぶっちゃけ雑だとは思うが、恐らく当時の観客にとってはショッキングだったろうし、今見るとその手作り感が妙に微笑ましくもある。女性の心臓を抜き取るシーンだって、明らかに胸は切り開いていないし、心臓も見るからにフレッシュじゃない(笑)。恐らくこれが'80年代以降の映画ならば、手に持った心臓がバクバクと動いていたはずだが、当時はまだそんな技術はなかっただろうしね。というか、以降の『2000人の狂人』('64)や『血の魔術師』('65)などと比べると全体的に残酷度はわりと控えめ。そういう意味で、個人的にはゴードン・ルイス作品の中でも微妙な位置にある作品なのだが、しかしここから全てが始まったわけなので、やはりホラー映画ファンならば一度は見ておかねばならないだろう。

主演はハーシェル・ゴードン・ルイス作品の常連俳優ウィリアム・カーウィン。ヌーディスト映画時代からの付き合いであるカーウィンは、俳優としてだけでなく助監督から小道具係までなんでもこなしていたらしい。もともと本作では撮影スタッフとして参加していたのだが、当初予定されていた役者が出れなくなったため、その代役として急きょ白羽の矢が立てられたという。その恋人役を演じているコニー・メイソンは雑誌「プレイボーイ」の人気プレイメイト。撮影当時はまだバニーガールだったらしいのだが、本作が封切られた後に「プレイボーイ」誌のプレイメイト・オブ・ザ・マンスに起用されて注目を集めた。ゴードン・ルイス監督とは次回作『2000人の狂人』でも組んでいる。そのほか、無名の役者や素人で固められているのだが、彼らの大仰な芝居と棒読みのセリフもなかなか味わい深い。

なお、アメリカでは過去に廉価版ブルーレイで発売されたことがあり、日本盤ブルーレイも同じマスターを使用していると思うのだが、しかし'16年になってイギリスに本社を置くArrow Filmsより新たなデジタル・リマスター版が英国盤と米国盤で発売された。それも、ブルーレイとDVDを合わせて14枚組のハーシェル・ゴードン・ルイス作品集として。ワイドスクリーンのビスタサイズで収録された本編は、60年近く前のインディーズ映画にしては勿体ない(?)くらいの高画質。もともと本作はスタンダードサイズで撮影したうえで上下をマスキングしているのだが、その大元のスタンダードサイズ・バージョンも特典ディスクに収録されている。もちろん、ゴードン・ルイス&フリードマンによる音声解説など本編ディスクの特典も盛りだくさん。ファン必携である。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(イギリス盤)※BOXセット「The Herschell Gordon Lewis: Feast」収録
ブルーレイ
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:1.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:67分
DVD
カラー/ワイドスリーン(1.85:1)/音声:1.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:67分
発売元:Arrow Films
特典:ハーシェル・ゴードン・ルイスとデヴィッド・F・フリードマンの音声解説/ドキュメンタリー「Blood Perspectives」('16年制作・約11分)/ハーシェル・ゴードン・ルイス監督インタビュー('16年制作・約7分)/ハーシェル・ゴードン・ルイスとデヴィッド・F・フリードマンの合同インタビュー('87年制作・約18分)/短編映画「Carving Magic」('59年制作・約21分)/未公開シーン集(約46分)/予告編集
by nakachan1045
| 2022-01-31 00:03
| 映画
|
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