なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ゼダー/死霊の復活祭」 Zedar (1983)

製作:ジャンニ・ミネルヴィーニ
アントニオ・アヴァティ
エネア・フェラリオ
原案:プピ・アヴァティ
脚本:プピ・アヴァティ
マウリツィオ・コスタンゾ
アントニオ・アヴァティ
撮影:フランコ・デリ・コリ
音楽:リズ・オルトーニ
出演:ガブリエル・ラヴィア
アンヌ・カノヴァス
パオラ・タンジアーニ
チェザーレ・バルベッティ
ボブ・トネッリ
フェルディナンド・オルランディ
エネア・フェラリオ
ジョン・ステイシー
アレッサンドロ・パルテハーノ
アルド・サッシ
イタリア映画/100分/カラー作品
イタリアの名匠プピ・アヴァティが手掛けたノワールタッチの不条理ホラーである。生まれ故郷の古都ボローニャとエミリア・ロマーニャ地方にこだわり続け、『追憶の旅』('83)や『モーツァルト/青春の日々』('84)、『いつか見た風景』('89)に『ジャズ・ミー・ブルース』('91)、『ボローニャの夕暮れ』('08)などなど、美しくもノスタルジックな名作の数々を生み出してきたアヴァティ監督だが、しかしその一方でキャリアの初期には優れたホラー映画を手掛けていた。それが、イタリアン・ホラーの傑作として名高い『笑む窓のある家』('77)と本作『ゼダー/死霊の復活祭』('83)だった。
物語の始まりは1956年。フランス中部の町シャルトルにある古い屋敷で不可解な連続殺人事件が発生し、やがてスイス人の科学者マイヤー博士(チェザーレ・バルベッティ)の率いる調査チームが屋敷へ到着する。マイヤー博士は霊能者の少女ガブリエラ(ヴェロニカ・モリコーニ)を使って、ある場所を透視させようとしていた。深夜に屋敷で響き渡る奇妙な物音、目の前に現れる怪現象。マイヤー博士に地下室へ連れられたガブリエラは、ある場所に強く反応する。そこを掘り起こしてみたところ、土の中から白骨化した人間の遺体が発見された。遺留品の身分証にはパオロ・ゼダーの文字が。マイヤー博士は「ついに見つけた。ここがKゾーンに違いない…!」と声を震わせる。
時は移って現代のボローニャ。作家ステファノ(ガブリエル・ラヴィア)は、結婚記念日に妻アレッサンドラ(アンヌ・カノヴァス)から中古の電動タイプライターをプレゼントしてもらう。ある晩、そのタイプライターで新作を書き始めた彼は、前の持ち主が書き残した文章がインクリボンに残されていることに気付いた。好奇心に駆られて文章を書き起こしてみたステファノだったが、しかしその不可解な内容に首をかしげる。そこには、死者を蘇らせるKゾーンという場所のことや、自らがそれを実証する実験台になることなどが記されていたのだ。大学時代の恩師ケージ教授(ジョン・ステイシー)に尋ねたところ、Kゾーンというのは太古の昔から世界各地に存在する伝説の場所で、そこでは時間や季節など移り変わるものの概念が存在しないため、死者を蘇らせることが出来るのだという。かつて異端の錬金術師パオロ・ゼダーがKゾーンを研究していたものの忽然と姿を消し、ケージ教授の友人であるマイヤー博士もKゾーンを探そうと躍起になっていたらしい。
なおのこと興味を惹かれたステファノは、親友の警察官グイド(アレッサンドロ・パルテハーノ)に調べてもらい、タイプライターの元の持ち主がドン・ルイジという牧師であることを知る。その住所を訪ねて行ったステファノだったが、しかしドン・ルイジを名乗る中年男性に追い返されてしまう。怪訝に思ったステファノは再びドン・ルイジのもとを訪れると。応対に出た若い牧師ドン・マリオ(アルド・サッシ)から意外な事実を知らされる。ドン・ルイジは教会の誓いを破ったため、10年前に破門されたというのだ。当時、自らが不治の病に冒されていると知ったドン・ルイジは、怪しげな妄想に取りつかれて精神を病んでしまったという。ならば、あの中年男性は誰だったのか?こうなったらドン・ルイジの足跡を辿るしかない。そう考えたステファノは、妻アレッサンドラを連れてドン・ルイジの故郷リミニへ。そこで彼はドン・ルイジの妹から、彼が半年前に亡くなっていたことを知らされる。
ところが、病院で記録を調べたところドン・ルイジの遺体はなぜかスピーナの墓地に埋葬されたという。早速、アレッサンドラと共にスピーナへと向かったステファノ。そこは古代エトルリアの共同墓地だった。もしかすると、ここがKゾーンなのではないか。よく見ると、墓地のすぐそばには奇妙な形をした廃墟ビルが建っている。付近の住民によると、フランスから来た科学者の調査チームが廃墟ビルで何かを行っているらしい。実はその調査チームを率いているのが、マイヤー博士と大人になったガブリエラ(パオラ・タンジアーニ)だった。実業家ミスター・ビッグ(ボブ・トネッリ)ら財界の大物たちから資金提供を受けた彼らは、この土地がKゾーンに当たると考え、ドン・ルイジの遺体が復活するかどうか秘かにモニタリングしていたのだ。この実験について外部へ情報を漏らそうとした者は、ミスター・ビッグの差し向けた殺し屋ジョヴィーネ(フェルディナンド・オルランディ)によって抹殺されていた。ステファノが会った偽ドン・ルイジの正体は、このジョヴィーネだったのだ。そうとは知らないステファノは、真相を突き止めるべく廃墟ビルを調べ始めるのだったが…?
友人の作曲家アメデオ・トマーシから中古の電動タイプライターを譲り受けたアヴァティ監督は、そのトマーシの書いた文章がインクリボンに残されていたことから、本作のストーリーを思いついたのだという。タイトルにもなっている錬金術師ゼダーのモデルは、20世紀のフランスに実在したとされる謎の錬金術師フルカネリ。いわゆる神秘学をベースにしたシリアスなSFミステリーの色合いが強い。それゆえ、ダリオ・アルジェントやルチオ・フルチのようなイタリアン・ホラーを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。あえて論理的な説明を避けた脚本は少なからず難解だが、しかしイタリアン・ホラーにありがちな荒唐無稽やご都合主義とは一線を画する。センセーショナリズムを煽るような残酷描写や性描写も一切なし。あくまでも不条理な設定と禍々しい雰囲気で徐々に恐怖を盛り上げていく。アメリカでは「Revenge of the Dead」というゾンビ映画のようなタイトルが付けられ、宣伝ポスターにも死臭漂うようなゾンビのイラストが用いられたが、これなどは非常に質の悪いミスリードと言えるだろう。実際は腐敗したゾンビどころか、邦題に付けられた「死霊」すら出てこない。そうした点では、ホラー映画ファンの間でも賛否は分かれるかもしれない。
ふとしたことから歴史に埋もれた異端の存在に気付き、まるで何かに取り憑かれたようにその真実を追い求めた主人公が、決して近付いてはいけない危険な領域へと足を踏み入れてしまう…という謎めいた筋書きは、「死の克服」というテーマを含めて『笑む窓のある家』とよく似ている。悲しくも恐ろしい絶望的な結末は、スティーブン・キングの「ペット・セメタリー」を彷彿とさせるだろう。もちろん、これは単なる偶然だ。少年時代からオカルトの世界や生と死の概念に魅せられていたというアヴァティだが、その一方で「イタリアのファンタスティック映画に特筆すべき作品はないし、引き合いに出すべき作家も思い当たらない」と本人が語るように、世界的に人気の高いイタリアン・ホラーのことは全く評価していなかったようだ。本作や『笑む窓のある家』が、イタリアンホラーの歴史的文脈から外れた特異なポジションにあるのは、恐らくその辺りが理由なのだろう。そういえば、スタッフやキャストにもジャンル系映画でお馴染みの名前が少ない。アヴァティ監督にしてみれば、語るべき物語を手探りで模索していった結果、たまたま行き着いた先がホラー映画だったというだけなのかもしれない。
主なロケ地はアヴァティ監督の故郷ボローニャやリミニ、フェラーラなどのエミリア・ロマーニャ地方。セリフにも同地の方言が多用されている。劇中で最も印象的な廃墟ビルは、ボローニャ近郊のアドリア海に面した避暑地チェルヴィアに今も現存するコロニア・ヴァレーゼ。これは戦前のファシスト時代に建てられたビルで、もともとは子供向けのサマーキャンプ施設だったという。イタリア合理主義建築のひとつとして地元でも有名な建物らしいが、その過剰にシンメトリックな抽象的デザインはむしろ非合理的であり、映画そのものの不条理な世界観を象徴するという意味で非常に効果的だ。また、冒頭シーンに出てくるフランスの屋敷は、実はトスカーナ地方の古都シエナに現存するヴィラ・フローラ。もともと19世紀後半に貴族のカントリーハウスとして建てられたが、なんと今では農場として使われているらしい。
主人公ステファノ役を演じているのはガブリエル・ラヴィア。日本ではアルジェントの『サスペリアPART2』('75)のピアニスト、カルロ役や『インフェルノ』('80)の隣人カルロ役、イタリア版エクソシスト映画『デアボリカ』('74)の夫ロバート役など、ホラー映画俳優のイメージが強い人だが、イタリアではシェイクスピア劇などの舞台俳優兼演出家として知られており、近年はイタリアン・オペラの演出家としても成功している。その妻アレッサンドラ役には、ロバート・アルトマンの『ゴッホ』('90)や『プレタポルテ』('94)にも出ていたフランス女優アンヌ・カノヴァス。ミスター・ビッグ役のミゼット俳優ボブ・トネッリや殺し屋ジョヴィーネ役のフェルディナンド・オルランディ、オープニングで殺される老女役のピーナ・ボリオーネなど、アヴァティ監督作品の常連組だったボローニャ出身のローカル俳優も多数出演している。
なお、日本ではレンタルビデオ全盛期にVHSでリリースされ、さらにパブリックドメインとなったトリミングサイズのアメリカ公開版がDVD発売されている本作。アメリカでは'17年にノーカット&ワイドスクリーンのインターナショナル版がCode Redレーベルよりブルーレイ化されたが、しかしアスペクト比や色調レベルに少なからぬ問題があったことから、新たに2K解像度でスキャニングからやり直したうえで色調補正を施したリマスター版ブルーレイが、'18年に同じCode Redレーベルより再リリースされている。これが非常に滑らかできめ細やかな高画質。色合いもナチュラルで鮮明だし、英語のモノラル音声にも重量感がある。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※再発版
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:100分/発売元:Code Red
特典:プピ・アヴァティ監督インタビュー('17年制作・約31分)/アメリカ公開版予告編
by nakachan1045
| 2022-03-11 01:10
| 映画
|
Comments(0)
以前の記事
2026年 01月2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
最新のコメント
| この映画はデンマーク軍が.. |
| by na at 08:27 |
| ランドマスターは本当にか.. |
| by na at 17:53 |
| > にこらさん コメン.. |
| by nakachan1045 at 01:32 |
| なかざわ様 前にあった.. |
| by にこら at 19:32 |
| DVDリリースされてまし.. |
| by ken at 22:53 |
| > kenさん 書.. |
| by nakachan1045 at 16:23 |
| チプリアーニの作品中でも.. |
| by ken at 11:36 |
| ひでゆきさん、ありがとう.. |
| by na at 16:19 |
| naさん 書き込み有難.. |
| by nakachan1045 at 15:28 |
| 2011年に見つかった原.. |
| by na at 17:32 |
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
ハリウッド映画(543)70年代(353)
ホラー映画(287)
60年代(266)
80年代(215)
イタリア映画(182)
アクション(135)
ドラマ(119)
50年代(106)
イギリス映画(106)
サスペンス(105)
ダンス(105)
ポップス(104)
カルト映画(95)
30年代(67)
ロマンス(60)
40年代(59)
70年代音楽(57)
日本映画(56)
2020年代音楽(50)
SF映画(46)
コメディ(44)
ノワール(41)
フランス映画(41)
90年代(40)
ジャッロ(39)
80年代音楽(38)
1920年代(36)
西部劇(34)
K-POP(34)
香港映画(32)
ソウル(31)
エロス(27)
スペイン映画(26)
ドイツ映画(25)
ファンタジー(22)
サウンドトラック(21)
ミュージカル(21)
ワールド映画(21)
2010年代音楽(20)
歴史劇(20)
戦争(20)
アドベンチャー(19)
メキシコ映画(18)
イタリア映画音楽(18)
テレビ(18)
ラテン(17)
2000年代音楽(15)
ルーマニアン・ポップス(15)
1910年代(14)
アニメーション(14)
スパイ(13)
ロシア映画(12)
アナウンス(11)
ラウンジ(9)
フィリピン映画(9)
カナダ映画(9)
ロック(9)
60年代音楽(9)
ロシア音楽(8)
90年代音楽(8)
青春(7)
ジャズ(7)
バルカン・ポップス(7)
シットコム(5)
連続活劇(4)
2010年代(4)
LGBT(3)
パニック(3)
J-POP(3)
2000年代(3)
イタロ・ディスコ(3)
韓国映画(2)
フランス映画音楽(2)
アンダーグランド(2)
カントリー・ミュージック(2)
オーストラリア映画(2)
トルコ映画(2)
文芸(1)
民族音楽(1)
ブラジル音楽(1)
1920年代音楽(1)
フレンチ・ポップ(1)
シャンソン(1)
サルサ(1)
ギリシャ音楽(1)
ギャング(1)
インド映画(1)
音楽DVD(1)
音楽ライブ(1)
伝記映画(1)
2020年代(1)
ブログパーツ
最新の記事
| 「L. A. バウンティ」 .. |
| at 2026-01-21 23:45 |
| 「Condemned to .. |
| at 2026-01-19 15:30 |
| 「続・少林寺列伝」 少林五祖.. |
| at 2026-01-12 10:59 |
| 「パパは何でも知っている」シ.. |
| at 2026-01-09 22:58 |
| ご挨拶 |
| at 2025-12-31 12:09 |

