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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「El vampiro y el sexo (吸血鬼とセックス)」 (1969)

「El vampiro y el sexo (吸血鬼とセックス)」 (1969)_f0367483_19145137.jpg
監督:ルネ・カルドナ
製作:ギレルモ・カルデロン
脚本:アルフレド・サラザール
撮影:ラウール・マルティネス・ソラレス
音楽:セルジオ・ゲレーロ
出演:エル・サント
   アルド・モンティ
   ノエリア・ノエル
   ロベルト・G・リヴェラ
   カルロス・アゴスティ
   アルベルト・ロハス
   ピリ・ゴンザレス
   ホルヘ・モンドラゴン
   フェルナンド・メンドーザ
メキシコ映画/86分/カラー作品




メキシコの伝説的なプロレスラー、エル・サント。同国では古くから、ルチャリブレと呼ばれるプロレス競技が国民的な人気を博しており、かつては日本でもルチャリブレの覆面レスラー、ミル・マスカラスが大活躍したことがあったが、メキシコ本国で長年に渡ってトップに君臨したのが白銀のマスクを被ったルチャドール、エル・サントだった。その人気と影響力はレスリングの世界だけに止まらず、なんと30年間で52本もの映画に主演。「サント映画」というひとつのジャンルを形成するほどの映画スターでもあったのだ。基本路線は大人から子供まで楽しめるスーパーヒーロー映画。正義の味方エル・サントがゾンビや火星人や吸血鬼などと戦うという、奇想天外かつ荒唐無稽なストーリーがサント映画の醍醐味で、ホラー映画やSF映画の要素を含む作品も多かった。吸血鬼の王様ドラキュラ伯爵が登場する本作『El vampiro y el sexo(吸血鬼とセックス)』もそのひとつだ。

ただしこの映画、実はエル・サントの存命中に本国メキシコで公開されることはなかったという。なぜなら、主にヨーロッパへ輸出するためのエクスプロイテーション映画として作られていたからだ。当時のメキシコでは、低予算のジャンル系B級映画を2種類同時に撮影し、エログロなしで子供が見ても安心の全年齢対応バージョンを国内向けに、お子様厳禁のエログロ満載バージョンを外国向けに配給することが珍しくなかった。本作も'68年に公開された「Santo en el testoro de Dracula(サントのドラキュラの財宝)」がオリジナル。この国内向けバージョンはモノクロ映画だったが、同じ脚本を外国向けに色鮮やかなカラーで撮影し、なおかつグラマー美女たちのあられもないヌードをふんだんに盛り込んだのが本作だったのである。

舞台は現代のメキシコ。人気覆面プロレスラーであると同時に天才的な科学者でもあるサント(エル・サント)は、長年研究してきたタイムマシンの開発に成功したものの、しかし危険を伴うため実証実験を行えなかったことから、せっかく学会で発表しても全く相手にされなかった。というのも、タイムマシンには物理的な体重制限があり、被験者が女性でないと不可能だったのだ。しかし、リスクの高い実験に女性を使うのは躊躇われる。そこで名乗りを上げたのが、学会の理事長を務める原子物理学者セプルヴェダ博士(カルロス・アゴスティ)の愛娘ルイーザ(ノエリア・ノエル)だった。誰もが尊敬する偉大な英雄サントの力になりたい。その熱意にほだされたサントは、タイムマシンの実験台としてルイーザに協力してもらうことにする。

ルイーザがタイムスリップしたのは19世紀末のメキシコ。この時代の彼女は、高名な医師ソレル教授(ホルヘ・モンドラゴン)の娘だった。周辺では若い娘が相次いで死亡しており、ソレル教授の屋敷へ遊びに来ていたルイーザの親友マラも、原因不明の病気で数日前に亡くなったばかりだ。犠牲者に共通するのは、日に日に体力が衰えて死に至ること、そして首筋に出来た2つの赤い歯型だ。ルイーザも同様の症状が出たことから、ソレル教授はヨーロッパからヴァン・ロス教授(フェルナンド・メンドーザ)を呼び寄せる。ソレル教授から話を聴いたヴァン・ロス教授は吸血鬼の仕業を疑い、近隣の屋敷に住むセルビア人貴族アルカルド伯爵(アルド・モンティ)に疑いの目を向ける。

調べたところ、アルカルド伯爵はトランシルヴァニアの出身で、メキシコへ移住の際に棺桶が運び込まれていた。しかも、アルカルド(Arucard)を逆さ読みにするとドラキュラ(Dracula)だ。これは間違いない!と確信したヴァン・ロス教授だったが、しかし時すでに遅くルイーザもドラキュラ伯爵の毒牙にかかってしまった。彼女を花嫁に選んだドラキュラ伯爵は、墓地のどこかに先祖代々の財宝が眠っていることを告白する。一方、吸血鬼の被害を食い止めようと考えたヴァン・ロス教授は、ドラキュラ伯爵だけでなく吸血鬼と化したルイーザもまとめて退治しようとする。その一部始終をテレビモニターで観察していたサントは、慌ててタイムマシンでルイーザを現代へ引き戻すのだった。

無事にもとの時代へ戻ってきたルイーザ。ドラキュラがメキシコに財宝を持ち込んでいたと知ったサントは、それを恵まれない子供たちの救済に役立てようと考え、ルイーザの記憶を頼りにドラキュラ伯爵の眠る墓を見つけ出そうとする。財宝を隠した場所を探す手掛かりは2つ。ドラキュラ伯爵の首にかけられたメダリオンと、指にはめられた指輪だ。そこでサントは、ルイーザとセプルヴェダ教授、オッチョコチョイな助手ぺリコ(アルベルト・ロハス)を伴って墓地へ向かう。その様子をこっそり監視していた謎の犯罪組織ボス(ロベルト・G・リヴェラ)は、息子のプロレスラー、アトラスと子分たちに尾行を命じる。なんとかドラキュラ伯爵の墓を見つけてメダリオンを手に入れたサントたちだったが、しかし肝心の指輪をアトラス一味に奪われてしまう。そこで、サントとアトラスがプロレスで対戦し、勝った方がメダリオンと指輪の両方を手に入れることに。ところが、その間にドラキュラ伯爵と吸血鬼美女軍団が目を覚ましてしまう…!

というわけで、ルチャリブレにタイムマシンに吸血鬼ドラキュラに秘宝アドベンチャーに犯罪組織の陰謀と、もはや「なんでもあり」もここに極まれり!と言わんばかりの闇鍋ごった煮エンターテインメント。正々堂々とプロレスで決着だ!には思わず笑い転げましたよ、本当に(笑)。いったい何をどうしたら、こんな奇妙奇天烈なストーリーが出来上がるのか。脚本を書いたアルフレド・サラザールはメキシコの有名な俳優アベル・サラザールの弟で、サント映画シリーズを筆頭に多数のB級ジャンル系映画を手掛けている人なのだが、その中でも本作はぶっちぎりにイカレている。これだけの要素を詰め込んだら支離滅裂になりそうなところだが、まあ、確かに「いやそれ無理あり過ぎだろ!」と突っ込みたくなるポイントがないわけではないものの、それでも全体を通してみると奇跡的なくらいちゃんとまとまっている。いやあ、荒唐無稽ってサイコーだね!

そして、空想科学にゴシック・ホラーに犯罪アクションにとジャンルを股にかけた演出を手掛けたのは、『暴行魔ゴリラー』('69)でもお馴染みのメキシコ産B級映画の名門カルドナ・ファミリーの大黒柱ルネ・カルドナ御大。基本路線は日本の特撮ヒーロー物にも通じるお子様向けエンターテインメントなのだが、この外国向け輸出用バージョンでは、そこにアッハンウッフンなアダルト向けお色気要素を躊躇うことなくドカドカと投入してくる。一糸まとわぬスッポンポン状態で整列する吸血鬼美女軍団を筆頭に、どうやらGカップ級の爆乳美女がお好みらしいドラキュラ伯爵は、ただ単に生血を吸うだけでは飽き足らないスケベ吸血鬼で、とりあえず片っ端から犠牲者のオッパイを引きずり出しては揉みしだく。いわゆる役得ってやつですな(笑)。

19世紀末を舞台にしたタイムスリップ・シーンはブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」が元ネタで、ユニバーサル・ホラーからの影響が強いメキシコ映画にしては珍しく、明らかにハマー・フィルムの『吸血鬼ドラキュラ』('57)をお手本にしている。サントが発明したというタイムマシンのセットデザインは、完全にアメリカのテレビドラマ『タイム・トンネル』('66~'67)のパクり。しかしこのタイムマシン、過去へ旅するとその時代の人になってしまうらしく、どうもイマイチ仕組みがよく分からないのだけどね。しかも、テレビモニターで監視が出来るってどういうこと!?どこにカメラを仕掛けているの?と首を傾げるのだが、まあ、そういう細かいことを気にする方が野暮ってもんでしょう。

ちなみに、主演のエル・サントは出演契約時に、この輸出用バージョンをメキシコ国内では流通させないことを約束していたらしく、そのためメキシコ本国では誰も見たことがなかったという。やはり、ポルノまがいの内容でイメージに傷が付くことを恐れたのだろうか。そもそも本作は、フィルム自体が長いこと行方不明になっていたのだが、21世紀に入って制作会社カルデロンの倉庫から原版フィルムが発見され、4K解像度でのレストア作業を施したうえで、2011年に初めてメキシコでお披露目されることとなった。この4Kレストア版は'21年にアメリカでもブルーレイ発売されている。

評価(5点満点):★★★★☆



参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:86分/発売元:VCI Entertainment
特典:ヌードシーンのオリジナル版との映像比較(約25分)/サント映画シリーズの予告編集



by nakachan1045 | 2022-06-22 00:41 | 映画 | Comments(0)

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