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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「Give Me Your Heart」 (1936)

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監督:アーチー・L・メイヨ
製作:ハル・B・ウォリス
戯曲:ジェイ・マロリー(ジョイス・ケーリー)
脚本:ケイシー・ロビンソン
撮影:シド・ヒコックス
衣装:オリー=ケリー
音楽監督:レオ・F・フォーブスタイン
出演:ケイ・フランシス
   ジョージ・ブレント
   ローランド・ヤング
   パトリック・ノウルズ
   ヘンリー・スティーブンソン
   フリーダ・イネスコート
   ヘレン・フリント
   ハリウェル・ホブス
アメリカ映画/88分/モノクロ作品




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'30年代のワーナー・ブラザースにおいて、ベティ・デイヴィスがブレイクするまで同社のトップ女優だったケイ・フランシス。トーキーの時代に入ってブロードウェイからハリウッドへ招かれたフランシスは、当初はパラマウントで売り出されてマルクス兄弟の『ココナッツ』('29)などに出演したが、その人気が爆発したのは'32年にワーナーへと移籍してから。数々のメロドラマ映画で、上品で洗練された知的な上流階級のヒロインを演じ、アメリカ中の女性ファンから絶大な支持を得たのである。愁いを帯びた哀しげな瞳の美しさは特に印象的。淀川長治先生も「こんなきれいな人いないよね」と絶賛するほど完璧な美貌の持ち主で、当時のワーナーで最高額のギャラを取る看板スターだった。
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しかし、ワーナー移籍後にパラマウントへ貸し出されたエルンスト・ルビッチ監督の『極楽特急』('32)を除けば、当時のケイ・フランシス主演作のほとんどが現在では顧みられることなく、映画史の彼方に忘れ去られてしまっている。なぜなら、どれも映画史的には重要な映画と言えないから。確かにどの作品もたっぷりと予算がかけられ、豪華なセットや衣装をふんだんに散りばめた贅沢な一級品だったが、しかし明らかにストーリーは二の次といった感じで、女性客の涙を搾り取ることだけを目的にした型通りのメロドラマばかりだった。フランシス自身も女優業を給料の良い仕事と割り切っていたらしく、脚本の良し悪しには無頓着だったとも言われている。そのためどうしても保守的なルーティーンワークとなってしまい、好んで難役にチャレンジする野心家のベティ・デイヴィスが台頭すると、すぐに観客から飽きられることとなる。そんなフランシスにとって最後の大ヒット作であり、ワーナー時代の数少ない代表作のひとつと呼ばれるのが、日本では未公開に終わった『Give Me Your Heart』だった。
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舞台はイギリス。ロンドン郊外の小さな村に暮らす看護婦ベリンダ(ケイ・フランシス)は、大学教授の父親オリヴァー(ハリウェル・ホブス)がイタリアで暮らしているため、裕福だが意地悪な叔母エスター(ゼフィー・ティルビュリー)のもとに身を寄せていた。そんな彼女には重大な秘密がある。というのも、地元の大貴族ファリントン卿(ヘンリー・スティーブンソン)の御曹司ロバート(パトリック・ノウルズ)と恋愛関係にあったのだ。しかしロバートには病弱な妻ロザマンド(フリーダ・イネスコート)いる。ある晩、高名な劇作家タブス(ローランド・ヤング)が2人の逢引を目撃。ベリンダともロバートとも家族ぐるみの友人であるタブスは、不倫の関係を清算するよう優しくアドバイスをする。タブスの助言を頭では分かっていても、気持ちが受け入れられないベリンダは、最大の理解者である父親オリヴァーに相談するためイタリアへ。ところが、高齢の父親は彼女が悩みを打ち明ける前に心臓発作で亡くなってしまった。
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オリヴァーの遺品整理を手伝うタブスに、ベリンダは驚きの事実を打ち明ける。実は彼女、ロバートの子供を妊娠していたのだ。これは大変なスキャンダルになってしまう。そこでタブスは一計を案じ、ベリンダとファリントン卿を引き合わせる。タブスから全てを聞いたファリントン卿は若い2人の不倫を責めることなく、生まれてくる赤ん坊をロバートとロザマンドの子供として引き取りたいと申し出るのだった。病弱な嫁ロザマンドは妊娠・出産が不可能であるため、ずっと孫の欲しかったファリントン卿にとって、これはむしろ朗報だったのだ。ロザマンドも承知の上だという。子供を手放すことに強く抵抗するベリンダだったが、しかし希少本収集が趣味だった父親は遺産を殆ど残していないため、女手ひとつで子供を育てるのは現実的に厳しい。裕福なファリントン家に貰われた方が、子供にとってはずっと幸せだ。そう考えた彼女は、泣く泣く赤ん坊を手放すことにする。
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ファリントン卿の助言でイギリスを離れ、かつて父親がハーヴァード大学で教鞭を執っていたアメリカへ移住することになったベリンダ。生活費は全てファリントン卿が面倒を見てくれた。それから2年後、ベリンダはニューヨークの大富豪ジム・ベイカー(ジョージ・ブレント)と結婚し、何不自由ない生活を送っている。辛い過去と決別したつもりの彼女だったが、しかし今もなお手放した息子のことが忘れられず、パーティ三昧の日々で気を紛らわせていた。何も知らないジムは妻が悩みを抱えていることに気付いていたが、しかしベリンダは頑なに口を閉ざしたまま。むしろ彼女は愛情深い夫の優しさに罪悪感を覚え、夫婦の間には大きな溝が生じていた。そんなある日、タブスがベイカー夫妻の高級マンションを訪れる。ニューヨークで公演される彼の舞台劇にジムが出資しているのだ。そのジムの妻がベリンダだと知らなかったタブスは、オフィスでばったりと彼女に遭遇する。久しぶりの再会を喜び合う2人たが、勘の鋭いタブスは彼女が過去に囚われていることに気付き、再び一計を案じることに…。
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ケイ・フランシスが得意中の得意ジャンルである「上流階級女性の受難」を演じた王道的なメロドラマ。ちょうど当時の彼女は、フローレンス・ナイチンゲールを演じた伝記映画『白衣の天使』('36)で新規路線に挑んだものの、しかしこれは批評家からは受けたものの興行的には惨敗してしまう。やはり当時の映画ファンが彼女に期待するのは、白衣ではなくエレガントなドレスに身を纏った金持ちの貴婦人が、残酷な運命に翻弄されて苦悩する姿だったのである。そんなファンの要望に応えるようにして作られた本作は、イギリスで'34年に初演されて評判になった舞台劇「Sweet Aloes」を、ベティ・デイヴィスの名作『愛の勝利』('39)や『情熱の航路』('42)で知られるメロドラマ職人ケイシー・ロビンソンが脚色。不倫の末に妊娠・出産した子供を手放したイギリス人女性が、我が子恋しさと罪の意識に苛まれるというあらすじは極めてありきたりだが、養子に出した先が不倫相手の貴族家庭というのがユニークなポイント。で、心優しいアメリカの大富豪と結婚してニューヨークに暮らすヒロインは、その秘密を知る旧友と再会を果たすことで、自らのトラウマと真剣に向き合い決別することとなる…というわけだ。
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誰一人として悪人が出てこないところも本作の大きな特徴。それどころか、まあ、保守的で頭の固い銭ゲバなエセル伯母さんは別としても、それ以外の登場人物は軒並み「善意の人」ばかりである。そこは賛否の大きく分かれるところではあると思うが、しかしおかげでシリアスなストーリーも深刻になり過ぎずに済んだ。しかも、2度に渡って主人公ベリンダの窮地を救う親友タブスという人物が、どこか飄々とした三枚目紳士というキャラクター設定ゆえ、コミカルな味付けもしっかりと効いている。軽妙洒脱を意識したアーチー・メイヨ監督の洗練された演出も非常に粋。確かになんら特筆すべき点こそないものの、誰もが気持ちよく映画館を後に出来る良質な大衆メロドラマに仕上がっている。
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ベリンダの夫となる理想的な紳士ジムを演じるのは、これがフランシスと5度目の共演となるワーナー専属の二枚目スター、ジョージ・ブレント。当時のワーナーは男性向けギャング映画と女性向けメロドラマが二本柱で、いかにも紳士的なブレントは主にメロドラマでスター女優たちの相手役を任されていた。狂言回しの役も兼ねる劇作家タブス役には、翌年の大ヒットコメディ『天国漫歩』('37)でオスカー候補となる名優ローランド・ヤング。ベリンダの不倫相手ロバートには本作でハリウッド進出した英国俳優パトリック・ノウルズ、その父親ファリントン卿にはワーナーの時代劇大作に欠かせなかった名優ヘンリー・スティーブンソン。なかなか充実したキャストが揃っているが、その中で最大の儲け役はロバートの妻ロザマンド役のフリーダ・イネスコートであろう。イギリスの新聞記者兼編集者からハリウッド女優へ転身したという変わり種で、地味ながらも上品で知的な美しさが重宝された名脇役女優。本作でも夫の子供を産めないという負い目を抱え、結果的にベリンダにとっては最大の理解者となる、控えめで寛大で心の温かい女性を情感豊かに演じて強い印象を残している。
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評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※オンデマンドDVD-R
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:88分/発売元:Warner Home Video
特典:なし



by nakachan1045 | 2022-06-28 00:09 | 映画 | Comments(0)

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