なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Flowers in the Attic」 (2014)

製作:ハーヴェイ・カーン
ダミアン・ガンツェウスキー
製作総指揮:チャールズ・フライズ
原作:V・C・アンドリュース
脚本:ケイラ・アルパート
撮影:ミロスラフ・バザック
音楽:マリオ・グリゴロフ
出演:ヘザー・グレアム
エレン・バースティン
キーナン・シプカ
メイソン・ダイ
エヴァ・テレク
マックスウェル・コヴァック
ディラン・ブルース
チャド・ウィレット
アメリカ映画/90分/カラー作品


1957年のペンシルヴァニア州。閑静な住宅街にドーランガンガー一家が住んでいる。会社重役の父親クリストファー(チャド・ウィレット)に専業主婦の母親コリーン(ヘザー・グレアム)、14歳で医者志望の長男クリス(メイソン・ダイ)、ファザコンな12歳のキャシー(キーナン・シプカ)、そしてイタズラ盛りな5歳の双子キャリー(エヴァ・テレク)とコリー(マックスウェル・コヴァック)。いずれもブロンドに透き通るような白い肌の美男美女ばかりで、それはもう仲睦まじい理想的なアメリカン・ファミリーだ。ところが、その年のクリスマス・イヴに父親が交通事故で亡くなってしまう。まだ女性の社会的な地位が低かった時代、手に職のないコリーンは働き口が見つからず、たちまち経済的に困窮してしまった。そこで彼女は17年間も音信不通だった両親に手紙を出し、ヴァージニア州の実家へ戻ることにする。周囲の反対を押し切って夫と結婚したコリーンは、両親から絶縁されていたのだ。父親マルコムは心臓病で余命いくばくもないという。親子の関係を修復するには絶好の機会だ。祖父母の存在を初めて知る子供たちは驚き戸惑うものの、母親の実家がヴァージニア州でも指折りの大富豪だと聞いて、これで以前のように豊かな暮らしが出来ると喜ぶのだった。

そこは広大な庭園を有する由緒正しい大豪邸フォックスワース・ホール。真夜中に到着したコリーンと子供たちを出迎えたのは、厳格で気難しい祖母オリヴィア(エレン・バースティン)だった。物音を立てぬように注意され屋敷へ足を踏み入れた子供たちは、普段は誰も来ることのない最上階の小さな部屋へ案内される。ここで数日間待って欲しいという母コリーン。なぜなら、祖父マルコムは彼女に子供がいることを知らないため、まずは勘当を解いて遺産相続人に加えてもらい、それから子供たちの存在を認知してもらおうというのだ。どうして自分たちの存在を隠さなくてはいけないのか?素朴な疑問をぶつけるキャシーに、コリーンは本当のことを打ち明ける。籠の中の鳥のように可愛がられて育ったコリーンが初めて恋に落ちた相手は、父親マルコムの腹違いの若い弟…つまり彼女の叔父だった。それが子供たちの父親クリストファー。つまり、キャシーやクリスたちは近親結婚で生まれた子供だったのである。

それゆえ、祖母オリヴィアは実の娘コリーンを蔑み、その子供たちのことも頭ごなしに忌み嫌った。部屋には鍵がかけられ外へ出ることが許されず、祖母が毎朝1日分の食料を運んでくる。年長のクリスとキャシーはまだなんとか我慢できたが、しかし幼いキャリーとコリーには酷だった。唯一入ることが許されたのは、部屋から直接階段で上がることの出来る屋根裏部屋。クリスとキャシーは母親の差し入れる色紙や絵の具で屋根裏部屋を庭のように飾り立て、そこで弟や妹を遊ばせるのだった。初めのうちは毎日顔を出していたコリーンだが、しかしだんだんと訪れる頻度が減っていく。やがてクリスとキャシーは、母親に新しい恋人が出来たことを知る。祖父マルコムの秘書バート(ディラン・ブルース)だ。そればかりか、コリーンはマルコムが死ぬまで部屋から出られないと子供たちに告げる。なぜなら、前夫クリストファーとの間に子供はいないことが遺産相続人の条件だったからだ。大丈夫、お祖父ちゃんはもう先が長くないからすぐに出られる、そうすればみんなリッチで幸せになれるからと言うコリーンだったが、しかし子供たちは大きなショックを受けるのだった。

フォックスワース・ホールへ来てから2年近くが経過し、クリスとキャシーは肉体的にも精神的にも大人への階段をのぼり始める。ある時、浴室で着替え中のキャシーにクリスが話しかけ、その様子を目撃した祖母オリヴィアが激昂する。2人が「汚らわしいことをしている」と勘違いしたのだ。食事抜きの罰を与えようとする祖母に抵抗する兄妹。しかし、これを機に相手を異性として意識するようになったクリスとキャシーは、まるでお互いの孤独を慰めるようにして結ばれてしまう。この頃になると母親コリーンは殆ど訪れなくなり、子供たちは屋敷からの脱出を計画するようになる。

それから数か月後、ようやく子供たちの部屋へやって来たコリーンは、晴れてバートと結婚したことを報告する。ハネムーンでヨーロッパ旅行へ行ったの!すてきなお土産を買ってきたわとはしゃいで見せる母親に、やり場のない怒りをぶつけるクリスとキャシー。彼女が新しい夫に子供の存在を隠していることもお見通しだった。私はあなた達たちのために精一杯やって来た!責められる謂れなどないわ!と憤慨するコリーン。その翌日、祖母オリヴィアがお菓子の入った籠を運んでくる。それは白いシュガーパウダーをまぶしたドーナツ。お母さんからの差し入れよ、でも健康に悪いから食べない方がいいわ。意味深な言葉を残して出て行く祖母。そのドーナツを食べて以来、だんだんと子供たちの体調が悪くなっていく…。

ストーリーは最初の映画化である'87年版よりもだいぶ原作に忠実。中でも最大のポイントは、'87年版では匂わせる程度だった兄と妹の近親相姦関係をガッツリと描いている点であろう。なにしろ、思春期の男女が狭い部屋に何年も閉じ込められるわけだから、間違いが起きてしまっても仕方あるまい。しかもお互いの存在が唯一の支えであり救いであるゆえ、そこに特別な感情が芽生えてしまうのも無理からぬことだろう。頭ではダメだと分かっていても心が求めてしまう。そんな2人の複雑で繊細な感情の揺れ動きもきちんと描かれている。ここまでタブーに斬り込めるのは、本作が地上波と違って自主規制の少ないケーブル局の作品だからであろう。また、'87年版では観客に娯楽映画としてのカタルシスを提供するため、子供たちが母親に復讐を遂げるというクライマックスが用意されていたが、ここでは原作と同じように母親は子供たちを見捨てて屋敷を去ってしまい、本作の4ヶ月後に放送された続編『Petals on the Wind』へ続く。

さらに、'87年版が「残酷なメルヘン」とも呼ぶべきサイコロジカルなホラーストーリーを志向していたのに対し、本作はストーリーの背景に伝統的な家父長制や家制度、女性蔑視にルッキズムなどのもたらす諸問題を織り交ぜ、古き良き'50年代の美しくて理想的なアメリカ社会の不都合な真実を暴く女性ドラマに仕上がっている。支配的な父親から籠の中の鳥のように囲い込まれて育てられ、本人も認めるように美しい容姿しか取り柄のない女性となってしまった母親コリーン。ひとりで子育てはおろか生きる術すら持たない彼女は、夫の死によって女性の働き口の少ない過酷な社会に放り出されてしまう。そんな彼女にとって父親の財産にすがること、強い男性を頼りにすることは生存本能であり、結果的に我が子よりも自分が生き残る道を選んでしまったのだ。

一方の祖母オリヴィアもまた、名門一族当主の妻とは名ばかり。暴君のような夫からは粗末に扱われ、それでも献身的に尽くしてきたものの、先祖代々の家宝であるネックレスは、彼女ではなく娘コリーンが受け取ることとなる。実の娘であるコリーンを「綺麗なだけのふしだらな女」と蔑視し、孫たちの中でも特に年長男子のクリスを目の敵にするのは、宗教的な道徳観よりも男性全般や男受けの良い我が娘へ対する個人的な怨念が理由と言えよう。なので、時として孫たちへの哀れみや優しさを垣間見せながら、しかしどうしても憎悪の感情が勝ってしまい、聖書の教えを言い訳にして罪なき子供たちを不当に罰するのだ。ある意味で、彼女たちもまた男尊女卑的な社会の犠牲者であり、そのシワ寄せが孫世代へと降りかかってしまう。古き良き理想のアメリカ社会は、そうした弱者たちの犠牲の上に成り立っていたのである。

このようにフェミニズム的な視点に立った細やかな描写は、監督も脚本家も女性だからという理由が大きいだろう。監督は交通事故で流産した女性の後悔と喪失感を描いたカナダ映画『The High Cost of Living』('10)で評価された中国系カナダ人のデボラ・チョウ。脚本のケイラ・アルパートは、『アリーmyラブ』や『エミリー、パリへ行く』などの女性ドラマのスタッフライターだ。テレビ映画ゆえの低予算は見た目にも明らかだし、放送枠に合わせたストーリー的な簡略化も少なからず見受けられるが、しかしそうした制約の中でも十分に健闘していると言えよう。アメリカン・ゴシック・スタイルの美術セットもダークなムードを盛り上げる。

お人形さんのように美しいヘザー・グレアムは'87年版のヴィクトリア・テナントよりも明らかにハマリ役だし、祖母オリヴィアをただの怪物ではなく苦々しい人生を背負った不幸な女性として演じたオスカー女優エレン・バースティンも素晴らしい。『マッドメン』の子役として注目され、最近ではNetflixオリジナル『サブリナ:ダーク・アドベンチャー』の女子高生魔女サブリナ役で人気を博したキーナン・シプカも、聡明で自立心の強い少女キャシーを演じて親しみやすい魅力がある。女優陣の演技に救われている部分も大きいと言えよう。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/音声:5.1ch Dolby Digital Surround/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:90分/発売元:Lions Gate
特典:メイキング・ドキュメンタリー('14年制作・約20分)/オリジナル予告編
by nakachan1045
| 2022-11-05 04:08
| 映画
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