なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「原始獣レプティリカス」 Reptilicus (1961)

製作:シドニー・ピンク
製作総指揮:ヨハン・ザラベリー
原案:シドニー・ピンク
脚本:イブ・メルキオー
シドニー・ピンク
撮影:アーゲ・ヴィルトルプ
ミニチュア特撮:カイ・コーエド
音楽:スヴェン・グリドマルク
出演:カール・オットセン
ベント・メイディング
アスビョーン・アンデルセン
アン・スミルネル
ミミ・ヘインリッヒ
マルラ・ベーレンス
ポール・ヴォルディケ
ディルヒ・パッセル
ビルテ・ヴィルケ
オーレ・ヴィスボルグ
デンマーク・アメリカ合作/81分/カラー作品


実はこの映画にはデンマーク語版と英語版の2種類が存在し、それぞれ別の監督が演出を手掛けている。先に作られたデンマーク語版は、サガ・スタジオの製作主任でもあったポール・バング監督。一方の英語版は、製作と脚本を兼ねるアメリカ人のシドニー・ピンク監督が担当し、デンマーク語版と同じキャストやスタッフ、セットを使用して撮影された。ただし、デンマーク語版で米国人女性科学者コニーを演じた女優が英語を話せなかったため、この役だけはマルラ・ベーレンスへと変更。また、デンマーク語版の怪獣レプティリカスは空を飛ぶことが出来るものの、特撮の出来が芳しくないため英語版からその設定は外され、代わりとして英語版ではレプティリカスが緑色の酸性液を吐き出して攻撃するという設定が加わっている。手っ取り早くアフレコでセリフを吹き替えるのではなく、複数の言語バージョンを別々に撮るというのは、録音技術がまだ未発達だった'30年代には多く使われた手法だが、しかし本作の作られた'60年代当時では非常に珍しかったと言えよう。

物語の始まりは極北のラップランド。鉱山の採掘作業を行っていたデンマーク人の若き現場監督スヴェンド(ベント・メイディング)は、偶然にも地中で凍りついた巨大生物の肉片を発見する。専門家やジャーナリストに検証してもらったところ、それは太古の昔に絶滅した恐竜の尻尾だった。そこで、凍ったままの尻尾はコペンハーゲン水族館の研究所へと送られ、責任者のマルテンス教授(アスビョーン・アンデルセン)とその助手ダルビー博士(ポール・ヴォルディケ)がさらなる検証を進めることとなる。ところがある晩、研究所で徹夜の仕事をしていたダルビー博士は居眠りをしてしまい、その間に保管室の扉が開きっぱなしとなったため、恐竜の尻尾が室温で解凍されてしまった。ああ、これでもう細胞が破壊されてしまった!ガックリと肩を落としたマルテンス教授だったが、しかし娘リーゼ(アン・スミルネル)が妙なことに気付く。掘削機で肉片の削られた部分の傷が自然治癒し始めていたのだ。つまり、恐竜の尻尾は凍てついた地中で1億年以上も生きていたのである。

この恐竜をレプティリカスと名付けたマルテンス教授は、ヒトデのような分裂再生能力が備わっているのではないかと考え、レプティリカスの尻尾を培養液に保存して成長を促す。その一方、いざという時に備えて教授は軍隊の協力も要請し、米海軍司令官グレイソン大将(カール・オットセン)が責任者に、国際機関から派遣された女性研究者コニー(マルラ・ベーレンス)も研究チームに加わる。ところが、レプティリカスは誰もが想像しなかったほどのスピードで一気に再生し、巨大な怪獣へと成長して研究所を破壊してしまう。すぐさま軍隊が出動してレプティリカスを追跡。火炎放射器で追い詰めるものの、しかし海へと逃げられてしまう。魚雷で爆撃しようと考えるグレイソン大将だが、しかしコニーはその案に猛反対。なぜなら、海中でバラバラに散らばったレプティリカスの肉片が再生すれば、それこそ無数のレプティリカスが生まれてしまうからだ。やがて、海の中で傷をいやしたレプティリカスが再び上陸し、コペンハーゲンの街を破壊していく。果たして、この巨大怪獣を倒す方法はあるのだろうか…?

ということで、地中の氷河層で冷凍保存されていた恐竜の尻尾を解凍したところ、驚異の自己再生能力によってフルサイズの巨大怪獣へと成長!というのはなかなかナイスなアイディア。なにしろ、飛び散ったパーツからでも元の姿を再生することが可能だから、バラバラになったらその数だけレプティリカスが誕生してしまう。そのため、破壊力の大きい爆弾の類は使えない!というわけで、いかにして巨大怪獣を傷つけることなく、その暴走を食い止めるのかというスリリングなストーリーが展開していく。ただし、このように設定自体はとても良いのだけれど、それが実際に功を奏しているのかというと話はまた別で、映画そのものの出来は玉石混淆といったところだろう。中でも、操り人形みたいなパペットを用いたミニチュア特撮は見るからにチープで、どこか間が抜けた原始獣レプティリカスの造形デザインにも迫力や怖さが欠けている。シドニー・ピンク監督は「デンマークのミニチュア特撮は日本よりも素晴らしい!」と絶賛していたそうだが、いやいや、悪い冗談はよしてくださいな…と突っ込みたくなるところである(笑)。

そのピンク監督の演出もかなり凡庸。一応、レプティリカスの巨大さや獰猛さを表現するべく、スローモーションで凄みを増すような演出を試みているものの、あまり効果を発揮しているようには思えない。実際に撮影で軍隊を動員したレプティリカスとの戦闘シーンや、大勢のエキストラを集めた群衆パニックシーンなど、スペクタクルな見せ場はちゃんと用意されているのだが、しかしその見せ方には緊張も迫力も恐怖も感じられない。なんというか、全体的にとてもユルいのだ。いやあ、どれだけ『ゴジラ』が傑作だったのかということですよ。ちなみに、予算38万ドル(現在の金額に換算すると約355万ドル)というのは、当時のハリウッド基準でも決して大作と呼べるような規模ではないものの、しかし当時のAIP作品の予算が概ね10万ドル前後だったことを考えると、もちろんデンマーク側との共同出資ではあるものの、それなりに力の入った映画だったと言えるだろう。当時のデンマークは物価も人件費もアメリカより安かっただろうし。

なお、実はこの英語版、いちど完成した後にAIPの指示で再編集と追加撮影、さらに米国人声優によるセリフのアフレコまで行われているらしい。デンマーク語版にあったレプティリカスが空を飛ぶシーンも、どうやらこの段階で削除されたようだ。それは、レプティリカスが緑色の酸性液を吐き出すという設定も同様。どうも合成の見せ方が不自然かつ後付けっぽく感じられると思ったら、なるほどそういうことだったのか。なので、民家のお父さんがレプティリカスに食われるシーンの粗雑な合成も、もしかすると元々は人形か何かを使っていたところ、見栄えが悪いからと後から付け足した…なんてことがあったのかもしれない。まあ、これは筆者の勝手な憶測だけど。セリフに関しては、先述した通りにわざわざ英語版を別撮りしたにもかかわらず、蓋を開けてみるとデンマーク人俳優たちの英語の訛りが強かったため、これじゃアメリカの観客に笑われてしまう!ということでアフレコしたのだそうだ。当初、このAIP側の勝手な改変にピンク監督は猛抗議したらしいが、実際に再編集版を見たら文句を言わなくなったそうなので、これでも初号版よりはマシな出来だったのだろう。

そのデンマーク人キャスト、日本では無名に等しい人ばかりだが、研究所の用務員ピーターソン役のディルヒ・パッセルは、デンマークでは当時知らぬ者のいない人気コメディアンだったとのこと。なので、デンマーク語版ではもっと彼の出番が多かったそうだ。また、マルテンス教授の娘リーゼを演じているアン・スミルネルもデンマークでは有名な女優で、ピンク監督が再びデンマークで撮った『SF 第7惑星の謎』('62)のほか、西ドイツやイタリアのB級映画にも多数出演している。ナイトクラブで挿入歌「ティヴォリの夜」を歌う女性歌手ビルテ・ヴィルケも、当時デンマークで人気のポップス歌手だったらしい。さらに、掘削作業の現場監督スヴェンド役のブロンド二枚目俳優ベント・メイディングは、アメリカでもリメイクされた人気ドラマ『THE KILLING/キリング』のシーズン1('07)にコペンハーゲン市長役で出ていた。

評価(5点満点):★★☆☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※「Movies 4 You: More SciFi Classics」収録
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:81分/発売元:Timeless Media Group/MGM
特典:スチル・ギャラリー
by nakachan1045
| 2022-12-18 06:26
| 映画
|
Comments(3)
Commented
by
na
at 2022-12-29 11:31
Commented
by
na
at 2025-12-25 08:27
(1)この映画、デンマーク軍の全面協力による戦車や駆逐艦や野戦砲の描写やコペンハーゲン市民の多くを動員して撮影したという吊り橋のシーンを筆頭とした群衆シーンは本当にすばらしいですよね。
(2)上記の(1)に書いた要素は本当にすばらしいのに肝心のレプティリカスの造形物と合成シーンの出来の悪さや本筋のストーリーと関係ない上に超どうでもいいデンマークの首都コペンハーゲンの観光案内の映像にかなり尺が使われているのは映画の評価をすごく下げていますよね。
(3)自分はもっと予算が潤沢でレプティリカスの造形物と合成シーンの出来が良くてデンマークの首都コペンハーゲンの観光案内の映像を全部カットされていたらすばらしい映画になっていたと思います。
なかざわひでゆきさんはどう思いますか?
(2)上記の(1)に書いた要素は本当にすばらしいのに肝心のレプティリカスの造形物と合成シーンの出来の悪さや本筋のストーリーと関係ない上に超どうでもいいデンマークの首都コペンハーゲンの観光案内の映像にかなり尺が使われているのは映画の評価をすごく下げていますよね。
(3)自分はもっと予算が潤沢でレプティリカスの造形物と合成シーンの出来が良くてデンマークの首都コペンハーゲンの観光案内の映像を全部カットされていたらすばらしい映画になっていたと思います。
なかざわひでゆきさんはどう思いますか?
0
この映画はデンマーク軍が全面協力していますがいっそのことデンマーク軍を主役(主人公)にしても良かったかもしれませんね。
以前の記事
2026年 02月2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
最新のコメント
| この映画はデンマーク軍が.. |
| by na at 08:27 |
| ランドマスターは本当にか.. |
| by na at 17:53 |
| > にこらさん コメン.. |
| by nakachan1045 at 01:32 |
| なかざわ様 前にあった.. |
| by にこら at 19:32 |
| DVDリリースされてまし.. |
| by ken at 22:53 |
| > kenさん 書.. |
| by nakachan1045 at 16:23 |
| チプリアーニの作品中でも.. |
| by ken at 11:36 |
| ひでゆきさん、ありがとう.. |
| by na at 16:19 |
| naさん 書き込み有難.. |
| by nakachan1045 at 15:28 |
| 2011年に見つかった原.. |
| by na at 17:32 |
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
ハリウッド映画(543)70年代(355)
ホラー映画(287)
60年代(267)
80年代(215)
イタリア映画(185)
アクション(135)
ドラマ(119)
50年代(107)
イギリス映画(107)
サスペンス(105)
ダンス(105)
ポップス(104)
カルト映画(95)
30年代(68)
ロマンス(60)
40年代(59)
日本映画(57)
70年代音楽(57)
2020年代音楽(50)
SF映画(46)
コメディ(45)
ノワール(41)
フランス映画(41)
90年代(40)
ジャッロ(39)
80年代音楽(38)
1920年代(37)
西部劇(35)
K-POP(34)
香港映画(32)
ソウル(31)
エロス(28)
ドイツ映画(26)
スペイン映画(26)
ファンタジー(22)
サウンドトラック(21)
ミュージカル(21)
歴史劇(21)
ワールド映画(21)
2010年代音楽(20)
戦争(20)
アドベンチャー(19)
メキシコ映画(18)
イタリア映画音楽(18)
テレビ(18)
ラテン(17)
アニメーション(16)
2000年代音楽(15)
ルーマニアン・ポップス(15)
1910年代(14)
スパイ(13)
ロシア映画(12)
アナウンス(11)
ラウンジ(9)
フィリピン映画(9)
カナダ映画(9)
ロック(9)
60年代音楽(9)
ロシア音楽(8)
90年代音楽(8)
青春(7)
ジャズ(7)
バルカン・ポップス(7)
シットコム(5)
連続活劇(4)
2010年代(4)
LGBT(3)
パニック(3)
J-POP(3)
2000年代(3)
イタロ・ディスコ(3)
韓国映画(2)
フランス映画音楽(2)
アンダーグランド(2)
カントリー・ミュージック(2)
オーストラリア映画(2)
トルコ映画(2)
文芸(1)
民族音楽(1)
ブラジル音楽(1)
1920年代音楽(1)
フレンチ・ポップ(1)
シャンソン(1)
サルサ(1)
ギリシャ音楽(1)
ギャング(1)
インド映画(1)
音楽DVD(1)
音楽ライブ(1)
伝記映画(1)
2020年代(1)
ブログパーツ
最新の記事
| 「Get Mean」 (19.. |
| at 2026-02-09 16:39 |
| 「豪快!マルコ・ポーロ」 M.. |
| at 2026-02-04 20:54 |
| 「Quando l'amor.. |
| at 2026-01-29 22:23 |
| 「アラジンと魔法のランプ」 .. |
| at 2026-01-28 12:15 |
| 「シンデレラ」 Aschen.. |
| at 2026-01-27 16:36 |

