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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L'ultima orgia del Ⅲ Reich (1977)

「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_04372036.jpg
監督:チェザーレ・カネヴァーリ
製作:チェザーレ・カネヴァーリ
原案:アントニオ・ルカレッラ
脚本:チェザーレ・カネヴァーリ
   アントニオ・ルカレッラ
撮影:クラウディオ・カトッツォ
音楽:アルベルト・バルデン・ベムボ
出演:マルク・ルード(アドリアーノ・ミカントーニ)
   ダニエラ・レヴィ(ダニエラ・ポッジ)
   マリステラ・グレコ
   フルヴィオ・リカルディ
   アンティネシュカ・ネムール
   カテリーナ・バルベロ
イタリア映画/95分/カラー作品




「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11493014.jpg
'70年代半ばのイタリアで時ならぬブームを呼んだナチスプロイテーション映画のひとつ。ナチスプロイテーションとはナチス×エクスプロイテーションの略語だ。その語源からも察せられるように、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの行った残虐非道な戦争犯罪の実態を暴く!という建前のもと、ナチスの強制収容所や将兵用売春宿で繰り広げられる女性へのレイプや拷問や性搾取といった人権侵害行為を、いわば「見世物小屋的な娯楽」として描いたエログロ・ポルノのことである。ジャンルのルーツに関しては諸説あるものの、ルキノ・ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』('68)やリリアーナ・カヴァーニの『愛の嵐』('74)といった、巨匠・名匠たちによるアート系ナチス映画から少なからぬ影響を受けたことは間違いないだろう。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11505264.jpg
加えて、カナダ映画『ナチ女収容所/悪魔の生体実験』('74)やティント・ブラス監督作『サロン・キティ』('76)が相次いで大ヒットしたこともあって、短期間ではあれど矢継ぎ早にイタリア産ナチスプロイテーション映画が作られることとなった。ただし、いずれもスプラッター映画ばりの血生臭い残酷描写と、一般作ではギリギリ限界の過激な性描写を売りにした安っぽいキワモノばかり。だからこそ今もなおカルトな人気が根強いのだろうが、いずれにせよ映画作品としては「低俗」としか言いようのない代物が多かった。そうした中、「比較的マシな映画」のひとつとされているのが本作『ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所』だ。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11500848.jpg
物語の始まりは終戦後のドイツ。ユダヤ人強制収容所の所長だった元親衛隊将校コンラッド・フォン・シュタルク(アドリアーノ・ミカントーニ)は、軍事裁判にかけられて死刑を求刑されたものの、元囚人のユダヤ人女性リーゼ・コーエン(ダニエラ・ポッジ)の証言によって命拾いをする。それから数年が経ち、コンラッドはリーゼからの連絡を受けて呼び出され、2人して強制収容所の跡地を訪れる。興奮した様子でリーゼの肉体を求めるコンラッド。ある目的のためにコンラッドを呼び出したリーゼは、まさに「この世の地獄」としか形容のしようがない強制収容所での日々を振り返る。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11503887.jpg
時は遡って第二次世界大戦中、大勢の女性が強制収容所へ到着するのだが、その中にリーゼの姿もあった。一部の女性たちはガス室送りとなり、さらに生きたまま焼き殺される女性たちもいたが、リーゼを含む若くて美しい女性たちは全裸のまま巨大ホールへ集められ、待ち構えていたドイツ軍の男性兵士たちによってレイプされる。この大規模な「乱交パーティ」を指揮したのが署長のコンラッド。「第三帝国の兵士に情など必要ない!卑しい女たちに肉体的な苦痛を与えるのだ!」そんなコンラッドの指示のもと、野獣と化したドイツ兵たちはユダヤ人女性に次々と襲いかかり、暴力を伴う残酷な方法で凌辱していくのだった。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11521156.jpg
身も心もボロボロに傷つけられて狭い宿舎へ押し込められる女性たち。その中で唯一、リーゼだけは顔色一つ変えなかった。自分のせいで家族がナチスに殺されたと考えている彼女は、すっかり生きる希望も気力も失っているため、喜怒哀楽の感情が麻痺しているのだ。むしろ、今すぐ殺して欲しいと考えている。そんな彼女は、同じように冷静な囚人仲間リア(アンティネシュカ・ネムール)と親しくなる。収容所での生活は文字通りの生き地獄だった。所長コンラッドは拷問や殺人に性的な快楽を見出す変態だったが、その愛人でもある女看守アルマ(マリステラ・グレコ)はさらに冷酷かつ兇暴で、生理の来た女性を獰猛な愛犬ドーベルマンのエサにすることを日課としていた。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11514128.jpg
ある晩、女囚の中でも特に美しい女性たちが、ナチス親衛隊幹部の晩餐会に出席させられる。リーゼもそのひとり。ただし、彼女たちはただの「飾り」で、豪華な食事に手を付けることは出来ない。しかしそこで振る舞われたのは、ユダヤ人の赤ん坊の肉を煮込んだシチューだった。来るべき世界的な食糧危機に備えて、ユダヤ人を食用の家畜として有効活用しようではないか!我々の次なる計画は「ユダヤ人農場」だ!そう提案する博士に拍手を送った親衛隊幹部たちは、赤ん坊を柔らかく煮込んだ人肉シチューに舌鼓を打つ。その光景に耐えられず気を失った囚人女性は、生きたまま全身に火をつけられ人間ローストビーフにされるのだった。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11512610.jpg
来る日も来る日も拷問やレイプを受け続けるユダヤ人女性たち。コンラッドの狙いは、屈辱と苦痛を与えることで彼女たちを狂気の淵へと追いやり、若くて美しい女性が助けを求めて泣き叫ぶ姿を見ながら殺すことだった。それだけに、いくら激しい暴力を加えても全く無反応なリーゼが腹立たしい。あらゆる残忍な方法を試しても成果なし。コンラッドから心理分析を依頼された若い医師(フルヴィオ・リカルディ)は、リーゼが既に生きる気力を失っていることに気付く。そんな彼女に同情した良心的な医師は、リーゼの家族がまだ生存していることを調べてくれた。これで生きる希望を取り戻した彼女は、今度は過酷な収容所生活をサバイブするため心を鬼にし、コンラッドの愛人として振る舞うようになるのだが…?
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11522754.jpg
数多のナチスプロイテーション映画群と同様、史実を無視した興味本位なエログロ描写を盛り込みつつも、どことなくアート映画風味の品格(?)みたいなものが漂うのは、元祖エマニエル夫人映画『Io, Emmanuelle(私はエマニエル)』('69)や史上初のサイコロジカル・ウエスタンと称される『Matalo!』('70)など、実験的な演出を取り入れた芸術性の高い低予算B級映画で知られるチェザーレ・カネヴァーリ監督ならではだろうか。ストーリーの骨格は『愛の嵐』、原題にもなっている乱交シーンは『サロン・キティ』('76)の明らかなパクリだと思うが、全編を通して極端な荒唐無稽をなるべく排したシリアスな語り口はユニークである。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11515510.jpg
美しくも格調高いセンチメンタルな音楽スコアなんかも、この手のゲテモノ映画としてはかなり異色。それが似つかわしいのかどうかは賛否の分かれるところだが、とりあえずカネヴァーリ監督がどのような映画を指向していたのかは理解できるだろう。カネヴァーリ作品の常連組クラウディオ・カトッツォによる、悪夢的なイメージを散りばめたスタイリッシュなカメラワークも意外と悪くない。本作がナチスプロイテーション映画として「マシな部類」と評されるのは、こうしたことが理由となっているのかもしれない。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11510839.jpg
ヒロインのリーゼ役を演じているのは、後にテレビ女優として売れっ子になるダニエラ・ポッジ。当時まだモデルから転身したばかりの新人で、演劇的なバックグランドの全くなかった彼女は、エージェントから半ば押し付けられる形で出演したのだそうだが、あとから引き受けなければよかったと後悔していたらしい。強制収容所の所長コンラッド役には、ピーター・ホワイトの名前で数々のマカロニ・ウエスタンに出ていた悪役俳優アドリアーノ・ミカントーニ。本作ではマルク・ルードという変名を使用している。そのほか、キャストは無名の役者を中心に構成されているが、リーゼと親しくなる女囚リア役のアンティネシュカ・ネムールはパゾリーニの『ソドムの市』('75)にも出ていた。
「ゲシュタポ卍(ナチ)女収容所」 L\'ultima orgia del Ⅲ Reich  (1977)_f0367483_11502470.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語・イタリア語/字幕:なし/地域コード:1/時間:95分/発売元:Mondo Digital/Shriek Show
特典:オリジナル劇場予告編/フォトギャラリー



by nakachan1045 | 2023-01-09 11:56 | 映画 | Comments(0)

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