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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)

「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_12015286.jpg
監督:キング・ヴィダー
製作:アーヴィング・タルバーグ
原作:アンリ・ミュルジェール
脚本:フレッド・デ・グレサック
脚色:レイ・ドイル
   ハリー・ベーン
台詞:ウィリアム・M・コンセルマン
   ルース・カミングス
撮影:ヘンドリク・サートフ
美術:セドリック・ギボンズ
   アーノルド・ジレスピー
出演:リリアン・ギッシュ
   ジョン・ギルバート
   ルネ・アドレー
   ロイ・ダーシー
   カール・デイン
   ジョージ・ハッセル
   エドワード・エヴェレット・ホートン
   フランク・カリアー
   マチルデ・コモント
   ジーノ・コラード
   ユージーン・ポーイェット
アメリカ映画/93分/モノクロ(サイレント)作品




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サイレント期ハリウッドにおける最大のスター女優リリアン・ギッシュが、プッチーニのオペラとしても有名な『ラ・ボエーム』に挑んだメロドラマ映画である。製作を手掛けたのはMGMの制作部長アーヴィング・タルバーグ。当時すでにハリウッド最大手のスタジオへと急成長し、「星の数よりも多くのスター」を揃えるべく他社のトップスターを高額ギャラで引き抜いていたMGMは、アメリカ映画の父D・W・グリフィス監督のミューズにして、「アメリカ映画のファーストレディ」との異名を取る国民的大女優リリアン・ギッシュの獲得に成功。過去にリリアンがヘンリー・キング監督の制作会社で主演した『ロモラ』('24)を配給したことのあるMGMだが、ようやく念願の専属契約を取り付けたのである。その際、リリアン側から提示された契約条件が、出演作を選ぶ権利を本人に与えること、そしてスタッフ・キャストの人選や脚本・撮影の内容についても、本人の意見や希望を最大限に取り入れることだった。
「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_08220883.jpg
これは、当時のハリウッドでは異例中の異例とも言える特別待遇。なにしろ、たとえスターといえど俳優は映画会社の所有物だった時代である。それほどまでしてもMGMはリリアン・ギッシュを欲しかったのだろう。当時の彼女はヨーロッパから戻って来たばかりで、アメリカだけでなく欧州のファンにも馴染みのある題材を求めていた。そこで選ばれたのが『ラ・ボエーム』だったというわけだ。監督には戦争映画の傑作『ビッグ・パレード』('25)を手掛けたばかりのキング・ヴィダーを起用。まだ公開される前の『ビッグ・パレード』を試写で見たリリアンは強い感銘を受け、共演者にも同作のジョン・ギルバートとルネ・アドレーを選んだ。グリフィス作品の熱心な崇拝者だったヴィダー監督は、リハーサルから撮影本番に至るまで全てリリアンの希望に従ったそうだが、それゆえ共演者やスタッフからは不満の声もあったという。いずれにせよ、実質的にリリアン・ギッシュによるリリアン・ギッシュのための企画だったのである。
「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_08225533.jpg
舞台は19世紀半ばのフランス。パリの一角カルチエ・ラタンでは、ボヘミアンの芸術家たちが成功を夢見て貧しい生活を送っている。売れない戯曲家ロドルフ(ジョン・ギルバート)もそのひとり。画家マルセル(ジーノ・コラード)や音楽家ショナール(ジョージ・ハッセル)、哲学者コリーネ(エドワード・エヴェレット・ホートン)と同居しているロドルフだったが、食べるにも事欠くためアパートの家賃を滞納しており、大家ベルナール(ユージーン・ポーイェット)から「夜までに家賃を払わなければ出て行ってもらう」と最終通告を受けてしまう。仕方なく三文雑誌の原稿を書いてギャラを受け取るも、とてもじゃないが1ヶ月分の家賃には足りない。マルセルやコリーネも同様。ところが、大道芸の猿回しが評判となったショナールが思いがけず大金を稼ぎ、辛うじて全員分の家賃を払うことが出来た。
「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_08224306.jpg
一方、そう上手くいかなかったのが同じアパートに暮らすお針子ミミ(リリアン・ギッシュ)。彼女もまた家賃を滞納しており、なおかつ下心のあるベルナールの誘惑を断ったことから、ロドルフたちと同じく最終通告を受けるのだった。家の中にある衣服や毛布ばかりか、今着ているコートやマフラーまで質に入れたミミだったが、しかし二束三文にしかならない。季節は冬。寒空の下をトボトボと歩いて帰宅した彼女は、このままでは家賃が払えないと途方に暮れる。その頃、マルセルは階下に住む恋人の娼婦ミュゼット(ルネ・アドレー)からディナーに誘われ、ルームメイトたちを誘って久しぶりの豪華な食事にありついていた。ひとりだけ部屋に残っていたロドルフ。そこへ、ミミがろうそくに火をつけるためのマッチを貸して欲しいと訪ねて来る。お互いに惹かれあうロドルフとミミ。しかし、内気で控えめなミミはロドルフの親切に感謝して自室へ戻っていく。
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覚悟を決めてアパートを出て行くことにしたミミ。すると、その姿を見かけたミュゼットが声をかけ、一緒にディナーを食べようとミミを誘う。遠慮するミミを半ば強引に連れ込み、飲めや歌えやのお祭り騒ぎを繰り広げるロドルフと仲間たち。落ち込んでいたミミの表情にも笑顔が戻る。さらに、質屋から帰る途中のミミを見かけた裕福な貴族ポール(ロイ・ダーシー)が彼女の部屋を突き止め、お針子の仕事を大量に注文する。実は邪な下心があって近付いてきたのだが、喉から手が出るほど仕事が欲しいミミには想像が及ばない。しかも大金を前払いしてくれるというのだから、彼女にとってはまさに救いの神だった。こうして、ミミもなんとか部屋を追い出されずに済んだのである。
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やがて季節は移り、暖かな春を迎えたパリ。ひとりぼっちで孤独だったミミはミュゼットと大親友になり、ロドルフたちともすっかり仲良くなっていた。ある日、全員揃って郊外の森へ復活祭のピクニックに出かけた仲間たち。そこで初めて、ロドルフとミミはお互いの愛を確認する。燃え上がる恋の炎にインスピレーションを得たロドルフは新作の戯曲を書き始め、そんな彼をミミは甲斐甲斐しく支えるのだった。ところが、ロドルフの代理として生活費稼ぎの記事原稿を出版社に持ち込んだミミは、そこで編集長からロドルフがクビになったことを知らされる。戯曲の執筆に熱中するあまり、締め切りを守らなくなってしまったからだ。
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しかし、本人に伝えたらプライドが傷つくに違いない。困ったミミはクビになったことをロドルフに隠し、その代わり自分のポケットマネーを原稿料と偽って手渡す。それ以来、彼女はロドルフの原稿料と自分の生活費の両方を稼ぐため、寝る間も惜しんで働くようになった。みるみるうちにやせ細っていくミミ。そんなある日、貴族ポールがロドルフの戯曲を有名な劇場主に売り込んであげると言い出す。もちろん、彼女とお近づきになるための口実なのだが、愛するロドルフのためになるならと感謝するミミは、一緒に劇場主のもとへ行くことを約束する。ところが、その様子を見かけたロドルフはミミが浮気しているものと勘違いし、怒りのあまり彼女と絶交してしまう。悲しみに暮れるミミは、それでも彼の戯曲を売り込もうとするのだったが…?
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恵まれない身の上の古風で可憐な淑女が、命を投げうってでも愛する男性のために尽くすという悲恋物語。数多くのグリフィス作品において、美しくも幸薄いヒロインを得意としたリリアン・ギッシュにとって、これぞまさしくうってつけの映画である。侘しさの中に幻想的な美しさを漂わせた安アパートの光景、まばゆい陽の光に包まれながら池のほとりで戯れるミミとロドルフなど、まるで印象派の絵画のような映像美に目を見張る。撮影監督には、リリアンのご指名でグリフィス作品の常連ヘンドリク・サートフを起用。ソフトフォーカスを当てながらリリアンの繊細な表情をクロースアップで捉える手法は、『嵐の孤児』('21)でも披露していたサートフの得意技だ。
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その一方、中間字幕を含めて1時間半というコンパクトな尺ゆえ、どうも全体的に駆け足となってしまった印象は否めず、そのうえジョン・ギルバートやジョージ・ハッセルの過剰な芝居が、'30年代のフランス映画にも通じる詩的リアリズムに水を差してしまっている。もともとサイレント映画というのは、音がないという性質から演技が大袈裟になってしまいがちなのは仕方ないのだが、それにしてもこれはちょっとやり過ぎであろう。また、前半部分のコミカルなタッチにも少々違和感を覚える。悲哀とユーモアのバランスがどこかチグハグなのだ。そうした諸々もあってか、全体的にストーリーが薄っぺらくなってしまったようにも思う。
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ただし、主人公ミミの一途な自己犠牲が、やがて哀しい末路へと突き進んでいく、破滅的な終盤の展開はとても見応えがある。そこはさすが巨匠キング・ヴィダーである。中でも、役作りのために3日間も飲まず食わずで撮影に臨んだという、病気と過労で命を擦り減らせたミミを演じるリリアン・ギッシュの、文字通り鬼気迫る芝居は圧巻だ。スタジオに現れたリリアンはゲッソリとやつれて顔色も悪く、それを見たヴィダー監督もジョン・ギルバートも感心するより引いてしまったという。体力が衰えて意識ももうろうとしたミミが、愛するロドルフに一目会いたいと懐かしいアパートへ向かうため、馬車にしがみついたまま石畳の道路を引きずられるシーンの体当たりな芝居も凄まじい。さらに、目も口も半開きで決して安らかとは言えないミミの悲惨な死に顔を、親友のミュゼットがそっと整えてあげるラストがまた強烈に印象的。こんなシーンは初めて見た。
「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_08242933.jpg
結果的に本作は興行的に成功を収めたものの、続くナサニエル・ホーソーン原作の『緋文字』('26)は、ただでさえ製作費が予算を大幅に上回ってしまったうえ、批評家からの大絶賛とは裏腹に客足はあまり伸びず、ほどなくして新星グレタ・ガルボにMGMトップスターの座を譲り渡したリリアン・ギッシュは、自身が最も好きな作品だという文芸映画『風』('28)を最後にMGMを去ることとなってしまう。
「ラ・ボエーム」 La Bohème (1926)_f0367483_08241949.jpg
評価(5点満点):★★★☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※オンデマンドDVD-R
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital(伴奏のみ)/言語:英語(中間字幕)/地域コード:ALL/時間:93分/発売元:Warner Home Video
特典:なし



by nakachan1045 | 2023-01-29 08:26 | 映画 | Comments(0)

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