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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「天使」 Angel (1937)

「天使」 Angel (1937)_f0367483_20403355.jpg
監督:エルンスト・ルビッチ
製作:エルンスト・ルビッチ
戯曲:メルキオル・レンジェル
翻訳:ガイ・ボルトン
   ラッセル・メドラフト
脚本:サムソン・ラファエルソン
撮影:チャールズ・ラング
衣装:トラヴィス・バントン
音楽:フレデリック・ホランダー
出演:マレーネ・ディートリッヒ
   ハーバート・マーシャル
   メルヴィン・ダグラス
   エドワード・エヴェレット・ホートン
   アーネスト・コサート
   ローラ・ホープ・クルーズ
   ハーバート・マンディン
   デニー・ムーア
アメリカ映画/91分/モノクロ作品




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大女優マレーネ・ディートリッヒと巨匠エルンスト・ルビッチが、初めてタッグを組んだロマンス映画である。どちらもハリウッドのトップに君臨したドイツ出身者。これが初仕事とは少々意外に思われるかもしれないが、なにしろディートリッヒはジョセフ・フォン・スタンバーグ監督との公私に渡る名コンビが長かった。一応、前年にディートリッヒが主演した『真珠の頚飾』('36)をルビッチが監督する計画もあったのだが、しかし当時のルビッチはパラマウントの制作部長を兼任して忙しく、結局はプロデュースを担当するに止まった。なので、本作は満を持しての初コンビ作だったとも言えよう。
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ただし、大物同士の夢の顔合わせであるにもかかわらず、劇場公開時は興行的にも批評的にも惨敗を喫してしまう。当時のディートリッヒは、『西班牙狂想曲』('35)でフォン・スタンバーグと袂を分かった頃から人気に陰りが見え始めていた。スタジオが期待したほどの成果を上げられなかったルビッチも制作部長を解任されたばかり。どちらもキャリアのスランプ時期にあったと言えるだろう。結局、ほどなくしてディートリッヒもルビッチもパラマウントを去ることとなったのだが、本作の不入りが大きな理由であったろうことは想像に難くない。
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物語の始まりはフランスのパリ。ひとりの貴婦人が匿名で高級ホテルに宿を取る。彼女の名前はマリア・バーカー(マレーネ・ディートリッヒ)。イギリスの高名な外交官サー・フレデリック・バーカ―(ハーバート・マーシャル)の夫人である。かつて大恋愛の末に結婚した2人だったが、しかし多忙を極めるフレデリックは出張ばかりの生活。寂しさを募らせていたマリアは、夫が出張で留守の間を見計らって、パリに住む旧知の亡命ロシア貴族アンナ・ディミトリエフナ大公妃(ローラ・ホープ・クルーズ)に相談しようと考えたのである。アンナ大公妃は上流階級の紳士に遊び相手の女性を紹介する秘密サロンを経営しており、実はかつてマリアも彼女のもとで働くサロンの稼ぎ頭だったのだ。
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久しぶりの再会を喜び合うマリアとアンナ大公妃。しかし、サロンをひとりで切り盛りするアンナ大公妃は忙しく、ひとまずマリアは隣の部屋で待つことになる。すると、そこには先客が待機していた。知人の紹介で初めてサロンを訪れた英国紳士アンソニー・ハルトン(メルヴィン・ダグラス)だ。マリアをアンナ大公妃と間違え、その美しさに心を奪われてしまうアンソニー。そんな彼を面白がって応対したマリアは、自分がアンナ大公妃ではないことを打ち明けたうえで、彼からのディナーの誘いを受け入れる。今の彼女には、ちょっとした恋愛ごっこが必要だったのだ。お互いに名前を名乗らず、相手の私生活も一切詮索しない。純粋に素敵なひと時を楽しみましょう。そう言って華やかなパリの夜を満喫する2人だったが、しかし真面目なアンソニーは本気で彼女に恋をしてしまい、その一途な気持ちにマリアは大きく戸惑う。こんな風に男性から愛を告白されたのは久しぶりだ。しかし、それでも自分は夫を愛している。そのまま名前も告げずにマリアはパリを去り、残されたアンソニーは彼女を「エンジェル」と呼ぶのだった。
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ロンドンへ戻ったマリアは、翌朝帰国した夫フレデリックと変わらぬ愛情を確かめ合う。そう、基本的に2人は相思相愛の理想のカップルだった。ただ、一緒にいる時間があまりにも少ないだけなのだ。このところ忙しさにかまけ、妻に寂しい思いをさせていたと反省するフレデリックは、久しぶりに夫婦水入らずで旅行へ出かけようと提案する。満面の笑顔で喜ぶマリア。ところが、夫と一緒にアスコット競馬場へ出かけた際、彼女は大勢の客の中にアンソニーの姿を見かけて狼狽える。その週末、知人宅の昼食会へ紹介されたフレデリックは、そこでアンソニーと遭遇する。2人は旧知の仲だったのだ。第一次世界大戦で従軍した際にパリで知り合い、遊び仲間として楽しいひと時を過ごした2人。早速、フレデリックはアンソニーを自宅のディナーへ招待する。
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昼食会から帰ったフレデリックは、旧友アンソニーとの再会を妻マリアに興奮した様子で話す。初めのうちは「あら良かったわね」と聞いていたマリアだったが、しかしその旧友がパリで見知らぬ美女に一目惚れをした、彼女のことを「エンジェル」と呼んでいると知って、それがマリア大公妃のサロンで出会った紳士であることに気付く。どうしよう、こんな偶然があるものなのかと困惑するマリア。しかも、週末のディナーに招待したというではないか。断りたいけれど断る理由が見つからない。意を決した彼女は、別人のふりをして知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりで、夫の旧友アンソニーを自宅へ迎え入れるのだったが…?
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いわば、酸いも甘いも噛み分けた大人の男女による三角関係の行方を描いたラブロマンス。なるほど、劇場公開時にあまり評判が良くなかったのも分からなくはないだろう。エルンスト・ルビッチといえば、軽妙洒脱なスクリューボール・コメディがトレードマークだが、本作ではそのコメディ色があえて抑えられているため、いつものルビッチ映画を期待すると少なからず肩透かしを食らってしまうのだ。ストーリー自体も、わりとよくある不倫ドラマ。ディートリッヒがこれを凡作と呼んだのも無理からぬ点はあるだろう。その代わりと言っては何だが、技巧を凝らした映像テクニックでストーリーを紡ぎ、登場人物たちの感情のひだを表現していく「ルビッチ・タッチ」は、他に類を見ないくらいに冴えわたっている。物語の進行で重要なカギとなるシーンをあえて直接描写せず、そこに居合わせた第三者たちの反応や証言だけで観客に想像させる鮮やかな語り口もお見事。この大胆さと奥ゆかしさ。これぞ洗練の極みである。
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神々しくもエレガントで官能的なディートリッヒの美しさも絶品。甲斐甲斐しく夫に尽くす可愛らしい淑女と、初心な男心を翻弄する遊び慣れた悪女の2つの顔を併せ持つヒロイン、マリアを、どこか謎めいた雰囲気で演じて実に素晴らしい。仕事一筋の不器用な夫フレデリック役のハーバート・マーシャル、その旧友で恋愛に一途な紳士アンソニー役のメルヴィン・ダグラスと、ディートリッヒを巡って恋のさや当てを演じる名優たちも好演である。ふくよかで愛らしい中年のおばちゃんに見えて、世の中の表も裏も知り尽くしたやり手のサロン経営者アンナ大公妃役を演じるローラ・ホープ・クルーズも印象深い。どこかで見たことのある人だと思ったら、『風と共に去りぬ』('39)のピティパット叔母さんか。
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ちなみに、本作はそのきわどい題材のせいもあって、製作準備の当初から様々なトラブルに見舞われていたという。なにしろ、当時はハリウッドの厳格な自主規制条項ヘイズ・コードが'34年に施行されたばかり。伝統的なキリスト教の倫理に反するような表現は厳しく取り締まられ、中でも特に性表現はことごとくタブー視された。なので、そもそも不倫をテーマにした本作は最初からリスキーな企画だったと言えよう。検閲を担当するヘイズ・オフィスからは、毎日のように脚本の修正や撮り直し、再編集の指示が出されらしい。アンナ大公妃のサロンも当初は高級娼館という設定だったが、当然ながらダメ出しを食らってしまった。本作がどことなく堅苦しさを感じさせるのも、こうした度重なる自主検閲の横やりが原因だったのかもしれない。
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先述したように、興行的にも批評的にも不発に終わってしまった本作。パラマウントはディートリッヒの残りの契約期間を金で解決してクビを切り、ルビッチも残りの一本『青髭八人目の妻』('38)を最後にお役御免となってしまう。ところが、ディートリッヒは移籍先のユニバーサルで出演した『砂塵』('39)の大ヒットで見事にキャリアの復活を遂げ、MGMへ招かれたルビッチもディートリッヒのライバル、グレタ・ガルボを主演に迎えた『ニノチカ』('39)で大当たりをとった。まことに皮肉なもんである。
「天使」 Angel (1937)_f0367483_23464085.jpg
評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:91分/発売元:Universal Studios
特典:なし



by nakachan1045 | 2023-02-06 00:06 | 映画 | Comments(0)

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