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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)

「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_09213174.jpg
監督:ジョン・バダム
製作:ローレンス・P・バックマン
戯曲:ブライアン・クラーク
脚本:ブライアン・クラーク
   レジナルド・ローズ
撮影:マリオ・トージ
音楽:アーサー・B・ルービンスタイン
出演:リチャード・ドレイファス
   ジョン・カサヴェテス
   クリスティーン・ラーティ
   ボブ・バラバン
   ケネス・マクミラン
   カーキ・ハンター
   トーマス・カーター
   アルバ・オムス
   ジャネット・アイルバー
   キャスリン・グロディ
   ジェフリー・コムズ
アメリカ映画/118分/カラー作品




「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22513459.jpg
当時はまだそんな言葉は存在しなかったと思うが、今で言う「尊厳死」を巡る様々な問題や課題を、恐らくハリウッド映画として初めて正面から描いた映画である。オリジナルは'72年にイギリスのグラナダTVで放送されたテレビ映画。交通事故で首から下の全身が麻痺してしまった男性が、「たとえ命があったとしても、これでは生き地獄だ」として、自らの意思で死を選ぼうとする。非常にダークで重苦しい、しかし決して目を背けてはならないテーマを扱った作品と言えよう。さらに、その脚本家ブライアン・クラーク自身の手掛けた舞台版が'78年にロンドンで初演されて評判となり、翌年にはニューヨークのブロードウェイへ上陸して大ヒット。主演のトム・コンティがトニー賞の主演男優賞に輝いた。さらに、主人公を女性に変えてメアリー・タイラー・ムーアが主演したリバイバル版が'80年にブロードウェイで開幕し、今度はトニー賞の主演女優賞を獲得することになる。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22522568.jpg
当然ながら、この成功をハリウッドが見逃すはずもなかろう。監督は『サタデー・ナイト・フィーバー』('77)と『ドラキュラ』('79)を立て続けに大ヒットさせたジョン・バダム。脚色には『十二人の怒れる男』('57)でオスカー候補となったレジナルド・ローズが参加した。間違いのない布陣である。しかし、残念ながら蓋を開けてみると興行的には全くの惨敗。なにしろ、当時はまだ尊厳死というテーマ自体が重大なタブーだった。社会的に問題意識が共有されていたとも言い難いだろう。加えて、ブロードウェイの観客とハリウッド映画の観客では求めるものが違う。「もし主人公が苦悩を乗り越えて生きることに希望を見出す話であれば受け入れられただろう」とバダム監督自身も語っているが、恐らく当時の観客にはまだ時期尚早な作品だったのかもしれない。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22524045.jpg
主人公はボストン在住の現代彫刻家ケン・ハリソン(リチャード・ドレイファス)。ある日、街の市民公園に自作のオブジェを設置した彼は、その帰り道で交通事故に巻き込まれてしまう。病院へ担ぎ込まれたケンは一命こそ取り留めたものの、しかし運悪く頚髄を損傷したせいで首から下の全身が麻痺してしまう。毎日のように病室へ通うバレエダンサーの恋人パット(ジャネット・アイルバー)、親身になって診てくれる医師クレア(クリスティーン・ラーティ)、気風が良くて頼もしいベテラン看護師ロドリゲス(アルバ・オムス)、まだ不慣れだが真面目な新米看護師メアリー・ジョー(カーキ・ハンター)、そしていつも陽気なムードメーカーの用務員ジョン(トーマス・カーター)。そうした周囲の人々に励まされ、自身も務めて明るく振る舞うケンだったが、しかし厳しい現実が容赦なくのしかかる。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22532075.jpg
手を動かすことも歩くことも出来なければ、ベッドで寝返りをうつことすらできない。誰かに体を触れられてたって何も感じない。それなのに、頭だけは事故前と同じようにハッキリとしている。当然、あれもしたいこれもしたいと欲求が沸くし、彫刻家としての創作意欲だって全く衰えていない。しかし、それを自分の力で実行することは不可能なのだ。なんという無力感、なんという絶望感。それでも病院側は、万が一の可能性に賭けてリハビリをしろという。果たして、本当にリハビリをする意味があるのか?病室を訪れた責任者エマーソン医師(ジョン・カサヴェテス)にケンは尋ねる。リハビリを続けることで、全身麻痺が改善する可能性はあるのか。綺麗ごとではなく正直に答えてくれと。少なからず躊躇いながらも、エマーソン医師は「その可能性はない」と返答する。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22550657.jpg
このまま寿命を終えるまで、生き地獄を味わい続けなくてはいけないのか。そんな残酷なことがあっていいものなのか。いつまでもこの肉体に囚われたまま生き続けるのであれば、いっそのこと今すぐ死んだ方がマシだ。おのずと死を望むようになるケンだが、しかしこの状態では自殺することすらままならない。恋人パットに「自分の幸せを探してくれ」とキッパリ別れを告げた彼は、一切の治療を拒否することで死を選ぼうとするのだが、当然ながらエマーソン医師が猛反対する。患者を生かすことが医師の使命だ!自殺を幇助するなど職業倫理に反する!せっかく救われた命を無駄にするんじゃない!そう言って憤慨するエマーソン医師。一方、クレアはケンの心情を察して同情するものの、それでも死を望む彼に賛同することは出来なかった。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22542573.jpg
そこで、ケンは「死ぬ権利」を主張するべく、保険会社の弁護士カーター(ボブ・バラバン)を雇い、病院を相手に訴訟を起こすことを決意する。なにも自殺を幇助しろとは言わない。せめて退院することを認めて欲しい。そうすれば、人工呼吸器などの補助を受けることもなく、食事を提供されることもなく、自宅で静かに死を待つことが出来る。前例のない依頼に戸惑うカーターだったが、しかしケンの切なる願いに心を動かされて引き受けることにする。クレアやジョン、メアリー・ジョーらもケンに共感し、陰ながら応援するようになった。一方、エマーソン医師ら病院側は、ケンが「うつ状態にあるため正常な判断が出来ていない」として徹底的に争う構えを見せる。裁判は厳格なワイラー判事(ケネス・マクミラン)が担当し、病院の会議室で行われることとなった。果たして、その行方は…?
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22552367.jpg
あくまでも本稿は映画レビューなので、尊厳死の是非についてここで論じるつもりはないのだが、確かに様々なことを考えさせる作品ではある。生きること自体が耐え難い苦しみである場合、当事者が死を選ぶことは肯定されるべきなのか否定されるべきなのか。ドクターが患者の意思に反してでも生命を維持することは正しいのか、それとも間違っているのか。そこに医者のエゴというものは存在しないのだろうか。そもそも、何を以てして「生きている」というのだろうか。映画では次々と重要な問題提起をしつつ、その問いに対する答えを観客自身に委ねていく。確かに、劇中の裁判は一応の決着を見るわけだが、しかしそれが本当に正解なのかどうかは誰にも分らない。それはもうケース・バイ・ケース、もしくは当事者の考え方次第としか言えないだろう。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22533504.jpg
ともすると重苦しくなりがちな題材ではあるものの、しかし全編を通して素朴な人情やユーモアを交えつつ、生への渇望と絶望の狭間で苦しみ葛藤する主人公ケンの、迷い揺れ動く心情を丁寧にすくい上げた、ジョン・バダム監督の力強くも優しくて繊細な演出がとても素晴らしい。暗くなり過ぎず、重くもなり過ぎず。おかげですんなりとストーリーの中へ入れるし、簡単に答えを出せない複雑なテーマを私事として受け止めることが出来る。娯楽映画の名職人と目されがちなバダム監督だが、やはり人間心理と人間模様を描かせると抜群に巧い。アースカラーを基調とした落ち着きのある映像美も、独特の温かみを感じさせてくれる。実はこの作品、もともとはモノクロで撮影される予定だったという。ところが、バダム監督からの要望に映画会社MGMは決断を先送りし、とりあえずカラーフィルムで撮影してみてはどうかと提案した。そうすれば、カラーとモノクロの2種類を現像することが出来る。そのうえで両者をスニークプレビューで上映し、比較して反応の良かった方を採用したいというのだ。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22541131.jpg
とはいえ、バダム監督はこれを額面通りには受け取らなかった。批評家受けはともかくとして、興行面を考えるとモノクロ映画はリスクが高い。恐らくスニークプレビューの反応に関係なく、モノクロは却下されるだろう。MGMからの提案は単なるポーズに過ぎないはずだ。そう考えたバダム監督は、映画全体のカラーパレットを最小限に減らし、モノクロに近いカラーでの撮影を打ち出すことにしたという。実際、カラー版もモノクロ版も観客の反応はどっこいどっこいだったが、MGMはカラー版を採用することに決定。その際、バダム監督の強い要望で、主人公ケンが恋人パットとの思い出を回想するフラッシュバックシーンだけは、当初の予定通りモノクロで描かれることとなった。柔らかで温かいモノトーン・カラーの醸し出す抒情性も魅力的だが、このモノクロシーンの幻想的な美しさもまた筆舌に尽くしがたい。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22543810.jpg
幸せな日常から一転して絶望のどん底に突き落とされ、己の境遇を自虐的に笑うしかないくらい追い詰められながらも、自らの死ぬ権利を行使するために断固として闘う主人公ケンを演じるリチャード・ドレイファスの、文字通り鬼気迫るような芝居も圧倒的である。個人的には『グッドバイ・ガール』('77)よりも、こちらでオスカーを獲るべきだったのではないかとも思う。ただし、当時コカイン中毒の真っ只中だったドレイファスは、どうやらその時期の記憶がすっかり飛んでいるらしく、本作に出演したこと自体を全く覚えていないという。一方、そんなケンのある意味で天敵と言えるエマーソン医師を演じるのがジョン・カサヴェテス。カサヴェテスと言えば即興演技の第一人者だが、しかし本作ではドクターという役柄のため、アドリブでうっかり医学的に間違ったことを言ってはならない。そのため、「自分の映画でもこんな芝居はしないよ」と不満を漏らしつつ、脚本に書かれたセリフ通りに演じたのだそうだ。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22540295.jpg
患者であるケンの身の上に深く同情し、やがて惹かれていく医師クレア役には、当時まだ新人だった名女優クリスティーン・ラーティ。これがまた人間味があって、とてもいいのですよ。こういうドクターこそ本当に信頼を置くことが出来るように思う。また、ケンの恋人パット役のジャネット・アイルバーも非常に魅力的だ。後にリック・スプリングフィールド主演の『ハード・ツー・ホールド』('84)のヒロイン役を務めた人だが、本業はマーサ・グレアム・ダンスカンパニーのトップダンサー。劇中ではモノクロのフラッシュバックシーンで全裸のモダンダンスを披露している。これがまた美しい!現在はマーサ・グレアム・ダンスカンパニーの芸術監督を務めているそうだ。
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22545558.jpg
そのほか、弁護士カーター役のボブ・バラバン、新米看護師メアリー・ジョー役のカーキ・ハンター(『ポーキーズ』シリーズのウェンディ!)、ワイラー判事役のケネス・マクミラン、用務員ジョン役のトーマス・カーターなど、どの役者も非常にいい芝居をしている。中でも、眼光鋭さの中に人間味を感じさせるマクミランの存在感は白眉。『砂の惑星』('84)など悪役のイメージが強い人だけに、ちょっとした驚きではある。こうしたキャスト陣による厚みのあるアンサンブル演技も、本作の大きな強みだと言えよう。ちなみに、病院のインターン役で顔を出しているのが無名時代のジェフリー・コムズ。カルト・ホラー『ZOMBIO/死霊のしたたり』('85)に主演するのはこの4年後のことだ。ていうか、若い頃はロン毛だったのか!
「この生命誰のもの」 Whose Life Is It Anyway? (1981)_f0367483_22534951.jpg
評価(5点満点):★★★★☆

参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.4:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:118分/発売元:Warner Home Video
特典:ジョン・バダム監督と作曲家アーサー・B・ルービンスタインの音声解説/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2023-02-07 00:51 | 映画 | Comments(0)

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