なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「野性の眼」 L'occhio selvaggio (1967)

製作:ジョルジュ・マルシ
原案:パオロ・カヴァラ
構成:ファビオ・カルピ
ウーゴ・ピッロ
脚本:トニーノ・グェッラ
パオロ・カヴァラ
アルベルト・モラヴィア
撮影:マルチェロ・マスチオッキ
音楽:ジャンニ・マルケッティ
出演:フィリップ・ルロワ
デリア・ボッカルド
ガブリエル・ティンティ
ラース・ブロック
ジョルジョ・ガルジュッロ
ルチアナ・アンジェリッロ
イタリア映画/97分/カラー作品


実際、見るからにヤラセとしか思えない露骨なフェイク・ドキュメンタリーも少なくなかった。『世界残酷物語』も御多分に漏れず。さすがに全てが全てヤラセではないものの、それでも仕込みや捏造は少なからず含まれていた。その共同監督だったのが、本作の原案・脚本・監督を手掛けたパオロ・カヴァラだ。ヤコペッティの総監督のもと、衝撃映像を撮るためアフリカ大陸から東南アジア、日本、南米など各地を廻ったカヴァラだったが、しかし倫理的に疑わしいヤコペッティの強引なやり方に嫌気がさし、『世界女族物語』('63)を最後に2人は袂を分かつことになったと言われている。カヴァラ自身がヤコペッティをモデルにして本作を撮ったと明言したことはないものの、映画の内容と彼のキャリアを照らし合わせてみれば、おのずと誰だって想像はつくであろう。俳優兼録音技師として本作に携わったラース・ブロックは、ヤコペッティの手法に批判的だったカヴァラが、あえてその実態を暴露しようとしたのではないかと語っているが、なるほど確かにそうなのかもしれない。

主人公は刺激的な映像を撮ることに定評のあるドキュメンタリー作家パオロ(フィリップ・ルロワ)。ある時、彼は数名のスポンサーを連れ、サハラ砂漠でのサファリ撮影を敢行する。ジープで野生のガゼルを追いかけ、力尽きて死ぬ様子をカメラに収めようとするパオロだったが、しかし同行した人妻バーバラ(デリア・ボッカルド)が「残酷すぎる」としてジープのエンジンを止めてしまう。これで撮影はオジャン。ホテルに戻るしかない。ところが、肝心のエンジンがかからない。よく見るとガス欠だ。しかも準備してきたはずの予備のガソリンは空っぽ。水も食料もない。仕方なく歩き出す一行だが、やがて飢えと渇きと疲労が容赦なく襲いかかる。その様子も全て助手ヴァレンティノ(ガブリエレ・ティンティ)に撮影させるパオロ。そればかりか、「今ここで水を手に入れるためならどうするか?」などの過激な質問をみんなに投げかけ、極限状態にある人間の醜い本音を引き出そうとする。もはやこれまでかと思われた矢先、砂漠の向こうからレスキューが駆けつける。

実は、サハラ砂漠でのガス欠は最初からパオロが仕組んだ演出だった。もちろん、彼以外は誰も知らない。面白い映像が撮れるならば、他人を騙して命の危険に晒しても構わないというのが、彼の一貫した姿勢だった。次の取材先として東南アジアを選んだ彼は、カイロでバーバラと夫ジョン(ラース・ブロック)の乗った豪華客船に合流する。東南アジア取材に彼女を同行させようと考えたのだ。観客と同じ目線で映画に登場する傍観者が必要だ。君にピッタリの役回りだと思う。そう言って半ば強引に誘うパオロだったが、しかしバーバラは彼が自分に対して恋愛感情を抱いていることを見抜いていた。インテリのニヒリストを気取った本人は決して認めないだろうが。そんな虚勢を張った子供のような彼にどこか惹かれ、バーバラはパオロと一緒にシンガポールへ向かうこととなる。

西洋の人々が驚愕するであろう東洋の残酷な奇習や、途上国ならではの前近代的な風俗を撮影していくパオロとヴァレンティノ。場合によっては現地人に金を掴ませて、欲しい場面を捏造したりもする。さすがにバーバラも眉をひそめてしまうが、そんな彼女をパオロは「君は世間知らずだ」「現実を分かっていない」と冷笑する。真実なんて退屈なだけで誰も興味ない。大衆が求めているのは刺激だ。面白ければなんだっていい。ウソか本当かなんて誰も気にしないさ。いや、むしろウソの方がよっぽど面白いんだと。

次に一行が向かったのはタイのバンコク。カメラの前で「ベトナム戦争反対!」と叫んで焼身自殺する僧侶を探すパオロだったが、当然ながら誰も引き受けてなどくれない。マレーシアでは廃墟と化した宮殿に住む元スルターンを取材し、貧しい彼が妻のうちのひとりを金で売る場面を撮ろうとするが拒絶される。あなたは人をモノだとしか思っていないと責めるバーバラ。当たり前だ!君だって僕だって人間はみんなモノだ!それが世の中の現実さ!と言い返すパオロ。やがて一行はベトナムへと辿り着く。ここでは本物の殺し合いを撮影できる。早速、戦場へと乗り込んでカメラを回すパオロたち。運悪くベトコンに取り囲まれてしまい暴行を受けるが、イタリア人であることから解放される。

さらに、今度はベトコン兵士たちが処刑される現場を取材する一行。カメラ映りを考えて執行官にあれこれと注文を付けながら、ベトコンの若者たちが銃殺刑に処される様子を撮影する。周囲で涙を流しながら見守る家族たちの姿など目に入らなかった。さらに、今度はプロデューサーのロッシ(ジョルジョ・ガルジュッロ)がまたとない情報を仕入れて来る。ベトコンが市内のナイトクラブで爆弾テロを計画しているというのだ。本来なら当局に通報するべきだが、もちろんパオロたちはテロの瞬間を撮影することが目的なので、人が死のうが知ったこっちゃない。開店前のナイトクラブへ下調べに訪れる一行。ここでカメラを構えて待機すれば、爆風で吹き飛ばされる客の様子も撮影できる。話題になること間違いなしだ。そう言って指示を出すパオロに、いよいよヴァレンティノが切れる。あんたに従っていたら命が幾つあっても足りない!そんなに危険な映像を撮りたいのなら自分でカメラを廻せ!後に引けなくなったパオロは、自分ひとりで撮影を決行しようとするのだが、しかしそこで思いがけない事態が起きてしまう…。

いやあ、とにかく主人公のドキュメンタリー映像作家パオロのクズなこと。金のためだったら何でもやる!俺は全く恥じていない!モラル?倫理観?そんなものが何になる。世の中ってのは弱肉強食なんだよ!世界中で毎日のように人が死んでいる。命の価値なんてそんなものさ!そう言って他人の尊厳を平気で踏みにじりながら、金になる衝撃映像をなりふり構わず撮影していくパオロだが、しかしそんな彼をバーバラは最初から気の弱い小心者だと見抜いている。表向きはシニカルで頭の切れる自信家を装っているが、しかし本音では他人の愛情とか善意とか親切心とかを信用できず、むしろ自分自身が傷つかないように冷笑系のインテリ毒舌家を気取り、良識とか道徳心などを小バカにしてみせる。俺は「現実」を知っているんだ。お前らみたいなお花畑と違って、世の中の真理を語っているんだと。こういう中二病を拗らせたような知識人もどき、今の日本にも沢山いますな。しかし、言うことだけは確かに勇ましいが、しかし撮影でも助手ヴァレンティノをこき使うだけで、自分はなるべくリスクを取ろうとしない。あくまでも自分が一番大事。だから他人のことは平気で粗末にする。映画製作の大義名分を言い訳にして。

しかし、なんでこんな子供じみた怪物が生まれてしまったのか?劇中でバーバラのセリフにもあるように、本作では堕落した現代の西欧文明がその元凶であることを示唆する。とにもかくにも金、金、金。金を持っている奴が一番偉いし、なんだって金で解決しようとする。持たざる弱者の人権など踏みつけにしても構わん。金儲けこそが正義!そのためには手段など選ぶ必要もなし!売れるものなら何でも売ってしまえ!つまり、世の中の不幸や悲劇すらも面白おかしい商品に変え、場合によっては嘘を真実と偽って売りさばくモンド映画なんぞは、そうした現代西欧文明の堕落したモラルや拝金主義などの産物というわけだ。しかも、それが商売として成立するのは需要があってこそ。パオロのようなクズが生まれてしまったのも、なおかつ社会でのさばっているのも、大勢がそれを求めているからに他ならない。いわば民度の写し鏡みたいなもんである。振り返って、今のネット社会に溢れているフェイク・ニュースや陰謀論、歴史改竄などにも同様のことが言えよう。それを求め欲する者がいなければ存在しえないのだ。

パオロ・カヴァラ自身による原案を脚色したのは、ミケランジェロ・アントニオーニやフランチェスコ・ロージら巨匠とのコラボレートで有名な大御所トニーノ・グェッラと、20世紀イタリア文学界を代表する文豪のひとりアルベルト・モラヴィア。さらに、エリオ・ペトリやマウロ・ボロニーニの盟友ウーゴ・ピッロとディーノ・リージ作品の常連ファビオ・カルピが脚本の構成を担当している。これぞまさしく最強の布陣。なるほど、脚本の出来が良いわけである。主人公の歪んだ狂気と欲望を通して、現代社会の病巣を抉り出そうとするカヴァラ監督の視点は非常に冷徹だが、同時にポエティックな美しさや抒情も纏っており、現代にも通じる文明批判・社会批判として全く古びていない。今では映画本編そのものよりも有名になった、ジャンニ・マルケッティの優美な音楽スコアも傑出している。

理論武装することで己の空虚な内面を取り繕い、他者を踏みつけにすることで自分の弱さを覆い隠す歪んだニヒリスト、パオロを演じるフィリップ・ルロワの芝居も素晴らしい。一般的には『黄金の七人』('6)シリーズの教授役で有名な人だが、これは一世一代の名演と言えよう。そんなパオロの傲慢さを批判しながらも、一方で彼の弱さや未熟さを愛してしまうヒロインのバーバラにはデリア・ボッカルド。『クルーゾー警部』('68)でハリウッド映画にも進出した美女だが、やはり代表作と言えばこれであろう。また、パオロの助手ヴァレンティノ役には、ラウラ・ジェムサーの夫としても有名なガブリエレ・ティンティ。バーバラの夫ジョンを演じているオランダ人俳優ラース・ブロックは、マカロニ・ウエスタンの悪役として知られる。

評価(5点満点):★★★★★
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:97分/発売元:Scorpion Releasing
特典:俳優ラース・ブロックのインタビュー('15年制作:約13分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2023-02-10 17:26
| 映画
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